アレッ



 
 
 
 
 

地球の上に朝が来る〜という始まり方をする芸人がいたが、ここで問題にするのはそんなことではない。いや別にそのこと自体が問題ですらない。まあ、何が言いたいのかと言うと、単に朝が来たというだけなのだ。しかし地球の上とはどこを指しているのだろうか。当然朝が来たと言っているのだから、朝が来たところが上なのだろう。そうすると夜が来たところは下なのか。それとも上があってそこに朝が来るのか。それとも地球の上と言う場所があるのか...いや、そんなことはどうでもいいのだが。そうそう、ここにも一軒あわただしい朝を迎えている家があった。2015年にもなるとフレックス制度は行き渡り、しかも研究職にあるものなどフリーワークなんかも行き渡っていたりする。つまりなにが言いたいかと言うと、旧来の制度を引きずる子供たちとは違って、たまたま研究職にいるこの家の大人たちの朝は至ってのんびりとしているということである。しかし彼らもいつでものんびりとできるというわけではない。彼らの理解ある上司は、碇家...すまない、紹介が遅れたな、この家の住人の名字はお約束通り碇と言う。もちろん碇というのはあの碇である。説明終わり...の自堕落さを(もっとも自堕落な生活を送っているのは、ごく一人の家長であるとの噂がもっぱらである)少しでも改善すべく、週に一回は朝一番から定例会議などを入れていたりする...最も単に年寄りなだけだと言う話もまたある...しかし彼の上司の努力もむなしく、その男は遅刻をすることに何の禁忌も感ぜず、のらりくらりと食卓でお茶なんかをすすっていたりする。当然食事などとうの昔に済ませている。どちらかと言うと彼は遅刻をする事に対する禁忌と言うより、遅刻をすることに対する喜びを感じているに違いない。このような男を部下に持ったことを同情すべきだろうか、いやない。それはそれで我々にはおもしろいから我慢してもらうことにしよう。まあ胃薬の売り上げが伸びるという二次効果もあることだし...ニヤリ。しかしこの文章、改行もなくきわめて読みにくくなっているのはなぜだろう。きっとこの作者が読者に意地悪をしているのではないか?という噂も立っている。それはそれでおもしろいのでかまわないだろう。あっ、そこの君、ディスプレーにそんなに近づいてはいけないよ。100mくらい離れてFFは読むように。お父さんお母さんにそう教わらなかったかい。なに?FFってなんだって?こまるなぁ、この業界の人がそんなことを言っては。FFというのは当然Foward engin Foward driveという自動車用語などではなく、Fun Fictionの略である。SS(=Short story or Side Story)では適当でないのでこれを使っている。分かったかな?君も少しは賢くなったことだろうにはーはっは!...さてさて長い前置きは置いておいて、そろそろ主人公たちに登場願おうか。この物語の主役候補は二人いる。一人はご存じニタリ笑いのおっさんだ。朝の食卓机に両肘をついてニヤリ笑いをしているおっさんというのもなかなかおもしろいが、それではあまりにも色気というものがない。それにこのおっさんがもてまくる話と言うのは、なぜか癪に障ってしょうがない。決して僻みなんかではないのだが、このおっさんのR指定を書いても誰も喜んではくれないだろう。それにこのおっさんがあえぐ様子などは書きたいとは思わない。君たちだって見たいとは思わないだろう。それに相手がいつまで経っても若作りおばさんや、紫唇厚化粧おばさん、金色髪黒眉毛白衣おばさん以外の人だったりしたら誰も読んでもくれないし。そうそう、この家族の紹介を機械的にしよう。家長である碇ゲンドウは年齢48歳、14の息子をもつにしてはややお年をめいている。私だって下の息子が14になるときには....げっ、同い年だ。まあ、彼の年齢のことはおいておこう。彼はさる研究機関、と言っても動物園にいるお猿さんを研究しているわけではない。当然のことながら京都大学の霊長類研究所、またの名を日本モンキーパークのお隣さんでも当然ない。ここでは名前自体は重要でないのでさるとしているだけだ。決まり切った名前があるだろうって?じゃあ勝手にゼーレでもネルフでもいいから思い描いてほしい。まあ彼はそこの研究所に勤める研究部長だったりする。妻一人子一人、当然愛人などない。企業の研究所で愛人を持てるような恵まれた環境などあり得ない。みんな安月給でひいひい言いながら働いているのだ。特に奥さんまで同じ職場にいようものなら、監視の目は行き届き、朝、夕の行動などすべて監視の元にあると考えてよい。給料袋の中身どころか、時折入る臨時収入の存在までしっかりと握られることになるので、社内恋愛などよっぽどよく考えてからしないと酷い目にあう。奥さんが仕事のことをよく理解してくれる?それは大いなる錯覚だ。確かに仕事のことは理解してくれるかもしれないが、そこには必ず他人との比較が入るのだ。あそこの旦那はどうだとか、こっちの旦那はどうだとか...すまない話が脱線した。社内恋愛の功徳などどうでもいいので話を進めよう。彼の妻はユイ、ちなみに碇姓は彼女の実家のものだったりする。つまり彼は婿養子というわけである。この少子化の時代、婿養子のなり手はかなり少ない。そういった意味では彼女はうまく男を捕まえたというわけだが、いささかその人選には疑問を持たざるを得ない。彼女が婿養子にゲンドウ氏を選んだとき、多くの独身男性が自分に兄弟のいなかったことを恨みに思ったとか思わなかったとか、そんな伝説が立つほどユイは見目麗しい女性だった。