時を駆ける...


 

第1話 −狂気−
 
 

あいつはあたしの腰を抱えるとあたしの名前を叫びながら狂ったように腰を動かしあたしを突き上げてくる。何度も行われた交わり、そのたびにあたしに注ぎ込まれる精。力いっぱい握られたために痣のついたあたしの胸、体中にあいつに抱かれた跡が残っている。あいつの動きがますます激しくなってくる...あたしもそれにつられるかのようにだんだんと絶頂へと上り詰めていく。何故感じるの...こいつのことなんか愛していないのに...何故...あいつの高まりが絶頂を迎えあたしの中ではじけたとき、あたしもいってしまった...あいつの名前を呼びながら...

「シンジ...」

行為の終わったけだるさの中、あたしは横に寝ているシンジを見た。どうしてあたしはこいつに抱かれたんだろう。そっとその顔をなぜてみた。痩せた顔、疲れた顔...あたしはシンジにまたがるとそっと首を絞めてみる...細い首...あたしでも簡単に絞め殺せてしまいそうなか弱い体...でも世界一強い男。

あたしは首を絞めるのをやめてもう一度寝ているシンジの横に潜り込んだ。別にこいつと一緒に寝なければいけない義理はない。こいつはあたしのことを暴力で犯したのだから...でも離れることはできなかった。こいつと離れてしまうとあたしもひとりぼっちになってしまうから。あたしは眠っているシンジの体に腕を巻きつけるとそのまま眠りに落ちた。
 
 

***
 
 

最後の使徒を倒した後、ゼーレはネルフに対して牙をむいた。最初はネットワークからMAGIへ進入しようとした。そしてそれが失敗すると通常戦力でネルフ本部への急襲を行い武力制圧をしようとした。そしてそれも失敗すると最後には9体の量産型エヴァまで投入しネルフ本部を制圧しようとした。そんな中、精神崩壊していたあたしはミサトの判断で無理矢理弐号機に押し込まれ地底湖に射出された。爆雷による攻撃に死の恐怖を感じたあたしはそこでママと出会った。

弐号機を再起動したあたしはまとわりつく戦自の部隊に対して破壊の限りを尽くした。そして地上部隊のほとんどを破壊したときそれは来た...翼を広げて降りてくる9体のエヴァ、その姿にあたしは狂喜した、またママと一緒に戦えるから...戦う相手ができたから。内蔵電源は残り3分...今のあたしにはそんなこと問題ではなかった。誰が相手でも負ける気なんかしなかった。そしてその通りあたしは量産機を赤子のようにひねりつぶした...つもりだった。

しかし、アタシたちは勝てなかった...

内蔵電源が切れて動けなるのを見計らうように再起動した9体の量産機は、あたしの弐号機を蹂躙した。あたしがもうだめだと観念したときあいつは初号機で現れ、圧倒的な力で初号機は白いエヴァを倒していった。4体のエヴァが瞬く間に倒されるのを見て、敵はただちに撤退した。直接の対決ではかなわないと見て戦術を変えて来たのだ。正面からの力押しがダメなら搦手から..弐号機がなくなった今、ネルフで戦えるのは初号機のみ。そして初号機をあやつれるのはシンジだけ...敵はそこをついて来た。押しては引き、引いては押す。絶対に自分の側の損失がないように戦闘になる前に撤退する。しかし、その度にシンジは出撃しなくてはならない。何時来るかわからない敵、そして何もしないうちに終わってしまう戦闘。あるときは立て続けに、そしてあるときは忘れる程時間をおいてから...シンジの心と体はは確実に蝕まれていった...敵の意図通りに。しかしあたし達にはどうすることもできなかった。

「アスカ...ちょっといい?」

そんな緊張が続いていたある夜、突然シンジがあたしのところに来た。あたしは初めの戦闘で体に大きなダメージを負ったためしばらく入院していたが、ようやくその日には退院していた。

「何の用?あたしはあんたの顔なんて見たくないのよ」

エヴァの中でママを見つけたあたしは、もう一番かどうかなんてどうでも良かった。ただシンジだけは許せなかった。あたしのすべてを奪ったシンジ...シンジがもっと早くくればあたしとママはあんな目にあわなくても済んだのに...恨む相手が違うことは分かっている...でもその気持ちを押さえることはできなかった。だからあたしはシンジにきつい言葉を浴びせかけた。

「アスカ...」

シンジはあたしの名前を呼んだ...

「用がないんならあたしの目の前から消えて...あんたの顔を見てると気分が悪くなるのよ」

あたしは吐きすてるように言った。

「眠れないんだ...」

「?」

「いくら眠ろうとしても、目の前に白いエヴァが現れて眠れないんだ。
 リツコさんに睡眠薬をくれるように頼んだんだけど...
 でもダメだって...戦えなくなるから」

「そう...あたしの知ったことじゃないわ」

もう話を聞く気もなかった...あたしはドアを閉めようとした。

「アスカ!」

そう言ってシンジは突然あたしに襲いかかってきた。確かにあたしは体力が落ちていた。でもそのときのシンジはそれを差し引いても信じられない力であたしを組みしいた。シンジは手を縛ってあたしの自由を奪うと服をやぶりすてあたしを裸にした。そして両足を抱えると「やめて」と頼むあたしを無視し無理矢理あたしの体に侵入して来た。痛い、痛い、痛い...あたしはそれしか考えられなかった。シンジはあたしの乳房を吸い、力任せに揉み、勝手に腰を動かし、勝手にあたしの中で果てた。何度も何度もシンジはあたしの体をむさぼるように犯し続けた。そして疲れるとあたしの中に入ったままいきなりいびきをたてて眠りに落ちていた。シンジの顔は苦痛に歪んでいた。

あたしはしばらく脱力していたが喪失の痛みとシンジの重さに我に返った。

「気持ち悪い...」

あたしは乗っているシンジをはねのけるとトイレに駆け込み自分の体を見た...そこらじゅう痣だらけ...股間から流れ出る白いものの中には鮮血が混じっていた。それはあたしの純潔のしるし...別に処女であることにこだわりはなかった。でも悔しかった...

「なんであんなやつに...」

あたしは部屋に戻るとそのまま寝ているシンジにまたがりその首を絞めた。殺してやる...そのときのあたしはそれしか考えられなかった。だけど途中で止めた。苦痛にゆがんでいたあいつの顔が首を絞めるにつれだんだん安らぎに満ちたものに変わってきたからだ。その時あたしは理解した、あいつにとって死は救いなのだと。誰かに今の苦しみから解放して欲しがっていると。

「誰が殺してやるもんか...
 誰が助けてやるもんか...
 生きていることが苦痛ならアンタを死なせてやるもんか」

そう思ったら急に自分が冷静になるのを感じた。そして一つの事に思いいたった。

「確かこの部屋ってモニタされていたのよね...」

それなのに誰も止めにこない。ミサトもリツコもマヤも...

「そうか...そういうことか...」

あたしは笑いたくなった...惨めなあたしを。エヴァに乗れないあたしはもうこんなことにしか役に立たないんだ...シンジを慰めてやることぐらいしか...シンジだけか...あたしを求めてくるのは...そっか、シンジだけなんだ。

「いいわよ好きにしなさいよ...
 あたしの体ぐらいどうにでもするがいいわ...
 娼婦にだってなってやるわよ、シンジがあたしを必要としているのなら...
 役立たずのあたしにはお似合いね...
 いい、でもいつか...」

あたしはシンジの眠っているベッドに潜り込んだ。
 
 

***
 
 

第2話 −蜜月−
 

あの日以来あたしはシンジと行動を共にしている。戦いの前のブリーフィングからパイロット控え室、更衣のためのロッカールームまであたしはついていった。そこであたしはシンジにアドバイスをしたり、身の回りの世話をしたりした。食事も入浴も...あたしの生活は全てシンジと共にあった。そして二人きりになるとシンジはあたしを求めてきた。そしてあたしはそれを拒まなかった。その交わりは乱暴でシンジはひたすら暴力的にあたしを犯し続けた...部屋でも、ロッカールームでも、シャワールームでも...時には通路を歩いている時、いきなりあいている部屋に連れ込まれて犯されることもあった。それでもあたしはシンジを拒まなかった。そして、そんな交わりでもあたしはいつからか感じるようになってきていた。ふふふ、ヒカリが今のあたし達を見たらなんて言うかしら...

