ハジメテノヨルノモノガタリ・異聞

ヲモヒデ・壱乃章

平成13年月日校了



●SCENE-00

 ミサトは一心不乱に端末のキーボードを叩いていた。
手元に置かれたカセットデッキが、何度も同じメッセージを再生する。

『葛城、俺だ。
 多分この話を聞いてる時は、君に多大な迷惑を掛けた後だと思う。
 ・・・すまない。
 リッちゃんにも、すまないと謝っておいてくれ。
 それと、迷惑ついでに、俺の育ててたい花がある。
 俺の代わりに水をやってくれると嬉しい。
 場所はシンジ君が知ってる。
 ・・・葛城、真実は君と共にある。
 迷わず進んでくれ。
 もし、もう一度逢えることがあったら、8年前に言えなかった言葉を言うよ。
 じゃぁ』

『君の欲しがっていた真実の一部だ。
 他に36の手段を講じて君に送っているが、確実なのはこのカプセルだけだ。
 こいつは俺の全てだ。
 君の好きにしてくれ。
 パスコードは、俺達の最初の思い出だ。
 じゃぁ、元気でな』

シンジがサルベージされた日の夜、加持から渡されたカプセル。
慎重に開封したミサトは、中から小さなデータチップを取り出した。
それをスタンドの明りにかざしてみる。
「鳴らない電話を気にして苛つくのは、もう止めるわ。
 あなたの心、受け取ったもの・・・」


●SCENE-01

 二人が初めて出会ったのは2005年、第二新東京大学のキャンパスだった。
たまたま些細なことでリツコと喧嘩して、カフェテリア「カフェ・ド・ドゥ」というシャレた名前の付けられた学食でカツカレーの大盛りをヤケ食いしている時、声をかけられたのだった。

「よっ、ここ、空いてるかい?」
「あんた、誰?」
「俺?
 俺は加持リョウジ。
 君、葛城ミサトさん、だろ?」

加持と名乗った男は、図々しくもミサトの向かい側に座ると、B定食の乗ったトレーをおいて、ミサトに聞き返した。

「え、えぇ・・・」
「ずいぶん恐いオーラが出てたけど、なんかあったのかい?」
「あんたに関係ないでしょッ!」

ミサトはプイッと横を向くと、図々しくてなれなれしい男を無視して、大盛りカツカレーを処理する作業を再開した。

「おぉ、恐い恐い。
 だめだなぁ、飯は楽しく食わなきゃ」
「あんたがそこから居なくなってくれたら、楽しく食べられるわよ」

例えそれが文句でも、受け答えをするということは、自分と会話することを許しているのだ。
ミサトが自分の術中にハマっていることを確認した加持は、密かににんまりすると、罠の効果をより確実にすべく、更に攻勢を掛けた。

「たはは、すまんね。
 俺は可愛い女の子が困ってるとほっとけない質なんでね」
「可愛いぃ?
 あたしがぁ?」

ミサトは珍しい物でも見たような表情になって加持を見返した。

「あれ?
 君は自分の価値に気付いていなかったのかい?」
「あたしの、価値・・・」
「そうさ、学内でも十本の指に入る美人って噂だぜ」
「ホントっ!?」

かかった!

加持は心の中でガッツポーズをすると、罠を閉じにかかった。

「もちろんさ。
 俺はラッキーだなぁ。
 それを君に気付かせた、最初の男ってわけだ」
「あんたねぇ・・・」

ミサトは思わず苦笑した。

「その美人が全身から怒りのオーラを立ち上らせてるんだぜ。
 ほっとけるワケ無いじゃないか。
 で、どこのどいつだ?
 俺がナシ付けてやるよ」
「い、いいのよ、そんなの。
 たいしたことじゃないんだから」

ミサトは慌てて返した。

「いいのかい?」
「いいの。
 相手はあたしの親友なの。
 こんなのいつものこといつものこと」
「そうか、残念だなぁ・・・。
 君のナイトになれると思ったのに・・・。
 じゃぁ、そういうことで」

加持はそのまま席を立つ素振りを見せた。
ミサトはトレーを覗き込んで、加持の顔を見た。

「残ってるじゃない、食べてからにすれば?」
「へ?
 いいのかい?」
「いいわよそれくらい。
 あたしだって、話し相手がいた方が美味しいご飯食べられるし」

これが2人の最初の出逢いだった。


●SCENE-02

 学食でランチを平らげた2人は、ミサトの

「ね、どっか連れてってくれない?」

という一言で、午後の講義を全てすっぽかし、ドライブに出掛けた。
言われた加持は、その時は困ったような表情を浮かべたが、内心は小躍りして喜んでいた。
その小躍りが、ハンドル裁きに出ている。
加持が運転するGMのオープンカーは、絶好調でワインディングを吹っ飛ばして行った。

「ねぇ、加持君、どこまで行くの?」
「ん?
 最高の場所、さ」

軽く流し目とウインクだけをくれると、再び前をむいた加持に、ミサトは一瞬チェシャ猫のような笑みを浮かべると、甘えた声を出してしなだれかかった。

「ねぇ〜、そんなこと言わないで教えてよぉ♪」
「あ、こら、ちょっと」

キュキュキュ、キュキャ!

