その手紙に描かれていたのはまるで殴り書きの様に書かれたその一語だけだだった。 しかし、少年は黙ってその手紙を見ながら立ちつくしていた。 「なによコレー!こんな期待させといてたったひとことぉー。 ちょっ、ちょっとシンジなに黙ってるのよー。 あ、あんた泣いてんのー」 少年の後ろからそっと覗きこんで手紙をみた少女が叫んだ。 「うるさいなー、アスカ。いいだろ、女にはわかんないんだよ、 この一言にこめられた父さんの想いが」 少年は涙を流したのを見つけられ、照れを隠すかのように言い返した。 「しかし、1時間も司令室に一人でこもって何を書いたかと思ったら 結局ひとことだけか。 不器用なところは昔から変わってないな、アイツも」 少年にその手紙を渡したその男、冬月コウゾウのつぶやきは、しかし誰にも聴かれることはなかった。 その日、少年と少女は連れだって第二東京市国連極東本部ビル内にあるネルフ司令室にやってきた。無論、冬月司令に会って二人の結婚を報告するためである。 「失礼します」 「しっつれいしまーす」「おう、君達か。待っていたよ。 久しぶりだね、シンジ君、 それにアスカ君も」 「お忙しいところすいません。 今日は...えっと...」 「いやー、いいんだよ。 ネルフの司令といっても昔と違っていまはただの閑職だからね。 実際のところ毎日ヒマでヒマで退屈していたところなんだよ」 冬月コウゾウ。国連極東支部ネルフ司令。かつて、世界にその名を轟かさせたネルフも今はもうその面影もない。はっきり言って、仕事ももうほとんどない。今、司令という大層な身分を持ったその男は週に3日だけ、国連極東本部ビルの中にあるネルフ本部フロアにやってくる。ただ時間をつぶすために。 しかたなく、新聞を読み、詰め将棋を考え、生物学の論文を読んで時を過ごす。週末が近づくと2日ほど京都に出張し、母校の大学で講義を行なう。その週末だけが、彼にとって充実した日々がおくれる至福の時であった。 「ほらシンジ、ボケボケっとしてないで早く用件を言っちゃいなさいよ。それともアタシから言っちゃいましょうか?」 「えっ、いいよ、もうアスカはほんとせっかちなんだから。 あのー、それで、今日は、あのー、 ぼっ、ぼくたちの結婚の報告をしに来ました」 「あー、そうか。うん、おめでとう」 冬月は実に嬉しそうに微笑んでくれた。心の底から喜んでくれている事がシンジ達にもはっきりと伝わっていた。 「実はもうマヤ君から聞いてはいたんだがね、とにかくおめでとう。あの苦しい日々を共に過ごした二人が結ばれてくれて私もうれしいよ。 幸せになってくれ」 「はい!」 「はいっ!」 うんうん、と嬉しそうにうなずく冬月。 「あー、そうだ。別に結婚の話とは関係あるわけではないんだがね、 まあいい機会だから。 前々からシンジ君、君に渡しておきたかったものがあるんだ。 受け取ってくれないかね」 と言って机の引き出しをあけ一通の封筒を取りだす冬月。封筒にはネルフのマークが印刷されており厳重に封がしてある。 「なんですか?」 「なに?」「うむ、碇の遺書だ。君へのな」 「いしょー!?」 「遺書、ですか、父さんの」 「ああ。あの日、フィフスチルドレンを、最後の使徒を倒した後にな。 もし次の戦いで彼が死んだら君に渡すようにと頼まれて、保管しておいたのだ。 結局、碇も私も生き延びたのでその必要はなかったわけだが、ずっと忘れていてね。 ネルフ解体の際にどこかの書類の間に紛れ込んでいたのを整理していて見つけたのだ。 いつか君に渡そうと思っていてずっとその機会がなかったが、今がいい機会だと思ってね。 無論、あいつが何を考え、深く悩んだあげくに、 どうしてああいうことをせざるをえなかったか、ということを、 君はあの時に知ったということは私もわかっているが、 これにはおそらくあの時のあいつの偽らざる心が書かれているはずだ。 だからこれから結婚し、やがて父となる君が是非知っておくべきものだと思う」 | ||