いつ終わるのか知れない戦い、ぎりぎりの中の生...そんな中でもあたしは充実していた。シンジがあたしを激しく求めてくるから...その激しさがあたしに対する思いだと感じられたから。はじめてこんなにも強く人から求められた。そしてあたし自身初めて他人をこんなにも強く意識した。戦いが終わって帰ってきた時のシンジはその顔に狂気を浮かべている。その顔もあたしを犯しているうちにだんだん落ち着いてくる。この時あたしはシンジには自分が必要であることを実感できた。あたし達の間にあるものは何?「愛?」そんなものじゃないことぐらい分かっている。でもお互いに相手を必要としている...そう今ではシンジに抱かれることを望んでさえいる...

あの日以来ミサトもリツコもマヤもあたしと目を合わせようとしない。時々視線を感じるが私が振り向くと慌てて彼女達は目をそらす。もう気にしていないのに...確かに初めは彼女達を恨んだ。女として最低の行為...あたしをシンジに差し出したと思ったから。単に性欲の捌け口として。でも、それは違った...シンジが「自分」で「あたし」を選びあたしのところに来た事を知ったから。事実シンジは彼女たちの誘いにも関わらずあたしだけをひたすら犯し続けた。

ファースト、いえレイだけがあたしの瞳を見つめてきた。レイの瞳に浮かぶ感情は何?嘲り?軽蔑?哀れみ?嫉妬...みんな違う...何だろう。その瞳に秘められたものを知ったのはずっとあとのことだった。

シンジとの初めての夜のあと、レイはあたしに言った。

「...どうしてなの」

「...私じゃだめなの」

「あなたのところに来る前、私もマヤさんも碇君を慰めようとしたのに...
 碇君は拒絶したわ...
 私の力では変えられないの?
 私のしてきたことは無駄だったの?」

あたしにはファーストが言っていることが理解できなかった。でもファーストがあたしに対してこんなに感情を露にしてきたことに驚いた。

「あんた、何を言ってるの
 替わって欲しいの?
 残念ねぇ、シンジはこのあたしを選んだの...
 あたしのすべてはシンジにあげるわ
 そのかわりシンジも全部あたしのものにするわ」

多分あたしは笑っていたと思う。

「そしていつか殺してあげるの...この手で...」

あたしはそこまで言うとレイに背中を向け自分の部屋に戻った。その時レイがあたしに悲しそうな視線を向けていたことには気付かなかった。

その日もシンジはあたしのところに来た。そしてあたしを犯した、何度も何度も、激しく熱く...余裕のないセックス...前技もなくただ挿入だけの交わり...あたしをただひたすら貪っていく...痛いだけだったけれど、イヤではなかった、でも憎かった。でもシンジは心のすべてをあたしにぶつけてきていた...それだけは感じられた。

シンジは他人にパイロットとしてだけ必要とされているのを知っている...それが優しくされている理由だということも。だから耐えられないんだ。だからシンジをパイロットとして必要としていないあたしのところに逃げ込んで来たんだ..そうあたしは思った。

いいわ、あたしが全部受け止めてあげる...
シンジが全部あたしの物になるのなら...
あなた達にはパイロットとしての碇シンジをあげる...
でもあたしは人としての碇シンジのすべてをもらう...
そのかわりあたしのすべてもシンジにあげる...
あたしの体も、心も...そして命も。
 
 

***
 
 

第三話 −Tight rope−
 

あたしは手持ちの避妊薬が切れたきたので新しいのを貰いにリツコのところへ向かった。初めのうちは自棄になっていたのでそんなことを気にもしていなかったが、自分を取り戻してその事に思い付いたときどっと冷や汗が出た。『子供なんかいらない』それがあたしの考え。ましてやシンジとの子供なんて考えられない。そう思ったあたしはリツコに避妊薬を貰うことにした。それまでの分は外れていることを神に祈りながら...

いつもの通り人通りの少ない通路を通ってあたしはリツコの部屋へ向かった。たまにすれ違う職員はあたしの方を見ようとはしない。元々パイロットの時だってあまり彼らとは関わりがなかったが、今ほどではない。明らかに避けられている。いったいあたしはどういう風に見られているのだろうか。きっと「常識のある大人」から見れば不純異性行為をしている不良娘、それとも娼婦に身を落としたエリートかな。もっともネルフにいる人間に常識があるかどうかは別だけど。それに命ぎりぎりで生きているあたしたちに陳腐なモラルを持ち出す馬鹿はいないだろう。

それにあたしはシンジだけだ。体だって、心だってシンジだけだ。ほかの奴等に手も触れさせるものか。それがあたしの決心...たぶんシンジは気づいていないけれど。今のあたしにはシンジ以外の男は考えられない...たとえそれが加持さんでも。

リツコの部屋の扉は開いていた。中から話し声がする...ミサトが来ているようだ。あたしは悪いと思ったが二人の会話を盗み聞きした。

「うっさいわねー、そんだけ心労がたまってんのよ」

「確かにストレスがたまるのはわかるけど、お酒はダメよ。
 気楽にやんなさいとは言えないけれど、ストレスはうまく解消しなさい
 とりあえずは薬出しとくからそれでなおしなさい」

「へいへい、お酒があるもんなら飲んでみたいわね〜
 そんなもの今更ネルフの中を探してもないことくらい知ってるでしょ」

ふふっ、ミサト胃に穴でも開けたのかしら。少し溜飲が下がる気がした。

「それよりリツコ...
 しんちゃんに何吹き込んだの」

「何って、別に」

「嘘おっしゃい、あなたが何か吹き込まなければしんちゃんがあんなことをするわけないでしょ」

あたしは自分のことをいわれているのに気づき、少し身を乗り出した。

「アスカとのこと?あたしに責任がないとは言わないけど
 あたしはただ『眠れないから薬をくれ』と言ってきたシンジ君に
 今の状況では神経を弛緩させる薬は出せないと言っただけよ。
 まあ、『女でも抱いてみたら』とは言ったけどあんな行動に出るとは思わなかったわ
 レイだって、マヤだって、ミサトだって、あたしだっていたのよ。
 レイとマヤはシンジ君を誘ったみたいだけどそれでもアスカのところへ行ったのよ
 そこまでは面倒見切れないわ」

「....いいわ。
 でしんちゃんの状況はどうなの」

「何と言ったらいいのかしら
 アスカとの関係が始まってから精神的には持ち直したわ
 反って前より良くなっているくらい。
 ただ肉体的な疲労は相変わらず...
 まあ精神的疲労に比べたら大したことはないわ
 セックスのおかげで熟睡できているようだしね」

「そう...」

ミサトはそう言ったきり黙り込んだ。そうだろういくらミサトだって今のあたしたちの関係が異常なことくらいわかるだろう。

「もう話は終わった?そろそろアスカが避妊薬を取りにくるころだから帰った方がいいわよ
 あなたもアスカと顔を合わせづらいでしょ」

ミサトが部屋を出そうな雰囲気なのであたしは物陰に隠れてミサトをやり過ごすことにした。部屋から出たミサトはあたしに気づかずに通り過ぎていった。ちらっと見えたミサトの顔は頬がこけ、目が充血していた。

シンジだけが戦っているわけではないことぐらいわかっている。いくら日向さんに手伝ってもらっているとはいえ、ミサトはシンジ以上に長時間の緊張を強いられている。リツコだってそうだ...みんなぎりぎりの中で頑張っている。たとえシンジが持ち直したとしてもあたしたちの危うさは何も変わっていないのだ。そう、あたしたちは終わりの見えないタイトロープの上にいるように...誰か一人でもバランスを崩してしまえばみんな一緒に崩れ落ちてしまうような...
 