急に体重を預けられたせいで、手元が狂った。
危うくスピンしそうになった車を立て直すと、たまたま目の前にあった道路脇の空き地に止める。
その動きについて行けなかったミサトは、そのまま加持の胸元に飛び込むようにして張りついてしまった。

「すまん、大丈夫か?」
「・・・・・・」
「おい、葛城?」
「加持君の胸、あったかい・・・」

両手を加持の背中に回したミサトは、そのままうっとりとした表情で目を閉じた。

早い展開だなぁ・・・。

内心苦笑しながらも加持は、ミサトの髪に右手をからませると、耳元から首筋、顎へとそっとその指を滑らせた。

「んふぅ・・・」

甘ったるい響きをもった吐息が、桜色の唇から漏れる。
加持は、顎にかけた指をそっと持ち上げた。
見上げるミサトの瞳は、既に期待に潤んでいる。
その瞳が、長いまつ毛を持った瞼によって遮られた。
もう、言葉はいらなかった。
加持はそのまま、屈み込むように顔を近付けると、唇を重ねた。

ちゅ。

初めは軽く唇が触れるだけのキス、そして一度離れた唇が再び触れる。

ん?
震えてるのか?

そっと腋の下をくぐって背中に回した左腕に、かすかな振動が感じられる。

まさか、初めて・・・、か?

触れた唇から舌を伸ばし、ミサトの唇の合わせ目をくすぐる。
それはまるで溶けかけたバターに暖めたナイフが潜り込むように、あっさりと侵入を果たした。
唇と一緒に力なく開かれてしまった可愛い歯並びをなぞった舌先が、口腔を探る。

ちゅむ、ちゃぷ、ちゅっ。

2人の唇の間から時々漏れる粘りを帯びた音に合わせて、妖しい空気があふれ出る。
加持の舌が、奥の方に縮こまっていたミサトの舌先を探り当てた。
触れた瞬間のピクンッ、とした震えが、加持がミサトに対して抱いた疑念を、確信に変えた。

間違いない、初物だ・・・。
こんなナイスボディー、誰も触れたことがないなんて、もったいないよなぁ・・・。

ちゅむ、ちゅぴ、ちゅ・・・。

加持の舌は、積極的にミサトの舌に接触を図った。
しばらくは戸惑いと羞恥で奥にひっそりと隠れていたミサトの舌が、優しく頭を撫でられるような慈しみの接触に、おずおずと伸ばされる。
一度思い切って触れてしまった後は、堰を切ったように積極的に絡みはじめた。

んむ・・・、ちゅ。

オチたな・・・。

ミサトの積極的な接触に気を良くした加持は、永遠とも思える長いキスを終わらせた。

「んぁ、ふぅ・・・・・」

離れた唇に懸かった銀色の橋とミサトの漏らした吐息が、加持に続きをせがむ。
しかし加持は、そっとミサトの体を起すと、優しく微笑んだ。

「さてと、それじゃぁ、ドライブを続けるぞ?」

ミサトは、いまさらながらに照れたように俯くと、こくん、と小さく頷いた。
それを見届けた加持は車を発進させると、再びワインディングを快走しはじめた。
ハンドルを握りながらも、加持はミサトという女性の不思議さに思いを馳せていた。

今時、大学生で初物なんてな・・・。
いいとこのお嬢様じゃなかったはずなんだけどなぁ・・・。


●SCENE-03

 加持は、ある日キャンパスで見かけた、ナイスボディーとコケティッシュな顔だちのアンバランスさに、心惹かれる物を感じた。
隣を歩く金髪の女性も魅力的ではあるが、どこか陰りと刺々しさを感じ取ったため、ターゲットをミサト一本に絞った。
方々手を尽くして集めたデータに、ミサトが孤児であることを発見して、そこに付け入る隙を見付けた時は、宝の山を堀り当てたような気分になった。
彼がこれまで経験した5年間のことを思えば、ミサトは間違いなく簡単にオチる種類の女だとふんだ。
彼らがセカンドインパクトを迎えた頃、日本は最低の状態にあったのだ。
政治は信用を失い、官僚は自らの職のためだけに仕事を捏造し、医療はミスと過誤を繰り返し、警察はもみ消しを行い、銀行は債務隠しを行い、会社はリストラの名の下に盛大に首切りを行い、街に溢れた失業者が公園に段ボールハウスの軒を連ねた。
学校では小学生ですらが授業中に教師の話を聞かず、したい放題だった。
中学生ともなれば、顔を真っ黒にして髪を真っ白に染めたいわゆる「ヤマンバ」と呼ばれる小汚い浮浪者並みの外見をした少女たちが、まるで娼婦のように金とブランド品のために夜の街を徘徊し、オヤヂどもは自分の娘のような年齢の少女達に目じりを下げて喜んで擦り寄った。
少年達はゲームセンターに行くために通行人を襲って金を奪い、極些細な原因でキレ、人を殺した。
親達は子供が言うことをきかないというだけの理由でベランダから投げ棄て、子供たちは親が酒を飲んで暴れるという理由で金属バットを振りあげた。
そんな荒廃し切った社会が、未曽有の混乱をもたらしたセカンドインパクトを迎えたのだ。
秩序は一瞬にして崩壊し、犯罪と呼ばれて忌み嫌われたはずの行為を、誰もが行った。
何より、警察や自衛隊の中枢であるべき東京は、積年のうらみつらみを晴らすなら今だとばかりに血気に逸った、隣りの半島の北半分を支配する独裁者の思い付きから飛ばされたN2弾頭付き弾道弾の直撃を受け、南極大陸崩壊の津波が起した以上の被害をもたらしていた。
もっともその国は、直後にすぐ北隣の三色旗を掲げる国からの核攻撃で、世界一広大な更地にされてしまっていた。
偶然生き残ったとある地方自治体首長をつとめていた政治家の強引な手腕が、翌年年明けそうそうに総務省として統合されるはずだった官庁を内務省として成立させ、ここへ内閣府、国家公安委員会などの機能を統合、はるか50年前に戦勝国の占領政策のために解体されたはずの内務省が、文字どおり復活した。
北の三色旗国家と西の赤色旗国家は大ゲンカの真っ最中で、世界の警察を自任していた超大国は国内の混乱を納めるのに手一杯、欧州から中東にかけては民族と宗教が原因でテロが横行、アフリカは誰からも見向きもされずに自滅していた。
そんな国際政治情勢のさなか、常に国防の重要性を説き、ひところは日本核武装論まで飛び出して物議を醸した政治家によって、生き残った3自衛隊の統合による戦略自衛隊の編成と、国連決議によって行われた世界的軍事力再編による旧自衛隊機能の国連軍供出が、国際的発言力を高めた。
これらのおかげで、日本の混乱は早期に収拾した。
とはいえそれは、江戸時代並みの秩序であり、常に身の危険と隣り合わせであることにかわりはなかった。
特に身寄りを亡くした少女達にとっては、ブランド品や遊ぶ金のためではなく、明日を生きる糧を得るために、あいかわらず援助交際という名の売春を繰り返すことが日常となった。
日本における世紀の代わり目、2000年と2001年は、そんな時代だったのだ。

