僕が目を覚ましたとき、何かが壊れ、そして何かが生まれたそんな感じがした。
夢を見ているとき、悲しかった。
その時、僕は泣いていた。
壊れた何かに敬愛の意を込めて。
僕は自分が何処にいるのか分からなかった。だが自分が何処にいるかなんてそんなことは、僕にはどうでもよかった。夢の中で僕は、唯一人、月を見ていた。
月は優しい光を放っていた。
僕は・・・・月を見ていた。水面に映る月を。
そして僕は思った。『アスカに会いたい。』そんな風に思いながら赤い髪の少女のことを考えている時に水面に映る影が揺れた。後ろを向いたときには何も無かった。だが何時の間にか、僕の隣に空色の髪の少女がいた。
少女の名は綾波レイ。
僕の隣に綾波が来て、こんな質問をした。
「あなたは、これからどうするの?」
僕は答えた。
「生きたいんだ、人として。」
綾波が消えると、今度はカヲル君が質問してきた。
「君の瞳には何が映るんだい?」
僕は答えた。
「今なら・・・・・僕の全てが。」
そしてカヲル君も消える。
そしたらミサトさんが現れた。
・・・・こう聞いてきた。
「シンジ君、あなたの『やること』は見つかった?」
僕は答える。
「見つかりましたよ。ミサトさん。」
ミサトさんも消えると、加持さんが現れ、僕に聞いた。
「鍵は見つけたかい?」
加持さんは問う。
僕は少し考えたがすぐに答えは出た。
「ハイ、鍵は・・・・・・見つかりました。」
そう答えると、加持さんも消え、今度は父さんが僕に語りかけてきた。
「シンジ、幸せか?」
父さんと目が合うと僕は答えた。
「幸せかもしれない、誰よりも。」
すると、父さんは最高の笑みで僕に、
「そうか・・・よかったな。」
と言って、消えた。
父さんが消えた後、何処からとも無く優しい女性の声が聞こえてきた。
「生きることは、何だと思う?」
そんな質問が為された。
そして・・・・・・僕は俯いて答えた。
「水を・・・・・・・・水を飲むこと。」
そう答えた。
顔を上げると目の前に皆がいた。
綾波が、
カヲル君が、
ミサトさんが、
加持さんが、
父さんが、
そして母さんがいた。
・・・・・・・・・・・・彼らは皆、微笑んでいた。
・・・・・誰も涙を流してはいなかった。
皆、消えてゆく。
僕には消えゆくヒト達にかける言葉を持っていなかった。
だから彼らの代わりに僕は泣いた。
彼らのために僕は泣いた。
そして・・・目が覚めた。
僕の周りには、青葉さん、マヤさん、トウジに洞木さん、そしてアスカがいた。皆一様に、僕のからだを心配してくれた。7日間も寝ていてたらしく、最初の2日間は危篤状態で何時死んでもおかしくなかったらしい。僕は皆にお礼を言って、心から感謝した。
・・・・そして、アスカと目が合ったとき、何かが生まれた。
皆は気を利かしてくれたのか、部屋にはアスカと僕が二人きりになった。
僕たちは長い時間見つめ合ったままで過ごした。
その日は風が強く、窓を開けていたのでカーテンが激しく揺れていた。
風の音が見えたような気がする。
どれくらいの時間が経ったのかは分からなかったが、アスカが微笑んだように見えたとき、僕は自然な形でアスカに伝えた。
「ありがとう」と・・・・・・
その日、アスカはずっと微笑んでいた。
その夜、月を見たときに、僕は消えていったヒト達に伝える言葉が見つかったような気がした。