 

***
 
 

第四話 −転機−
 

その日の戦闘はいつもと違っていた。さすがのゼーレも焦れたのか初号機に対して直接戦闘を行ってきた。ロンギヌスの槍を手に2体同時に襲い掛かる量産機に対して初号機は有り余るパワーと強力なATフィールドで対抗した。だが勝負はあっけないほど簡単についた。初号機のはるATフィールドは強力で、まがい物のロンギヌスの槍では貫けなかったからだ。量産機の放つロンギヌスの槍をATフィールドで防いだ初号機は返す刀で量産機のコアを貫いた。もはや比べることもかなわないほどの力の差だった。

2体の量産機が倒されるさまは発令所にいた人々を狂喜させた。圧倒的な力の差、そして残る敵のエヴァは3体...ようやく戦いに終わりが見えた気がしたからだ。しかし歓声のあふれる中ミサトの表情が冴えないのにあたしは気づいた。厳しい状況が変わったわけではないことは確かだがそれにしてもおかしい。リツコもそれに気づいたのかミサトに声をかけた。

「ミサトどうしたの浮かないようだけど」

「ん、リツコ...ちょっとね」

「何よ。指揮官が暗いと士気に影響するわよ」

「う〜ん。気にかかることがあるのよ」

「教えてくれる?」

「結局今までゼーレがしてきた作戦ってうまくいっていないじゃない。
 パイロットを精神的につぶすってやつ。
 確かに一時期危なかったけど、今は絶好調でしょ。
 これで相手が攻め方を変えてくるんじゃないかしら。
 もっと直接的な方法に」

「パイロットの暗殺?」

「パイロットが難しければアスカを襲うことだってありえるわよ
 今のシンジ君を支えているのはアスカだから」

「いずれにしても二人の身辺警護を一層厳重にしたほうがいいわね」

「ええ」

あたしは途中までミサトたちの話を聞いていたけど、初号機がケージに戻ったとの知らせにパイロットルームに向かうことにした。あたしたちが狙われる...そんなことわかっているわよ。何を今更...そんな気も確かにあった。でも今は早くシンジに会いたかった...たぶん求めてくるから。

戻って来たシンジはいきなりあたしを求めた。壁に向かってあたしを押しつけるとパンツを引きちぎるように引き下ろし、愛撫もそこそこに後ろからあたしを犯した。まだ潤っていなかったあたしはシンジの進入を拒んだ...でもシンジはそんな事にもお構いなく無理矢理にあたしへと入ってきた。シンジが入ってきたときのあまりの痛みにあたしは悲鳴を上げることしかできなかった。それでもシンジはあたしを犯すことをやめなかった...いや、いっそう激しく犯し続けた。体が浮きあがってしまうほど激しく突き上げる腰、服の上からあたしの胸をもてあそぶその手...そのときのシンジの表情は見えなかった...でもあたしにはわかる。シンジは戦いに興奮しているんだと。久しぶりの戦い...そして完全な勝利。精神をすり減らす牽制のしあいから解放された興奮。その高ぶった気持ちをあたしにぶつけてきているのだと。

1度目は意外なほど早くシンジは果てた。シンジは押さえつけていた手を離すとあたしの体の向きを変え、唇を求めてきた。息の詰まるほどの激しい口づけ...シンジの舌はあたしの口腔の中で蠢き、あたしの舌に絡みついてきた。そして右手はあたしのブラウスのボタンを引きちぎるとブラの上から乱暴に胸をもみ下した。あたしはその痛みに耐えかねて両手でシンジの右手を押さえようとしたが、その反抗もシンジの力に負け万歳の形で両手をシンジの左手一本で押さえつけられてしまった。邪魔者が亡くなるとシンジは再びあたしの胸を強く愛撫した。

シンジってこんなに力が強かったっけ...薄れていく意識の中であたしは考えた。初めての時だってあたしはシンジの力に抗うことができなかった。いつからシンジの力がこんなに強くなったのだろう...そして気づいた。シンジの力が強くなったんじゃないことに、あたしに始めからシンジに手向かう気がなかったんだということに。あたしは心の中で望んでいたんだ...シンジにこうされることを。

痛みはいつの間にか気にならなくなっていた。違う、シンジの手から与えられる快感があたしを支配したのだ。シンジの戒めから解き放たれた両手は絶え間なく与えられ続ける快感の中、所在なく中をさまよっていた。気持ちいい、あたしの身体が解けていくような気がする。立っているのか寝ているのかわからない...全身でシンジを感じている...シンジの手が、唇が、舌が、胸が、髪が、分身が...シンジの全てがあたしに快感を与え続ける。もうあたしに正常な思考はない...あるのはただひたすらシンジを求める本能だけ。あたしの意識が白い光の中に飲み込まれていく気がした。

この時アタシたちを見つめている目にアタシたちは気づかなかった。
 
 

***
 
 

第五話 あの頃の...
 

あたしはまどろみの中から目が覚めた。いつの間にか体にはブランケットが掛けられていた。あたしの横にはシンジがいた...そして優しい目であたしを見つめていた。

「アスカ!
 気がついたの?」

シンジの顔がうれしそうに輝いた。そしてシンジは少し顔を赤らめて言った。

「えーっと、その、あの...ごめん」

久しぶりに聞いたシンジの台詞。あの頃のシンジが帰ってきた気がした。

「どうしたの...?」

あたしは少し驚いた、初めてセックスの後、優しい声をかけられたから。そしてあたしはうれしくなった...うれしい...?どうしてこいつに優しくされるとうれしいの。

「その...
 ...乱暴にして」

あたしの中に沸き上がってくる感情は何?

「ばか...何を今更。
 初めての時の方が乱暴だったわよ」

シンジはうろたえ、更に顔を赤くして言った。

「あっあっあっ...
 本当にごめん。
 謝ってすむことじゃないけど本当にごめん」

「許してほしい?」

この時あたしはどんな顔をしていただろう。何を期待しているのだろう。

「一つだけ...一つだけ正直に答えて。
 その答えをあたしが気いったら許してあげる」

「な、何?」

この時のおびえたシンジの顔...初めて会った頃の顔だ。うれしい、シンジが帰ってきた。

「簡単なことよ...簡単なこと。
 でもとっても大切なこと...
 どうしてあたしだったの?」

そうか簡単なことだったんだ...あたしがシンジに求めていることは...あたしだけを求めた理由...

「!」

シンジは答えにつまった。

「答えて。お願い...」

シンジはしばらく言葉を捜していたのか黙ったままだった。あたしにはその沈黙が恐かった。

「アスカだから...」

シンジはぽつりと言った。

「アスカだから。
 アスカじゃなきゃだめだったから。
 一緒に生活していて...いや初めて会ったときから
 ボクがアスカを知ってしまったときから
 強いところ、弱いところ...全部知ってしまったときから。
 ボクはその時から...その時から...」

堰を切ったようにシンジが話し出した。あたしは次の言葉を待った。

「アスカしか見えなくなったんだ。
 アスカじゃなくちゃいやだったんだ。
 好きなんだよアスカのことが...そう気づいたら体が震えてきた...
 アスカを求めていた...止められなかった...
 たまらないんだアスカのことを思うと。
 欲しくてたまらなかったんだ、アスカが...
 でも...」

あたしの欲しかった答え...でも何?何なのシンジ。

「だからといってこんなことをしていい理由にはならない...
 ボクはアスカに許されないことをしてしまった...」

「ばか...」

あたしはシンジに言った。シンジはあたしの顔を見ていない。

「ほんと馬鹿だよね。
 今更好きだなんて...
 無理矢理アスカにあんなことをしておいて...
 強姦だよね、最低だよ。
 謝ってすむことじゃないのに...
 言い訳にしかならないことはわかっているけど、どうにかしてたんだと思う...
 ごめん、もうしない...今更遅いけど...
 でも、こんな事を続けていちゃいけない...
 わかっているんだ...だから」

シンジは本当に辛そうな顔をして言った。あたしはシンジに続きを言わせなかった。

「あたし初めてだったんだ...
 キスもセックスも。
 みんな初めてだったんだ...シンジが」

「ごめん...」

「ばか、謝るんじゃないわよ」

「ごめ...」

あたしはシンジの口をふさいだ...あたしの唇で。

「そしてもう一つのあたしの初めてもあげる...だから謝らないで...」

そう言ってあたしはもう一度シンジの唇をあたしの唇でふさいだ。そして初めてあたしからシンジを求めた。

「ねえ、今の気持ちを忘れたくないの...
 だから...だからもう一度抱いて...」

「許してくれるの?...ボクのこと」

あたしはニッコリと笑って言った。

「許さない...絶対に許さない。
 だからあんたは一生をかけてあたしに償うの...
 あたしを一生愛しつづけて償うの...いい?」

シンジはうなずくとあたしを抱き上げ、ベンチへと運んだ。あたしはシンジに頼んだ...