だから孤児のミサトが、ハタチにもなって未だ異性経験が無いことに、加持は正直驚きを隠せなかった。
実は南極でセカンドインパクトから生還した唯一の生き証人ということで、国連の手厚い保護という名の実験動物扱いと、後半は文字どおりの保護を受けていたおかげで、食うに困らなかったのだ。
そのことは表沙汰になっていないため、加持のようなただの学生が知らなかったのも頷ける。
加持の唯一にして最大の誤算は、セカンドインパクトから3年間のミサトのことを知らなかったことだったのだ。


●SCENE-04

 山道を走り、峠を越え、やがて視界が開けて来た。

「うわぁ!」

目に飛び込んだ光景に、ミサトは思わず感嘆の声を漏らした。
目の前に現れた光景、それは陽光に輝く太平洋だった。

「ウエルカムトゥ、マイフェイバリットプレイス」

加持は極上の笑みを浮かべると、特に眺めのいい場所で車を止めた。
車を降りたミサトは、展望台の縁にある手すりに身をあずけて、海を眺めた。
爽やかな風が、ミサトの長い黒髪をくすぐる。

「気持ちいい・・・」

風に乗って潮の香りがして、ミサトは嬉しそうに目を閉じた。

「気に入ってくれたかな?」

加持はミサトの横に並ぶと、同じように海を見ながら話しかけた。

「えぇ、とっても。
 あ、そだ!」

ミサトはとてつもないナイスアイデアを思いついたというような声をだした。

「どうしたんだ?」
「えへへぇ。
 気に入ったから、あんたのことリョウジって呼んであげるわ。
 どう、すごい思い付きでしょ?」

ミサトはイタズラっぽい笑みを浮かべて、加持の顔をのぞき込んだ。

「すごいな、葛城は!」

加持はわざと大げさに驚いてみせた。

「敬意を表して、ミサト、って呼ばせてもらってもいいかな?」

驚いて目を丸くしたミサトの瞳を、加持はじっと覗き込んだ。

「ぷっ!
 あははははははははははは!
 リョウジって面白い!」
「そんなに笑うことかよ、おい・・・」

加持は後ろをむいて背中を手すりにあずけると、ポケットからタバコをとり出した。
ジッポを取り出すと火をつける。

「どうだい、気分転換になったかな?」
「もう最高よん♪」
「そりゃよかった。
 ちょっと時間が早かったから、心配だったんだ」
「早い?」
「この展望台はな、南西向きなんだ。
 夕日が奇麗でさ。
 それを見せたかったかな、っていう気分もあるんだ、俺には」
「・・・かえってよかったわよ・・・」
「なぜだい?」
「ん・・・。
 赤い海は、ちょっち、ね・・・」

ミサトの寂しそうな表情に加持は何となく、聞いてはいけないことを聞いたらしいという、自分の失敗を悟った。

「腹、減らないか?」

話題を変えるため、努めて明るく声をかけた。

「あ、いいわね」
「なにがいい?」
「ん〜と、そうね・・・。
 せっかくだから、ご馳走してくれるよね」
「あぁ、なんでもいいぜ」
「容赦しないわよ?
 ンじゃ、ステーキ♪」
「了ぉっ解。
 それではどうぞ、お嬢様」

加持は芝居がかった態度でミサトの手を取ると、そのまま車までエスコートし、ドアを開けて恭しくおじぎをした。

「ありがと、リョウジ」

それに微笑みだけで返事をした加持は、運転席に乗り込むと、車をスタートさせた。
しばらく海岸沿いを走った車が、ログハウス風のレストランに滑り込んだ。

「さぁ、ついたぜ」

加持は再び御者よろしくエスコートしてミサトを車から降ろす。
腕を組んでレストランに入った2人は、窓際の空いた席に座ると、備えつけのメニューをめくりはじめた。
窓の外には、駐車場に止められた加持のブリティッシュグリーンのGMが見える。

「あたしも、車欲しいなぁ・・・」
「免許、持ってるのか?」
「まだよん。
 ね、リョウジ、運転教えてくんない?」
「いいぜ」
「やりぃ。
 これで教習所代が浮くわね」

「ご注文はお決まりですか?」
「あ、え〜っと・・・」

ウエイターの声にメニューに目を戻したミサトは、目当ての物を見付けると顔をあげた。

「あたしこのサーロインステーキセットと、それから大ジョッキね」

ホントに容赦ないな・・・。

ミサトが頼んだ物の値段に視線を走らせながら、内心の苦笑はおくびにも出さずに、自分用のメニューを注文する。

「俺はこっちの和風ステーキセット、それから同じく大ジョッキ」
「サーロインステーキセット、和風ステーキセットがお1つづつ、大ジョッキがお2つですね」
「そうだ」
「かしこまりました」

