最後の使徒、渚カヲル。人類補完計画。戦自の侵攻。そしてSEEREの白いエヴァ・・・・。全てが終わった時、僕には何も残らなかった。時間はとまっていた。父さんは行方不明、ミサトさん、リツコさん、日向さん、ほとんどのNERVのメンバーはもうこの世にはいない。唯一生き残ったのは、僕と弐号機に乗せられていたアスカ、副司令の冬月さん、そしてオペレータのマヤさんと青葉さん。エヴァは僕が自分の存在を否定されたかのように壱号機、弐号機、量産機、そしてアダムは存在していなかった。
その後、UN(国連)や日本国政府の軍事介入によりNERVは解体され、呆然とした僕とアスカは保護という名目において、UNの監視下におかれた。やはりエヴァがなくなった今でもそれを制御出来るパイロットと言うのはそれなりに危険視されて当然だろう。
今、第三新東京市は復旧の目処が立っておらず、僕らは第二新東京市(旧松本市)に住んでいる。住んでいると言っても、僕は学校の側の寮で一人暮らし、アスカは第壱拾伍使徒の精神攻撃によって心が崩壊したまま今も入院している。今はお互いに離れ離れの生活・・・・・。
今の僕の日課は、朝、お弁当を二つ作り学校が終わった後、アスカの入院している病院に行って、アスカの身の回りの世話をしている。アスカの事だけは看護婦さんに頼んで学校に行っているとき以外は殆どのことを僕がやっている。何故僕がやっているかと言うと、他の人がやるとアスカが異様なほど脅えてしまうから、事実、精神崩壊といっても意識はしっかりあるようで以前から知っている僕がやることにはアスカも何か感じるようだ。それでも彼女は未だに感情は感じられない。
この一年で色々なことがあった。その後、冬月さんがUNの所属になったお陰でマヤさんと青葉さんもNERVからUNに転属され、今現在の僕らの生活を支えてくれている。最初の頃は見張りがいて行動の制限があったり嫌な感じもしたものの、今となっては彼らのおかげでNERVの時よりも自由な生活を送っている。そして冬月さんは僕の頼れる相談相手でもある。
そしてもう一つ驚くべきことに、今僕のいる第二新東京市立第一高等学校にトウジと洞木さんがいた事にはとても驚いた。残念ながらケンスケは理系大学付属の高校に進学したためここにはいない。それでもメールでのやりとり等今でも交流は続いている。まあ、今のところ僕は普通の高校生活を送っている。ただ一つ、アスカの事の除いては・・・・。
碇シンジ、彼の朝は早い。毎朝6:00には起きている。今の彼には起こす相手・・・・・家族もいないのだが、それでも彼の生活のリズムはあの時からは変わらなかった。
『ジリリリリリリ・・・・・・・・・・・・』
目が覚めても少しの間は布団の中でゴロゴロするが、それでもいつも起きた後になる目覚し時計、これが彼の朝・・・・・。
「ふあぁぁぁ・・・・」
眠たい目を擦りながらシャワーを浴びた後は洗濯、そして朝食とお弁当の準備、それらが終わってから部屋の掃除やゴミ捨てなど、炊事洗濯をこなしている。
彼は寮で暮らしているので食堂があり料理をする必要などないのだがそれでも、と思ってか自炊をしている。
相変わらず彼は主夫をしている。
「よし。今日のハンバーグはなかなかの出来だな。」
「アスカ、食べてくれるかなぁー?」
彼の朝はいつもこんな感じで慌ただしく過ぎている。
時間の過ぎるのも早く朝食も食べ終わり、歯を磨いている頃にはいつものようにトウジの声が玄関から聞こえてくる。
あの後、トウジはこの第二新東京市で生活していた。そして偶然にも僕と同じ高校に通学、はてには同じ寮にすんでいる。
「シンジぃー、まだかー?」
「あ、御免。ちょっと待ってくれる。」
急いでYシャツのボタンを止めているシンジが
「御免、トウジ。ちょっと今日はお弁当に時間かかちゃって・・・。」
「いつも思うが、もう少し早せいや」
「もう、そんなに焦らなくてもいいじゃないか。」
少しむくれた調子でシンジは言うと。
「じゃかしぃわい!!ワシはヒカリを待たせとうないんじゃ。」
「はいはい。僕が悪かったよ。愛する洞木さんに早く会いたいんだよね。」
「そらそや。だからも少し早せい・・・って何言わすんじゃ!」
赤くなったトウジを尻目に (まったく・・・いつからトウジってこんなに変わったんだろう、いつのまにか『委員長』から『ヒカリ』に変わっているし。)とシンジは思っていた。
シンジの考えることも最もだったが、彼が左足を失った時に付きっ切りで看病 していたこともあり、お互いの気持ちを知った上でのことだからあそこまで変われたのだろう。
・・・・いつもの上り坂を歩いているときトウジが聞いてきた。
「シンジ…」
「ん、なにトウジ?」
「やっぱり今日も行くんか?」
「・・・・うん・・・・。」
「今の僕には、アスカしかいないから。それに・・アスカにも・・・もう僕しか・・・。」
「そか・・・そやな、変なこと聞いて悪かったな。」
僕は毎日病院に行くため特別に授業は午前中だけで、いつも早退している。それなりの努力があって実現したことだけれど、そのお陰もあってか、かなり勉強は出来るようになった。
坂道も上り終えてしばらくした交差点にはすでに洞木さんは待っていた。
「おはよう。鈴原。それに碇君。」
「おはようさん、ヒカリ。」
「おはよう、洞木さん。」
「それよりもどうしたの、今日は少し遅いわよ?何かあったの?」
「あっ、御免。今日はアスカの好物のハンバーグ作ってたら遅くなっちゃって。」
「ふーん、そうだったんだ・・・・・・・・。アスカもハンバーグが食べられるほどに元気になったんだ。じゃあさ、碇君、今日アスカのお見舞いに行っていいかな?」
「え、お見舞い?」
「うん!行っていい?」
「本当に?最近アスカも元気になってきたんだ。洞木さんがきてくれたらアスカも喜ぶと思うよ。」
「じゃあ何時頃に行けばいいかな?」
「そうだな、学校が終わってからだとすると・・・三時半ぐらいでどうかな?」
「わかったわ。今日は鈴原も連れて行くから。」
「うん。ありがとう。」
と、ここでトウジの声。
「もう少し早行こう。このままやと遅刻してまうで。」
「え?もうそんな時間?」
「ほら!急ぐで。」
「う、うん。」
三人の学生は学校への道を走っていった。
彼らが、残酷な、そしてあまりにも悲しい運命を負った彼がが守った街。
生きる証。
シンジが一番欲したもの。
儚い夢。
アスカの望んだもの。
生きている街の流れは時を刻む。
そして、朝の時間もそろそろ終わりを告げ今日も一日が始まろうとしている。