学校をサボった。

 深い意味などはまるっきり無い。

 何となく、そんな感じだ。

 まぁ、敢えて理由を挙げたとするなら、晴れているから。

 良い天気、こんな日に学校に行くのが勿体無いと感じたから。

 それともう一つ、寝坊。

 いや、違うな。

 僕の目覚し時計が鳴らなかったからだ。

 午前十時。

 既に授業は始まっている。

 

 

 

 

 

泡沫の風
 
四話「幼馴染」
 

 

 

 

 

 自然な目覚めだった。

 起きて直ぐにあれ?っと思った。

 ボーっと天井を見ながら、アスカが起こしに来なかったのかと思い適当に目覚し時計へ視線を向けて見る。

 僕は時計の時間を見てちょっと驚く。

 時計の針は短いのが『10』を指している。

 そして重なっていて長い方も『10』を指していた。

 一瞬今日は休みだったかな?と思いながら今度は電子カレンダーを見る。

 日曜でなければ、土曜でもないと言う事は今日は平日だ。

「何だ?あってるじゃないか…」

 と、ポソっと呟く。

 ちなみに、僕の頭の傍にある目覚し時計は勿論の事、自分でも気付かぬ内に機能停止しただろう事は言うまでも無い。

 その直ぐ様、

「あ〜、判った。アスカが寝坊したんだ」

 と、思うと僕はここぞとばかりに布団に潜り込む。

 当然の選択といった所か。

 折角、何時もの五月蝿いのが起こしに来ないと言うのならば、起きる必要も無い。

 僕は安らかな朝と言う最高の微温湯に浸かりながら眠りに就こうと思った、が、その時だった。

『バタン!!』

 大きな音を当ててアスカが僕の部屋に怒鳴り込んで来た。

 それはヤの付く職業の様な勢いだった。

「起きろ!こ(の)バカー!!」

 酷い言われようだ。

 そのアスカの声が部屋に響いた瞬間、ばっと布団を剥ぎ取られ、ベットから蹴落とされた。

 流石に起きる。

「痛いなー」

 と、漏らし腰を擦りながら立ち上がる。

 目の前には仁王立ちのアスカ。

 自分でもわざとらしい思ったが眠たそうに、

「あ、アスカ。おはよう」

 アスカへと適当に声をかける。

「バカ!呑気におはようどころじゃ無いわよ!」

 しかし僕の冗談にこれと気付かずアスカは凄い剣幕だ。

 これではおちおち声もかけれない。

「時間見て無いの!?じ・か・ん」

 アスカはそう言いながら時計を指差す。

「えっと…十時十五分」

 僕は答えた。

 ……チョットした静寂。

 プチっと言う音が聞こえたような気がする。

 アスカのこめかみもそれに合わせたの如く、プルプルと震えている。

「さっさと用意しろー!直ぐ行くわよ!!!」

 大声で怒鳴った後にはきびきびとアスカの声。

 僕の起き抜けの体に大きく響いた。

 

 その後は急かされる様に制服に着替え、何時の間にか用意された鞄を右手に持たせられた。

 アスカに引っ張られながら玄関を出る。

 空は素晴らしいくらい晴れている。

 こんなに良い日に急いで学校なんか行くなんて勿体無いと思い、アスカに、

「どうせ授業始まってんだからさ、もう少しゆっくり行こうよ〜」

 と、漏らすしたが、アスカには無視された。

 引っ張られながらちょっと虚しかった。

 でも、引っ張って貰っているから楽で良いなぁ〜、なんて思ってたら、

「あんたね、何時まで引っ張らせるつもりよ」

 そう言ってアスカが僕の手を振り払った。

 でもこれでゆっくり行けるか、それなら良いか。

 と、呑気な考えをしていたら、アスカの声になのか、僕ら事体へなのか、良くは判らなかったが何かと視線が絡んでくる。

 当たり前だ、この時間に学生が歩いているなど、普通ではありえない。

 興味本位の視線で見られているのが肌で判る。

 しかも、男女が一緒に歩いているのだから、尚更だろう。

 僕の方はそんなモノは何とも思わないのだが、アスカは耐え切れずに、申し訳なさそうに歩いている。

 そこまで道の端っこを歩く事も無いのに…。

 

 それにしても、良い天気だ。

 自分でも呑気だと思った。

 

 流石にこの時間、もう十時前なのだが、何時もの登校時間とは異なり、街は活気付いてきている。

 そう、何時もの時間では閉まっているいる店も、この時間ではもう開いていると言う事だ。

 僕の行き付けの本屋も例外では無い。

 …ん?