「お願い、優しくして...」

シンジはそれに答えるようにキスをしてきた。やさしいキス...今までとは違うキス。その時あたしのからだの中を電気が走ったような気がした。口付け一つでこんなに感じている。こんなことはいままでなかった。シンジはあたしの全身に口付けを続ける...頭、うなじ、胸、腕、指先...シンジの唇が触れたところすべてから雷にうたれたように強烈な快感があたしを突き抜ける。すごい...あたしの全身の細胞がシンジを求めている。そしてしばらくしてもう一つの快感が加わった...シンジの手が指があたしの体を愛撫し始めたのだ。

シンジの手が口がシンジの触れたすべての細胞が歓喜の声を上げる。信じられない、髪の毛の先まで感じてる。シンジはあたしの髪をなぜながら言う。

「アスカの髪の毛...夕焼けの色...ボクの好きな色」

瞼に口付けをする。

「アスカの瞳...深い海の色...きれいな空の色」

「アスカのきれいな唇...
 アスカのうなじ、ほっそりとした首...
 きれいな胸...
 きれいな指...」

シンジはあたしの体のすべてに口付けをしていった。

「アスカのすべてが愛しい...
 誰にもあげたくない
 誰にもさわられたくない
 全部ボクのものにしたい」

シンジの言葉はあたしを溶かしていく。あたしは答える。

「全部シンジのものよ」

「でも本当にほしいのは...アスカの心。
 きれいなところも、汚いところも、うれしいことも、悲しいことも
 憎しみも、愛情も...全部が欲しいんだ...
 やっと気づいたんだ...どうしてアスカだったのか...
 アスカ以外の女性じゃいやだったんだ。
 愛してる...アスカ」

あたしは震えた...泣いてたかもしれない...うれしかった。あたしが本当に欲しかった言葉...もうあたしたちの間に「愛」は存在できないと思っていたから。シンジがあたしを愛してくれる。あたしは心の中で叫ぶ、シンジ、シンジ、シンジ、シンジ...

「あたしもよ、シンジ...愛してる...シンジのすべてを
 初めてなのこんな気持ち...絶対離さない...
 あたしの初めての人...そして最後の人」

シンジとあたしは一つになった。高まる気持ちの中あたしたちはお互いの体に印を刻んでいった。でも、一番大きな印は心に刻まれた...愛という形で...決してなくしてしまわないように。

この日からあたしは避妊薬の服用を止めた。それがあたし達の決心。どんな結果を引き起こすかも理解している。でも、それがあたしたちの素直な気持ちだった。
 
 

***
 
 

第六話 −再会...そして−
 

それから数日経って加持さんが現れた。シンジもミサトも驚いていた。そうだろう死んだと知らされていたから。

「すまなかった葛城」

加持さんの最初の言葉。ミサトに向けられた言葉。以前のあたしなら腹を立ててただろうけれど今は平気...だってシンジがいるから。

加持さんはいくつかの情報を持ってきた。ゼーレが14号機以降の製造を始めたこと。しかしダミープラグの準備ができないためたとえ建造が完了しても実戦投入ができないこと。日本政府は今のところゼーレと距離を置いていること。これで通常部隊に攻められる心配はない。

加持さんがしていたもう一つの仕事...それはあたしたちがここを脱出したときの潜伏先の確保。今のままお互いがエヴァをぶつけ合っている状態なら要らなくなりそうだと加持さんは言っていた。

最初の計画では2陣に別れて脱出する予定になっていた。あたしや、レイ、マヤ、加持さんと言った直接戦闘や本部の工作に関係ないメンバーのグループ。そしてシンジ、ミサト、リツコ、冬月さんと言った主要メンバーのグループ。あたしはシンジと一緒のグループでないことに文句を言ったが、最後に残る人数はできるだけ少なくしておかないと脱出するのが困難になるということで説得された。

「気にすることはないよアスカ。
 ボク達は必ず勝つ...
 脱出することなんてないから」

シンジがそう言ってくれた。

「アスカ...きれいになったね...
 俺は惜しいことをしたのかな?」

そう言って加持さんは笑った。

「残念ね加持さん。
 でも、もう手後れよ。
 あたしを変えたのはシンジなの。
 そしてあたしはシンジしか見えないんだから
 あたしのすべてはシンジのもの...」

あたしは加持さんの目を見つめて言った。

「アスカ...見つけたんだね」

「うん」

あたしはシンジに抱き着いた。あたしに抱き着かれたシンジは顔を真っ赤にしている。こいつ...あたしとのこと全部モニタされてるの知らないのかしら。あんなことしておいてこの程度のことで赤くなるんじゃないわよ。

「よかったなアスカ」

加持さんの言葉にあたしは最高の笑顔で答えた。

「うん!」
 
 

***
 
 

この後、あたしを部屋に帰してシンジはミサト、リツコ、加持さん、冬月さんと話をしていた。あたしは心配になり、部屋に戻ってきたシンジに何を話していたか問い詰めた。

「もし、脱出した場合どこで落ち合うかだよ。
 用心に越したことはないからね」

シンジはきちんとあたしの目を見て言った。大丈夫、こいつのうそはすぐ分かる。今のはうそじゃない...心配しなくていいんだ。

「ねえ、アスカ...」

そう言ってシンジはあたしを求めてきた。

シンジはあたしをやさしくベッドに押し倒すと愛撫を始めた。時にはやさしく、時には激しく。まるでシンジが弾くチェロのようにあたしの体を翻弄する。あたしはシンジにされるがままだった。あたしの体が変わってくるのがわかる...シンジに抱かれるたびに。満たされても満たされてもシンジを求め続けている。もっともっとして欲しい。もっともっとしてあげたい。何度目かの絶頂をともに迎えたあたしはそのまま眠りに就いた。シンジが好き、シンジに抱かれるのが好き...シンジのすべてが好き...あたしは満ち足りていた。

シンジに抱かれた絶頂の中で「ごめん」という言葉が聞こえたような気がした。
 
 

***
 
 

第七話 −急転−
 
 

緊迫した生活の中でもあたしは幸せだった。初めて愛するということを知ったから...こんなにも深く激しく。あたしはシンジがいれば何もいらなかった...そう選ばれたチルドレンの資格だって紙屑のように感じる。シンジがいてくれれば....

加持さんが戻って一週間たった日にそれは起こった。あたしはシンジの部屋でシンジがブリーフィングから戻って来るのを待っていた。しかし、現れたのはシンジではなくミサトだった。

「シンジが刺された?
 いったいどういうこと
 ガードは固めてあるはずでしょ...」

あたしはその知らせに呆然となった。

「とりあえず命に別状はないわ。
 意識もしっかりしている。
 アスカのことを呼んでるわ...早く行ってあげて」

言われるまでもない。あたしはシンジが居る病室に駆け込んだ。リツコの治療を受けているシンジの顔は青かった。かなり血が流れたらしい。あたしを見て微笑んだ顔が引き攣っている。

「大丈夫シンジ!」

あたしはシンジを見て言った。シンジはニッコリと笑ってくれた。

「ごめんなさい。
 外からの進入ばかり気にしていて、身内に対する警戒がおろそかになったの」

シンジの代りにリツコが答えた。

「シンジの容体はどうなの?」

「出血が多かったのでとりあえず輸血の措置をしたわ。
 それから刺された腹部の縫合
 悪いけど、麻酔は使っていないわ..部分的な痛み止めだけ」

麻酔が使えない理由ぐらいあたしにもわかる。あたしはシンジに駆け寄りそっとその手をとった。

「ごめん、シンジ。
 あたしが一緒に居ればこんなことにならなかったのに」

シンジはあたしの手を握り返した。でもその力は弱かった。

「そんなことないよ...アスカ
 一緒に居なくてよかったと思ってる。
 もし、アスカが怪我をしていたらボクは耐えられない。
 アスカが死ぬようなことがあったらボクも生きていられない。
 アスカさえ無事なら、アスカのためなら...ボクはどんな苦痛にも耐えられる...
 だからお願い、自分のことを責めないで」

「ばか、あたしの気持ちはどうなるの。
 あんたにもしものことがあったら...
 あたし...あたしだって生きていけないんだから」

あたしはシンジの胸に顔を埋めて泣いた。

「ごめんアスカ」

そう言ってシンジはあたしを抱きしめてくれた。ばか...痛いくせに無理しちゃって。
 
 

