戦自、9体の量産機…もてる限りのすべての戦力を投入して行われたゼーレのネルフ侵攻作戦は、陵辱される弐号機の姿を見たシンジの逆切れによって灰燼と帰した。目を血走らせて咆吼する初号機の姿に老人達は慌てるしかなかった。そしてもう一人慌てている男が居た。その男の名は碇ゲンドウ。ネルフの指令だった。

「じいさんは用済み」

頼みにしていたレイのたった一言によって、彼の計画もまた灰燼に帰したのであった。

ジオフロントでは、シンジの逆切れ状態がアスカの無事が確認されるまで続いていた…

「碇…」「キール議長」

同時に発せられたお互いの声が、震えているのは気のせいだろうか…

「「済んだことは水に流さない?」」

思わずユニゾンしてしまった二人。続く言葉もユニゾンしていた。

「「そうしましょう」」

こうして老人の夢も、ゲンドウの野望も日の目を見ることは無くなった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「ある男が初孫を持つに至るドタバタ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ただむやみに広いネルフ総司令室。ゼーレとの和解後も彼らの地位は変わることは無かった。ただちょっとだけ違っていたのは、天井を覆う都市が無くなったため、日当たりがやたら良くなったことと、司令室の中が何か勘違いしたようなインテリアになったことだろう。

「おい、碇」

冬月は畳とちゃぶ台が用意された一角に陣取ると、秘書が入れた渋いお茶と堅焼きの煎餅をしゃぶるようにしながらゲンドウに声を掛けた。

一方ゲンドウはと言うと、赤木博士から姿勢の矯正のために押しつけられたバランスチェアーに腰掛け、両手は机の上に置いた格好で正面を凝視していた。

「碇、何を見ている」

いつまで待っても返事のないことにじれた冬月は、少し声をあらげゲンドウに問うた。

「はぁ〜」

しかしゲンドウから返ってくるのは溜息ばかり。冬月はそれでようやく事情を察した。

「いい加減強情を張るのは止めろ。
 素直にシンジ君と一緒に住みたいと言えば良いのに」

ゲンドウは『シンジ』と言う名前にぴくりと反応した。

「冬月…」
「…何だ碇」
「…孫が抱きたい」

いきなりのゲンドウの言葉にグェホグェホと冬月はむせ返ってしまった。

「正気か、シンジ君はまだ14だぞ。あと5年は待て」
「…イヤだ」
「イヤだって言ったって、こればっかりはしょうがあるまい」
「…でもイヤだ」
「ならばシンジ君に相談して見ろ」
「…恥ずかしい」

冬月は顔を赤らめている髭面男に対する殺意を覚えた。

『ユイ君、碇は可愛いのではない。たっぷりと可愛がってやりたい相手だ』

「それにこればっかりはお前がいくら焦ったところでどうにもなるまい。
 シンジ君とシンジ君の相手が同意することが必要なんだぞ」
「…ニヤリ」
「く、口に出して言うな。それに何を考えている。下のラボをを使うことは許さんぞ」
「…問題ない。そうか相手の合意さえ取ってしまえばいいのか...シンジは何とでもなる!」
「…い、碇何を考えている」
「ふふふふ、相手の合意か…」

『そんな見たことも聞いたことも無いのにデキないよ』
『シンジ乗るのなら早くしろ、出なければ帰れ』
『シンジ君、あなたは何のためにここに来たの。さあ***にノルのよ』
    ・
    ・
    ・
『乗ります、ボクがノリます』
『よくヤッタなシンジ』

「碇、おい碇」

冬月は遠い妄想の彼方に飛んでいったゲンドウの目の前で手を振ってみた。

「ダメダ、こりゃあ」

そろそろ大学の研究室が恋しくなってきた冬月だった。
 

<case 1 赤木リツコの場合>

「あら碇指令、何かご用でしょうか」

司令室に入室した赤木リツコは、期待に胸を膨らませていた。

「実は赤木君、折り入って頼みが有るんだが」
(頼みって何かしら。ついに『結婚してくれ』ってことかしら)
「はい、ゲンドウさん。何でも言って下さい」
(げ、ゲンドウさん…何を勘違いし取るんだこのオバサンは)
「いや、何、早く孫の顔が見たいなと」
(孫→碇指令の孫→私の孫→私はお婆さん→バーサン→バーサンは用済み)
「だからシンジの相手には誰が…」
「ふふふ、そう言うことなんですね」
「あ、赤木君どうした。め、目が怖いぞ。それに何を取り出して居る。あ、危ないではないか」
「あなたが死んでも代わりは居るもの」