 って今日は何時も買っているマンガの発売日か、どうしよう…買って行くか?

 と、思い時計を見ると既に十一時より十五分前。

 三時間目も間に合わないなら、今日はもう学校に行くのを止めよう、と決めた。

 即決。

 考えるも無く、僕は三時間目には間に合わないと決め付ける。

 そして決めたと同時に僕は本屋に入る。

 この時、既に僕はアスカの事を忘れていた。

 後ろから声が聞こえて来た。

「ちょっと!あんた、何やってんのよ!」

 アスカが握り拳を作って僕に叫ぶ。

 最もである。

 何せ遅刻していて本来は急ぐべき筈なのだから。

 それが判ってはいるが僕は、

「何って、本屋」

 と、本屋の方を指差してアスカに言う。

「そう、本屋に行くのね。……じゃなくて!何で突然本屋に入るのよ!」

 アスカもなかなかのボケ上手だ。

 それは良いとして、僕はちょっと考えてから、

「買いたかったから」

 と、言う。

 当たり前だ、買いたいから買う、それだけだ。

 無論考えると言うのは振りであって、こんな台詞は考えた台詞とは言える訳も無い。

 そんなふざけた台詞にアスカは、ハァーとため息を吐きながら、

「私達は遅刻してんのよ!」

 と、怒りながら言う。

「うん。判ってる」

 アスカの質問を当たり前の様答える。

「じゃあ何で?」

 アスカには僕の考えている事が判らないらしい。

「もう三時間目の授業には間に合わないと思うし、それに今日は何時ものマンガの発売日だから」

 アスカはもう好きにして、と言わんばかりに肩を落としていた。

 僕はその隙にさっ、と本屋の中に入っていったのは言うまでもない。

 アスカが追ってくる様子は無かったので、学校に向かったのだろうと思った。

 

 本屋で買ったのは、先程の雑誌二冊と、面白そうに感じた文庫を二冊。

 買うものも買ったので、僕は店を出ようと思い、自動ドアーの前に立つ。

 ドアーが開いた時、日光を遮っていた筈の紫外線防止の薄暗いガラスドアーの効果が無くなって、眩しいばかりの光が僕の視界に入って来た。

 思わず目を細めて右手で視界を守る。

 そのまま空を見上げると、雲一つ無い最高の青空が広がる。

「う〜ん、よし!今日は帰ろう!」

 と、自然に口から出てきた。

 自分でも余りに自然に出てきて、この選択はちょっと考えてしまった。

 でも本当にこれは名案だと思った。

 結果は、帰ることに決めた。

 視界を戻して、帰ろうと思った時、僕の視界の中に影が写った。

 人の形をしたそれは、声を上げる。

「えっ!あんた帰る気!?」

 ん?……アスカ…なの?

 アスカがいる、学校へ行ったんじゃないのか?

 そのアスカの表情は『あ〜あ、遂に言っちゃったわね。アイツ』って顔だ。

 まぁ、アスカの言いたい事も判るんだけどね…。

 アスカの台詞の意味は、『僕はこうと決めたら趣旨を変えない』事を指している。

 今回は、今日はもう学校に行かない、と言う事だ。

 

「アスカ、待ってたの?」

 僕は意外そうに聞く。

「あ〜ん〜た〜ね〜。待ってて上げたのにその言いぐさは無いでしょ!!」

「…まぁ、……そうかも」

「そうかもじゃなくて、そうなの!!」

 頭を押さえてアスカが言う。

「は〜、もう好きにして…」

 今度のアスカは声に出して言う。

 僕も、そう言う事ならとばかりに、さっきとは逆の方向へ、帰る方向へと歩を進める。

 すると、アスカが僕を追って来た。

「ちょっと!待ちなさいよ!!」

 なんでアスカまで来るのかな…と、アスカは学校に行くとばかり思っていたのか、そんな風に思った。

「アスカ、学校はあっちだよ」

 アスカに言う。

「忘れ物よ!!」

 と、アスカに怒鳴られた。

 何で僕が怒鳴られないといけないんだろうと思った。

 一応、そんなに怒ると皺になるよ、と言おうとした。

 勿論止めたけど。

 まぁ、そんな事は一瞬にして忘れさったんだけど。

 折角良い気分で帰ろうと決めたのだからそんな事は忘れた方が良い。

 生きとは違い遅い朝の陽射しを満喫しながら僕らは家へ帰った。

 途中、もう一度アスカに学校の事を聞いたが何故か無視された。

 アスカもサボる気かな?

