…………希望なんだ…………
…………もう一度………会いたかったんだ………
………だから………
「ぷわっは!ゆ、夢……だったのか……」
リニアがカーブに差し掛かり、その遠心力で首がこくりと折れたせいか、少年はそれまで囚われていた眠りの魔法から唐突に解き放たれた。
「……そ、そうだよなぁ、あんなことが実際にあるはずが無いじゃないか……」
その夢を反芻しながら、少年はそう呟いた。よほど見ていた夢が強烈だったのか、少年はじっとりと汗を掻いていた。首筋に、背中に……握り締めた手のひらに……
「……僕が世界を壊しちゃうなんて……」
その夢のあまりのおぞましさに、少年は小さく身震いをした。
「それにしてもリアルな夢だったなぁ……始まりから終わりまで破綻していなかったし……」
たとえそれがどんなに理不尽なものであったとしても、夢と言うものは往々にしてリアルに感じるものである。だが少年にとって、一番の関心事は夢のリアルさではなかったようだ。
「……でも……あの二人……可愛かったな……」
夢の中の世界の行く末よりも何よりも、まず一番気になったのが登場人物の女の子というあたりが、年頃の少年の煩悩を表している。夢の中に出てきた少女の白い胸に頬を染めた少年を乗せて、リニアは少年の煩悩を具現化するように目的地の第三新東京市へと進んでいった。
エヴァン・ゲリオン
The Comedy!
〜刻が涙を流す日〜
第一話 青いルノー
「ごめん、ごめん、ちょっち手間取っちゃってね」
「いえ、いいんです。でも……」
少年は知っていた、駅を降りた途端、警戒警報が発令されたわけを。そして襲ってきた謎の巨人を。そしてこの女性(ヒト)を……
−使徒−
少年の夢の世界に出てきた化け物。人類のもう一つの可能性……
もしかしたら、自分は夢の中の世界に入ろうとしているのか?そして夢と同じことを繰り返してしまうのかと、少年は不安な気持ちで遠ざかっていく使徒の姿に振り返った。その少年の様子に、葛城ミサトは、遠ざかる巨人に対して少年が怯えているものと勘違いをした。
「ああ、あれね……ゼーレの人造人間、『ビッグ・ザ・サキエル』よ。迂闊だったわ、こんなところまで接近を許すなんて」
「……へっ?」
「それに、あいつが来たと言うことは、敵のエージェントの侵入を許したと言うことなの。ああ、シンジ君は安心していいわ。あたしが責任を持ってお父さんのところまで連れて行ってあげるから」
「敵……?、エージェント……?」
耳慣れない言葉に、少年−碇シンジ−は耳を疑った。自分が見た夢の世界には、はっきりとした敵など存在しなかったはずだ。みんながみんな、かってな夢を他人に押し付け壊れていった。その結果が生を持つものが何も残らない補完世界のはずだった。
「そう、公表はされていないけど、あなたでもうすうすは知っているでしょう?世界征服を策謀する秘密結社「ゼーレ」。あれはそのゼーレが作り出した人造人間、ビッグ・ザ・サキエルよ」
「………へっ………?」
「そしてあたし達のいるのが、そのゼーレに対抗するために作られた対抗組織「ネルフ」よ。あたしはそこで作戦部長をしている葛城ミサト、堅苦しいことは言わないわ。ミサトと呼んでね、シンジ君」
「……あ……、は、はい……ミサト……さん」
要領を得ないシンジを隅におき、青いアルピーヌを疾走させながら、ミサトはバックミラー越しに敵の人造人間を睨みつけた。確かに予想された事態ではあったのだが、それでも焦らないわけには行かなかった。こちらも相応の準備をすすめていたのだが、それが間に合う前の敵の進攻なのだ。しかも、まるでこちらの手の内を読んでいるかのように、まさに最大の戦力が整おうかと言うときを狙われたのだ。
「……でも、人造人間だけなら逃げ切れるわ」
「果たしてそうでしょうか?」
「だれ!」
