誰でも眠れない夜は下らないことを考える。

夜の闇は人の思考力を捻じ曲げて行くから。

だからこんなことを考えても変だと言われる筋合いはないと思う。

 

 

そう、思うのだが、人には自由が必要なのだろうか。

だれだって不自由より自由な方が良いに決まっている。

だが人はそんな強い生き物だろうか。

「何もかもあなたの自由です。好きに振る舞って下さい。」

そう言われて人は何の戸惑いもなくそこに存在することが出来るのだろうか。

否、きっと自由の重みに押しつぶされて、自分で考え、振る舞うことの恐ろしさを知り、心は悲鳴を上げるだろう。

何故なら人は一人だから。

 

しかし人には「思い出」という名の優しい友がいる。

人はこれまで積み重ねて来た無数の思い出の中の、喜びと希望、そしてそれに数倍、数十倍の悲しみと後悔の中に埋没して生きている。

そして誰もが、辛く、悲しい思い出の方が、ずっとずっと甘く、切なく心を絡め取ることを知っている。

何故なら楽しいことを歳を経てから思い出すのは辛過ぎるから。

 

そして心の弱い人、すなわち辛い思い出と共に生きている人は、つい考えてしまうのだ。

「ひょっとしたらまだ希望はあるのかもしれない」、と。

 

そして自分もそんな弱い人間かもしれない、と思うのだ。

 

 

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