それは年中真夏の第三新東京市の一角、寝苦しさを約束するかのような熱帯夜に起こった出来事...

その少年は閉め切られた部屋の中、エアコンも何もつけずただベッドの上で布団にくるまっていた。気温は25度を超える熱帯夜、閉め切られた部屋は少年の放つ熱気を閉じこめ、はっきり言って暑苦しい状態となっていた。そんな中少年は布団にくるまりぽつりとこぼした。

「寒い...」

いくら布団にくるまってもこの寒さがなくならない。おかしいほんの一時間前までは何にもなかったのにと薄れる意識の中少年はぬくもりを求めて自分のベッドを出た。それがとんでもない騒動を引き起こすとは知らずに...
 
 
 
 
 
 

「今選択の時」
 
 
 
 
 
 

少年は隣に有る少女の部屋のふすまをがらりと開ける。クーラーの良く効いたその部屋で少女は静かに寝息を立てている。少年は躊躇わずにその部屋にはいると、少女の寝ているベッドに潜り込んだ。

もぞり

少女は胸元に感じる違和感に夢の国から引き戻された。薄暗闇の中気がつくと誰かが自分の胸をまさぐっている。思わず大声を上げそうになった少女を少年の言葉が引き留める。

「寒い...」

少年はそのまま少女のパジャマのボタンを外して発育途上の胸を露わにすると、そこに顔を押しつけてきた。

少女にはその少年の行動が信じられなかった。いつも奥手で少女の方からそれとなく誘いをかけても気がつかなかった鈍感男。それがどんなに少女をやきもきさせたことか。それがいきなり夜這いなんて...

少女は少年の言った「寒い...」の言葉を忘れていた。そして慈しむように少年をその胸に抱き留めた。

しばらくはじっとしていた少年だったが、再びもぞりと動きだし、新たなぬくもりを求めるように少女のズボンに手をかけた。

夜這いをかけてきたのだから当然の行為であるが、さすがに保護者が隣室で寝ている状態でこれはまずい。少女は抵抗するように少年の手を押さえた。

「ダメよシンジ、今日はミサトが居るのよ」

少女の言葉はミサトが居なければ問題ないと告げていた。

しかし少女の抵抗もむなしく、少年の手は少女のズボンを脱がし、その下に有ったショーツも同時に引き下ろした。ここまで来て少女は抵抗をやめ、全てを少年に託した...

が、再び少年は少女に縋り付くとそこからは何もしようとはしなかった。

「ちょっとシンジ。ここまでして置いて何で何にもしないのよ」

そう言った時少女は初めて少年の様子がおかしいのに気がついた。シンジと呼ばれた少年は裸の少女に縋り付いて震えているのだ。少女は始め緊張からかと思ったがそうではないことに気がついた。

少年の体が熱いのだ。それも洒落ではすまされないほどに。

「シンジすごい熱」

慌てた少女が薬箱を取りに行こうとしたが、少年が放してくれなかった。

いくら少女が力を入れても少年は頑として手を離さなかった。しばらくの攻防の後あきらめた少女は少年を慈しむように抱きしめた。少年が寒くないように優しく愛を込めて...

ぬくもりが逃げていかないことに安心したのか、少年はさらなるぬくもりを求めて少女の体の上をさまよった。初めて異性に触れられる...その事実が少女の体を熱くした。少年の手が少女の体をさまよっていくうちに、少女の吐く息はだんだんと荒くなり、そのうちに甘い吐息に変わってきた。

「シンジィ〜」

少女はいとおしげにその名前をつぶやくと少年を抱きしめる力を強めた。

「はぁ〜」

少女の女へ変わろうとする熱い吐息が漏れる。

『このままシンジを朝まで抱いていよう』

そう少女が考えたとき、少年のつぶやきが少女の思いを壊した。

「綾波助けて」

その言葉を聞いた瞬間少女の顔がゆがむ。自分は少年に求められていなかった...女の喜びを感じていた少女の心は一瞬のうちに悲しみに包まれた。そしてその次には全身に燃え上がるような怒りを感じていた...