碇ユイ、37歳。大学を卒業後、さる研究機関、当然高崎山の近くにあるわけでもなく...くどい?そうか、このネタはやめておこう。さる研究機関に入社、すぐさま周囲の耳目を集める存在になったという。何しろその研究機関では、彼女の入社を機に、売店では石鹸、シャンプーの売り上げが伸び、シェーバードライヤーなどそれまでは棚の奥底に隠され、埃をかぶっていた商品が役目を果たす機会を得たという。それまで漂っていた異臭は、コロンの香りというこれまた違った意味の異臭に取って代わられ、クリーニング屋の売り上げも伸びたと言われている。そんな彼女はなにを血迷ったのか、入社一年目にしてできちゃった結婚をする事になる。しかも相手があのひげ親父(34歳)である。これが世間の不興を買わないことがあるだろうか、いやない。そういった訳であのミカンは酸っぱいと言ってあきらめようとする男たちは、彼女は実は変態であると思いこんで気を晴らそうとした。変態は言い過ぎであるが、あながちはずれとは言えないだろう。むっつり、髭、色眼鏡...どう見ても美的センスのかけらもなく、ユーモアのかけらもないこの男を捕まえて“可愛い”と言い切るセンスの持ち主なのだ。勇気を出して彼女に結婚の理由を聞いた男たちは、彼女のその発言に空間のねじれを感じたという。ははは、どうだ。ここまで改行がないぞ。読みにくいだろう...こっちだって推敲がしにくいんだ。お互い様か。で、できちゃった結婚をしたユイ嬢だが、一年間の育児休暇を取るとさっさと職場に復帰を果たした。子供はどうしたかって?さぁ...ちなみに両親と同居というわけではない。まあ今現在生きているところを見ると、何らかの手が打たれたのだろう。そして彼女はそのまま研究を続け、今に至るわけである。ちなみに彼女の今の役職は主任研究員である。組織のフラット化をはかっているせいで、研究部長とヒラの研究員をつなぐ役職は主任研究員のみである。従って彼女は部内では2番目ぐらいの位置にいるのだろう。さてさて先ほどちらりと話題に上った上司だが、姓は冬月、名はコウゾウと言う。年齢は56。元々大学の研究所にいたのだが、何の物好きか定年のあるさる企業、これは...ごめんなさいくどいのでやめます。さる企業に引き抜かれて現在に至っている。ちなみに役職は研究所長である。念のため言っておくが、建物自体いくつもの研究所を収容しているので、ここの建物で一番偉いと言うわけではない、あしからず。さてさて碇家の紹介だが、最後にこの物語の主人公になるであろう長男の紹介をする。この長男、小さい頃親に見捨てられていた割にはひねくれもせず、かといって素直に育っているというわけでもない複雑な性格をしている。年は14、背は年齢にしては高からず低からず、体型は細くもなく太くもない。成績は中の中。運動もそこそこ。特技といえば楽器など弾けたりするのだが、中学生レベルでチェロなど披露する機会などよっぽどのことがない限りないので、そのことで彼が目立ったりすることはない。当然そのレベルは神童とかプロ級とか言った非現実的なものではなく、単に習っていたと言うのが適当なレベルである。顔は...少なくとも彼はこの点に関しては母親の遺伝子に感謝すべきであろう。どこをどう間違えたのか、それとも彼女の母親の遺伝子がよほど強靱だったのか、それとも遺伝子レベルからゲンドウ氏を尻に引く強さがあったのか、彼は母親似であった。少なくともゲンドウ氏の面影が現れていないことは喜ぶべきことだろう。たとえ“女みたいだ”といじめられる原因になったとしても。かのようにすべてにおいて平々凡々な彼であったが、見た目だけは“可愛いぃ〜”と女の子に言われるものを持っていた。当然この“可愛い〜”は、ユイ嬢がゲンドウ氏に向かって言った“可愛い”とは次元が違うことは言うまでもない。その可愛いシンジ君...名前を言うのを忘れていたな。は、今年で中学2年生になる。学校は走って10分、歩いて30分の距離にある。この世界のお約束のように、彼は朝起きるのが苦手である。これは毎朝起こしに来てくれる栗毛色の髪をした幼なじみを待っているわけではなく、単に彼が夜更かしをしているせいに他ならない。ちなみにこれから登場する幼なじみは栗毛色の髪はしてなく、相銀もとい蒼銀の髪をしていたりする。お目目はウサギさんのように赤い。ぱっと見はちょっと引いてしまうが、じっくりと見るとなかなか...かなり可愛い顔をしている。まあ彼女の紹介は登場してからにしよう。そうそう、このシンジ君。朝は苦手ではあるが、生来の目立つことの嫌いな性格により、決して遅刻をするようなことはなかった。きちんと学校の始まる15分前には家を出て、学校への道のりを14分で駆け抜けていた。本当は10分を切って走り抜けることも可能なのだが、いつも横にいる幼なじみのため、その速度を落とすと言う気を彼は使っていた。従ってその健脚ぶりはなかなかのものなのだが、体育の時間にも発揮されることがないため、知る人ぞ知るといった世界にとどまっていた。その彼はいつものように母親に叩き起こされ、いつものように時間通りに家から叩き出された。そしていつものように学校への道を疾走していった。そしていつものようにその横には拓銀もとい蒼銀の少女。この少女、銀色の髪をしているからと言って、外人というわけではない。従ってプラチナブロンドなどと洋ものの呼び方でなく、蒼銀と言う呼び方の髪の色をしている。