突然目の前に現れた影に、危険を感じたミサトはとっさにハンドルを切った。敵であればたとえひき殺したところで良心は痛まないし、ましてや敵対しているのだから簡単にひき殺される方がこの場合は悪い。だがミサトは、そのとき感じた予感を頼りに、思いっきりハンドルを右に切った。猛烈なスクィール音を立てながら、タイヤは必死に地面に食いつき、慣性の法則に対して必死に抗って見せた。そして身を削るタイヤの努力が報われ、何とか車がその方向を変えたとき、地面を黒い影が走った。
「なにっ!!」
ミサトは、とっさにとった自分の行動が正しかったことを思いっきり思い知らされた。何しろ運転席から後ろの空間が広大に広がっているのだ。あのまま行けば、自分の右側が同じ運命になっていただろう。つまり運転席と助手席を両断すべく動いていた何かは、ミサトがハンドルを切ったことにより、前後に車を真っ二つにしたことになる。
「ちぃっ!」
小さく舌打ちをして、ミサトは下半身を無くして荒れ狂うルノーからシンジを抱えて飛び降りた。コントロールの聞かなくなった以上、ほんのわずかな躊躇いが死を招くのが戦場なのだ。
「……まったくなんてことをしてくれるの。まだローンが48回も残っているのに……」
シンジを抱えて地面にたったミサトは、愛車を鉄屑に変えた相手に向かってそう悪態を吐いた。だがそれを成した本人は、ミサトの抗議を涼しい顔で聞き流し、その視線を脇に抱えられているシンジへと向けた。
「はじめまして。私は『山岸マユミ』、マユミと呼んでください、シンジ君」
そう言ってマユミは、ぽっぽっと頬を染めた。恥ずかしげに頬を染める美少女の姿は、少年が小脇に抱えられていると言う間抜けな景色を除いても、なにやら微笑ましく思えるものだった。だが当のシンジとミサトはそれどころではなかった。もちろん二人の方向性は大きな違いを見せていたのだが。
「マユミ、マユミ……もしかしてゼーレ12神将の黒い髪のマユミぃ!」
「山岸さん!?」
「マユミって呼んでくださらないの?」
ミサトの言葉はきっちりと無視をして、マユミは苗字で呼んだシンジに口を尖らせてすねて見せた。長い黒髪に薄い色のフレームのメガネ、そして口元のほくろがなかなか愛らしい少女だった。だがミサトにとってはそれどころではない。秘密結社ゼーレの12神将と言えば、敵の中でも筆頭に位置する脅威の相手なのだ。ミサトはだめもとでリボルバーを連射したが、まるで手品のようにその弾はマユミの手前で静止していた。
「おばさんは邪魔しないでください!」
「お、おばさんですって……しょんべん臭いガキの癖して!!」
どうやらおばさんと言う言葉は、ミサトのつぼをついたのだろう。どこから取り出したのかと思うほどの銃器を持って、狙いもいいかげんにミサトはそのトリガを引き絞った。
「私とシンジ君の逢瀬を邪魔するだなんて!」
空気を切る音が響いたかと思うと、マユミに殺到していた銃弾のすべてが真っ二つになって地面に落ちていた。そのときになってようやく、ミサトはマユミの黒髪がそれを成している事に気が付いた。それならばと、これまたどこに隠していたのかと聞きたくなるようなところから弾を取り出すと、それをマユミに向けて撃ち出した。
「おばさんはしつこいから……ぶえっへ!」
同じように飛んできた弾を切ったのはいいが、その中に詰まっていた粉にマユミは視界を塞がれた。そしてさらに悪いことには、胡椒のようなものが混じっていたらしく、涙と一緒に咳まで出てきた。
「亀の甲より年の功ってものよ!さっ、逃げるわよ、シンジ君!!」
「おばさんはしつこいから嫌いっ!!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、マユミは長い黒髪を操ってミサトを追おうとした。だが、逃げにかかったときのミサトもさる者で、シンジを抱えたまま疾風のごとき速度でその場を離脱した。マユミは黒髪を針のように飛ばしたが、それもむなしく空を切るばかりだった。
「ここで逃がすわけには参りませんの!!」
あふれ出る涙と痛みのため、マユミはその場を動き出すことは出来なかった。白いハンカチで涙を拭っているマユミの姿を見ると、ミサトとマユミ、そのどちらが悪人なのか分かったものではなかった。