 

 

 ゆっくりと時間をかけて僕は帰った。

 別段急ぐ必要なんて何も無かった。

 どうせ今日は休日なのだから、と日向ぼっこでもしようかと公園に入ろうか、なんて思ったくらいだ。

 実際は制服を着ていると言う事もあって、公園に入るのは流石に止めたけれど…。

 それにしてもアスカだ、忘れ物と言った割には急いでいる様子などどこも感じられない。

 寧ろ僕に付き合ってくれているようだ。

 まぁ、僕はアスカが焦って帰ったとしてもそれに付き合う気などは毛頭なかったのだが…。

 

 歩いている時間、僕は適当に今日の、これからの予定でも考えていた。

 予定と言える程のモノでは無いが、これから家に帰ってからする事、それはさっき買った本を読む事。

 決めている事と言えばコレくらい。

 本当の所はサボっている訳で、外に出る訳もいかず家でどのように、突然の休日を過ごすかを考えると、本を読む事が一番妥当な線だと思えた。

 あ、そうそう、もう一つ決めていた事がある。

 本を読む場所はベランダだと言う事。

 こんなに良い天気なのだから、外の風に当たりながら本を読もうと思った。

 …

 …

 前々からやってみたかったって言うのが本音だけれども…。

 

 それから、アスカとも少し話をしていたが何時の間にか家に着いていた。

 いやに早く着いたとは思ったが、それでも時計を見ると、何時もの二倍はあろうかと言える時間がかかっていた。

 二人とも家に着くと、それぞれの部屋へと入っていく。

 僕は予定通りベランダへ行こうと思った。

 部屋のガラス戸を開けて、先程買った雑誌、文庫本、それと下に敷く座布団を三枚の他に新聞紙を持って出る。

 新聞紙は座布団が汚れない為の予備としてだ。

 家で新聞紙なんてテレビ欄を見るだけのモノと化しているから、テレビ欄だけを抜き取っておけば文句は言われ無いだろう。

 時計を見ると十一時半、太陽はマンションの裏側へと移動しつつある。

 屋根の当たりが一番暑いだろうか?

 適度に当たるくらいのの日差しが気持ち良かった。

 それに雲が無い割には風も良く吹いている。

 風が吹いているのはこの場所が八階という地の利も働いているが、それでも何時もよりは風も吹いている。

 最初に開いたのはマンガだ。

 やはり最初はこうでなくては、とばかりに開く。

 その後にでも文庫を読めば良いと思った。

 玄関の開く音と、閉じる音が、何処か遠くで聞こえた。

 アスカが出て行ったのだろう。

 

 

 

 

 

 マンガも読み終わり、ふぅーと一息吐く。

 風に揺れる前髪が鬱陶しいかとも思ったが、今日はそれも許してやるかと思った時、ぐーとお腹の虫が鳴いてくれた。

 それもそうだ、朝から何も食べていない。

 ちらとベッドの目覚し時計へと眼をやる。

 時間は十二時十五分。

「そりゃあ、お腹も空くわな」

 と、一人呟いた。

 

 適当にキッチンに行ってみる。

 昨日の夕飯の残り、今朝の朝食になる筈だったコロッケをおかずにカップラーメンでも食べようと思った。

 別に僕一人だから手抜きをしたって誰も文句は言わないしね。

 コロッケを電子レンジに入れ、やかんに水を入れコンロにかける。

 そして買い置きのカップラーメンの入った籠を探している時、玄関から音がする。

 誰だろうかと思って、カップラーメンの粉末スープとかやくを椀に入れてから、玄関へと足を向ける。

 途中、リビングのソファーで制服のアスカが座っていた。

 そんなアスカに僕は声をかけた。

「ねぇ、学校良いの?」

 アスカが僕をジィーっと見る。

 唐突すぎたかな、なんとなく痛い視線だ。

 …

 …

 暫しの無言。

 けれど、アスカがその沈黙を破る。

「……あんたなんかに心配されたかないけどさ、今日はあんた見てたらなんか馬鹿馬鹿しくなった、て所よ」

 アスカが答えるのも面倒とばかりに、掌をあっちへ行きなさい、とばかりにひらひらとさせている。

 ………それにしても、よく考えるとこの台詞、今の僕程似合わないモノも居ないんじゃないだろうかと思った。

 それにしても、アスカが学校をサボった理由がまるで僕の所為だと言わんとも知れず、と言った感じだ。

「何?それって僕の所為って事?」

 思わずそんな事を口走る。

「そう言ってんのよ。判んなかったの?」

 アスカの無茶苦茶な言い様に答え様が無くて、

「はいはい」

 と、僕は最後にそう言って、キッチンで沸かしているお湯を理由に、リビングから離れた。

 