この少女、日本人であるわけだから、当然このような髪の色、ついでに言えば赤い目をしていることには理由がある。もちろん彼女がぐれていて、脱色、カラーコンタクトなどと言うまねをしているわけではなく、俗に言う“白子”と呼ばれる遺伝的形質不全が原因であった。元来こういった障害を持つ子供は体が弱いと言うのが通り相場であるのだが、当然この少女も例に漏れず生まれたときから病気がちであった。そのため彼女の母親は勤めに出ることもできず、家に籠もって彼女の世話を続けることとなった。病気がちな子供は手もお金もかかる。それは彼女のところも例外でなく、たくさんの費用がかかった。しかも彼女の父親も早くに過労死...うううっいやな言葉...をしたため、彼女の家は楽ではなかった...いや苦しかった。それを見かねた碇ユイ、彼女の母親の姉妹に当たるのだが、彼女に救いの手を差し伸べた。直接の金銭援助は断られたため、ユイが勤めに出ている間の愛息子の面倒を見てもらうことで、ベビーシッター代を彼女に支払ったのだ。このことに関しては、後ろめたいこともあるゲンドウ氏は反対せずに積極的に支援した。どう後ろめたいかというと、それはこれからの話に大きく関わってくるため、ここでは秘密である。そう、この秘密がないと、後の話は成り立たなかったりする。つまり作者の都合とも言うものだ。で、我がシンジ君と一緒に育った彼女...そういえば名前の紹介がなかったな。彼女の名前はわかっていると思うが、綾波レイという。レイはその後、大きな病気をすることもなく、すくすくと育つことができた。もっとも彼女の特異な外見は、子供の残酷性を引き出すのに大きな役割を果たし、彼女の性格形成に大きな陰を落とすことになった。つまり彼女は常にいじめの対象となっていたのだった。もとよりそばについていたシンジ君がごっつく強ければ助けてあげられたのだが、元々平々凡々な彼である。せいぜい一緒にいじめられてあげること(当然かばったためそうなる)が関の山であった。しかしこうした出来事を乗り越えてきたおかげで、レイにとってシンジは特別な存在として認知されるに至った。だが、中学生になると、彼女の特異な容姿は特徴として認知されることになり、“実はとっても可愛い”と言うこと認められるに至って、いじめの対象からはずれることになっていった。もっとも国際化の進んだご時世である。教室の中には肌の色や瞳の色、髪の色が異なった生徒など掃いて捨てるほどいる。そこに少しぐらい色の抜けている生徒がいてもどれほどのことでもないのだ。で、シンジに特別な感情...まだるっこいな、憎からず...まだまだるっこい。シンジのことを好きだと認識しているレイは、学校まで走るという苦行も、シンジと一緒にいられると言う魅力には勝てず、毎日続けていた。もっともこのことが彼女の健康状態を維持している大きな原動力となっているのは皮肉なものである。当然この行為は多感な同級生たちのからかいの対象となる。「あやしい」とか「夫婦」とか言ったそれである。ただ一つ問題なのは「危ない関係」とか言われることであろう。一応男と女なのだから「危ない」はないと思うのだがどうだろう。ひょっとしてシンジは男とは思われていないのだろうか。まあ本人たちがどう思っているかは別として、この二人は仲間内からつき合っているものと認知されていた。生まれたときから一緒にいるのだから、普段一緒にいることにも何の疑問もない。つき合っているのかと言われれば、家族ぐるみでつき合っているのだからあながちそれでも間違いではない。しかし、少なくともシンジの方は、レイを異性として意識したことはなかったはずだ。これは秘密なのだが、つい最近まで一緒にお風呂に入っていたぐらいなのだから。さすがにこれはレイが恥ずかしくなってやめることになりはしたが。んで、ずいぶんと前置きが長くなったが、彼らはいつものように通学路を息を切らせながら走っていくことになった。そういえば彼らの住んでいる町の紹介がなかった。彼らは旧箱根地区の北に位置する地域、いまでは第三新東京市と呼ばれている地区に住んでいた。20世紀の終わりに国会移転ということが話題になったのだが、結局それが果たされる前に世界は未曾有の大災害に見舞われることとなった。1999年の7の月ではなかったが、2000年の9の月に起きた災害は、研究家にノストラダムスの予言の解釈変更を行わせ、ぼろ儲けの口を作った。確かに1年と2ヶ月ぐらい誤差であるのだが、それまで誤差に関して一言も言わなかった奴らが、急に当たったと騒ぐのも厚顔無恥でもある。そんな奴らのことはおいておくとして、その災害は南極の氷のかなりを溶かし、上昇した海面は自動的に東京から首都機能を奪い去った。それぐらいの現象が起こったのだから人的損害がないはずがない。全世界で半数の人たちが命を失うという有史以来最悪の災害として人の歴史に刻まれることとなった。それに懲りた人々は、限度というものを知らないのか、山の中に新首都を作り上げることにした。それまでの暫定的処置として長野県の松本に首都を移転し、箱根山の北に大規模な開発の手を入れ、第三新東京市を作り上げることになった。計画から15年、実際に工事が始まってから13年。いよいよ2016年には首都移転と言うところまで彼らはこぎ着けたのであった。そんな町の中を二人の少年少女は駆け抜けていった...少女は隣を走る少年の顔を盗み見ては幸せに浸り、朝の話題を探そうとしていた。そして昨日彼女の私設ファンクラブ元締めと称する少年から聞いた話を朝の話題に持ち出した。