「くぉーのー、バカシンジ」

しかし少女の怒りは爆発することはなかった。それは決して少女が我慢強かったわけではなく、いつの間にか現れた闖入者のせいだった。

「嬉しい、碇君」

ベッドの主の少女はいつの間にか青い髪をした少女が何も身につけず、自分のベッドに潜り込んでいるのに気がついた。

「ファースト、アンタいつの間に」

少女にとって遠く離れた団地に住んでいる少女が、いきなり自分のベッドの中に現れたのだ驚かないわけがない。しかし、青い髪をした少女は文句を言っている少女を無視し、丸くなっている少年に声をかけた。

「碇君、綾波レイよ。
 もうそんな人に縋り付いている必要はないわ」

レイと名乗った少女は裸の胸を少年に押しつけると、もう一人の少女から少年を引き剥がそうとした。しかし少年はもう一人の少女に縋り付く力を強めた。

「綾波助けて...」

口では相変わらずもう一人の少女の名前を呼んでいたが...

「碇君、その人は違うわ。
 あなたの求める綾波レイは私。
 だから私と一つになるのよ」

だが少年は抱きついたまま少女を放そうとしない。それどころかいっそう固く少女を抱きしめる。

「あきらめるのねファースト。
 シンジはアタシを求めているのよ」

「違うわ、碇君ははっきりと私の名前を呼んでいる。
 ただ暖かいからあなたに縋り付いているだけよ」

少女は分と鼻を鳴らすとレイと名乗った少女に言った。

「ならお風呂で体を温めてきなさいよ。
 それならはっきりするでしょう。
 シンジの言葉と体、どちらを信用すればいいのか」

レイはその提案に乗ることにした。今までベッドの外にいた自分の体が冷たいことが原因なのだと思っていたから。

青い髪をした少女が部屋を出ていくのを確認すると、少女は口元を歪めニヤリと笑った。

「しっかり暖まってくるのよ〜」

そう言うと。少女は自分の女性を確かめた。

「こんなに熱くなっている...」

もう少年を迎え入れる準備は出来ている。そして少年にも触れてみた。

「こっちは元気ね」

少女は『今のうちに既成事実を作ってしまう』とばかりに少年のものを露わにし迎え入れようとした。ただそれを邪魔する者が居たのが誤算だった。

「アスカ、ちょっちそれはフェアーじゃないわね。
 それに保護者としては見過ごすわけにもいかないしね」

少女は新たな闖入者を睨み付けた。ミサト邪魔をするんじゃないわよと。

「そんな目をしてみてもダメよ。
 シンジ君の意思を尊重しないとね」

アスカはミサトに向かってフンと鼻をならす。

「アタシのベッドに潜り込んできてアタシをこんな格好にしたのよ。
 シンジの意思は尊重していると思うわ」

「でもレイの名前を呼んでいるんでしょう。
 単なる錯覚かもしれないじゃない」

「シンジの体は私を求めているわ」

「それを確かめるためにレイにお風呂に行かせたんでしょう」

ここでアスカは言葉に詰まる。一体どこから覗いていたのか。

「くっ、そうよ...」

「じゃあ、レイがあがってくるまで待ちなさい。
 それではっきりするじゃない」

ちょうどそこにお風呂で暖まったレイが戻ってきた。

「葛城三佐...」

ミサトは手早くレイをベッドに押し込んだ。こんなおいしい見物はないと。確かこの部屋には加持の仕掛けた目がいくつかついていたはず、ミサトは後から加持にダビングして貰おうと考えていた。

「レイ、あなたがどうやってここに来たかは詮索しないわ。
 アスカとの勝負、ちゃんと決着をつけなさい」

レイはコクンと頷くと再びシンジに向かって語りかけた。

「碇君、綾波レイよ。
 私が暖めてあげるからその人から離れて」

だが結果は先ほどと変わらなかった。シンジは相変わらずレイの名前を呼び、アスカに縋り付いていた。

「やっぱりシンジはアタシを求めているのよ」

アスカは勝ち誇ったようにレイに言う。レイも負けじとばかり反論する。

「碇君の心の中に居るのは私よ」

二人のにらみ合いに、さすがのミサトも判断が付きかねているときに背後から声がかかった。

「うむ、これは」

「何だ碇、心当たりが有るのか」

ミサトは後ろを振り向く気が起きなかった。一体私の家のセキュリティはどうなっているの。なんだか情けないものを感じているミサトだった。

「心当たりはある」

その言葉にミサトは後ろを振り返った。その瞬間目眩を感じたが...

