アスカを訪ねて三千里


第14話「流浪

ようやく夜が開けはじめて来た頃…… ペンペンの夕御飯の食べかすにスズメが小さく鳴き
声を上げて近寄って来る音で僕は目覚めた。
同じ土管で寝起きしているペンペンは連日のブラッシングで奇麗な毛並みになった胸を上下
させて寝入っており、時間もあるので僕は土管の中に敷いてあるダンボールのベッドの中で
財布の中の現金を数えて呟いた。

「ようやく旅費と動物病院へのお金が溜まったけど……」
僕はトウジとケンスケと共に働いた事で、分け前を三等分する事にしてくれたので、
それなりの現金を手にする事が出来たのだが……

「ペンペンの足ももう完治したし……そろそろアスカの行方を探さないと……」
僕は焦燥感に囚われてしまいかかったが、僕が抜けた後のトウジとケンスケの事を考えると
少し気がかりが残るのだった。

そんな事を考えている内に僕は尿意を感じて来たので、僕はペンペンを起こさないように、
土管のベッドから出て、少し離れた所にある公衆便所まで歩いていって用を足した。
「クエッ」 ペンペンも目が覚めたのか、僕の隣で器用に用を足していた。
「起こしちゃったかな ペンペン」 僕は手を洗いながらペンペンに言った。
意思の疎通が綿密に取れるようになった今では、ペンペンが軽く首を横に降るだけで、
まるで”気にすんなよ”とでも言っているかのように受けとる事が出来た。

「帰ろうか」 僕はペンペンと一緒に帰途についた。
足の傷は完治したものの、今後の事もあるのでペンペンは専用の靴下の履いたままだった。

まだ夜が開けきっていないので、殆ど人気の無い道を僕はペンペンと歩いていた。
角を曲がれば公園が見えると言う所で、僕はトウジの叫び声を聴いた。

「何するんや やめんかい!」
「こら!素直に退去しないと実力行使するぞ」
「トウジ……ここは引こう……この市に敵を作っちゃいけない」

どうやら市の職員らしい人達が押しかけて来たようだ。
これまで、この市の人達は孤児に好意的だったと言っていたのに……
僕はいてもたってもいられなくなってトウジ達の元へ飛び出していった。

「シンジ……」
僕とペンペンが戻って来たのを見てトウジが少し安心したのか、肩を落とした。
どうやら、僕に何かあったのかと思っていたようだ。
もしかしたら、僕がトウジとケンスケを売ったと思ってしまっていたのかも知れない。

「ゲームオーバーだよ シンジ……」 ケンスケが荷物を抱えたまま僕に向かって言った。

「30分以内にこの公園から退去します」 ケンスケは市の職員に頭を下げて言った。
「……私だって好きでこんな事をしてるんじゃ無いんだ……合併絡みでな……すまん」
市の職員の代表者らしき人がすまなさそうに答えた。

僕達を信用したのか、その代表者は他の職員に何か耳打ちして、そして去っていった。

「そういう訳だ……とりあえずここから離れるから荷物を全部リヤカーに積むんだ」
落ち込んでいるトウジとは裏腹にケンスケは普段と変わらぬ態度だった。
「うん 解ったよ……」
僕はペンペンをリヤカーの荷台に乗せて、荷物を置いている土管の方に走っていった。


約束の20分後には僕達は準備を終えたが、僕はこれまで世話になったこの公園を
掃除する事を思い立ち、粗末な竹製の放棄されていた箒で軽く掃除していった。
トウジとケンスケも目立ったゴミを拾ってはゴミ箱に入れていた。
ペンペンはそれを不思議そうに荷台の上で見ていた。
「飛ぶ鳥 後を濁さずか……もうそろそろ時間だぜ シンジ」
ケンスケが最後のゴミをゴミ箱にいれながら言った。

「うん……」 僕は箒を公園の水場の脇にたてかけて、トウジ達の元に向かった。


「で、他にアテはあるの?」 僕は後ろからリヤカーを押しながら問いかけた。
「河原とか他の所にいっても追い出されるのは時間の問題だろうな……」
ケンスケは荷台の上でノートパソコンを開いていたが、蓋をとじて言った。
「この街を捨てるか、施設に保護されるしか無いんかな……大人になるまで逃げきっても、
市民権が無いとまともな仕事には付けんしな……」
トウジはリヤカーを引きながら小声で呟いた。
「そういうシンジはどうなんだ……アスカとか言ったっけ その子を探してるんだろう?」
「どこに引っ越していったのかも知らないんだ……旅費はおかげで溜まったんだけど……
お世話になってる人が勤めてた病院では引越し先を教えて貰えなかったし……
それかせめて電話が使えれば前にいた孤児院に問合わせる事が出来るんだけど……」

「そういえば、そんな事ゆうとったのぉ……何とか調べる方法は無いんかいケンスケ!」
僕はトウジのその言葉だけで嬉しかった。
「ある程度の権限が無いと見れないんだよ……市の職員とかなら照会する事も出来るけど」
「市の職員か……そらあかんわな 追い出されたばっかりやしなぁ〜」