「もう少し、もう少しで逃げ切れるわ……!!」
さすがにミサトでも、12神将とサシで勝負するのは荷が重い。さらに言えば、今はシンジを保護することが先決なのである。あえてリスクを犯して戦いを挑む必要は無かった。ミサトは車にも負けない逃げ足で、細かい路地を通り抜けてマユミを引き離しに掛かった。ここはネルフのホームグラウンドである、細かい道を通り抜けることにはミサトの方が有利なはずだった。
だが、これでゴールと最後の角を曲がったとき、ミサトは目の前に信じられない人物の姿を見つけた。いや、信じられなかったのは相手も同じかもしれない、マユミはまるで幽霊でも見るかのように相手もまたミサトの顔を見つめていたのだ。そこからいち早く立ち直ったのはミサトだった。彼女はシンジを後ろにかばって、『負けはしない』とマユミへと対峙した。
「……さすがはゼーレの12神将、先を越されるとは思わなかったわ!!」
「……私はさっきからここを動いていません……」
天使の行進とでも言うのか、気まずい二人の間を一陣の風が吹きぬけた。
「……ミサトさん……迷ったんですね……」
ぼそりと吐き出されたシンジの言葉、それが一番真実を言い当てていた。二人の間で、高度な駆け引きがあった訳ではない。闇雲に逃げ回っていたミサトが、結局もとの場所に戻ってきただけのことなのだ。なんとか精神的再建を果たしたマンティスは、戦闘態勢を取ったまま、一歩、また一歩と二人ににじり寄ってきた。先ほどのこともあり、慎重に構えているようだ。
「…………まあいいでしょう。さっきのことは忘れて差し上げます。シンジ君を置いて消えてください?」
「シンジ君を、なぜ?」
「あなたがシンジ君を保護しているのは、別にショタだからというわけではないでしょう?それに……」
再びぽっと頬を染めて、マユミはいやんいやんと身もだえをした。
「どうしてそんなことをあんたが知っているの!!」
どっちのことだろう?シンジはふと考えたが、どちらにしてもミサトがショタであることには変わりないと気づき、恐怖に身を固くした。
「ち、ちょっとシンジ君、こんなやつの言うことを真に受けちゃだめ」
「でも、うわばみのミサトさんって、恋人に逃げられてから少年に走ったんでしょう」
「だ、誰がそんな根も葉もない噂を流しているのよ!!」
「……本当に根も葉もないんですか?」
シンジの浮かべた疑惑の眼差しは、今のミサトにはまぶしすぎた。つまりいいのだ!何が良いのかって、まさにミサトのストライクゾーンに入っていたのだ。しかしこんな場所でそれを肯定するわけには行かない、だがシンジの視線に耐え切れなくなったミサトは、ついと視線をそらしてしまった。
「……どうして目をそらすんです?」
「…………ははははっ、ちょっちね…………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「いやだぁ〜っ、年上のお姉さんは良いけど、おばさんはいやだぁ〜。ちょっと変だけど、マユミさんがいい〜!」
「誰がおばさんよ!!!!私はまだ29よ!!!!!!!!」
「僕の倍以上じゃないかぁ〜やっぱりおばさんだぁ〜!!!!」
そのときマユミは、ミサトの顔が般若のようにゆがみ、青い炎を背負ったように見えた。さすがのマユミも、そのときばかりは触れてはいけないものの存在を知った。そして自分が同じ言葉をミサトに投げかけたことを思い出し、背中に思いっきりいやな汗を掻いていた。一方身の危険に、じたばたと暴れていたシンジだったが、ブンと言う低い音の後、何故か突然糸が切れたように静かになった。何か微妙に頭の形が変形しているのは、きっと目の錯覚などではないだろう。
「さてと、シンジ君も静かになったことだし……」
「……静かにした。の、間違いじゃないでしょうか?」
「まあ、細かいことは良いじゃない」
「……シンジ君が可愛そうです。もう一度言います。シンジ君を私に渡しなさい。そうすれば見逃して差し上げます」
