――― 澱 ―――  


カチャ

「…タダイマ」  


スー

赤い髪の少女が部屋から現れる。
少年の帰りを部屋の戸口で待って居たのだろう。


「あーら、無敵のシンジ様。遅くまでご苦労様」

「アスカ…帰ってたんだ」

「無能なアタシは、午前中で帰されましたの」

「疲れたから…もう寝るね」

「なによこの馬鹿。アタシとは口もききたくないっての」

「……………変だよ、アスカ…………僕が嫌いなのは判るけど
 ……アスカらしくないよ」

「アンタに何がわかるのよ!アタシがアンタを嫌いだって言うの?」

「……………違うの?」

「あたりまえでしょ。
 ………………嫌いなの」


「…………………おやすみ」



日課のようになったギスギスした会話。
それでも、既に同じ食卓を囲むことさえなくなった二人が唯一会話できる時間でもあった。



「待ちなさいよ」

「……」

「アタシの部屋に来なさい。SEXするわよ」

「アスカ!!」

「来ないなら絶交よ。アタシはここを出ていく」


本気である事はすぐに判った。
けれど、彼女が家出をしたとしても何も変わらない。
異国であるこの日本で、彼女の行くあては限られている。
また、NERVが彼女を見失うはずもない。
かっての自分のように連れ戻され…
何も変わるはずがない。
彼女にとって良いことも悪いことも起こらない。
たった一つ、自分との同居生活が終わる事を除いては。


「どこへ」

「なによ」

「どこへ行く気?」

「…アンタが居ないところよ。加持先輩の家でもいいかな」

「アスカ」

「……」

「昨日話しただろう」

「………やめなさい」

「加持さんはいないんだ」

「やめて」

「加持さんは」

やめろって言ってるでしょ!


憎しみのこもった目。
吐き気のするほど歪んだ顔。


「………嫌いだ」

「………………」

「アスカなんて」

「…………アタシもよ」


「何故笑うの?」

「部屋に入るんでしょ」





 ――― 望 ―――


シンジは少し上体を起こしてみる。
身体の下で、白い裸身が揺れている。
ふっくらとした隆起が波打っているのを、ただぼんやりと眺めている。


(なぜ僕はこんなに落ち着いてるのかな)


下半身からはちゃんと快感が伝わってきている。初めて女性の体内に入った分身は、
狭く熱い壁に搾られ細かな律動で今にも暴発しそうだ。


(それなのに)


目の前で揺れる乳房に右手を伸ばしてみる。
揺れは止まり手の中には柔らかい感触。


「痛」

「ゴメン」


慌てて髪の毛に手を移動させる。


「髪…触んないで」

「ゴメン」  


行き場を無くした手をアスカの腰に持っていく。白く柔らかなすべすべした肌。
自分の肌とは比べモノにならないくらい綺麗な。

視線を、下腹部の方へと下ろしていく。


(繋がってる)


つがっていると言った方がいいかもしれない。
アスカはそこに触れることさえ許さなかった。
アスカは自分でつばをつけて股を開いた。
シンジはその膣口にあてがって挿入していった。 

「ンン・・」
アスカは自分の中に深く入ってきた異物に、声を上げた。

アスカの声はそれ以来聞いていなかった。
先程の“痛”という苦鳴を聞くまで。 



(当然だ、僕らはSEXをしているんだから)

一般的にSEXと呼ばれる行為。
愛の営みとか快楽や欲望の行為とか…そんな余計な形容詞の一切ない。
そう、それだけの行為。



アスカの息が徐々に荒くなる。
その白い肌にうっすらと浮かびあがる汗。
腹筋運動を10分以上続けているようなものだから、最近の彼女にとってはかなり
きつい運動なのだろう。感じているわけではない。
必死に無表情を装っているが、痛みをこらえているのがわかる。


(痛み?)