チュドン

<case 2 葛城ミサトの場合>

「碇指令、ご用とお伺いしましたが」

ゲンドウに呼び出されたミサトは、何事かとゲンドウの顔を覗き込んだ。少し部屋が煙り臭い…

「単刀直入に言おう、孫の顔が見たい」
(ははぁ〜ん、シンジ君がらみね)
「シンジ君はまだ14歳、いささか早いのでは無いかと」
(やってることはしっかりとやっているけどね。毎晩うるさくてかなわないわ)
「葛城君、無理が通れば道理は引っ込む物なんだよ」
(なんか無茶苦茶言っているわね)
「しかし相手にも問題が有りますが」
(さすがにアスカやレイに子供を産めというのはちょっとね。でもとっくに出来ていたりして…)
「ならば君が産め」
(まあ私ぐらいの年齢なら…勧めるんだけどねっっっって)
「へっ?」
「二度は言わん。葛城君、君が生むのだ」
(まあしんちゃんはおいしそうだから良いけど、子供はちょっちね)
「あの〜よろしいんでしょうか」
(ラッキー!)
「…問題ない」

スチャッ…ゲンドウのこめかみに突きつけられる冷たい感触。

「か、加持君…キミを招待した覚えは無いんだがな」
「指令、今の命令を取り消して貰いましょうか」
(葛城はオレのだ。こら葛城、いつまでも嬉しそうな顔をしているな)
「このことは君の立場を危うくするぞ」
「すべては闇の中に葬ります」

スチャッ…冷たい感覚が加持のこめかみに…

「か、葛城…なんの真似だ」
「任務に従っただけよ」
(そろそろアンタにも飽きたしぃ)
「お、俺はだなぁ。お前の為を思って…」
「問答無用。葛城ミサト、反乱の現行犯で加持リョウジを逮捕します」
(シンジ君…あんたよりおっきいしぃ、タフだしぃ)
「葛城ミサト、これより任務を遂行します」
(問題はアスカやレイとどう折り合いを付けるかね)
「うむ、よろしく頼む」

<case 3 伊吹マヤの場合>
「碇指令、技術部伊吹マヤ入ります」

ゲンドウに呼び出されたマヤは、はじめてみる司令室に落ち着かなかった。

「単刀直入に言おう、孫の顔が見たい」
(孫って子供のことよね。碇指令の孫だから、シンジ君の子供…シンジ君と私が…)
「そんなぁ、私出来ません」
「ちゃんと学校で性教育を習ってきただろう」
「あのときは本だったんですよ。今度は人が相手なんですよ」
(こいつは…カマトトか)
「向こうはそう思っちゃくれない」
「「?」」
「いいか、両脇を締めて肘はまっすぐだぞ」

何故かマヤに銃を握らせるオペレーターA、B

(マヤちゃんを渡すもんか!!)

「そんなぁ、私撃てません。同じ人間なんですよ」
「「これは君のためなんだよ」」
((もちろん俺の為でも有る))
「そんな将来のお義父さまに〜」
「「へっ」」

いつの間にか向きを変えた銃口。その冷たい感触に冷や汗を垂らすオペレーターA、B。

「でも邪魔する者は撃てるんですぅ」

パンパンと短い音が二つ。
その場に崩れ落ちたオペレーターA,B。

「では伊吹マヤ。任務を実行します。お義父様!」

ルンルンと出ていくマヤの姿に、司令室の二人は何も言うことは出来なかった。
いやその逝ってしまった目に、命の危険さえ感じていた。

「…しかしだ碇よ」
「…頼む冬月、今話しかけないでくれ」

二人ともこめかみのあたりを手でほぐしている。

「この二人をどうする」

指さす先に有るのは、失禁して真っ白に燃え尽きたオペレータA、B。

「…問題ない。そのまま放り出そう。
 これ以上の問責、男として、してはいけないような気がする」
「…確かにな」

二人の姿は、同じ男として哀れみを誘うものであった。
 

<case 4 HH嬢(未成年の為名前を伏せます)の場合>
「いやぁ〜
 不潔よあんた達...五階も六階も無いわ〜」

ずんずんと足音を立てて入ってきた扉から出ていった。
後に残されたのは、両頬を真っ赤に張らした男達。

「…碇よ」
「…言うな冬月」
「…人選を間違えたな」
「…呼んだ覚えは無いのだが…」
「…だから言っただろう…えっ、そうなのか、ならなぜ…」
「…わからん…とりあえず加持一尉の所為にしておく」
「…ああ、ユイ君によろしくな…」
「…?」
 

<case 5 RA嬢(未成年の為名前を伏せます)の場合>
「…命令ならそうするわ」
「うむ、ピ〜。期待しているぞ」
「…碇司令」
「なんだピ〜」
「…この任務は私だけでしょうか」
「そうだピ〜。お前の気持ちを優先してお前だけに命令を下した」
「…何を言うのよ。ポッ」