「ケンスケ!」
その時、背後からケンスケを呼ぶ声が聞こえた。

僕は一番近くにいたので、後ろを振り向いた。
ケンスケの名を呼んだのはさっきの市の職員の代表者だった。

「あんたにケンスケだなんて呼ばれる筋合いは無い」
ケンスケは珍しく青筋を立てて怒鳴った。
「おい……知り合いかいな」トウジも訳が解らないようでケンスケの方を振り向いていた。

「……俺のお袋の元亭主だよ……」
「それ……おまえのおやじさんっちゅー事やないか……離婚したとは聴いてたけど……」
「なるほど……」
僕は市の職員がすんなり引いた事を疑問に思っていたので、ようやく納得がいった。

「鍵はいつもの場所に置いてるから、取り敢えず家に来なさい 私は昼過ぎには帰るから」
そう言って、ケンスケの父親らしき人は元来た道を戻っていった。

「誰があんな奴の所へ行くもんか……」 ケンスケは唾を吐いて言った。
「おいケンスケちょっとまてや……」 「何だよトウジ」

「おまえの確執はようわからんけど……おまえの親父さんならシンジの探してる人の事が
解るんちゃうんかい?」 僕はトウジの言葉を聴いてはっとした。
「…………」 ケンスケは下を向いたまま答えようとはしなかった。
「返事が無いって事は出来るんやな……短い間やったけど、シンジは俺達の仲間やろ……
仲間の為なら親父さんに頭下げて頼む事ぐらい出来るやろ」

「トウジ……気持ちは嬉しいけどケンスケにも事情があるみたいだし」
僕は険悪な雰囲気になるのを恐れて口を挟んだ。

「解ったよ……あいつの家は○○町だ……」
「なんやここから近いやないか……ずっと不思議に思うてたんやけど もしかして、
ネットに繋ぐ時に……」
「そうだよ……あいつ昼間は殆どいないから、あいつの家で繋いでたんだ」
「ま、詳しい話は着いてからしようや」
「悪いね……ケンスケ」 僕は一声かけてから、リヤカーを突くのを再開した。

5分程して、僕達はケンスケの父親の家に辿りついた。
ケンスケの指示でガレージにリヤカーを隠して、僕達は裏口の門扉を開けて中に入った。
「まったく古典的だし、セキュリティがなっちゃいねいんだから……」
そういいながらケンスケはサツキの植木鉢を持ち上げて、
その下に置いてあった鍵を取り出して裏口の鍵を開けた。

「まぁ来いって言ってたんだから、堂々と座ってればいいよ」
そう言ってケンスケはリビングの扉を開けた。

数年前まではケンスケと両親が暮していたリビングには、
いろんな思い出の欠けらが散らばっているのか、ケンスケは感慨深そうな顔をしていた。

「そんじゃ、まぁ 失礼して」 トウジはズボンの尻を軽くはたいてソファーに腰かけた。
一応初めて訪問する他人の家なので、ペンペンは荷台の上で留守番をして貰っている。
もっとも荷台の上でうとうとしていたので、起こしたく無いと言うのもあったのだが。
僕は久しぶりに柔らかなソファーに背を預けた。

「ちっ 相変わらず冷蔵庫にろくなもんがねーな」
ケンスケはぶつぶつ言いながら両手に何かを手に下げて僕達の元に来た。
「つまみ用のチーズとジンジャーエールしか無いけど、まぁ朝飯には充分か」
そう言ってソファーの前の小さいテーブルにケンスケは瓶とグラスとチーズを置いた。


「こんなもん飲むの久しぶりやな……」 
トウジはジンジャーエールをちびちび飲みながら呟いた。
「チーズって美味しいんだね……こんなの初めて食べたよ」
僕は少しづつチーズを食べていたが、ふとペンペンの事を思い出した。

「ペンギンってチーズ食べるかな……もう起きただろうし、これ持っていって来るよ」
僕は二人に告げて立ち上がった。
「ペンペンがいくら雑食ちゅーてもチーズは無理ちゃうんか?」
「ちょっと待てよ メザシがあったから取って来るよ」
「いいの?ケンスケ 何だか悪いね」
「いいんだよ 親父の酒の肴になるよりペンペンの朝飯になる方がいいに決まってる」
そういってケンスケは立ち上がって冷蔵庫の方に行きかけたが立ち止まった。

「シンジ 別に親父は鳥の羽根とかでアレルギーなんか無いし、連れて来いよ」
「そやそや ペンペンもおれらの仲間やからな」
「じゃ、お言葉に甘えて連れて来るよ」 僕はリビングを出てペンペンを迎えに行った。

僕はガレージの中に入ると、すでにペンペンは目を覚ましていて、
僕の顔を見るなり一声鳴いた。
「ごめんごめん ケンスケがメザシをくれるそうだから、食べに行こうよ」
メザシと言う言葉を聞くなり、ペンペンは怒りを忘れたようで、僕のもとに歩いて来た。

「けど、家の中を歩くと汚れるかな……」 赤木さんが作ってくれたペンペンの足を保護
する布も擦り切れかかっており、汚れも目立って来ていた。
「おいで ペンペン」 「クエッ?」
僕は不審がるペンペンを両手で抱いてガレージを出て、裏口から入ってリビングに急いだ。