***
 
 

「何があったの教えてくれる?」

あたしは遅れて病室にきたミサトを部屋の外に連れ出して聞いた。

「シンジ君がアスカのところに行く前のこと知ってる?」

ミサトが聞いてきた。

「知らないわ」

嘘じゃない...詳しいことはあたしは聞いてない。

「あの日...マヤがね、シンジ君の部屋に行って迫ったの。
 裸になって、シンジ君を押し倒した...
 でも、シンジ君はマヤを拒んだわ。
 私たちもマヤがそんなことをするのは意外だった」

ミサトはあたしの目をじっと見詰めた。

「マヤはね、シンジ君のことが好きだったの。
 だからリツコの話を聞いて真っ先にシンジ君のところへ行ったの
 シンジ君に抱かれるために」

あたしは何も言えなかった。

「でもシンジ君はそれを拒んだ。
 そしてシンジ君はレイも拒んでアスカのところへ行ったの」

ミサトは少し辛そうな顔をした。あの日のことを思い出したのだろう。

「それからマヤがおかしくなったわ...
 はじめは戦いの中の緊張から余裕がなくなっていると思っていたの。
 でも違ったわ。
 調べてわかったことだけど、マヤはあなたとシンジ君のことずっと見ていたらしいの
 知ってる?あなたたち二人きりのときはカメラもマイクもオフになっていたのよ
 マヤはこっそりとMAGIを操作してモニタしていたらしいの。
 直接パイロットルームを覗いていたこともあったわ」

あたしはミサトに続きを促した。

「今日だって、マヤがシンジ君に迫ったの...抱いて欲しいって。
 それをシンジ君が拒んだの...
 『ボクはアスカ以外の女性を抱くつもりはない』って
 マヤがナイフを出して叫んだのを見て、あたしたちは部屋へ急いだの。
 そして見つけたのはおなかを刺されて倒れていたシンジ君と...
 頚動脈を切って、事切れているマヤの姿だったわ」

あたしはそこまで聞くとミサトにシンジのところへ戻ると言ってミサトと別れた。

あたしは何を話していいかわからなかった。マヤがシンジのことを?死ぬほど想っていた?シンジはそれを拒んだ?あたしを理由に?

あたしは疲れて眠っているシンジに口付けをした。

「ありがとう...シンジ...」

しかしあたしたちの思いとは別に、この事件を契機に事態は急転した。
 
 

***
 
 

第八話 −告白−
 

「ここから逃げる?
 どうして急に?
 必要ないんじゃなかったの?」

あたしはミサトの説明を聞き返した。

「シンジ君が刺されたことで状況が変わったのよ。
 たぶんゼーレにも漏れている。
 ひょっとしたら今度のことだってゼーレの差し金かもしれない。
 今のシンジ君を何度もエヴァに乗せるわけには行かないわ。
 だからシンジ君が戦えるうちにここを撤退するの」

「そう、そう言う理由なら仕方ないわね。
 それでいつ決行するの」

あたしはミサトに聞いた。

「次にゼーレが攻めてきたとき」

「ずいぶん急ね」

「今のままじゃシンジ君は戦う度に体力をなくしていくわ
 だから早いほうがいいの。
 それにリツコや、冬月司令の準備も間に合ったから」

そう言えばリツコたちの役割を聞いていないことに気づいた。

「リツコはねMAGIを使って、他支部のMAGIにハッキングするの。
 第壱拾壱使徒のこと覚えてる?
 666プロテクトをといて他支部と接続した上
 進化促進プログラムを削除して使徒を活発化させるの
 そうすれば他支部はMAGIごと消滅するはずらしいわ
 建造中のエヴァも含めてね...
 念のためリツコ特製のプログラムも送られるみたいだけどね」

「冬月司令は?」

「セントラルドグマの仕掛けの整理よ
 本部の自爆とともに地下にあるものも爆破するそうよ。
 これだけは絶対ゼーレには渡せないものだということだから」

「シンジは...シンジの役目は何なの」

「シンジ君は敵のエヴァの破壊と初号機の破壊...
 そのどさくさに紛れて私たちは脱出する...」

初号機の破壊?何かがあたしの心に引っかかった。

「どうやって敵のエヴァと初号機を破壊するのよ」

「敵のエヴァを初号機を使って本部内に誘導するの...
 多分敵は初号機が戦えないと思って誘いに乗ってくるわ...
 そこで敵のATフィールドを初号機で中和した上で初号機を自爆させる」

初号機の自爆...それって!

「ちょっと待ってよ...そんな事をしたらシンジが助からないじゃない」

「シンジ君の役目は敵を本部内に誘導するところまで。
 誘導が終わったところでシンジ君は脱出
 あとはダミープラグでATフィールドをはって遠隔で自爆させるは...
 タイミング的には難しいけど...シンジ君は大丈夫」

「どうしてそこまでしないといけないの」

「あたしたちが隠れるためには死んでいると思わせた方が都合がいいから...
 それにエヴァが残ると後からまた新たな問題が生じるわ...」

何か釈然としない物を感じる...でもその何かが判らなかった。

「わかったわ」

あたしはそれだけ言うとシンジのところへ行った。シンジはベッドに寝たままだった。シンジはあたしの顔を見つけると無理に笑い顔を浮かべるとあたしに言った。

「アスカ待っててね。必ずすぐ行くから」

「約束よ」

そう言ってあたしたちは指切りをした。あたしは脱出の準備をするためシンジに口付けをして部屋に戻った。
 
 

***
 
 

加持さんの運転するジープにはあたしとレイ、そして青葉さんと日向さんが同乗した。遠ざかっていく第三新東京市に3体の白いエヴァが降りていくのが見えた。しばらくして閃光が第三新東京市を包んだ。

あたしは突然体が震え出した。冷や汗も出る。なぜだろういやな予感がする。計画どおりのはずなのに。何を恐れるの。

「ねえ、シンジたちとはどこで落ち合うの?」

あたしは加持さんに聞いた。でも加持さんは何も答えてくれなかった。青葉さん、日向さんも何も教えてくれなかった。

「ファースト...アンタ知っているんでしょ...
 教えなさいよ...」

ファーストは何も言わなかった。その小さな肩が震えているように見えるのはあたしの気のせいだろうか。

「本部に残った人たちとは二度とあえないわ」

しばらくの沈黙の後ファーストがいきなり口を開いた。一瞬車内の温度が下がった気がした。その言葉を発した時、ファーストの顔に浮かんだ表情。それは苦渋に満ちたものだった。

「こんな時につまんない冗談ね」

あたしはファーストを怒鳴りつけた。そうしないと自分が支えられそうもなかったから。

「冗談なんかじゃない。碇君達は死んだの」

ファーストは続けた。

「何言ってるのあんた」

あたしはファーストにつかみ掛かった。

「碇君は3体のエヴァを道連れに自爆したはず...
 今の碇君はほとんど動けなかったから
 意識を保っているのがやっとの状態だった
 とても戦える状態じゃなかったの
 冬月司令達はぎりぎりまでMAGIを守るために本部に残った
 はじめから脱出する予定はなかったの
 だから人数は最小限に絞られた...」

それを聞いてあたしは車のドアに手をかけた。シンジのところに戻るために。シンジと一緒に逝ってあげるため。でもそれは両側に座っていた日向さんと青葉さんに止められた。そしてあたしの口に白い布が当てられた...遠ざかる意識の中であたしは考えた...そうか、はじめからこうなることがわかっていたんだ。知らなかったのはあたしだけか。

あたしが次に気が付いたときにはあたしは知らない部屋でベッドに縛りつけられていた。たぶんあたしが自殺しないようにとの配慮からだろう。気が付いたあたしが暴れるのを見て白衣を着た人が注射を持って近づいてくるのが見えた...

「はなしてよ、あたしもシンジと一緒に死ぬの。
 シンジが居ない世界で生きてくつもりはないわ。
 お願い行かせて。シンジの側に行かせて...
 お願いだから...
 ...死なせてよ...」

その時ファーストが医師を制した。そして何事か話をした後、その部屋にあたしとファーストを残しみんなは出ていった。

「話を聞いてくれるのなら、拘束を解いてあげる...
 それさえ聞いてくれたら、後は自由にしていいわ...
 それが碇君の最後の願いだもの」

シンジの最後の願いと聞いてあたしはおとなしくすることにした。いずれにしても縛られたままではあたしには何もすることはできないから...