「ちょっとリョウジ、あんた飲んでも大丈夫なの?」
「あ、俺?
 ビールなんて水みたいなもんだよ」
「ならいいけど・・・」

運ばれて来た料理とビールで、更に舌のすべりは良くなる。
お互いにあまり深くプライベートには突っ込まないで、とりとめのない会話が流れる。

「でさぁ、リツコったら無様ねって言うわけよ、信じられるゥ?」
「そりゃまぁ、ケンカもするわな」
「でしょでしょぉ?」

お互いのプライベートに突っ込まないで話をするとすれば、いきおい話題は自分の近況が中心になるのはごく自然ななりゆきだった。

「ってわけでさ、俺もまぁ、言ってやったんだよ、お前はバカかってさ」
「そりゃそのサトルってのが悪いわよ、うん」

お互いに友人の何でもない話題で盛り上がる頃には、皿もジョッキも空になり、表も日が傾きはじめていた。

「そろそろ行こうか?」
「そうね」


●SCENE-05

支払いを済ませて表に出た加持は、ミサトがシートベルトをしたのを確認してから車をスタートさせた。
ふと空を見ると、狙いが当たった事を直感できた。
それをミサトに気付かせることなく、話術巧みに意識を引きつけ続けること30分、待っていたものがやって来た。
ぽつっ、ぽつっとフロントガラスに水滴が付く。

「あ、やべっ!」
「え、うぞっ!」

言っている間に雨脚は強くなる。
幌をかけていなかったオープンカーの車内は、もちろん雨に濡れる。
狙った通りの状況に、加持は内心ほくそ笑むと、

「しょうがない、緊急避難だ」

加持はわき道に車を乗り入れると、その先にある一軒の建物に車を滑り込ませた。
『グランシェール』という名前の看板が懸かったそこは、町外れの街道ぞいによくあるホテルの一つだった。

「あたし・・・」
「ん?」

答える代わりに、ミサトはそっと身をあずけると目を閉じた。
加持もそれだけで全てを悟った。

チェックメイト。

しかし加持は、そっと軽く唇を触れさせただけで、

「このままじゃカゼひいちまう。
 入ろうぜ」

そっと囁くと、車を降りた。
ちょっとシャレたシティーホテル風の、しかし仕切が降りていて客と従業員が直接顔を合わせることがないように工夫されたフロントの作りが、そこがなんの目的で作られたホテルかをうかがわせた。
キーを受け取ってエレベーター、そして部屋に着くまで、2人は一言も言葉を交わさなかった。

部屋に入ったところで、初めて加持が口を開いた。

「シャワー浴びて来いよ。
 マジで体が冷えちまうぜ」
「・・・・・・・うん・・・・・」

極端に口数の少なくなったミサトは、小さく頷くと、そそくさとバスルームに消えた。
軽い寒気を覚えた加持は着ていた服を脱ぐと備えつけのバスローブに着替えて、マグカップにコーヒーを入れることにした。
もちろんこういう所だからインスタントなのだが、暖かい飲み物はありがたい存在だ。
そろそろミサトが出て来るだろうという頃合いを見計らった加持は、1杯分づつに小分けされた小さな袋を開けると、中身をカップに入れてお湯を注いだ。
ミルクと砂糖は好みがわからないので、そのままにしておいた。
スプーンで軽くかき混ぜている時に、ミサトがバスルームから出て来た。
しっかりバスローブを着ているが、下着も含めて備え付けの簡易洗濯乾燥機に放り込んでいた様子で、体のラインがくっきりとわかる。
思わず生つばを飲み込んだ加持は、それでも何とか冷静さを装って、明るく声をかけた。

「お、ちょうど良かった。
 コーヒー入れといたぜ」
「あ、さんきゅ」
「ンじゃ、今度は俺がシャワー入って来るわ」
「ごゆっくりぃ」

加持がバスルームに消えた後、ミサトはコーヒーの香りに誘われるようにソファーに座った。
ミルクも砂糖も入れないまま、湯気の立ち上るマグカップを口に運ぶ。

「あちっ・・・」

思いのほか熱いコーヒーに眉をしかめるが、それでも喉を通って胃に収まる暖かさが、一緒に幸せな気分を運んでくれる。

「ふぅ・・・」

改めて周囲を見まわしたミサトは、ベットに並んで置かれた枕を目にして動悸が早くなるのを感じた。

今日会ったばかりなのに・・・、あたし、どうしちゃったんだろ?

これまでも、自分に声をかける男が全くいなかったわけでは無い。
それでも、ほとんどがリツコと一緒にいたせいで、その氷のような目線に晒された男達は、そうそうに退散することが多かった。

「なんでよ?
 今のなんか、けっこうイケメンだったじゃない」
「下心丸出しのバカ共には用は無いわ」
「そんなこと言ってると、チャンス無くすわよ」
「まだまだ先は長いわ。
 それに、今はコンピュータを相手にしている方が楽しいわ」

そんな会話を思い出したミサトはふっと表情を緩めると、また一口コーヒーをすすった。
リツコを頭の中から追い出したミサトは、再び加持のことに思いをめぐらせた。

不思議なヤツよね。
目が優しいし、暖かいし・・・。
今までの誰とも違う・・・。

昼の食堂での会話が、道中の会話が、車の中のキスが、海の風景が、レストランの会話が、次々とフラッシュバックする。

そっかぁ・・・、あたし、キスしちゃったんだ・・・。

右手の人差し指で、自分の唇に触れる。
これまで父親を含めたいかなる男性も触れたことのなかった部分を、会って半日もたたない男に許してしまったことが急に恥ずかしくなったミサトは、ぽっと頬を赤らめるとまたコーヒーを口に運んだ。

あれ?
あたし、砂糖なんか入れたっけか?
・・・・・!
これ、リョウジのだ。
あちゃぁ・・・、間接キスだわ・・・。

今さらながら恥ずかしさが込み上げて来たミサトは、慌ててカップを置くと、自分のカップに全て移し変え、新しいコーヒーを入れた。
冷めたコーヒーが混ざったせいでややぬるくなったコーヒーを、クイッと一気に飲み干す。
それでも少し早くなった動悸は収まるどころかさらに激しくなって来た気がする。
洗面台に行って水を汲むと、一気に飲み干した。

「ふぅ・・・」

目の前の鏡に、うっすらと頬を赤らめた自分がいた。
鏡の中の、いつもと違う自分に問いかける。

あんた、何やってんのよ?
マジでヤル気なの?