「いかり...くん...」

別に照れているわけではない。走りながら喋っているため息が続かないのだ。

「なに、綾波」

こっちの方は楽なペースで走っているせいか、若干余裕があるようだ。

「きのう...あいだ...くんが...いってた」

「ああ、転校生が来るって話ね」

「かわいい...こ...だと...いいと...おもっ...てるでしょう」

「綾波、苦しいのなら無理して話す必要はないよ」

「そんな...こと...ない」

二人で会話することが嬉しいのだ。そんな想いを飲み込んで、レイは言葉を続けた。

「かわいい...こ...らしい...わよ」

「ふ〜ん」

「きょうみ...ない...の」

シンジの素っ気ない態度にレイは少し安心した。シンジがその子を気にするようだったらどうしようかと心配していたのだ。

「別に、どうせそんなに可愛い子だったら僕なんか相手にされないよ」

相手にされるのだったら興味があるのだろうか、と言うことはきれいに心の隅に追いやり、レイは幸せな気分に浸っていた。息は切れているが。

「そう...よか...った」

彼女にとって、シンジがクラスで目立たない存在と言うこともありがたかった。しかしそうは問屋がおろさない。彼らがこれから飛び込もうとしている十字路には、別な方向から一人の少女が今まさに駆け込もうとしていた。ここまでくればお約束だとも言えるのだが、今度こそその少女は栗色の髪の毛をしていた。明らかに周りに居る少女達に比べて細身の骨格をし、肌はシンジの隣にいる少女ほどではないが、日本人には望み得ない白い色をし、そして腰の位置など隣に立つのが嫌になるぐらいの高い位置にあったりする。これで顔が十人並みだったらまだ許せるのだが、これがまた可愛かったりするから手におえない。そんな彼女が、その伸びやかな足で見事なストライドを描いて走っているのだ。よだれが...いや私情は置いておこう。

「初日から遅刻なんてぇ...そんな汚点は私の人生にあってはいけないのよぉ。
 わ、私は負けてられないのよぉ〜」

何か意味不明のことを叫んでいる。しかし彼女は気がついていなかった。そう、彼女自身の呪われた運命に。彼女はこの物語に登場した時点で負けていたのだ。まるで作者の陰謀のように、誘蛾灯に誘われる蛾のように二人の軌道は重なることになるのであったぁ。

「い...かり...くん!」

悲しいかなレイはその事に気付いていたのだが、切れ切れの息では大きな声を出すことは出来なかった。それどころか逆にシンジの注意をレイ方に向けてしまった。その後に訪れるのはお約束の結果。ごち〜んと...音がしないなぁ。っと現場に目を向けてみると、更にうらやましい...もとい、更に悲惨な光景がぁ。

少女は地面に尻餅をつき、そのスカートの中には少年の頭が...

少年は突然目の前に現れた白い布が、なんであるかがとっさには分からなかった。まじまじと目を凝らしてみると、その白い布から何か肌色のものが伸びている。何が何だか分からずに、指で白いものをツンツン、ニギニギとしてしまった。

アンと可愛い声を上げてから、少女は自分が置かれている状況にはたと気付いた。

「な、なにやってんのよぉ〜」

さすがに自分の股間に顔を埋められたら蹴飛ばすことは出来ない。それどころか少年の吐き出す息が、微妙に刺激しておかしな気分になってくる。

「ちょ、ちょっと...だ、だめ...」

おかしな雰囲気になってきたところでレイちゃん登場。むんずとシンジの襟元を掴むと、少女のスカートの中から引きずり出した。

「…時間、ないから」

そう言うと、先に立って走り出してしまった。

「ちょ、ちょっと待ってよぉ」

何とも情けない声を出して、シンジもその後を追いかけていく。おい、それはないだろう。そこで尻餅をついている子をどうするつもりだ。

「腰が抜けちゃったよぉ〜」

思わぬ刺激に腰が立たなくなった少女の叫びが、むなしく朝の町に響いていた。かわいそうに初日から遅刻が確定したようだ。
 
 

◆ ◇ ◆






とにもかくにも、二人仲良く駆け込んできたのを級友に見とがめられ、ひゅうひゅうと冷やかしの声の中、何とか二人は遅刻を免れていた。レイは冷やかされることにまんざらでもない顔をしていたが、シンジの方は明らかに不満を顔にして冷やかしている級友に食ってかかっていた。

彼曰、

「僕とじゃ綾波がかわいそうだ」

完全に勘違いをしているようだ。
 
 

「で、見たんか、その女のパンツ...」

お決まりの黒ジャージに似非関西弁の少年が、鼻の下を伸ばして聞いてくる。話を聞いたところで映像が出てくるわけでもないのに。少年の妄想は止まるところを知らないのだろう。

「見たって言うか...その...ばっちりと」

何故か右手をにぎにぎさせたりしてシンジは答えた。多分手ざわりを思い出しているのだろう。なんて外道な。

「かぁ〜、なんてうらやましいやつ。
 で、可愛かったんか、その女」

やはり妄想は止まらないようだ。

「可愛いかったかって...」

そう聞かれてシンジははたと考えた。パンツに顔がかいてあるわけじゃない。そう言えば顔を見ていなかった事を思い出した。

「覚えていないや」

てへへ、と笑う。

本当ならこんな話をしていれば、お決まりの彼女が止めに入るのだが、シンジの手の動きに『不潔よぉ〜』とあちらの世界に入ってしまったので役には立っていなかった。したがって少年少女の混乱は担任の先生が来るまで続くことになる。更に悪いことは、このクラスに転向...違うだろう転校だ、してくるはずの生徒が遅れているため、担任は職員室を出ることが出来なかったことだ。そのため他のクラスの不興をかいながらクラスの混乱は続くのであった。
 