「ありがとう...
 話が終わったらこの部屋から出して上げるから...」

そう言ってファーストは話し出した...

あたしたちの果たしてきた役割のこと
ゼーレのこと
人類補完計画のこと

すべてあたしが初めて聞くことだった。今まであたしは何のために戦ってきたの...人類の為じゃなかったの...ファーストの話は続いた。

ネルフがゼーレと袂を別った理由
今回の脱出作戦の本当の理由...

人類補完計画の鍵となるリリスとエヴァンゲリオン初号機...これが残っている限りゼーレの企みは頓挫することはない。だからリリスと初号機の完全な抹消...そしてゼーレの手元からエヴァを完全に取り上げる...それを目的としていることを。

「初号機はもうダミープラグを受け付けないの...
 だからこの計画の遂行には碇君の命が必要だった...
 そして碇君もその運命を受け入れたわ...
 人類の...いえ、惣流さんあなたの未来を残すために」

淡々と話すファーストの言葉はあたしを苛立たせていった。

「じゃあ、ミサトはどうなのよ...
 なんのために残ったのよ...」

「葛城三佐は碇君に対して責任を感じていたの...
 自分が碇君を戦いに引き込まなければこんなことにならなかったと...
 碇君の警護を失敗しなければこんなことにならなかったと...
 碇君が寂しくないようにとも言っていたわ
 そしてあなたのことを加持さんに託すために...」

あたしはとうとう切れた。

「よくあんた平気な顔してられるわね
 アンタシンジのことを好きだったんでしょ...
 それともシンジがあたしのものになったからもうなんとも思っていないの!」

その時初めてファーストの表情が崩れた。そして感情の爆発...あのファーストが...あの人形のように感情を表さないファーストが...

「平気なわけないじゃない...
 あたしに初号機が動かせるなら代わっていたわよ
 碇君には生きていて欲しかった。
 やっと会えたお父さんなのに、こんな形で別れたくなかった
 あたし、まだ話してなかったのよ...
 抱きしめて欲しかったのに
 お父さん...」

驚いた...ファーストが声を上げて泣いている。でもお父さんってどういう事?

「ファースト。
 お父さんって何よ。
 誰のことよ?」

ファーストは涙を拭いてあたしを見た。そして言った。

「あたしの本当の名前は惣流ミライ。
 父親は碇シンジ、母親は惣流アスカ・ラングレー
 今あなたのおなかの中に居るのがあたしよ」

あたしは言葉を失った。
 
 

***
 
 

最終話 −時を駆ける−
 

ファーストの話は終わった。あたしは何も言うことができなかった。普通は信じる事のできない話...でもあたしはファーストの話を信じた。ファーストは「まあ証拠の一つとして」といってATフィールドをはって見せてくれたが、そんな事をしなくてもあたしにはなぜだか信じられた。今までファーストに対して感じていたもやもやとしたものもわかった...そうかあたしはファーストも求めていたんだ。

話が終わったファーストにあたしは聞いた。なぜかそうしたかったから。

「ねえ、ファースト。
 あなたのことを抱きしめてもいい?」

ファーストは喜びに顔を輝かせた。この笑顔...シンジに似てる。

「うれしい...おかあさん
 あたし、本当は初めて会ったときから仲良くしたかったの
 でも、それはできなかった。
 ねえ、あたしのことミライって呼んで
 おかあさん」

そう言ってファースト...ミライはあたしに抱き着いてきた。あたしはミライを抱きしめると髪の毛をなぜてあげた。やっぱりあたし達親子だねこの髪の毛の手触りあたしとそっくりだもの...
 

***
 

「あたしの本当の名前は惣流ミライ。
 父親は碇シンジ、母親は惣流アスカ・ラングレー
 今あなたのおなかの中に居るのがあたしよ」

そのファーストの言葉はあたしから言葉を奪った。

「正確に言うとあたしは違う未来から来たの。
 新しい未来を作るために...
 あたしの居た未来はとてもひどいものだった...
 あたしは人工受精で生まれたの
 おとうさんとおかあさんが愛し合う前におとうさんが死んでしまったから
 その時おかあさんは処女だったわ
 一度も男の人と交わることもなくあたしを体に宿して
 あたしを生む前に死んだわ
 あたしはおかあさんが死ぬ前におかあさんの体から取り出され
 マヤさんのおなかを借りて生まれたの
 だからあたしはおとうさんもおかあさんも顔を知らなかった。
 写真すら残っていなかった
 でも一度だけおかあさんの顔を見たことがあるの
 でもそのおかあさんは実験室の水槽に浮いていた
 ゼーレによって脳神経が取り出された姿で」

ファーストはそこで言葉を切った...その顔はとても辛そうだった。

「ゼーレはおかあさんの脳を使って、新しいエヴァを動かすキーを作ったわ
 一度人類を死滅させるために...」

「どうしてそんなことを?」

あたしは聞いた。

「本部地下に眠るリリスにはコアがないの。
 人類の母リリスは人類を生み出すときにコアをすべて分け与えて眠りに就いたの
 ゼーレは人類を死滅させてコアをリリスに戻して魂だけとなった人類をリリスによって
 再度新しく生み出そうとしたの...
 新しい存在として」

ファーストは話を続けた。

「話を戻すわね。
 あたしを生んだマヤさんは、青葉さん、日向さんそしてもう一人のあたし...
 その時代の綾波レイと小さなあたしを抱えて地下に潜んだの。
 あたしはそこでいろいろなことを教わったわ。
 もう一人のレイのいた世界のこと
 コンピュータのこと、MAGIのこと
 ゼーレのこと、エヴァのこと
 彼らの知識のすべてを教え込まれたわ
 そして綾波レイはもう一度やり直すためと言って17歳のときまた時を超えていったわ
 碇君を生むために...」

「ミライは何歳のとき時間を超えたの」

あたしは話の途中に割り込んだ。

「13歳のとき。あたし達はゼーレの施設の一つを見つけて乗り込んだの。
 その時よあたしがおかあさんを見たのは。
 LCLの中に頭を割られて浮かんでいるおかあさんを...
 おかあさんの自慢の髪の毛はどこにもなかったわ。
 そして更に別の部屋に行ったとき、あたし達は息を飲んだわ...
 そこにはLCLの海に、おかあさんのクローンが浮かんでいたの...何人も。
 あたしはその時前の綾波レイの話を思い出した。
 ネルフ本部にも同じ物があったと...そしてそこにはあたしが居ると」

「それでどうなったの」

「マヤさん、青葉さんの力を借りて施設を爆破したわ。
 MAGIのレプリカにハックして自爆させたの...
 その爆発とATフィールドの力を借りてあたしは時を超えた」

「あたしが時を超えたとき現れたのは碇司令の執務室だった。
 碇司令、冬月副司令はあたしの話を信じてくれた。
 そして二人目の綾波レイとして生きていくことになった...
 再びおとうさん、おかあさんと出会うために。
 そして狂った世界を変えるために。
 でも、それはうまく行かなかった」

ミライは淡々と話しつづけている。でもとても辛そう。

「二人めってどういうこと?それにどうやって壱拾六使徒の時の爆発から助かったの」

あたしは疑問を口にした。

「あたしが来る前にも綾波レイはいたわ...
 碇ユイさんがエヴァに取り込まれたときサルベージの結果生まれたのが一人目の綾波レイ...
 でもその綾波レイは赤木ナオコ博士に殺されたわ...
 第壱拾六使徒の時...
 あたしは零号機の爆発の力でほんの少しだけ未来に飛んだ...
 だからリツコさんが来たときには怪我一つなく生きていた
 あのあと、リツコさんは碇君に地下施設にあるダミープラントを見せて
 あたしは作られた存在だと吹き込んだわ
 あそこにいたあたしは前のレイから作られたダミーなのに」

「質問があるの」

あたしは一番気になっていることを聞いた。

「どうしてシンジは死んだの」

ミライの顔色が変わるのがわかった。

「敵のエヴァと戦って負けたの...」

ミライの口振りからあたしはうそを言っているのに気がついた。少しカマをかけてみることにした。

「アンタ、嘘をつくとき鼻の頭に汗をかく癖に気づいてる?」

ミライははっと鼻に手をやる。やっぱり...