そうよ、悪い?
今さら何言ってンのよ。
ノコノコと付いて来たのは、あんた自身でしょ?

こんな簡単に、今日会ったばかりの男と・・・。
あんた、本当にそれでいいの?

何も考えることないじゃない、減るもんじゃナシ。

そういう問題じゃないでしょ?

いいじゃないのぉ、わっかいんだからぁ♪

そりゃ、まぁ・・・。

それともあんた、バージンロードはバージンのまま歩かなきゃいけないって、そう思ってるワケェ?

そんなことは無いけど・・・。

じゃぁ、迷うことないじゃん。
ヤッちゃえヤッちゃえ!

・・・・・・・・・・うん・・・・・・

加持に警戒心を抱く心は形勢不利のまま、加持に好意を持つ心に押し切られた。
背後に気配がする。
どうやら加持がバスルームを出ようとしているらしかった。
ミサトは慌ててソファーに戻ると、自分の分も新しいコーヒーを入れて、努めて冷静な風を装った。
もちろん加持はバスルームの扉越しに、ミサトが鏡の前で悩んでいたのを知っていた。
何を考えているかまでは判らないが、初めてを捧げる相手としての自分を値踏みしているんだろうということは想像できた。
実際には、加持が相手でいいか、ではなく、シてもいいか、というレベルの問題だったのだが、そこまで判るには、さしもの「ナンパ師リョウちゃん」もまだ数年の修行期間を必要とした。

「おかえりぃ。
 コーヒー、新しいの入れといたわよん」
「お、すまんな」

ミサトの隣に座った加持は、黙ってコーヒーをすすった。
しばしの沈黙。

「なぁ」
「ねぇ」

声が重なる。

「「・・・・・・・」」

「なんだい?」
「あ、なに?」

再び重なる声。

「ミサトからどうぞ」
「リョウジからお先に」

三度重なる声。

「「じゃぁ俺(あたし)から」」

二人は顔を見合わせて吹き出した。
そして、目が合ったとたん、突然訪れる沈黙と静寂。
どちらからともなく顔が近付き、唇が重なった。

ちゅむ、ちゅぴ、ちゅ・・・。

遠慮会釈のない、情熱的で淫媚な、むさぼるようなキス。

ちゅむ、ちゃぷ、ちゅっ。

舌が絡まり、唾液が混ざり合い、吐息に甘さが混じる。

んむ・・・、ちゅ、・・・んはぁ、ちゅむ。

やがて唇が離れると、とろんとした目で見あげるミサトが、囁くように言った。

「あたしたちって、相性ぴったりなのね」

加持は言葉の代わりに、再びキスで答えた。

んむ・・・・、ちゅっ。

そのまま体重をあずけ、覆い被さるようにソファーに押し倒す。

「あ、やん、・・・ベ、ベットで・・・、ねぇ・・・」
「わかった・・・」

加持は優しく微笑むと、ミサトの背中と膝の裏に腕を回して、すっと抱えあげた。

「あは♪
 これ、一度やってみたかったんだ」

嬉しそうに言うと、その細い腕を加持の首に巻き付けた。
ふかっとした感触が加持の胸をくすぐる。
シャンプーの甘い香りが嗅覚に信号を送った。
それは脳にあげられ、背筋を通って体の中心に血液を送る。

あ、これって・・・。

尻に当たる感触に、ミサトは戸惑いの表情で頬を赤く染めた。

とさっ、ふわっ。

そっとベットに降ろされると、軟らかな羽毛と心地よいスプリングの感触が背中にあたる。
加持は、改めてミサトの上に覆い被さると、唇を奪った。
その日何度目になるのか、もう数えられない。
蕩けかけた頭の芯に、加持の手がバスローブのベルトを解く感触が伝わって来た時、ミサトの体が硬直した。

「ま、待って!
 お願いっ、電気消してッ!」
「恥ずかしいのかい?」

そんな加持の優しい態度も、ミサトの固さを溶かすことはできなかった。

「ちがうのっ、あたし、あたし・・・」

その必死の声にただならぬ物を感じた加持は、手を伸ばすと枕元のスイッチで照明を落した。
ほの明かりだけがぼんやりと2人を浮かび上がらせる。

「これで、いいかな?」

こくん。

かすかに頷きが返って来た気配に、加持は再びバスローブのベルトに手を伸ばした。
ミサトの体が、今度は羞恥と緊張で固くなる。

「大丈夫、力を抜いて」

耳元に優しく甘く囁きかけられると、ミサトはそれだけでも蕩けそうな気分になった。
ベルトを緩めた加持の手が、そっと裾にかかり、体の線をなで上げるように触れながら、徐々に徐々にはだけていく。
胸を通過した手が、そのまま肩にかかる。
肩のまろみ。