 
 
 

「きりぃ〜つ、れ〜い、ちゃくせぇき」

あちらの世界にいってしまった委員長の変わりに、担任に指名された生徒が何とも気の抜けた号令をかける。いささか気分の乗らない雰囲気を振りきり、担任は転校生が来たときのお決まりの文句を告げた。先生は誰かって?作者としてはこの人が先生を出来るとは思えないので、この人だけは先生役をさせたくなかった。だがしかぁし、そうするとほかに役がなくなってしまう。まさか中学生を喫茶店に出入りさせるわけにもいかず、しかもこの女性の作ったものを人に出すことなど言語道断...と言うことで消去法で先生に収まってしまったこの人である。誰かって?分かるでしょ...もう。

「よろこべぇい男子ぃ」

別に可愛い子が転校してきたからと言って自分の彼女になるわけではない。それどころか人のものになったりするとものすごくしゃくに触ったりもする。まあそんな感情を置いておいて、クラスは盛りあがった。まあ半分やけだろう。

「転校生を紹介するぅ」

その声に紹介されて入ってきた生徒に、今度こそ男子生徒は狂喜した。そりゃあそうだ、将来この子と同じクラスにいただけで酒の席の話題にできるという逸品である。誰のものかと言うことはとりあえず棚に上げて彼らは喜んだ。おおおおぉっとわき上がる喚声の中、その少女は自己紹介を始めた。

「ドイツから来ました、惣流アスカ・ラングレーです。
 しばらく日本に居ることになりましたので、よろしくお願いします」

よく通る声でその少女は自己紹介をすると、クラスの男子から向けられる視線に満足そうに教室の中を眺めた。心の中では『そうよ、これよこれ。アタシは羨望のまなざしで見つめられなくてはいけないの』そう思っていることは誰にも秘密である。しかし彼女はクラスの中を見渡しているとき、ふと気になるものが視線をかすめたのに気がついた。

見覚えのある銀色の髪が...

ふと絡み会う赤と青の視線。そこに飛び交う火花にクラスの一同は気がついた。

「…淫乱」

ぼそりと恐いことを言うレイ。よっぽどシンジがにぎにぎしていることが気に入らなかったのだろう。

「だ、誰が淫乱よぉ!」

あまりと言えばあまりの言葉に少女激昂した。

「あなた、往来の真ん中でシンジ君にいかがわしいことをした」

「あ、あれは事故よ...それにアタシは被害者よ」

「うそ、あなたは気持ちよくて腰が抜けていたわ」

「知ってて見捨てたのぉ」

「そう、邪魔物は早いうちに切り捨てるの」

どこかのおやじ譲りのニタリ笑いをレイは浮かべていた。

その横ではシンジがまた手をにぎにぎしている。感触を思い出しているのだろう。それに気付いたアスカがシンジのもとに歩みよった。

「なにを思い出してんのよ」

ぶんと音がするほど、見事なスピードで繰り出された平手は見事に空を切った。別にシンジが避けようと思ったわけではない。たまたま『ごめん』と頭を下げたところを空ぶりしただけだ。しかしこれで頭に血が上ったアスカは前後の見境がつかなくなっていた。えいっとばかりの回し蹴りを繰り出した。その時見えた白いものに、シンジの記憶がつながった。

「ああ、あの時の君」

またまた空ぶりしたタイミングで、ツンと突かれたことでアスカは腰が砕けてしまった。その時たまたま伸ばした手がシンジの髪の毛を捕まえてしまったため、シンジは再び顔をアスカの股間に埋めるように倒れ込んでしまった。またもシンジは見知らぬ白いものを目の前にしていた。しかもよせばいいのに、またもやツンツンとつついていたりする。

たまらずアンと漏れる甘い声。

「シンジ君、それちょっちモラル厳しいわよ」

止めるでもなく担任は無責任なことを言った。だったらもっと早く止めろよな。

「一度ならずも、二度までもぉ〜」

さすがに衆目の注目を集める中、こんな事をされては平気では居られない。誰もが少女が泣き出すものと思った...が、事態は想像を超える方向で推移していった。アスカはシンジの頭を自分の股間から引っ張り出すと、自分の目の高さに持ってきた。そして頬を染めながら恥ずかしそうに言った。