台所で、ケンスケがメザシを焼いており、煙が少し充満していた。
「換気扇が壊れたままなんだよ 道路に面して無い方の窓を開けたから、少しの辛抱だ」
ペンペンは嬉しそうに両羽根をわさわささせていた。

10分後……
ペンペンはメザシを食べて満足したのか、僕の腕に抱かれて寝息を立てていた。
「しかし、この街にこだわるのもそろそろ限界かもな……」
「そやな……わしもシンジみたいに 親父と妹を探しに行くかな……」
「出稼ぎってどこに行ったんだ?」
「第三新東京市でエンジニアしてるらしいんやけど、連絡がつかへんのや……
機密に関る事だからちゅーてな……出稼ぎに行った時はお袋が生きとったから、
親父はわしがこんな事になってるなんて思っても無いやろな……」

「機密って……もしかしてNERVに勤めてるの?」 僕は第三東京市でのNERVの黒服のエー
ジェントと出会った時の事を思い出して言った。
「何で知ってるんや シンジ!」
トウジは珍しく動転して腰を上げて僕に問いかけて来た。

「いや……その第三新東京市にいたって事は話したよね……その時に黒服のNERVのエージ
ェントに出会って連行されかかった事があるんだ……僕がお世話になってた葛城さんて人
はNERVの偉い人……確か特佐って呼ばれてたっけ……だったから、連行されずに済んだん
だけど、いろいろあって第三新東京市から期限付きで追い出されたんだ」

「そうやったんかい……おまえも苦労したんやったな……
しかし許せんのぉNERVっちゅー組織は……どうせ嫌な奴が上層部におるんやろ……」

「あの……トウジのお父さんの事なら何とかなるかも知れないよ……

「そら、どういうこっちゃ……その葛城とか言う人に頼むんか?」
「NERVの司令は碇ゲンドウって言うんだ……小さい時に捨てられたけど僕の父親なんだ」

「それは本当かね!」
突然リビングのドアが開き、ケンスケの父親が入って来た。
「立ち聞きかよ……」 ケンスケはあざけるかのように父親を見ていた。

「おやっさん 悪いけど、わしの話の方が先や なぁシンジ……本当に頼めるんか?」
トウジは今にも土下座しそうなほど頭を下げて僕に言った。

「どこかで電話をかける事が出来たら、父さんか副司令の冬月さんに頼む事が出来るよ」
僕はトウジに頭を上げるようにジェスチャーして言った。
「そうか……電話が無いとシンジの探し人もわしの親父もどないもならんのか……」

「電話ならこの家にあるから自由とまではいかないが、使っても構わないよ」
その時、ケンスケの父親が口を挟んだ。

「ほんとですか? 親父さん この市じゃ電話なんて滅多に無いのに……」
「ああ……私はこの市の市長だから、連絡用にね……ただし、碇君にはNERVとの交渉の為
の窓口になって貰いたい」
「交渉ですか? 父さんか副司令に口を聞けばいいって事ですか」
「そういう事だ……それさえ頼めるのならどんな要求でも飲むよ」
「おいシンジ……おまえの探し人も市長なら照会出来るやないか」
「わかりました……じゃこちらの条件についてお話ししておきます。」

僕は流浪の末にようやく光を見たような気がした。
アスカと出会うその日まで未来を信じて突き進め!
シンジがやらねば誰がやる
すみません 今キャシャーンにはまってるんです(爆)




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どうもありがとうございました!



二人の運命にまといつく柵をアスカは振り切る事が出来るのか!?


マナ:尾崎さん、お忙しいところ投稿ありがとうございました。

アスカ:ケンスケもたまには役に立つわねっ! さっさとアタシの居所を見つけなさいよっ!

マナ:相田くんもシンジの為にがんばってくれてるわねぇ。いいわねぇ、友情って。

アスカ:問題は、あのヒゲオヤジね。ちゃんとシンジに協力するかしら?

マナ:不器用な人だからねぇ、五分五分ってとこじゃないかしら?

アスカ:鈴原もパパに会えたらいいわね。そうすればヒカリも喜ぶだろうし・・・ん? ヒカリって何してるんだろう?

マナ:鈴原くんのことで揉め事が起こったりしたら、またシンジの出発が遅れるんじゃない? 早くわたしを迎えに来てほしいなぁ。

アスカ:アンタは関係ないでしょうがっ! それより、早く来てくれないとアタシがまずいことになるじゃないっ!

マナ:ん? そうだっ! ふふふふふ・・・。

アスカ:なによっ、その不適な笑みはっ!?

マナ:シンジだって、道に迷うことくらいあるわよねぇ。そしたらアスカの婚約には間に合わないって可能性も・・・。

アスカ:アンタっ! 何考えてるのよっ!

マナ:べーつにー。

アスカ:あやしいわね・・・。
作者"尾崎貞夫"様へのメール/小説の感想はこちら。
uraniwa@ps.inforyoma.or.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。


次回第15話(しがらみ)】に続く!

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