 箸を口に挟みながら沸いたお湯を止めて。ラーメンの椀に入れようと思った時、後ろから声をかけられた。

「ねぇ、私の分は?」

 頭の中でそれくらい自分で作れよ、と言いながらアスカにまだ封を切っていないカップうどんを投げる。

「えぇ〜!私もあんたの作ってる奴と同じのが良いのに〜!!ね、もう無いの?」

 一瞬切れそうになるが、

「じゃあ、今作ってるの上げるから、それ、うどん頂戴」

 と、言ってアスカからうどんを受け取る。

 

 結局、昼食は昨日の夕食の余りである野菜コロッケと、インスタントのきつねうどんだった。

 僕は内心楽しみにしていたフカヒレチャーシュー麺を泣く泣く諦めた。

 

 

 何だかんだ文句を言っていた割に、しっかりと食べて満足した僕は、その気分のまま、今度は文庫本を読もうと思いベランダへと向かった。

 ベランダに移動してから少し経った頃、僕の部屋にアスカが入って来た。

 徐にCDをSDATコンポにかけてベッドに座って聞いている。

 それほど気にするような事でもなかったので、声をかける事も無かった。

 けれどアスカが僕がベランダで本を気付いた様で、僕に話し掛けてきた。

「なによ、こんなとこにいたんだ…」

 僕がここにいる事事態が悪いように聞こえてくる。

 その口の悪さはなんとかして欲しいものだ。

 勝手に人の部屋に入って来ておいてそれは無いだろうと思い、

「何?何か用?」

 と、聞く。

「あ、そうそう。コンポ借してね。それだけ」

 使っておいて貸しても何もないだろうに、と思ったが別に言ってもどうにもならないだろう。

「それよりもさ、アスカは本当に学校良いの?」

 適当に話題を作って置こうと思ってこんな事を言った。

「何を今更……」

 呆れながらアスカが言う。
 
「私も面倒くさくなったって事!それで良いじゃないのよ」

 アスカがそう言うなら…、

「んー、まぁ良いか」

 と、僕は口に出して言う。

 更にアスカは付け加えたように言う。

「それにあんたの愚行も見届けなきゃいけないし」

 愚行って…学校をサボった事?

 それならアスカも同罪なんじゃないの?

「何?それ…なんかそれって凄いこじ付けのような…」

「うっさいわね!ホントにもう!」

 何を言っても無駄なんだろうな…、コレ以上は。

「はいはい、判りました。僕が悪かったですよ」

 嫌味に言ったつもりだがアスカには全然通じていないようだ。

「こんなに優しい幼馴染に感謝なさい!!」

 アスカが威張るように言う。

 けれど、アスカの台詞の中に凄く耳に残るものがあった。

 ……幼馴染。

 幼馴染、なんとなく耳に残るような、そんな台詞。

 それを言ったアスカになんとなく違和感を感じてか、僕の言い方は何だか自分でも変な感じだった。

「…幼馴染、ねぇ……」

 アスカには聞こえないように一人ごちた。

 

 

 

 その後、僕はベランダに戻って文庫本を開く。

 アスカも僕のベッドで音楽を聴きながら、雑誌を読んでいる。

 優しい時間だ。

 学校をサボると言う背徳感は微塵も感じられない。

 それよりも、そんな考えすら吹き飛ばすような天気が気持ち良い。

 それにちょっと強めの風も心地良い。

 優しい午後。

 本当に最高の午後だと感じる。

 

 

 偶にはこんな午後も良いもんだ、と思った。

 

 

 

 

 

 それから、僕は小説を読んでいる内に何時の間にか眠ってしまったようだった。

 既に空は赤く染まりかけている。

 ふと、部屋を見るとアスカも僕のベッドで眠っていた。

 

 

 

 本当に今日は学校をサボって良かった、と思った。

 

 

 

 

五話に続く


 

 後書き…かな?

 

 えっと、今回も飽きもしないで読んで下さった方、本当にありがとうございます(*^^*)

 今回は、ほのぼのでしたね…。

 前々回の後書き、大嘘でしたね(^^;

 LASとまで行かなくとも、前編通してチンタラチンタラとほのぼのチックに書いてしまいました。

 余り長くは無いのですが飽きてしまった方、すいませんでしたm(_ _)m

 もう暫くこのモードに付き合って下さい。

 もう少し時間を下さいネ。

 それと、誤字脱字・御意見・感想等がございましたら、メールでも書いて上げてください、お願いしますm(_ _)m

 また次回の後書きでお会いしましょう!!

 それではまた来週!(^^)ノ~~(←当てにならないので注意!)

 



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