「せ、責任とって」

「責任って?」

ごくりとつばを飲み込む音が教室に響く。張り手に回しげり、だったら次ぎはどんな報復があるのだろうか。

「アタシの旦那さんになるの...」

ののじを床に書きだしたアスカに、クラス全員は『なんでそうなるんじゃぁ』と心の叫びを向けた。しかしそれだけではすまない生徒が一人だけ居た。

「…だめ、淫乱にいかりくんは渡せない」

ぼそりと告げられた言葉に、クラスのみんなはもう一人の少女の存在に気がついた。再び絡みあう赤と青の視線。

「ふ〜ん、さっきからこの子のことかばっているけど、アンタ達って出来てるの」

おおっ、クリティカルな質問だ!クラスのみんながそう思った。これもいいきっかけである。ここではっきりとして欲しいものだと。

「…そ、そうよ」
「そんなはずないだろう」

頬を染めて小さくつぶやかれるレイの言葉をシンジの大声がかき消した。

「…でも」
「僕たちは単なる幼なじみなんだ。出来てるなんていったらレイに失礼じゃないか」

『お前のいっていることのほうが失礼じゃ』そう言ったクラス全員の心の叫びをあっさりと無視し、シンジははっきりと言いきった。

「そんなこと...」
「綾波もそう思うだろう。だったらはっきりといわなくちゃ」

おいおい同意を求めるなよ。しかしこのシンジ君、なぜかこういったことだけは押しが強い。レイは真剣なシンジの瞳に何も言う事ができなくなった。

「ほら、綾波だってそう思っているんだ」

シンジの言葉にアスカはニッコリと笑った。おおおっ、か、可愛いじゃないか。

「じゃあ、何の問題もないわね。アンタはアタシの旦那様になるの」

話が飛びすぎじゃあぁぁぁというクラスメートの心の叫びを余所に、話を進めて行こうとするゲルマン少女。そこにもうすぐ三十路の独り者、嫁遅れ教師が異議を唱えた。

「ちょ、ちょっち話が唐突ね。
 シンジ君は後でしっかりとしめるとして。
 なんで結婚と言うところまで話が飛ぶの」

『ガキのうちから何を言っているの』明らかな怒りを押さえて葛城ミサト、もうすぐ30...最近ステディな彼も忙しいのか相手をしてくれない、一人寝の夜はつらいのよぉ〜は教師としての職務を全うしようとしていた。

「…仕方ないじゃない、家訓なんだから」

『はっ?』とクラスの全員が間抜けな顔をしている中で、惣流アスカは惣流家に伝わる家訓の中、配偶者に関わる項目を詠唱しだした。その長さはLHRの時間の半分を使っても終わらない長さだった。一つ影踏みで影を踏まれたら婚約の証になるとか、一つ人前で押し倒されたら求婚を受けたものとするとか、一つ大事なところを最初に触れた男を夫にするとか...鬼ごっこで掴まったら結婚しなくてはならないというものまである。ここではたと作者は考えた。もっと沢山あげてもいいのだが、どれだけの人が元ネタに付いて来られるのだろうかと。それ以上に作者はどこまで覚えているのかと。適当に書いたのを指摘されないか、確か鬼ごっこは婚約とは関係なかったなとか。まあ、そんなこんなで、シンジのした行為は3つばかりその中に当てはまっていたらしい。

「…で、沢山あるけど優先順位はどうなっているの」

しごく真っ当な質問。しかしクラスの男性一同は、起死回生のチャンスとばかりミサトの質問の回答を固唾を飲んで見守った。

「う〜ん、私より強い事...」

これもどこかで聞いたような条件がさらりと出てくる。しかしその瞬間、男どもの目にきらりと光りが走ったのは言うまでもない。しかしこれだけなら一つのクラスだけで収まったのだが、ある商売好きな一生徒、名前は言うまでもないが、のおかげで彼女の顔写真とともにこの条件は全校生徒に瞬く間に広まるのであった。これが元で毎朝巻き起こるドタバタは、何時かまた報告する機会があるだろう。しかし、今はまだ情報はクラスの中で閉じている。目の前にいるのは細身の美少女。腕に自慢のある者が放っておくわけがない。そこはクラスの中では猛者で通っている柔道部の四四十六君。彼女居ない歴14年に終止符を打つべく無謀にも(当然本人は無謀とは思っていない)第一の挑戦者として名乗りをあげる事に相成った。この四四十六君、柔道部のホープだけあって体重は100K超、可憐な美少女のアスカ嬢の2倍以上...ひいふうみい3倍を越えているかも知れない...は簡単にある。捕まえてしまえば勝負などあったものではない。後は寝業に持ち込んで、あんなことやこんなこと、え、やめてそんなことまでと中学2年生にしては不健全なことまで考えながらにやにやしている。しかしこの学校、なんでこんな真似が出来るかというと、すべてはこのスチャラカ教師によるところである。何しろLHRの後は彼女の授業なのである。こんな面白い...もとい、こういうことははっきりさせておいた方がいいとばかり、授業そっちのけでの対戦と相成った。しかしここで他の男子生徒が黙っているのが不思議である。なぜかと見回してみると...やはり仕切っている奴等がいた。『惣流アスカ争奪権参加申し込み所』を開設して対戦権を販売している。しかも複数の人間が勝利した時のため、勝者決定戦の企画までしている。なかなか抜け目がないぞAいだ君!しかしクラスの半数というと20名はくだらない。これだけの人数を相手にするとなると生半可なことではすみはしない。あのか弱い体、体力が持たないのではないか...そんな心配もちらほら、対戦順位を後ろに持ってきたがる人間が多いのもむべなるかな。しかし、この状況においてもアスカさん、ちっとも困った様子を見せていない。それどころか嬉しそうな顔をしている。う〜んと、人差し指をあごのところに当てて考えている様子などなかなかラブリーである。

「ゆっくりとお相手をしてやろうかと思ったけど、沢山いるのでちゃっちゃと片づけるからね」

なかなかすごい事を言ってくれる。手招きするアスカさんに、遠慮なくとばかりに四四十六君、両手を広げて抱き着いた...もとい、つかみ掛かった。あっさりと掴まるアスカさん。なんか文体が変わっていなかって?多分気の所為だよ、余計な事は言わないように。あっさりと相手が掴まった事で十六君、にったりと表情が崩れた。それはそうだろう、本人公認であんなことやこんなことが出来るのだ。嬉しくない事があるだろうか、いやない。やけにこの表現が多いのは読者の気の所為にしておいてくれると私としては喜ばしい。まあ、十六君、そのまま押し倒そうと前に体重を掛けたところでぽんと体が浮きあがった。クラス全員に「?」のマークが浮ぶ中、十六君はそのまま床へと崩れ落ちた。彼の口からは白い泡が...可哀相に予想通りの噛ませ馬...かませ犬じゃないかって?まあそうとも言うね、の役割をしてくれた彼はそのまま保健室のマッドの元へと運ばれていった。