そういって出て行くピ〜の姿を見送った二人は盛大に冷や汗をかいていた。

「…碇よ」
「…言うな冬月」
「…そういうのをその場しのぎと言うのだぞ」
「…ならば正直に言えと言うのか」
「…ああ、その時は私は退席させてもらうがな」
「…冬月」
「…なんだ碇」
「…死なばもろともだぞ」
「…少なくとも今回はお前の個人的な理由だ。わしが関与することではない」
「…冷たいな」
「…ああ」
 

<case 6 SAL嬢(未成年の為名前を伏せます)の場合>
パンパンと身体についた埃を払って指令室を出て行くSAL嬢。後には見事に崩れ落ちた指令室と、ぼろきれの様になった二人の男が居た。SAL嬢、廃虚でうごめく二つの影を見ると、『ふんっ』と鼻を鳴らしてその場を立ち去った。その足音につられるように小さな瓦礫が二人の頭の上に...

「…碇よ」
「…頼むから今は何も言わないでくれ」
「…何故わしまで巻き込まれなくてはならんのだ」
「…」
「…何故セカンドチルドレンを候補から外したのだ」
「…金髪」
「…何」
「…蒼眼」
「…だから何なのだ」
「…シンジにはもったいない」
「…碇よ」
「…なんだ冬月」
「…趣味が合うな」
「…やはりそうか冬月。殴られながら嬉しそうな顔をしていたな」
「…そう言うお前こそ」

顔を見合わせハハッと笑い合う二人。二人の頭の中には少年の時代、親に隠れて読んでいたPl*y B*yやP*NTH*USEのグラビアが去来していた。

「…しかしいいのか碇」
「…何がだ冬月」
「…セカンドチルドレンとシンジ君、結婚させれば彼女はお前の娘になるのだぞ、そうすれば…」
「…ふっ、甘いな冬月。彼女はレイと同じくGS(Gendou Special)クラスの監視対象だ。
  風呂の中からトイレの中まで目のないところはない」
「…碇よ」
「…駄目だ、冬月。これは私の愛蔵映像だ」
「…そこを曲げて…げっ」

冬月の視線の向こうには、髪の毛を逆立てた金髪の鬼がいたという。そしてその隣には蒼い髪の幽鬼が...

「…お仕置きが必要ね」「…指令殲滅」

その場に繰り広げられた光景は、あるものは台風と比喩し、あるものはブリザードと比喩した。またあるものは火山の噴火といい、あるものはサンダ対ガイラと言った。怒りに狂った二人の怪獣は大壱拾四使徒以上の被害をそこにもたらした。

その破壊のすさまじさは赤木リツコ女史を持ってして。

「アタシにもあそこまでは出来ないわ」

と言わしめるものであったという。
 

<case 7 M.K嬢、M.Y嬢(未成年の為名前を伏せます)の場合>
「ねえマ*ミ、せっかく来たのにここが司令室なの」
「この本から言えばそうですわ」

マユ*嬢、『ようこそNerv江』と書かれた本を小脇に抱えている。どうしてそんな物に司令室の位置が...

「あら、あそこの瓦礫の下に何か動いているわ」
「…変なものじゃないですわよね」
「この髭に間違いなければシンジ君のお父様のはずだけど...」
「碇君のお父様...」
「*ユミ...とりあえずバケツに水を汲んできて」
「…分かりましたわ*ナ」

マ*ミ嬢の汲んできた水をばさりと掛けるマ*、洗い流された土砂の中から現れた顔に頷いた。

「この髭、この眼鏡...間違いないわ」
「…そうですの」
「だったら今のうちに既成事実を作っておかないと」
「…なんですの*ナさん」
「念書よ、私をシンジの奥さんに認めることと、子供に関する一切の養育の責任を持つことのね」
「ずるいわ...なら私も」

こんなこともあろうかと用意していた書類を取り出した二人は、瓦礫の中のゲンドウの右手を引きずり出し、その親指で拇印を押した。その出来映えに満足すると、二人は瓦礫の山に埋もれたゲンドウ達をそのままに司令室を後にしようとした。

「…*ナさん」
「…何、マ*ミ」
「…あのままにしておいていいんですか」
「…助けるのなんて面倒よ」
「…いえ、私たちの後にも同じことを考える人が居ないかって」
「…マユ*…あなた結構恐いわね」
「…そんなこと有りませんわ。本当に恐かったらマ*さんだって無事では無いですもの」
「…」
「…マヤさんに頼んで硬化ベークライトでも注入して貰いましょう」
「…」