「ふふふ、確かにあんたと正面きってやりあうほど私も馬鹿じゃないわ。でもね、シンジ君をあなたに渡すわけにはいかないわ!!」
「……そんなに気に入りましたの?」
「とっても……って、ちがぁう!!」
「からかっただけです。シンジ君は、E計画の要、リアルチルドレンなのでしょう?」
「ど、どうしてそれを!!」
「碇ユイお義母(かあ)様は、私たちの所で研究されていたんですよ!もともとエヴァは私たちのものになるはずだったんです……」
「残念ね、今は私たちの所にあるわ!」
「でもシンジ君が居なくては動きません!!」
マユミの迫力に、ミサトはじりじりと退いていった。とてもじゃないが、正面から遣り合って勝てる相手でないことぐらい分かっていた。
「さあ、早くシンジ君を返してください!」
追い詰めたと言う自信がマユミにはあった。だがマユミは知るべきだった、こういうときにこそおばさんがしぶといということを。
「ふふふふっ、シンジ君を気絶させたのはこのときのためなのよ」
「……本心を言い当てられて都合が悪くなったせいではないのですか?」
「ちがうわよ!!」
「そうですか、でもどうなさるんですか?同じ手は二度と通用しませんよ」
「べっつに、あんまり使いたい手じゃなかったのは確かだけどね。逃げるだけなら簡単なのよ」
その言葉を待っていたように、ミサトの周りを青い光の粒子が舞い踊った。その光の粒子は、やがて包み込むようにミサトを中心に球体を形作った。それはまるでそこだけを、周りの世界から切り離そうとするようだった。
「なっ、ま、まさか……シンジ君っ!!」
こけおどしには乗らないと、ミサトに掴みかかろうとしたマユミだったが、その球体の中に引き込まれそうになって、慌ててその手を引っ込めた。だが青い光の玉は、マユミまで取り込もうとするように、さらに力強く輝いた。
「これがおばさんの力なの!!」
巻き込まれてはかなわないと、マユミはその光の渦から飛びのいた。そしてマユミの目の前で、ミサトとシンジを包んだ光の渦は、そのまま輝きを増し、二人の姿を飲み込んでその場から消えうせた。
「……瞬間移動……まさか敵にもこんな能力を持っている方がいらしたとは……」
さほどの悔しそうな顔も見せず、マユミは近づいてきたビッグ・ザ・サキエルを下から見上げた。
「ならばビッグ・ザ・サキエルで蹂躙するだけですわ。行きなさい!ビッグ・サ・サキエル。私とシンジ君の愛を邪魔するものを火の海に変えあげなさい」
ほほほほほと言うマユミの高笑いを受け、ビッグ・ザ・サキエルは、地に足跡を刻みつけながらゆっくりと第三新東京市へと進攻を再開した。
***
「ミサト!遅いわよ。敵は目の前まで来ているのよ!!」
命からがら逃げ出してきたミサトを迎えたのは、親友からの涙がこぼれそうな暖かい言葉だった。
「り、リツコォ……しょれはないんじゃない」
「しょれは、じゃないわよ。状況を考えなさい状況を!ところでシンジ君は……!?あんたまた病気が出たの?この非常時に!!」
「ち、違うわ、それに病気って何よ!!」
「いくらシンジ君が可愛いからって、時と場所を考えて欲しいってことよ」
「だからどうしてそんな話になるのよぉ」
「言うことを聞かないからって、気絶させて悪戯したんでしょ。まったく作戦部長の癖に、こんなときに一人だけ楽しむなんて……」
「だから楽しんでないって!!敵の12神将から逃げるので精一杯だったんだから!!」
「12神将!?本当なのそれ?」
「本当よ、だから無理してテレポートなんかしたんだからぁ」
「なら急がないとまずいわね。早く彼を初号機のところまで連れて行きましょ」
ソファーに寝かされたシンジに、リツコが近寄ろうとしたとき、その前を遮る影があった。もちろんその影の正体はミサトである。ミサトは獲物を前にした野良犬のような顔で、カルカンを目の前にしたような猫の顔をしたリツコを睨みつけた。
「……どうしてリツコがシンジ君を連れて行くのよ。このままあたしが負ぶっていくわよ」
「まずはシンジ君の安全が先決よ。だからあたしが連れて行くのよ」