そこにはいつの間にか書斎机と椅子が運び込まれ、いつもの格好をしたゲンドウと冬月が立っていた。

ゲンドウは目眩を感じているミサトを無視してニヤリ笑いを浮かべる。

「赤木君サードチルドレンの様子はどうだ」

その言葉にえっと振り向くミサト。いつの間にかそこに現れていた人物を見て頭が痛くなった。

「リ、リツコにマヤ...」

「サードチルドレンの体温41度、その他炎症等は認められません。
 純粋な発熱です」

マヤの報告を真剣な顔で書き留めていくリツコ。そして一通りの報告を聞き終わったとき『やはりそうか』という顔でゲンドウを見つめた。

ゲンドウもリツコの瞳を見つめうんと頷くと全員に向けて言った。

「碇家男性に伝わる選択の時が来たのだ」

「「「「「選択の時」」」」」

思わずハモってしまう全員。いち早くミサトが立ち直りゲンドウにその意味を質問した。

ゲンドウはツイとサングラスを持ち上げるとおもむろに口を開いた。

「二股で優柔不断な碇家の男性に発熱と共に訪れる性衝動だ。
 この衝動を乗り越えた時、碇家の男は生涯一人の女性を妻として娶るという」

「なるほど、確かにそれは碇の血のようだな。
 六分儀の血ならば一人に決めることは有るまい」

「・・・冬月、何が言いたい」

「・・・別に、正直な感想を述べたまでだ」

しばしにらみ合う二人

そこにミサトが割り込む。

「その選択はほっといてもなされるんですか」

ゲンドウはサングラスを人差し指で持ち上げると

ニヤリ

と笑う。

「伝え聞いた話ではそれは女性の側の努力が必要だと言う。
 看病以外にシンジにしてやれることと言えば分かると思うがな」

再びニヤリと笑うゲンドウ。ミサトはそれを引きつった笑いで受けるしかなかった。

「看病以外ですか...」

「そうだ、シンジに注がれた愛情の深さが選択の決め手となる」

14歳の少年少女にあまり変な真似はさせられない。出来れば先送りにしたいとミサトは考えた。

「今あの二人が何もしなかったら何が起こるのですか」

「二度とシンジの目があの二人に向くことはなくなる。
 それだけのことだ」

ゲンドウの言葉はミサトの逃げ道を塞いでいく。

「しかし、14歳でそれは早すぎませんか」

「・・・問題ない。やりたまえ葛城三佐」

「しかし...」

ミサトはそう言ってシンジ達の寝ているベッドを見た。そこには順番を決めるじゃんけんをしているアスカとレイが居た...

アスカがガッツポーズをしている。どうやらじゃんけんに勝ったようだ。

「あの二人には異存はないようだが」

ミサトはただこめかみを押さえることしかできなかった。

「冬月、準備を頼む」

「いいのか碇」

「そのためのネルフだ」

違うんじゃないかとのつっこみを余所に、冬月の合図と共にアスカの部屋を照らし出す照明。スポットライトはベッドの上を照らし出している。一体何をするつもりなのか。ミサトは自分のいる組織に不安を感じだした。だがそれよりもミサトを嘆かせたのは両側でビデオカメラを構えている日向と青葉の姿だった。

「これは何のつもりですか」

こめかみをひくつかせてゲンドウに向き直るミサト。

「公正を期すためだ」

「公正?」

ゲンドウの言葉に呆けてしまうミサト。

「うむ、後から選択されなかった方がクレームをつけるやもしれん。
 これはそのための準備だよ」

冬月の言葉に何故か納得させられてしまうミサト。

『あなた達はそれでいいの』振り返ったミサトは思わず目の前に展開される光景にへたりこんでしまった。

裸のアスカを隣で加持が身振り手振りを交えてレクチャーしている。そしてその横では同じく裸のレイをリツコがホワイトボードを手にレクチャーしているではないか。

『やめてやる』

こんな組織は辞めてやる。ミサトは決意を固くするのであった。

「それでは30分で交代とします」

いつの間にかタイムキーパーとなったマヤのかけ声と共にそれは始まった...
 

 
 
 
 

***
 

ちちちと鳥が鳴くさわやかな朝。シンジはいつもの通り起き出すと3人分の朝食の準備を始めた。

「ふんふん♪」

何故か今日は体が軽い。特に腰の辺りが軽いなと思いながらシンジは鼻歌混じりに準備を進める。

ピピピと浴槽にお湯が満たされたことを知らせるブザーが鳴る。シンジはアスカの部屋の前まで行くとお風呂が沸いたことを告げた。

「アスカ〜♪、朝だよ。お風呂も沸いてるから早く起きて」

その足でミサトの部屋の前に行くと。

「ミサトさん、もうすぐ朝御飯が出来ますよ。
 起きてきて下さい♪」

シンジはキッチンにもどるとお弁当の用意を始めた。そう言えば今日は綾波にもお弁当を作ってあげるんだっけ、と思いだし。肉の入っていないメニューを作り出すシンジ。そうしているうちに彼の同居人が起き出した。