「手加減はしたのにねぇ...」

担架で運ばれていく十六君の姿に、アスカさん少し首を捻ってみたりする。その姿だけを見ればなかなか可愛いのだが、彼女の引き起こした結果はいささか恐怖に値するものだった。それまで出来ていた対戦待ちの行列が払い戻し待ちへの行列へと一瞬の間に変わっていった。

「では、シンジさん。よろしくお願いします」

列が出来ているところには並ばずにいられないシンジ君。何時の間にか取り残されてアスカさんの前に。どさくさではなく、自力で何とかしようとするところは男の子だねぇ。

「えっ、何の事?」

失礼、本人意味が分かっていなかったようだ。

「では参ります」

ぶん、と小気味よい音を立て、繰り出される平手打ち、いやこの場合は掌底といった方がいいのだろうか。いやいやわざの名前は何でもいい、それはそれは見事な攻撃がシンジのあごに炸裂...しない。ここのシンジ君はどこかで見かけるように武術百般に通じるわけでもないし、ATフィールドが張れるわけでもない。それなのに次々と繰り出されるアスカさんの技は空を切っていく。いくら鍛えているからといっても技の空振りは耐力を消耗する。何時の間にかギャラリーと化したクラスメイトたちは、この不思議な光景を語る言葉を持たなかった。

「相性の問題かな」

何時の間にか現れた無精ひげの男が、したり顔で解説する。

「なんでアンタがここにいるのよ、それに何時の間に」

担任のミサト嬢...雰囲気じゃないな...が抗議するのもどこ吹く風、次の展開を解説しだした。

「ほら、あの動き...避けようとは思っていないんだ。
 それどころか早く終わらせようと当たりに行っている。
 でも、悲しいかな本人に当たりに行く技量がないからそれがうまい事避ける動作になっているんだ。
 それにしても、あのアスカを相手に5分間も立っていられるなんて信じられないな。
 俺だってウルトラマンと変わらなかったのに」

その適切な解説に『ほう』と賞賛の声が上がる。

「しかし、そろそろ決着だな。アスカもそのことに気がついたようだ」

無精ひげ男は息が上がってきたアスカの様子にそう呟いた。彼とてアスカが負けるとは思っていない。何しろ実力には大人と赤ちゃんぐらいの差があるのだ。しかし赤ちゃんでも、抱きあげた瞬間に顔におしっこを掛ける事ぐらい出来る。まさしくその瞬間がシンジに訪れたのだ。アスカが次の攻撃に出ようと動きを止めた瞬間、彼は自分がどうすればいいのか気が付いた。そう、かわせないほど接近すればいいのだ。よしっ、と思って一歩を踏み出した...が、躓いてこけた。それがたまたまアスカが密着技に行くのに間合いを詰めようとしたのにタイミングがあい、結果は作者の思いのまま、そうしっかりとシンジ君が彼女を押し倒す形となってしまったのだ。しかもごていねいに唇まで重なってしまっていたりする。

「しかし相性というものは恐ろしいものだ。
 それともこれは運命なのかな。
 時に葛城、シンジ君ってどんな生徒なんだ」

目の前で繰り広げられる、本人たちの意図しないラブシーンを気にも留めず、無精ひげ男は隣で体を震わしている女性に声を掛けた。

「アンタが“平凡”と言うキーワードで思い浮かぶ事。
 そのすべてを持っている男の子よ。
 で、そっちの被保護者はどういう子なの」

「非凡とか、天は二物といった時の二物に思い当たるものを大体持っている子かな」

まあ身も蓋もない言い方ともいえるが、今の二人を現すには一番適当な言葉だろう。何しろ作者がそう設定したのだから。まあその二人、何が起ったのか理解できず、唇を重ねたまま重なり合い、3分が経過しようとしていた。いや、アスカさんは理解しているのか両手がシンジ君の背中に廻っている。さすがに中学の教室で繰り広げられる光景としてはモラルが厳しい。自分の立場を思い出した葛城教諭、二人を引き離そうと足を踏み出したが、それよりも早く行動を起こした生徒がいた。当然委員長@不潔ではなく、蒼銀の少女綾波レイである。もとより彼女がシンジがこの戦いに挑むのを止めなかったのは、彼女がシンジの実力を知り尽くしていたに他ならない。どこをどう間違おうが、彼がアスカさんに勝つことは考えられなかったのだ。負けてくれれば先ほどの宣言も反故にされるだろうとの思いで黙認していたのだ。しかしそのもくろみもあっさりと覆される事になる。間が悪いとか運が悪いとか、作者が悪い(多分これが一番真実なのだろう)としか言いようがない。その彼女が目の前で繰り広げられる耐え難い光景を解消するため、行動を起こしたのだ。彼女は液体ヘリウムより冷たいのではないかと思われる声で、二人に告げた。

「…いつまでそうしてるつもりなの」

その言葉にシンジははっと飛びのいた。一方のアスカはとろんとした目をしながら、いきなり現れた邪魔物に抗議の声を上げたのだった。

「二人の愛の営みを邪魔しないでくれるぅ」
「…今のは不可抗力だわ。
 戦いの無効を宣言してくれる」

本来負けた方が言う言葉をレイが言っている。少し肩が上下しているのは興奮のあまりだろう。

「でもこれで6つになったから...」
「押し倒したのは3回目だからカウントに入らないはずよ」
「…ふふふ、今の口付け...しっかりと舌まで入っていたから6つなの」