「どうしてあたしが負ぶっていると危険なのかなぁあ、赤木リツコ博士?」
「今更そのわけをききたいの?葛城ミサト作戦部長?」
「ええ、ぜひともお伺いしたいものですわ」
ごごご、と効果音を立てながら、二人の30女は額がぶつかり合うほど顔を接近させた。そんなことをしているぐらいなら早くシンジを連れて行けば良いようなものなのだが、彼女達にとっては目の前に迫った敵よりも重要なことであるようだ。
だがそんなにらみ合いは長くは続かなかった。もちろん彼女達の一方が折れたと言うわけではない。彼らの上役から、早く連れて来いとの命令が下ったのである。勝ち誇ったミサトは、悔しさを隠し切れないリツコを尻目に、エヴァのハンガーへと急いだ。もちろん背中に背負った少年の青臭い香りを楽しむのを彼女は忘れなかった。
***
シンジは、エヴァのハンガーに連れてこられたところで、リツコによって強制的に目を覚まさせられた。どうやってやったのかはまったくの謎なのだが、勝ち誇ったリツコの顔と、悔しさを隠し切れないミサトの顔がやけに印象的だった。
一方のシンジは、ぼんやりとした頭で、やはり夢は続いているのだと考えていた。何しろ目の前には、夢の記憶の通り人造人間エヴァンゲリオン初号機があるのだ。こんなに早くマユミが現れ、しかも自分と敵だと言うのは食い違っているが、ここから先の展開は同じだろうと、シンジは、「これも父の仕事なの?」と夢の通り尋ねて見た。
「そうだ!」
頭の上の方から見下ろす父に、『ああ、夢のとおりだ!』とシンジは心の中で確認した。さっきのは夢の中の出来事なのだと、密かに胸をなでおろしていた。
「ふっ、出撃!!」
記憶どおりの父の言葉に、これまた記憶どおりにミサトとリツコが言い合っている。結局ネルフには自分を乗せるしか手が無いことはシンジにも分かっていた。だが、さっきまでのこともあるので、本当に夢の通り進んでいくのかシンジは確かめて見ることにした。
「父さんは、これに乗って僕に戦えって言うの」
夢のとおりなら、「そうだ!」と返ってくるはずだった。だが現実は、シンジには優しくなかったようだ。
「違う、ただ乗っていればいい。戦うのは別のものがする」
「………へっ?」
シンジにはその意味が理解できなかった。別の人が戦うのなら、自分がこれに乗る必要など無いのではないかと。
「乗るのなら早くしろ!乗らないのなら押し込む!!」
「どっちでも一緒じゃないかぁ!!!!」
大幅に夢とずれた結果に、シンジは大声をあげたのだが、その努力も空しく力づくでエントリープラグへと押し込まれた。。
***
まずいLCLも筒のようなエントリープラグにしても、それはすべて夢のとおりだった。だが夢とは違い、シンジが示したシンクロ率は90%と言う高いものだった。これについては、一度経験したことだと思えば納得できないことも無い。だが、初号機に対して感じる感覚は、夢の中とは大きく違っていた。それは、夢の中の初号機は優しい母の印象があったのだが、今こうして初号機に感じるのは、その優しさとは違ったものだった。もちろん子を思う優しさを感じることは出来るのだが、何か前とは違う元気のよさを感じるのも確かなことだった。
「乗ってるだけって言ったけっど、一体どうするつもりなんだ!?」
夢と同じなら、今の自分なら戦える。だが微妙に食い違う記憶に、シンジは行動を起こすことが出来ずに居た。まずは指示に従ってみよう、シンジがそう思ったとき、丁度目の前にスクリーンが現れ、そこにリツコの顔が浮かび上がった。
「いいこと、敵の人造人間はATフィールドと言うバリアを展開するわ。これを何とかしないことには、こちらの攻撃は役に立たないの。だからシンジ君には、ATフィールドの中和をしてもらうことにします」
「中和って言ったって……どうすればいいんですか?」
一応は夢の中(?)の体験で、ATフィールドの中和と言うものも経験している。だがそれを言っては変だと思われるので、シンジは白を切ってその方法を尋ねた。もちろんリツコがその方法を知らないことなど知っていることだった。