「ふぅん・・・」

鎖骨の窪み。

「は、ふぅ・・・」

首筋。

「あっ、んう・・、は・・・」

うなじ。

「んふ・・・・」

耳の裏側。

「あんっ、はぁぁ・・・・」

一ヶ所一ヶ所、反応を確かめるように指がそよぐ。
そのたびに吐息が漏れ、自然と声が上がる。
髪をすくように撫でられただけで、暖かい物が心を満たす。

ちゅっ。

唇が合わせられ、舌が吸われる。
きゅっと唇で挟まれ、歯で甘咬みされ、ちろちろと嬲られる。
舌先から、体の芯に向かってしびれが広がる。
高ぶった神経が、両手でシーツを握らせる。
思わず擦り合わされる膝に、内股に、熱がこもる。

「ん、はぁっ・・・、あん」

舌が解放されたのも束の間、それが顎を通って、首筋に吸い付いた。
きゅっと吸われたところに血が集まり、くっきりと印が刻まれる。

「あはっ、やん、跡がノコるゥ・・・」
「かまうもんか、みんなに自慢してやればいいじゃないか」
「やん、ばか・・・」

甘い響きの抗議を無視されてさらに吸われると、ミサトはたまらない気分になってきた。
加持の動きに合わせて、厚い胸板を覆ったバスローブの柔らかな生地が擦れ、豊かな双丘の天頂にある薄紅色の突起は、既に固くしこっている。
そこから発生する電流が、甘く淫猥に脳を溶かす。
再び唇を吸われたまま、手が膨らみに触れたとたん、ミサトの体が跳ねた。

「あひっ!
 はっ、あっ、はぁうんっ!」

鋭い叫び声をあげ、体がぴくぴくと震えた。
ぐったりと力を抜いた後も、荒い息をしている。
どうやら、胸に触れられただけで達してしまったらしい。

「可愛いよ、ミサト」

ちゅっ。

軽く触れるだけのキス。

「ん、はぁっ、はぁっ、やん、ばか・・・はぁっ」

これまで、興味本意で触ったことはあっても、本格的な自慰すら経験の無かったミサトには刺激が強過ぎたようだ。

「あんっ!
 ちょ、やだ!
 あん!」

唇から顎、首筋、鎖骨と下がって来た唇と舌が、胸の谷間を通ってみぞおちに達する。
薄暗い照明のせいでそれまで気がつかなかったが、加持の舌に違和感が感じられた。

ん?
引きつれ?
ケガの、あとか・・・?

興味を覚えた加持の手が、そっと胸の下をくすぐり、皮膚の違和感をなぞる。
左の膨らみの下から、臍の辺りまで、長く大きな傷痕がある。

「や、そこはいやぁ・・・」

力ない抗議に、かすかに悲しみの色が混ざる。

そうか・・・、コイツが原因か・・・。

加持は掌をぴたっと付けると、マッサージするかのように傷痕を優しく摩った。
その暖かな感覚に、ミサトの緊張がいくぶん解ける。

「だから明りを?」
「そう・・・。
 あたしが、あの時南極にいた証拠なの、それが・・・」
「こんなの、気にしちゃいけないな・・・。
 あの時を経験したみんな、何かの傷を持ってる。
 俺だって、人に言えない経験をたくさんしたさ。
 でも、俺達は生きてるんだ」

優しく、しかし重く、ミサトの心に染み透る言葉。
ミサトにはそれが、何か懐かしく、暖かい響きをもって迎えられた。
しかし加持は、全く別のことを考えていた。

南極?
南極だって?
どういうことだ?
あの時のあの場所にいたっていうのか?
これは、調べてみる価値があるな・・・。

そんな思惑を知らないミサトは、加持の言葉に素直に感動していた。

「リョウジ、優しいのね・・・」

ミサトの頬を伝う光る物に、加持はそっと唇をはわせた。

「ん・・・」

固さの抜けたミサトに、加持は優しく囁きかけた。

「ミサトの全てが見たい・・・」

少しの沈黙・・・。
しかしミサトは、意を決したように小さく頷いた。
加持の手が照明のスイッチにかかる。
ぱっと灯ったオレンジ色の明りに、加持は眩しそうに目を細めた。
ミサトは、羞恥に顔を押さえている。

「あんまりみないでぇ・・・」

きらっと輝くやや紫がかって見える黒髪、優美なまろみを帯びた肩、女性特有の優しげなラインを描く細い腕、文字どおり白魚のような手の指、仰向けに寝てもなお天を衝く豊かな双丘、なだらかなカーブを描くボディーライン、美しく張り出した腰、楚々とけぶる下生え、餅のように軟らかそうな太股、無駄なく張り出したふくらはぎ、きゅっとしまった足首、可愛く伸びた足の指。
頭のてっぺんからつま先まで、一切の無駄なく配置された全てが、神々しく輝くように加持の目を射る。

「奇麗だよ、ミサト・・・」

腹部を斜めに走る白い傷痕すらが、美しく、愛おしく見えた。
その瞬間加持の頭から、これまで肌を合わせた全ての女性がかすれ、ふき消えて行くのを感じた。
ただのナンパのはずが、加持はこの瞬間に一目惚れにも似た衝撃で、ミサトにぞっこんになってしまったのだ。
腕を通したままかろうじてまとわりついていたバスローブを、ミサトの体から剥ぎとる。
自分の着ていたバスローブの紐を解くと、そのまま脱ぎ捨てて改めて覆い被さった。