「あの、痛い?」

「ッ、初めてじゃないわよ」

「エッ」

「12歳の時にレイプされたの。アンタの親父にね」

「なッ」

「逃がさない」


思わず離れようとしたシンジに、それまでだらりと垂らしていた白く長い足を巻き付ける。
一度離れかけた繋がりを、手で再び導いて、しがみつく。


「動け」


動揺は下半身の快感を直接シンジの脳まで運んできてくれた。
3・4回上下に動いた腰が一瞬止まり、びくっびくっと短く震える。

「あ・・あうっ・・」

アスカは目を閉じて子宮の中に注ぎ込まれる白濁した液体を感じる。
彼女にとっては二度目の膣内射精。


「あ・・」


シンジはアスカの上に覆い被さるよう倒れ込んで、荒い息をしている。
その陰茎はまだアスカの膣内で痙攣し射精を続けていた。



「全く親子そろってやる事同じね。勝手にピストンして勝手に膣に出して」

「……父さんと…したんだ」

(何故だろ。裏切られたような気がする。
 12歳の頃のアスカなんか知らない。出会う前の僕に対して・・・
 いや、今だってアスカは僕になんの義務もない)
 

「レイプされたのよ。お・か・さ・れ・たの

「娼婦にでもなろうと思ったけど、変態はあんたの父親だけだったわ。
 ほら、さっさと勃起てなさい抜かずにするのよ。アタシが妊娠するまでね」


「子供を産んでどうするの?」

「いじめるのよ」

「そんな」

「アタシは小さい頃、ママに殺されかけたわ。嫌いになったと思う?」

「……」

「普通は嫌うわね。そんな女
 でも、アタシにはママしかいない。アタシを見てくれるのはアタシを殺そう
 としたママだけなの」

「アスカ……僕は」


「だからいじめるの。子供にもアタシと同じ苦しみを味わすのよ。
 じゃないと不公平よね」



「あら、又大きくなってきたじゃない。
 親父の突っ込んだ穴に興奮した?」

「ち、違うよ」

「妊娠するまで毎晩アタシを犯すのよ」

「そんな、ダメだよ」

「アタシは、だれの精子でも良いのよ。街角に立ってれば馬鹿な男の3人や5人」

「ダメだ。僕が親になる。
 子供は僕が育てるから」

「ダ〜メ。いじめるのはアタシよ。男だったら12歳の誕生日に犯すの
 親子三代で犯されるなんてね」

「ねえ、その子とのSEX見せてあげよっか
 司令を呼んでもいいかもね」

「クク…もう大丈夫みたいね。興奮したの?変態ね」

「クッ」

「朝までしましょ。ね、変態くん」




――― 憐哀(レンアイ) ―――

【学校】

それから、僕らは毎晩のように抱き合っている。
アスカはあいかわらず、にくまれ口をたたく。
でも、徐々に変わってきてると思う。


 笑顔を見せるようになった。
   とても綺麗だ

 お弁当を作ってくれる。
   とてもおいしい


エヴァのシンクロ率は前と同じレベルまで回復した。
それがアスカの為になるのかどうか……

僕にはわからない



最近のアタシは変だ
時々シンジがアタシを見ているのが判る。
そんな時決まってあいつは微笑んでいる。
それに気づいたアタシは…アタシの頬は真っ赤になって鼓動も激しくなる。

何故だろう。あいつの体なら隅々まで知っている。
あいつのモノは何回も受け止めている。
今夜だって…多分

アタシは…あいつが……………………
ううん、違う。あんなエヴァとシンクロする以外能のない男なんて。
それに………あいつはアタシの事が好きじゃない。
あいつは同情しているだけだ。

父親の犯した女に………
誰にも愛されない女に………    




【部屋】

僕はアスカの事をどう思っているんだろう。

ケンスケが噂を教えてくれた。
アスカが売春してるって。
本当の事を聞こうかと何日も悩んだ
だけど、考えてみたら昼も夜もアスカはいつも僕の隣に居る。
そんな事する時間なんかある訳ないんだ。
僕って馬鹿なんだろうか……