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パシャーン。 水飛沫をあげて、それは沈んでいった。 その直後、エヴァンゲリオン初号機のパイロット、碇シンジは絶叫した。 「何故なんだ、何故なんだカヲル君。 僕のことを好きだって言ってくれたじゃないか。 どうしてなんだ、カヲル君。 なんで僕たちは殺しあわなきゃいけないんだ、 答えてよ、カヲル君。わーーーーーー」 「シンジ君、よく聞いて、彼は使徒だったのよ。 これは仕方のないことだったのよ。 使徒と人間は共存することはできないの。 だからこれも運命(さだめ)だったのよ」 (運命、か。あまりこの言葉好きじゃないいのよね) いくらシンジを宥めるためとはいえ、ミサトはどうしても自己嫌悪を感じざるを得ない。 「うっ、うっ、なぜなんです、どうしてなんです、ミサトさん。 どうして使徒と人は一緒に生きていけないんですか。 彼は、カヲル君はいい人だったのに。 僕の話を聞いてくれて、僕の事を好きだって言ってくれたのに。 うっ、うっ、うっ、 彼は最後の時、僕に微笑んでくれたんだ、 僕に殺してくれって言ったんだ。 うっ、うっ、どうして、どうしてなんだ、カヲル君、カヲルくーーーん」 (そう、そうだったの...、って) 「ちょっと、シンジ君、シンジ君。 落ち着いて、落ち着くのよ、シンジ君」 だが、初号機のパイロットはもうただ絶叫するだけで返事をしなくなった。 「初号機パイロット、脳波に乱れが生じています」 「脈拍、呼吸にも異常発生」 「落ち着いて、落ち着くのよ、シンジ君。 シンジ君。聞いているの、シンジ君」 「だめです。完全に我を失っています」 「ATフィールドです!しかも強い!」 「もう一体の使徒?モニターは?」 「モ、モニターは生きています。 ATフィールドの発生源はエヴァ初号機、シンジ君です。 強さだけなら先程の使徒のものを上回っています」 「ふー。殺してやる、殺してやる、殺してやる。 みんな死んでしまえばいいんだー」 モニターに映るシンジの瞳に冷たい狂気の光が走る。 「マヤ、シンジくんにしかるべき処置をとって。お願い、急いで」 「LCLに精神安定剤注入。準備できました。注入、開始します」 「だめです、注入できません」 「初号機の内部電源、あと1分12秒残ってます」 「エントリープラグ強制射出。急いで。 誰かシンジ君を助けに行って、早く!」 ミサトは叫ぶ。 「射出できません。コントロール信号が拒絶されています!」 「どうして?日向君、LCLの圧力を限界まで上げて」 「LCL圧力あげます。1、1.5、2、2.5・・・・」 「駄目です。モニターはできますが、こちらからの制御を一切受け付けません」 「どういうこと?まさか、使徒に?」 「いえ、パターンはセピアです。初号機に異常は見られません」 「ATフィールド依然増大中!」 「初号機の内部電源、あと38秒」 オペレータ達の叫び声が飛び交う発令所とは裏腹に、 それを見下ろす司令席の二人は、落ち着いているように見えた。 「いかん、このままでは!」 「ああマズイな、ここでサードインパクトを起こしては」 だが小声で話すその会話からは、彼らも動揺している事がうかがえる。 「ダミープラグ、起動。いえ、起動しません」 「拘束具が、外れていきます!」 「活動限界まで、あと15秒」 「神経接続強制解除、だめです、解除できません」 「オメガユニット、作動不能」 「内部電源、あと5秒、4、3、2、1、切れます! え、いや、初号機、依然活動中」 (S2機関ね、まずいわね) エヴァ初号機に稼動時間の制限が無くなった時、 零号機を失い、そして弐号機も使えない今のネルフに、 それを止める力は無かった。 「シンジ君、シンジ君。シンジ君!」 (叫ぶことしかできないの?今の私には) 「あ、シンクロ率上昇中。えっパルス逆流! シンクロ率120%突破します、 まだ上昇しています」 (初号機がシンジ君に干渉しようとしているの?どういうこと?) ミサトの内なる疑問の声に、答られる者はいない。 