「ん・・・、はぁ・・・」

されるがままになっていたミサトが、加持の体重と肌の暖かさを感じて吐息を漏らす。
首筋に加持の吐息がかかると、ミサトはくすぐったさに身をちぢこめた。

「はうんっ!」

首筋をついばまれ、鎖骨の窪みに舌を這わされ、美しい裸身が桜色に染まる。
加持の手がわき腹からそっと流れると、乳房にかかった。

「あうんっ!
 ひっ、あ、あん!」

ゆっくりとこねるように揉みしだかれ、先端の突起を転がされる。

「敏感なんだね」
「やん、あ、いわ、はぁっ、ないでぇ・・・」

途切れ途切れの声も、加持には愛の囁きにしか感じられない。
行為の主導権は加持が握っていたが、精神的には既に、加持は完全にミサトに溺れていた。
加持の唇が這ったあとは、ぬめぬめとした粘りときらきらとした光を放つ。
その淫媚さが、さらに神経を高ぶらせる。

ちゅっ。

「ひゃうあっ!
 ひあっ!」

胸の頂きが吸われた瞬間、ミサトの腰が跳ねた。
一度頂に追いやられた神経が、再び急激なカーブでかけ上がろうとする。

ちゅっ、ちゅむ、ちゅぱ。

「あ、あ、あは、あん、だめ、いや、あ、あん、も、もうっ、あたしっ!」

なにもかんがえられない、だめ・・・。

「いいよ、思いっきりイッちゃっても」
「はん、あん、やだ、だめ、は、あ、あ、ひっ、あ、あひぃ〜〜〜〜〜っ!」

再び絶頂を迎えたミサトの体が、歓喜に打ち震える。
荒い息をつき、髪を振り乱して悶えるミサトを、しかし加持は容赦なく攻めたてた。

「ぐひぃ、だ、そ、そんなぁ、だ、めぇ!」

乳房をきゅっと握り、突起を押しつぶすように押し込む。
唇が頂を離れ、みぞおちから臍へと流れる。

ちゅるるる。

わざと音を立てるように傷痕をなぞると、ミサトの反応が変った。

「ひゃうあんっ!
 いやぁっ!」

嫌悪とコンプレックスの対象だったはずのそこから涌き出す感覚に、ミサトの心が崩壊寸前まで追い詰められる。

「ひぃっ、いや、いや、いやぁっ!」

加持は傷痕の中央に吸い付いたまま、指で左右の乳首を捉えてきゅっとつねりあげた。

「ひ、ひぁ、や、ま、またぁ、あ、はん、はぁ、ああああああぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

3度目の、そしてこれまで最大の絶頂に、ミサトの精神がふっ飛んだ。

ぷしゅ、しゃぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っ。

股間から、暖かい液体が吹き出す。
あまりの快感に、失禁してしまったらしい。
くたっとして無反応になってしまった体を抱いて、加持は優しく抱えあげると、バスルームに運んでやった。
バスマットを敷いてそっと横たえると、シャワーを浴びせてやる。
しばらくして、ミサトがうっすらと目を開ける。

「あたし・・・」
「素敵だったよ」
「どうしちゃったの?」
「ちょっと刺激が強かったかな?
 イッちゃって、失神したみたいだね」
「しっしん・・・」
「最後のが一番感じてたぜ」

そう言って、傷痕にそっと指を這わせる。

「やん・・、うそ・・・」
「嘘じゃないさ。
 ここが、一番素敵だったよ」

その一言で、ミサトのわだかまりが音を立てて崩壊した。

「あたし・・・、これが素敵なんて、思ったことなかった・・・」
「これからは、素敵な場所の一つになるんだ」

加持は優しく微笑んでやった。
ミサトも、つられて笑顔になる。

「でも、どうしてバスルームにいるの?」
「最後に、ちょっとね・・・」

加持は目を泳がせると、ぽりぽりと頬をかいた。
下腹部の妙な身軽さに、ミサトは理由を思い至った。

「まさか、お、お漏らし?」

加持はこくっと小さく頷く。

「やだ、あたしったら・・・」

真っ赤になって俯くミサトに、加持はそっと囁いた。

「湯船に入らないか?
 カゼひきそうだよ」

肩にあたる加持の体が冷えていることに気がついたミサトは、元気に頷いた。
ミサトが髪の毛をタオルで巻いている間に、加持は掛かり湯をして湯船に漬かり込んだ。
ミサトも広い湯船に入った加持の膝の上に乗るように漬かると、背中をあずけてもたれ掛かった。
お尻の谷間に、こつんとした感触。

「リョウジ、もしかして、まだ・・・」
「いいさ。
 ミサトが気持ちよくなればそれで、ね」

振り返って聞くミサトに、加持は静かに言った。

「だめよ、あたしだけなんて・・・」
「気にするなよ。
 それにベットは・・・」

自分の粗相で使い物にならなくなっていることを思い出したミサトは、真っ赤になった。

「じゃぁ、ここでしてあげる」

経験は無いが、雑誌などで見た知識はある。
ミサトはくるっと向きを変えると、おずおずと手を伸ばす。 お腹に触れんばかりに反り返った固いモノに手を這わせて、きゅっと握った。

「おうっ」
「あ、ごみぃん・・・、痛かった?」

恥ずかしげに上目使いでみあげる表情が可愛くて、加持は静かに首を振った。

「いや、良過ぎて・・・」

ずっと主導権を握っていた加持が、照れたように目線を泳がす。

「よぉし」

獲物を見付けた子猫のような目つきになったミサトは、握った手を軽く上下させた。

「ん、ちょっと待て」

加持は体を浮かすと、湯船の縁に腰掛けた。
ぶるんと震えながら、加持のモノが全貌を顕す。
お湯の中で見たそれとは異なり、太い幹と赤黒い傘が、はっきりと目に飛び込んで来る。