アスカは僕の事をどう思っているんだろう。

一度…たった一度
「愛している」と言った事がある。
思わず口から出た本当の気持。とたん……
殴られたんだ。
強く、強く………

でもその時のアスカは怒っていなかった。
寂しそうに見えたんだ。



噂の事は知っていたわ。あいつが気にしている事も。
自慢にならないけど、アタシは碇という姓の男としか寝た事がない。
その内の一人とは一度きりだ。
よほど言ってやろうかと思ったけど、最近やっと気がついたみたい。
アタシ達は一日中一緒にいるんだから……… 
アタシはシンジの事を………

一度…たった一度
「愛している」と言われた事がある。
アタシは殴った。
あいつがいいかげんな事を言ったからじゃない
あいつの気持ちが伝わって来たから…… 

嬉しかった。
でも………
哀しかった。




【ゲージ】

今日は伝えよう。指輪だって持っている。
嫌われているかもしれないけど

でも伝えるんだ
この戦いが終わったら




今日は伝えよう。伝えなければいけない事がある。

 戦いはこれが最後だって話
 ミサトの言う事だから話半分にしても、多分もうアタシはエヴァに乗れなくなる

 でも、いい。あいつが居てくれるから

だから伝えよう
この戦いが終わったら





【EVA】

「ばっかじゃないのー。一人で使徒に向かっていくなんて
 死んで当然よね」

「あなた!……」

睨み付けて殴ろうとしたレイは動きを止めた。


「まったく・・・せい・・せいし・・・・たわ」

アスカの声はいつのまにか鼻声に変わっている。


「泣いているのね」

「誰がよ」

「アナタの心」

「………」

「伝えたの?」

「言ってないわよ」


「子供が産まれるの」
「“お父さん”って呼んで驚かそうと…」
「それから、“一生に一度しか言わないわよ”って………断って…から……」
「馬鹿としか…大嫌いとしか………言ってない」 
「言えなかったのよ!」

「碇君には伝わっていたわ」

「アンタに何がわかるの!アタシにだって判らないのに
 シンジにだって判らなかったかもしれないのに…」


「…………ごめんなさい」

「フフ、すぐに謝るのね。あいつとおんなじ」


「産むの?」

「多分」

「名前…決めたの?」

「アンタがつけて」

「いいの?」

「シンジに付けさせるつもりだった。
 自分で付ける気なんてない、できない!」


「シンイチ」

「エッ」

「男の子よ、きっと」 




――― 濁 ―――  


「ママ行ってくるねー」  


赤毛の見るからに活発な男の子が玄関を飛び出していく 


「アスカって呼びなさい!お姉さんって事になってるんだから」 

「ママの声のが大きいよ。みんなとっくに知ってるよ」 

「全く。今日はアンタの12歳の誕生日よ。
 寄り道しないでまっすぐ帰って来なさい」

「はーい。いってきまーす」



 カチャ…バタン

「赤毛にあの性格……ちっともシンジに似てない。
 本当にアタシとそっくり………憎らしい子」

「殺しちゃおうかしら」


明確な殺意を込めた言葉が、だれもいない居間に響く。


「ダメね。シンジの遺伝子を持っているのはあの子しかいない
 もう一度シンジをこの世に生み出せるのはあの男しか…」

「ごめんね、シンジ。アンタ以外の男と寝ることは二度とないと思ってたけど」

「でも許してくれるよね」

「もうすぐ会えるわシンジ」




 ――― 貪 ――― 

【15年後】

綾波シンイチ(旧姓惣流)
   綾波レイが保護者となる。
   成人に達してからも、レイとの同居を続けている。

惣流シンジ
   シンイチとアスカの子供。アスカの子供であり孫にあたる。  




少し膨らんだお腹をなぜながらアスカがつぶやいている。

「ママ、シンジとアタシの子供よ。アタシ達心と体の相性が最高なの」


        「ママ、アタシ……幸せになるわ」




                     (FIN


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