楽しそうに去っていく*ユミに冷や汗を流しながら、*ナは残された司令室を見た。そこでは先ほど掛けた水がむき出しになった電線に触れ、盛大にスパークを上げていた。

「…まっ、いいか」

おいっ、冷たいぞ。
 

その後M.K嬢とM.Y嬢の情報を聞いた女史職員が、硬化ベークライト注入の前に司令室に殺到したというのは別の話である。
 
 

10 months later@司令室
 
 

「…冬月、何時から司令室が託児所になったのだ」
「…シンジ君に子供が生まれたときからだと聞いたぞ」
「…何故ここで預からねばならんのだ」
「…確かどこかの間抜けが、念書に拇印を押したせいだと思うが」
「…」
「…良かったな碇…孫だぞ」

冬月は司令室一杯に並べられたベビーベッドを見ながらそう言った。

「…冬月、手を休めるな。A−7番でミサが泣いているぞ」
「…碇、何故わしが手伝わなくてはならんのだ」
「…文句を言う前に手を動かせ。B−2番でマナブも泣いている」
「…ならお前はF−9番のリョウタを見てこい」
「…なあ冬月」
「…何だ碇」
「…どうしてこの子は肌が黒いのだ。母親はキヨミ君だったよな」
「…知るか」
「…来月はこの倍になるそうだ」
「…息子は父を越えるか。まあ身から出た錆、諦めるんだな。
  まあこれだけ孫が居ればお前の老後も安心だろう。
  良かったな碇よ」
「…」
「…わしはこれから上の街に行って来る。後は頑張ってくれたまえ“おじいちゃん”」

スチャと冬月は敬礼をして司令室を出ていく。後に残されたのはゲンドウと100を越える新生児。何故か委員会のメンバーの姿もチラホラと。片手におむつ、片手にほ乳瓶を持って走り回っている。

キール議長は、黄色い物の着いた紙おむつをバケツに入れながら呟いた。

「碇、この事態、修正は容易ではないぞ」
「さよう、壊した司令室の修繕費、新設する育児室の建造費、それに子供達の養育費、国が一つ傾くよ」
「聞けばこの子ども達、君の息子の子供だそうだな」
「全く親子揃って無駄遣いをしてくれる」
「碇よ、予算の方は一考しよう」

そのまま消えようとする老人達、しかし扉から出ようとする彼らは急にUターンをした。
出口の扉に立つのは、スーパーサイヤ人じゃなくて金髪の破壊姫と蒼銀の監視者。
ニタリと笑うその笑みに彼らは生きた心地がしなかった。

そしてその少女の足下にはぼろ切れとなった副指令。

その後彼らが、その境遇をみのもんたに葉書を書いたかどうかは定かではない。
 
 
 

おしまい。
 

 

トータスさんのメールアドレスはここ
tortoise@kw.NetLaputa.ne.jp



中昭のコメント

  トータスさんより50萬hit記念作品、投稿して頂きました。

  うれしぃーー。ありがとうございます




きゃらこめ
     >たっぷりと可愛がってやりたい相手だ』

ゲン  「冬月」
冬   「碇・・・・・・何故顔を赤らめるのだ」



     >「いいか、両脇を締めて肘はまっすぐだぞ」
     >何故かマヤに銃を握らせるオペレーターA、B

アスカ 「誰よ、このAとBって」
シンジ 「Aは青葉さんの事でしょ」
アスカ 「Bは?」
シンジ 「さぁ・・・
     あれ?日向さんどうしたんですか?そんなところで座りこんで」
マコト 「・・・シンジ君、俺がオペレータだって事は知ってるかい」
シンジ 「・・・・・・・・・・・・知りませんでした
マコト 「くっそぉーーーーシゲルに負けるなんてー!!白いギターなんてだいっきらぁーいだぁーーー!!」


     >後に残されたのはゲンドウと100を越える新生児。
     >出口の扉に立つのは、スーパーサイヤ人じゃなくて金髪の破壊姫と蒼銀の監視者。
シンジ 「あの・・・なんで二人とも赤ちゃん達の面倒を見させてるのかな」
レイ  「バカ」
アスカ 「鈍感」
シンジ 「え?」
アスカ 「あんたの子供だからに決まってるでしょ」
レイ  「可愛い」
シンジ 「ありがとう」
マナ  「シンジぃデートしましょ」
シンジ 「うん・・・・・・・・・また後で」
アスカ 「良い度胸ね。このバカ亭主!!」
シンジ 「あーーー!!」





  みなさん、是非トータスさんに感想を書いて下さい。
  メールアドレスをお持ちでない方は、掲示板に書いて下さい。






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