「はっきりとしたアドバイスは出来ないわ。でも経験者が言うには、ATフィールドは心の壁、だからその心の壁を壊してあげればいいの?どう?出来そう?」
ここでまたシンジは首を捻った。『経験者』?確かにドイツではアスカが先行していたはずだが、起動からATフィールド発生までは、初号機が最初のはずだった。だがそれを指摘してもしかたが無いので、ただシンジは『はい』とだけ答えて出撃することにした。夢の通りうまくいったのなら、リツコさんのアドバイスが良かったのだと言えばいいのだからと。
どこからか聞こえてきた発進と言う言葉と同時に、これまた夢で見たとおりの逆バンジーで、シンジは地上に打ち出された。
目の前の扉が開くと、それは夢で見たとおりの第三新東京市の姿だった。そんなに遠くないところに第三使徒……ここではゼーレの人造人間、ビッグ・ザ・サキエルと言うらしいが……が見える。夢の通りにはなるものか?マユミが敵だったとしても、まだレイもアスカもマナも残っている。それに委員長だって、トウジはもったいないと、これから現れるだろう美少女と絶対によろしくやってやると固く心に誓いながら、シンジはインダクションレバーを固く握り締めた。
「いい、歩こうなんて思わないで!!」
ずるっ……何かがシンジの中で滑った気がした。せっかくやる気になったのに、この作戦部長とか言う人は何を言うのだろうか。もしかしておばさんと言ったことを恨んでいるのか?シンジがそう思ったとき、新しい指示が飛んできた。
「すぐに相手のATフィールドを中和して!!」
人使いが荒いと思いながら、シンジは言われたとおりに使徒のフィールドを中和に掛かった。その途端通信機の向こうからはざわめきに似た声があがってくるのがシンジには分かった。感覚的に言えば、中和がうまくいったのだろう。ここまでは夢のとおりである。後は近接戦闘で敵を倒すだけである。
……だが、その指示はシンジには出されなかった。
ゆっくりと近づいてくる使徒を前に、早く戦わせてくれとシンジは焦っていた。このままカタパルトに拘束されたままでは、なぶり者になってしまうと。しかし、そんなシンジの思いを知らないように、カタパルトからの拘束は解かれず、シンジへの戦闘指示は出なかった。その代わり、シンジの乗る初号機の100mほど使徒よりのビルの屋上に、一人の男が高らかな笑い声とともに下から迫り出してきた。
「……人…………日向さん!?」
なぜ、紹介もされていない日向をシンジが知っているのかと、誰も気にしない中、屋上に現れた日向は、足を肩幅ほどに開き、そして両手を腰のところにあて、前方から迫る使徒へと視線を向けた。
「あぁあはっはははは。あぁあはっははは……」
「一体日向さんは何をするつもりなんだ……」
「あぁあはっはははは。あぁあはっははは……」
「あぁあはっはははは。あぁあはっははは……」
「あぁあはっはははは。あぁあはっははは……」
ただ笑いつづける日向の姿に、シンジはそこに何かアブナイものを感じた。シンジの腰が引けていたとしても、誰がそれを責められるだろう。だがそんなシンジの目の前で、日向は血管の切れそうになりながら、ただひたすら笑いつづけていた。そして……
「あぁあはっはははは。あぁあはっははは……」
「あぁあはっはははは。あぁあはっははは……」
「あぁあはっはははは。あぁあはっははは……」
「あぁあはっはははは。あぁあはっははは……」
「あぁあはっはははは。あぁあはっははは……」
「あぁあはっはははは。あぁあはっははは……」
「あぁあはっはははは。あぁあはっははは……」
「あぁあはっはははは。あぁあはっははは……」
「あぁあはっはははは。あぁあはっははは……!!ぶちっ!!」
「目からビィームゥッ!!」
「へっ?!」
その瞬間起こった出来事に、シンジは自分の目を、いや、この世界の成り立ち自体を疑った。
次回予告