「ひゃぁ・・・」

しかしミサトは、グロイとか気持ち悪いという感覚ではなく、初めて見たモノに素直に感動していた。

「こんなになってるんだ」

あらためて手を這わせると、そっと握った。
脈動がはっきりと感じられるソレを、そっと上下に擦る。

「ん・・・、お・・、いいよ、そう」

加持の声がかすかに上ずる。
気を良くしたミサトは、もっと大胆に手を上下させながら、もう一方の手を幹の下にぶらさがった袋に這わせた。

「おぉう」
「あは♪
 これ、おもしろぉい」

触られた快感にむにょっと動く中のカタマリの感触に、ミサトは無邪気にはしゃいだ。

くいっ、こりっ。

「ぐ、こ、こら・・・」
「あ、痛かった?
 ごみんごみん」

袋に這わせた手の力をゆるめる。
それでも幹と袋の二点攻撃に、加持の息が荒くなる。

「ん、なにこれ?」

先端から透明の粘液が垂れて来る。
逸り水とか先走りとかいわれているモノの名前は知っていたが、目の前のそれがそうだということは解らなかった。
幹を握った右手に付いたそれを口元に運ぶと、ぺろっと舐めてみた。

「しょっぱい・・・」
「おいおい」
「大丈夫よん♪
 だって、ほら」

にこっと微笑んだミサトは、何の躊躇いもなく先端に溢れる液体に舌を這わせた。

「おぅっ!」
「へへへ、こういうのが気持ちイイんでしょ?」
「あ、あぁ」

その積極性に驚きはしたものの、我慢の限界が近付いていた加持は、されるがままにしていた。

ぺろ、れろ、ぺろっ。

アイスキャンディーに舌を這わせるように、先端から傘の縁にかけて嘗め回すミサトの舌使いは絶妙だった。

おぉ〜、いい。
本当に初物かよ・・・?

そんな戸惑いはおくびにも出さず、加持は快感に身を委ねた。

「はぁ、はぁ、いいぞ、ミサト」
「んふ♪」

可愛く笑ったミサトは舌を幹に這わせると、そのままぱくっと横からくわえ込んだ。
歯を当てないように気を使いながら、ハーモニカを吹くように上下に滑らせると、唇と幹の間から溢れた唾液が糸を引く。

ちゅ、ちゅるる、ちゅぱ。

左手はあいかわらず袋をまさぐり、右手の指が口の代わりに先端をぬるぬると這い回っている。

にゅる、にゅ、にちゅ。

唾液と先走りでぬるぬるになった先端から、卑猥な水音がする。

「んくっ、はぁ、はぁ、おうっ」

コケティッシュな笑顔と、その幼さに釣り合わない均整の取れたプロポーションの美女。
その口が、手が、自分のモノを愛撫している。
例えようのない快感と興奮に、加持は既にまともに喋れないほど高ぶっていた。
ミサトはいよいよ最後の追い込みにかかるべく、雑誌とバナナで練習した最後の行為に取り掛かった。

ぱくっ。

「はうっ、ミ、ミサトっ」

先端を大きくあけた口に含むと、裏側の筋や先端の膨らみに舌を這わせる。
加持の腰が小さく跳ねた。

じゅ、じゅる、ちゅっ、じゅっ、じゅっ。

「おぅっ、くはっ」

加持の溶けかかったような声に気を良くすると、そのまま絞り込むように口をすぼめ、中身を全て吸い出すような勢いで首を上下させる。
時折長い髪が絡むのを掻き上げる仕草も、加持の神経を直撃した。

じゅる、じゅぽ、ちゅ、ちゅるる、じゅ、ちゅぴ、ずるっ、じゅる。

「う、く、お、お、はぁ、いい、いいぞ、そうだ、いいぞっ!」

タイル張りのバスルームに、ミサトの口から発する粘っこい水音と加持の荒い声だけが響く。
加持は、思わずミサトの頭をきゅっと掴んだ。
それを絶頂間近の合図と受け取ったミサトは、さらに上下させるスピードを早めた。

じゅっ、じゅっ、じゅっ、じゅっ、じゅっ、じゅっ、じゅっ、じゅっ。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、も、もう、だめだ、で、出そうだっ!」

上目づかいのミサトは小さくこくんと頷くと、その一瞬だけ止めた上下動を再開した。

じゅっ、じゅっ、じゅっ、じゅっ、じゅっ、じゅっ、じゅっ、じゅっ。

「はぁ、はぁ、はうっ、はぁ、お、お、おうっく、ミ、ミサトっ、イクぞっ!」

ずびゅっ!

最初の迸りが喉を直撃しても、ミサトは上下動を緩めなかった。

びゅっ、びゅる、ずびゅっ!

んぐ、こくっ、こくっ。

次々と噴出する精液を、何の躊躇いもなく飲み込む。
その光景が加持をさらに刺激し、勢いを付けて精液を吹き出させた。
まるで全てを吸い取って飲み込もうとするかのように、ミサトは射精が収まったモノをなおも吸い続けた。
やがて何も出て来る物がなくなったと感じたミサトは、ちゅぱっという音をさせてモノから口を放した。

「んふ。
 リョウジ、いっぱい出たね」
「はぁ、ふぅ・・・、すごく良かったよ」

荒い息のままの加持は照れたように微笑むと、ミサトの頭を撫でてやった。

2人はもう一度湯に漬かると、充分に暖まってからバスルームを出た。
その頃には簡易洗濯乾燥機に入れておいた服も仕上がっていた。

「出ようか」
「いいの?」

上目使いにうかがう。

「いいさ。
 それより、今から俺のアパートに来ないか?」
「ほんとっ?」

ぱっと顔を輝かせて飛びつく。
その後2人は1週間に渡って大学に来なかった。


=====続く=====




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中昭のコメント

  J.U.タイラーさまから頂きました。ありがとうございます。



こめんとはまた後ほどです


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