ピキンとレイちゃんのこめかみに青筋が浮かぶ。

「…私は認めないわ」
「じゃああなたは、ここまでされた私に泣き寝入りをしろっていうの」
「…ぐっ」

さすがのレイ嬢もこれには言葉に詰まってしまう。パンツをはいていたとは言え、いきなりそこに顔を埋められ、あろうことかツンツンにぎにぎまでされている。しかも2回も。それに押し倒された上に唇まで奪われ、舌まで絡め合っていたりする。アスカでなくても責任を取れと言いたくもなるだろう。

「うらやましいんでしょう」
「…ぐっ」
「仲間に入りたいんでしょう」
「…ぐっ」

しかしレイちゃん、ぐっ、とは普通言葉に出して言わないよ。

「二号さんなら考えてあげてもいいわよ」
「…あなたが二号と言うのがお約束のはずよ」
「さあ、何のことかしら“単なる幼なじみさん”
 この設定が動いた時からお約束は無効よ」
「…ぐっ、汚いわ」

さあ、何のことでしょう。ちょいと汗をかいている作者は置いておいて話し合いは進む。

「別宅がいい、それとも本宅に一緒に住む?」
「別宅にはどれくらい通わせてくれるの」
「そうね、年に2回、盆暮れぐらいは」
「本宅に同居がいいわ」
「じゃあお手当は...」

いつの間にか条件闘争に話が進展している。おいおいレイちゃん良いのかい。

「本妻さんが不慮の事故でいなくなれば二号から格上げだもの」

あっ、そう...

「そういうことは本人に聞こえないように言ってくれる?
 だいたい誰と話しているのよ。
 何だったら遠く山奥に別宅を造ってあげても良いのよ」

「…ぐっ」

「まあいいわ。
 じゃあ本宅同居ってことでいいのね。
 早速手配しておくから今晩からいらっしゃい」

いいわね、とびしっとシンジを指さすアスカさん。こらこら人を指さしちゃあいけないって教わらなかったかい。

「それから葛城先生。私の席は旦那様の隣にしていただけるとうれしいのですけど」

これまたびしりと独り者もうすぐ30女に告げる少女。教師のこめかみに青筋が浮かんでいるのはお約束というものだろう。

「…勝手にしてちょうだい」

どうやら彼女も匙を投げたようだ。宜なるかな...うんうん。

まあそんなこんなで彼女の授業時間も終わり、そして淡々と一日が過ぎていくことになる。まあごく一人りにとってはとても淡々とはいえないものでは有るのだが。多くの男子生徒に“月のない夜道は気をつけろ”“背中に気をつけるんだな”“おまえの背中はすすけている”なにか訳の分からないのも混じっているが...と脅しの言葉をはかれながらも、我らがシンジ君はけなげに...なんか意味が違う気もする...これから始まるハッピーな学生生活に思いを馳せるのであったぁ。
 
 
 
 

ここまでっ
 


トータスさんのメールアドレスはここ
NAG02410@nifty.ne.jp



中昭のコメント(感想として・・・)

  トータスさんに頂きました。70万ヒット記念作ぅ

  改行なしの怒濤の記述がさえ渡っております

  幼なじみレイちゃん可愛い
  >いつの間にか条件闘争に話が進展している。おいおいレイちゃん良いのかい
  しっかりしてるのか丸め込まれてるのか
  >「本妻さんが不慮の事故でいなくなれば二号から格上げだもの」
  ・・・しっかりしてるみたい。

  古の盟約(惣流家家訓)に従い婚姻を約する二人と二号さん。
  >これから始まるハッピーな学生生活に思いを馳せるのであったぁ。
  どんな生活になりますやら。楽しみ。

【きゃらこめ】でぃーえぬえー
ミセスA  「!おおといりおお”!395053rkrg00」
美少女M  「また興奮してんの?」
少年S   「小躍りしてるね」

美少女M  「はーん。本妻になってるわけね」
ミセスR  「・・・・・・・・・・ふぃくしょん」
ミセスA  「違うわよ。預言書よこれは。アタシに本妻になれという神の啓示よっ」

美少女M  「状況もなんもかんも違うじゃないの」
ミセスA  「あーたしぃのぉ為ぇーーせーかぁーいはあるのぉーーー♪♪」

少年S   「舞い上がってるからね。降りてくるまで、何を言っても無駄だよ」

ミセスR  「・・・・・・・・・・条件闘争」
永遠の少年S「そう言えば、何にも決めてなかったね」
ミセスA  「なになに?二号さんの権利を決めるの?
       別宅住まいは当然よね」
ミセスR  「・・・・・・こくん」
ミセスA  「泊まっていいのは年に二度・・・大負けに負けて三度かな
       まぁ、子供達にだったら何時でも会っていいから、寂しくはないわよね」
ミセスR  「・・・・こくん」
ミセスA  「お手当の方は心配いらないわ」
ミセスR  「・・こくん」
ミセスA  「じゃいいわね」
ミセスR  「こくん」

少年S   「すっかり自分が本妻のつもりになってるね」
美少女M  「自分の不利な条件をどんどん決めてくんだから面白いわね」





  みなさん、是非トータスさんに感想を書いて下さい。
  メールアドレスをお持ちでない方は、掲示板に書いて下さい。


Back    Home inserted by FC2 system