「ほんとうのことを教えて。だってこの世界のことじゃないのよ。
 どんな事だって耐えられるから
 あたしなんでしょ...シンジを殺したのは」

ミライは涙を浮かべて言った。

「ごめんなさい、おかあさん...
 おかあさんが処女であたしを生んだというのはうそ...
 この世界と同じようにおとうさんはおかあさんのところに行ったの。
 そして、やっぱりおかあさんを無理矢理犯したの...
 それで...」

「寝ているところをあたしが首を絞めて殺したのね」

「そう...
 それからおかあさんもだんだんと狂っていった...
 だからそれを繰り返さないためにあたしはおとうさんを止めようとした...
 あたしの体を差し出してでも...
 でも止められなかった」

「それであのときあたしにあんな事を言ったのね」

「そう。
 でも良かった...この世界のおとうさんとおかあさんが愛し合えて...」

「もう一つ、あたしはどうして死んだの」

あたしは聞いた。

「あたしを助けるため...
 ゼーレがおかあさんの行方を追っていることに気づいたおかあさんは
 あたしをマヤさんの体に移したの。
 そして入院しているときにゼーレに拉致されたわ。
 そしてそれっきりだった...」

「その時のマヤもシンジのことが好きだったのね。
 そうじゃなかったらあたしの子供を自分のおなかにいれようとは思わないわ」

あたしはマヤの想いの強さを感じた。

「それさえ気づいていればこんな事にならなかったのに...」

ミライはそういって泣き出した。
 
 

***
 
 

あたしは抱きしめたミライに聞いた。

「あなたはこれからどうするの?」

ミライは少し考えたが力強く言った。

「あたしはおとうさんを助けたい...
 だからもう一度時間を飛ぶわ...世界を変えるために
 おとうさんを生み出すために」

「ねえ、あなたたちは何回続けているの」

「わからない。
 あたしの前の綾波レイは自分の前にも居たと言っていたわ...
 そして失敗した試みを教えてくれた...その結果も
 あたし達はおとうさんとおかあさんが幸せになるまで続けるわ...
 それがこの力を持った綾波レイの使命だから...」

あたしはミライを見て思った。この子はなんて重い使命を持ってしまったのだろう。多分何回も繰り返された試み、そしてずっと繰り返された失敗。気の遠くなるような試みが為されているのだろう。あたしは自分のおなかに手をあてて考えた。多分この子もこのミライと同じことをするだろう。綾波レイは時を駆けつづける運命なのだから...

突然、死んではいけないとあたしは思った。だってまだあたしはこの子を生み出していない。この子を産むことがこの時を生きるあたしの使命なのだと理解した。そしてなによりもこのおなかの中の子供はあたしとシンジの子供なのだ...死なせるわけにはいかない。

「わかったわ...あたしももう死のうなんて考えない。
 絶対生き抜いてこの子を産むわ...
 そして伝えるの...とってもすばらしい力を持ったって
 世界を変える力を...」

あたしは再びミライを抱きしめた...

ありがとうミライ...あたしはもう大丈夫。
 
 

***
 
 

−エピローグ−
 

あたしは目覚ましの音で目を覚ました。6時半、いつものあたしの時間。あたしはお風呂にいって熱いシャワーを浴びた。お風呂場の鏡に映るあたしの姿...自分でもきれいだと思う。あたしは鏡に映った自分の唇を指で触れた。

「この唇は信二に触れた...」

髪の毛をなぜた

「信二がきれいだと言ってくれた」

胸の膨らみに手をやった。

「信二が愛してくれた」

淡い茂みの中を軽く触れた。

「信二と一つになった」

あたしの体じゅうに信二が刻み込まれている...
 
 
 

***
 

あたしはシャワーを浴びると朝食の準備をした。今日はあたし一人...でもさびしくない。そして朝食が終わると、お弁当の準備、いつもの通り二人分を作る。

「おいしいっていってくれるかな」

あたしはお弁当を抱きしめると一人つぶやいた。

「いってきまーす」

あたしは誰も居ない家に挨拶すると隣の家に向かった。7時50分...あいつ起きているかしら。
 

***
 

「おはようございます。おばさま」

あたしは玄関から出てきた女性に挨拶する。

「おはよう明日香ちゃん。ごめんね信二まだ寝てるのよ...
 起こしてきてくれる?」

ことばは謝っているが、顔は笑ってる。まあ、いつものことだけど...あたしは食卓で新聞を読んでいるおじさまに挨拶すると2階への階段を上がっていった。小学校にあがったときから続けている習慣。あたしの宝物...そして今日からは新しい意味が加わった。

あたしは信二の部屋に入ると寝ている信二の顔を見詰めた。いつからこいつのことを男として意識したのかしら。そしていつから好きになったのだろう...そんなことはどうでもいい。あたしはこいつのことが好きなんだ。だからあたしをあげたんだ。
 

***
 

信二の両親とあたしの両親は同じ研究所に勤めている。そろって帰りが遅くなることなんて珍しくもない。そんな時はあたしはシンジの家にいって夕食を用意し一緒に食べていた。その日も一緒にシンジと夕食を食べていた。

夕食を終えて、片づけものも終わったあたしは居間でシンジと一緒にテレビを見ていた。ちょうどドラマのラブシーンになったときあたしは信二に聞いた。

「ねえ、信二...キスしたことある?」

信二は驚いたようだけど、真剣なあたしの顔を見て「うん」と一言だけ答えた。

「真菜とでしょ」

あたしは落胆した心のうちを出さないようにさりげなくその名前を出した。

「うん、一回だけ...でも、もうしない」

「どうして?
 信二、真菜のこと好きだったじゃない」

胸がどきどきする。

「真菜のこと好きだと思っていたのは確かだけど...
 でも何か大切なものを忘れているような気がして...
 だから真菜に謝った...
 ごめん、もうやめようって」

信二...それって信じていいの?

シンジはあたしの瞳をじっと見つめて言った。

「僕のことばっかりじゃなくて明日香のことも教えてよ。
 明日香はキスしたことあるの」

ばか、何てこと聞くのよ...でも最初に聞いたのはあたしか...

「ないわ。どうしてそんなことを聞くの?」

あたしは自分が聞いたことを棚に上げて聞いた。少し怒ったように。

「ごめん、でも明日香ならあるのかなと思って...
 だって明日香ってもてるじゃない...
 バレー部のキャプテンだって、バスケのキャプテンだって
 みんな明日香のことが好きなんだろ
 だからもうキスしたのかなと思って」

あたしは本当に怒って言った。

「馬鹿、あたしが誰とも付き合っていないことぐらいあんたが一番良く知っているでしょ」

「うん、そうだよね...ごめん変なこと聞いちゃって」

それっきりあたし達は静かになった。気まずい沈黙があたし達を包んだ。テレビもいつのまにかニュースになっていた。

「ねえ、信二...」

沈黙を破ったのはあたし。あたしは思いっきり勇気を出して言った。

「キスしようか」

「え、何?」

考え事をしていたのか信二はあたしの言うことを聞いてなかったようだ。

「キスよキス...
 あたしとしてみない?」

「ど、どうして」

信二はうろたえている。

「退屈だからよ」

「退屈って...」

あら少しがっかりしたようね。

「そう退屈だから...
 それともあたしとじゃいや?」

「そ、そんなことないよ」

よしっ

「歯磨いてるわね...」

信二はうなずいた。

あたしはゆっくりと信二に近づいていった。信二は顔を赤くして目をつぶっている。かわいい!

信二の鼻息があたしに当たる。少し息が荒い。

「鼻息がこそばゆいから息をしないで」

照れ隠しにそう言うとあたしは信二の鼻をつまんで口付けをした。長い口付け、ただ唇を合わせるだけの口付け...今のあたしにはそれが精一杯。

口付けの間信二の両腕は中をさまよっていた。抱きしめてくれないの?どうして口付けの後に大きく息を吐いているの?あたしは悲しくなった...みんな自分が悪いのに...

あたしは洗面所に駆け込んでうがいをした。泣いている自分を見られないために。

「うぇー、やっぱり退屈凌ぎにするもんじゃないわよね」

それは真実、あたしは信二が好きだからキスをしたんだ。でも、あいつわかっているのかな。洗面所から戻ってみると信二は居間に居なかった。あたしは血の気が引いていく気がした。信二に嫌われちゃう...