ネルフは使徒に勝つ。だがそれは全ての始まりに過ぎなかった。ミサトの視線から逃げ出し、一人が良いと言いきるシンジを、ミサトは自分のものにしようと決心する。だがそれは、大人のわがままに過ぎなかった。シンジはその夜、自らの心を、閉じる。次回、加持来日。さあて、この次もサービスしちゃうわよ…………いやだぁ〜
続くはずが無い。
トータスさんのメールアドレスはここ
tortoise@mtb.biglobe.ne.jp
中昭のコメント
トータスさんより三周年記念、投稿して頂きました。
>「ぷわっは!ゆ、夢……だったのか……」
い。いきなり夢落ち・・・違うか
>「……でも……あの二人……可愛かったな……」
アスカ 「アタシ?」
レイ 「ふんぞり」
トウジ 「わしか?」
ケンスケ「お、俺にはそんな趣味ないからな碇」
>夢の中に出てきた少女の白い胸に頬を染めた少年を乗せて、
アスカ 「アタシ?」
レイ 「ふんぞり」
ミサト 「やだシンちゃんスケベ」
リツコ 「相変わらず図々しいわね。少女って年じゃないのに」
>「マユミ、マユミ……もしかしてゼーレ12神将の黒い髪のマユミぃ!」
アスカ 「ふ、ふん。こっちにだってアルバイトで八部衆やってたやつがいるもん *1
レイ!」
レイ 「那羅朱霊華」
アスカ 「ちょ、なんでアタシを攻撃すんのやぅおお」
>涙と一緒に咳まで出てきた。
レイ 「くしゃみまで出たら、鼻水にも注意すべきね」
アスカ 「もしかして経験者?」
レイ 「那羅無双華」
アスカ 「たいたいいたいいい」
>マユミは黒髪を針のように飛ばしたが、それもむなしく空を切るばかりだった。
アスカ 「・・・」
レイ 「・・・」
アスカ 「多分、今あんたの思いついたキャラクタ名だすと、広島あたりから石が飛んでくるわね」
>「……私はさっきからここを動いていません……」
アスカ 「きゃはははは馬鹿まるだしぃ」
レイ 「くすっ」
ミサト 「なんかレイの反応のほうがカチンとくるわね」
>「でも、うわばみのミサトさんって、恋人に逃げられてから少年に走ったんでしょう」
ミサト 「・・・」
シンジ 「反論しないんですか?」
ミサト 「ムキになって反論すれば向こうを喜ばすだけよ。こういう時は無視しとけばいいの」
シンジ 「僕は否定して欲しいんですけど」
ミサト 「私のこと心配してくれるのねうーんシンちゃんってば可愛い」
>「言うことを聞かないからって、気絶させて悪戯したんでしょ。
アスカ 「気絶したシンジに悪戯して楽しいの?」
ミサト 「何故わたすにきくかしら」
レイ 「楽しいのね?」
ミサト 「ちっがぁうう。表面的に嫌がって泣き喚いてでもちょっとだけ大人の世界にも興味があってってそんな風な反応が悪戯の醍醐味なのよ」
レイ 「悪戯はしたいのね?」
ミサト 「もっちのろんぐろんぐあごう おじいさんは川に洗濯におばあさんは山狩りに行きました」
シンジ 「あの・・・ご飯」
ミサト 「シンジ君、今の話聞いてた?」
シンジ 「桃太郎ですか」
ミサト 「ホッ」
レイ 「悪戯の話」
シンジ 「桃太郎の悪戯?」
アスカ 「悪戯されるのは桃太郎よねぇ。ミサト」
ミサト 「これ以上続けるとホントに悪戯するわよ」
シンジ 「桃太郎にですか?」
>もちろん背中に背負った少年の青臭い香りを楽しむのを彼女は忘れなかった。
アスカ 「くんくん」
レイ 「くんくん」
シンジ 「なにかな」
アスカ 「これ青臭いっていうのかな」
レイ 「クリの花」
>「目からビィームゥッ!!」
大眼鏡 「活躍だ・・・活躍したぞ」
ロンゲ 「先生教えてくれっス」
レイ 「クチからばすーかぁ」どぉおおおおん*2
ロンゲ 「こ、、こぉっすか」
ぷしゅうるるるる
アスカ 「にゅぅ」にょろにょろ
アスカ 「にゅぅ」にょろにょろ
アスカ 「アタシがあんなやつに負けるわけいかないのよぉ」
*1 レイの声をあてていた声優は、天空戦記シュラトで那羅王レンゲ役をやっていました
*2 レイの声をあてていた声優は、デジキャラットで以下略
みなさん、是非トータスさんに感想を書いて下さい。
メールアドレスをお持ちでない方は、掲示板に書いて下さい。