「あれっ、綾波ったらいつの間に泊まっていったの。
 待っててね、今から綾波の分の朝食も作るから♪
 あっ、アスカ。お風呂湧いているから」

いつにも増して機嫌のいいシンジは踊るように準備を進めていく。

その様子を呆けたように見ていた3人はおもむろにテーブルにつくと、代表してミサトがシンジに声をかけた。

「ねえ、シンジ君。答えは出たの...」

シンジはミサトの問いかけに『へっ』と言う顔をしてそこにいる3人を見た。

「答えって何ですか。
 それよりも3人ともどうしたの目の下に隈が出来ているんですけど」

「答えは答え、夕べのことよ」

シンジの様子にじれたのかアスカが声を荒げて言う。

「夕べねぇ・・・
 間違ってミサトさんの作った物を食べちゃったから、ベッドに入った後の記憶がないんだ。
 夕べ何かあったの...」

シンジのその答えに3人は崩れ落ちるようにテーブルに突っ伏した...
 

***
 

「冬月、老人達はなんと言っている」

「キール議長は大変満足しているようだ。
 次回作を期待していると予算を倍増してきたぞ」

「そうかシナリオ通りだな」

ゲンドウは組んだ手の下でニヤリと笑う。

「しかしどうする。同じ手は使えんぞ」

「・・・フォースの少年を使う」

「しかし、インパクトに欠けるな」

「も、問題ない・・・」

「最悪の場合は予算を削られるぞ」

「冬月・・・」

「何だ碇」

「フィフスの少年を使う」

「正気か碇、そんなことをしたら委員会が黙っていないぞ」

「今は老人達を満足させればいい。
 理由はそれが全てだ」

「理由?おまえの欲しいのは口実だろう」

「冬月、老人達は満足している。
 今がチャンスなのだよ」

「まあいいか...時に碇」

「何だ冬月」

「葛城君に、アスカ君、レイがおまえに会いたいと言ってきたから通しておいたぞ」

その言葉にさっと顔色の変わるゲンドウ。

「私はこれから上の方に行って来る。
 まったく面倒なことは全て私に任せおって」

心なしか冬月の顔がにや付いているのは気のせいだろうか。

「冬月...今日は私が出よう」

「いや、せっかく3人が会いに来るのだ。
 おまえが会ってやるべきだろう」

気のせいではなく冬月の顔がにやついている。

「シンジ君は選択をしなかったようだ...
 これもやはり六分儀の血か」

「・・・冬月」

「碇、赤木君に言ってこの部屋の出入り口は一つを除いて作動不能にしておいた。
 逃げられんからな」

「・・・冬月ぃ」

笑いながら出ていった冬月と入れ違いに乱入した3人によって、ゲンドウがその後どうなったかは誰も知ることはなかった...
 
 
 

「碇」

「何だ冬月」

「フィフスの件はどうなった」

「しらん、私は多分二人目だからな...」
 

ふぃん
 

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tortoise@kw.NetLaputa.ne.jp



中昭のコメント(感想として・・・)

  >「しらん、私は多分二人目だからな...」
  【涙】 − GENDO U −
  ・・・・・・・・・・・はぅ(キゼチュ)


  よ、余計な事まで想像してしまいました。強烈なオチですね。
  オチから感想言うのもどうかしてる気はしますが・・・


  トータスさまよりの投稿です。

  今回ギャグ全開ですねぇ。とてもルフランを書いてる人とは思えゲホンゴホン。
  あ、でもたっちを書いてる人だから・・・ナットクナットク。
  >一体私の家のセキュリティはどうなっているの。なんだか情けないものを感じているミサトだった。
  >そこにはいつの間にか書斎机と椅子が運び込まれ、いつもの格好をしたゲンドウと冬月が立っていた。
  ばくしょー
  机と椅子を運び込んだのはオペレーターコンビかな。
  「マコト、もっと左だよ左」
  「副司令、ちょっと横どいてて下さい」
  「ああ、すまんね」
  「司令、まだ座るのは早いっすよ」
  「問題ない」
  「しゃぁない、このまま押すぞ」
  これだけドタバタしてたら気付くかな


  >裸のアスカを隣で加持が身振り手振りを交えてレクチャーしている。
  こ、これが気になって
  身振りって?  手振りって?


  小さなお友達への配慮・・・ありがとうございます(涙)
  失われた18禁パートはいつか補完されるのか?!




  みなさんも、是非トータスさんに感想を書いて下さい。
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