そう思ったあたしは慌てて信二の部屋へと行った。そして信二の部屋のドアを開けたときいきなり信二に押し倒された。

あたしは何が起こったのか判らなかった。気が付いたときにはベッドの上に押し倒されて服を脱がされていた。あたしが抵抗しないと判ると信二はあたしの下着を脱がしにかかった。ブラをはずす信二の手が震えているのが判る。信二はあたしのブラを苦労してはずすとあらわになった胸にしゃぶりついてきた。乳房に口付けし、不器用に乳首を舌で愛撫した。

あたしは信二とこうなりたいとは思っていた...でもこんなのは嫌だった。だから手を振り回して抵抗をした。

「止めて信二...」

信二はあたしの抵抗を両腕で押さえつけた。そしてあたしのパンツも引き降ろし覆い被さってきた。

「アスカが悪いんだ...
 ぼくがアスカのことを好きなことを知っているくせに...
 ぼくのことをからかうから...」

あたしは信二のその言葉を聞いてはっとした。信二があたしのことを好きだと言ってくれた...そしてあたしはそんな信二を傷つけていたんだと。あたしは体の力を抜いた...信二を受け入れるために。

「いいよ、信二」

その言葉が合図でもあるかのように信二はあたしの中に入ってきた。初めて受け入れる男性...信二のもの...破瓜の痛みは想像以上だった。だけどあたしはじっと耐えた...なぜかそうしなくてはと思ったから。

信二は一生懸命に腰を動かした。その方が女の子が喜ぶと思っているのだろう...だからあたしは痛いのを我慢して信二にしがみついた...信二の名前を呼びながら。だんだん信二の息が荒くなってくるのが判る...信二も終わりが近いんだとあたしは理解した。だからあたしは信二に言った。

「信二...そのまま出していいの
 信二をあたしの中に残して...」

信二はあたしの言ったことを理解したのだろうか、いっそう激しく腰を動かすとあたしの中に放出した。あたしの中に入った信二のものが痙攣するように震えるとあたしのお腹の中に暖かいものが広がっていくのが判った。

「信二が広がっていく...」

きっかけは最低だったけどあたしは幸せだった。だって信二と一つになれたから。多分このままだったら意地っ張りなあたしはこうなるきっかけすら出来なかったと思うから。あたしはぐったりとあたしに覆い被さっている信二と体を入れ替えて馬乗りになるように信二にまたがった。あたしの中に入ったままの信二の分身はまだぐったりとしているようだった。

「明日香ごめん...」

信二があたしに謝った。

「こんな格好で謝ってもありがたみがないわよ...
 それに言ったでしょ...いいのよ信二なら...」

あたしはそう言うと信二の両手をあたしの胸のところへ持ってきた。

「ねえ、あたしの胸好き?」

「うん」

信二の言葉

「じゃあ、好きにしていいのよ」

信二の手があたしの胸を愛撫する。ぎこちなく...優しく、包み込むように...気持ちいい。あたしの中の信二が大きくなってくるのが判る。あたしは信二に口付けすると今度は自分から腰を動かした。痛みはさっきほど感じない...それより気持ちよかった...心が。

「信二...大好きだよ...信二、シンジ...」

「ぼくもだ...大好きだよ明日香、明日香、アスカ...」

絶頂を迎え、薄れていく意識の中で何かがはじけるような気がした。この気持ち初めてじゃない...
 
 

***
 
 

あたしは眠っている信二にキスをした...やっぱり起きないわねこんなことじゃ。それではと今度は鼻をつまんでキスをした...10秒、20秒...シンジは苦しくなったのか、いきなり飛び起きた。

「はあ、はあ、明日香何をするんだよ...」

「何をって、お目覚めのキスよ...
 いつも起こしてあげてんだから感謝して欲しいわね...
 時間がないんだからさっさと起きる起きる...」

そう言うとあたしはシンジの布団を毟り取った。信二は慌てて下半身を隠そうとしたが手後れだった。

「こ、これは朝の生理現象で...」

ふふふ、慌ててるわね、気にしないわよもう...でもあんな大きなものがあたしの中に入ったんだ...

「ばかなこと言ってないで早く着替えて降りてらっしゃい。
 今更気にするわけないでしょ。遅刻するわよ」

多分あたしの顔は真っ赤だったと思う。
 
 

***
 
 

「おばさまいってきます」

そう言うとあたしと信二は玄関を出た。いつもよりは少し早い時間。

「ねえ、明日香いつもより早いんだから朝ご飯ぐらい食べさせてくれればいいのに」

信二が文句をいってるわね。

「ばか、今日は痛くてあんまり走れないのよ...」

あたしは赤い顔をしていたと思う...信二は何のことかわからないと言う顔をして前を走っている。

「信二のがまだ入っている感じがするの...」

信二が「えっ」って顔をして振り返った。その拍子に横から出てきた女の子にぶつかった。その女の子は見たことのない制服を着た水色に輝く髪を持った女の子だった。その子は倒れた拍子に乱れたスカートの裾をなおしながら

「ごめんねー、急いでいたんだ」

と言って立ち上がり、駆け出して行った。何故か満面に笑みを浮かべて...その日からアタシたちに新しい仲間が加わった....
 
 

The end
 
 
 
 
 
 
 
 

エピローグのおまけ
 

「行ってらっしゃい」

そう言って二人を送り出した唯は、キッチンへと戻ってきた。そこには相変わらず新聞とにらめっこしている源道がいた。

「あなた、急いで下さい...冬月先生にお小言言われるのは私なんですからね」

「キミはもてるからな」

「馬鹿言ってないで、急いで下さい」

そう言うと唯は源道の読んでいた新聞を取り上げた。源道は仕方がないとばかりに立ち上がると部屋へ行こうとしたが、ふと思いついたように唯のもとへと近づいた。

「そう言えば今日だったな...あの子が来るのは...」

「そうですね。あの子にとって明るい時代で良かったわ」

「ああ、そうだな」

そう言うと源道は唯を抱きしめた。

「これで良かったのか...」

「ええ、あなた...ありがとう」

唯は源道の胸に顔を埋めて言った。そして何か思いだしたようにニヤリと笑った。

「信二と明日香ちゃんの中も進展したようですし...」

「しかし、あの二人はもう少し普通に結びつかないものかな」

「何時のときも信二って切れやすいのね、明日香ちゃんはいじっぱりだし」

唯はため息をついた。

「惣流はなんて言ってる」

「今晩はお赤飯ですって」

源道は鼻先でふふんと笑った。

「もう一人のキミはどう動くのかな...」

「このまま、決着が付いてもおもしろくないですわね」

「明日香ちゃんには、悪いが、もう一波乱、ふた波乱ないとおもしろくない」

「せっかく平和な世界を作ったんですから、それぐらいの役得があっても良いですわね」

不穏な相談を始める二人。

「ラブコメだな...少しR指定が入った方がいいくらいの」

「そうですね とびっきりの...」

顔を見合わせニヤリと笑いあった二人は似たものの外道だった。
 
 

〜ホントにおしまい〜
 


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中昭のコメント(感想として・・・)

  『時を駆ける...』掲示板バージョンの増補改訂版です。


  グレードアップしてますねぇ。えっちの事だけじゃありませんよ。

  連載版では妊娠する事により引き離される事を嫌ってましたが、本作では妊娠そのものを嫌がってます。
  TV版から受けるアスカのイメージとしては、こっちの方がリアルだなと私は感じました。
  少なくとも、容易に他者を受け入れる少女ではないような気がしたもんですから。

  まあリアルに書かなければダメというわけでも、リアルに書きさえすれば良いってもんでもないですが、
  本作では物語に深みが増したと思います。



  真面目すぎるコメントを書いてると蕁麻疹がでるのでこの辺でえっちシーンについて。

  ごろごろごろごろごろごろごろごろごろコテッ

  ムリヤリっぽいのが最後にコテッと転けた部分ですけど展開上やもえないかな。
  明日香と信二・・・続編か外伝を書いてみませんか?トータスさん。


  最後になりましたが、投稿ありがとうございます。また、連載完結おめでとうございます。
  そして、面白い作品を読ませて頂いた事本当に嬉しく思ってます。


  みなさんも、トータスさんに感想を書いて下さい。
  メールアドレスをお持ちでない方は、掲示板に書いて下さい。





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