「しょ、初号機、静止しました」 「シンクロ率、200%で安定しています」 「ATフィールドは?」 「いえ、ATフィールドは今はもう消えています」 「パイロット生命活動に異常無し。興奮状態が沈静化していきます」 「初号機、活動停止。完全に沈黙しました」 「パイロットは気絶しているようです」 「あっ、エントリープラグ、排出されます」 「誰か!いえ、私が行くわ」 「えっ、でも。あそこは...」 ターミナルドグマに通ずる通路は全て物理的に閉鎖されている。 普段でもコードがなければ入れないし、たとえあったとしても今は...。 そう、マヤが言おうとした時、 「その必要は無い」 上の司令席から静かな、しかし重々しい声がした。 一同、静まり返って司令の次の言葉を待った。 「レイ、聞こえているか」 「はい、碇司令」 ターミナルドグマの音声モニタから聞こえてくる少女の声。 「ただちに初号機パイロットを回収。 その後、弐号機を再起動して初号機をケージに移動せよ」 「はい、わかりました。碇司令」 (ちょっと、何でレイがそこにいるの。 それに何で司令はレイがいることを知っていたの。 ATフィールド! まさか、レイが! ということは、まさか、まさかレイも使徒だっていうの? そんな!でも、それしか考えられないわね。 いったいどうなってるの?) ミサトの頭の中を、さまざまな考えが駆け巡る。 「冬月、あとは頼む。 それと、あとで司令室に来てくれ」 「ああ」 一時間後、司令室に入る冬月。 「冬月だ。碇、入るぞ」 「どうぞ」 「シンジ君だがね、先程目覚めたとの報告が病院の方からあった」 「そうですか」 「特に精神に問題は見られない。 むしろ今は落ち着いている様に見える、ということだ」 淡々と現状報告を済ませてから、副司令は声を潜めて問うた。 「やはり、アレはユイ君だったのか?」 「ええ、多分そういうことでしょう」 「で、シンジ君だが、これからどうする」 「取り合えずは病院で様子を見ます。 あとは今まで通りに。葛城君にまかせます」 「いいのか、碇」 「問題ありません。むしろ知らない方があの子にとっては幸せでしょう」 「だが、おまえはどうなんだ。それにユイ君は」 「ああ、冬月先生、これを預かっていて下さい。 そしてもし、私が死んだらシンジに渡してください」 (冬月先生、か。久しぶりだな、碇にそう呼ばれるのは。 死ぬ気か、碇) と思いながらも声には出さず、碇ゲンドウの手元を見る。 そこにはネルフのマークが描かれた一通の封書があった。 「遺書、か?碇」(今までこれを書いていたのか) 「そうです。 次の戦いでは私よりも先生のほうが生き延びる確率は高いでしょう。 それにたとえ我々が勝っても私は処刑されるかもしれません。 それだけのことはしたのですから。 しかし、先生はまだ必要な人間です。 政府も先生には手をかけないでしょう」 「次の戦い、か。今度は人間対人間の戦いだな」 (やはり人の敵は人、というわけか。 敵対せねばならぬ運命の元でも使徒と人がわかりあえるというのに。 これではやりきれんな) 沈みこむ思い。それはまだ残された彼らのヒトとしての心。 だが、事態がそれを許してくれないこともまた、事実だった。 「そうです。そしてそれは我々の戦いでもあります。 ゼーレにサードインパクトを起こさせるわけにはいきません」 「そうだな。わかった。これは預かっておく。 だが死ぬなよ、碇。 ユイ君を一人にさせるんじゃないぞ」 (死ぬなよ、か。昔なら絶対こいつには言えなかったセリフだな。 それだけこいつのこと理解できたということか。 しかし、かわいい、という域にはまだまだだな) 心の中で冬月が考えていることを知ってか知らずか、 いつものポーカーフェイスでゲンドウは話す。 「恩にきます、先生。 しかし、ユイにはシンジもいます。 私がいなくても大丈夫でしょう」 「そんなことはないぞ、碇。...それで連中はいつ頃来ると思う?」 「そう、恐らく根回しはもうとっくに、 フィフスを送り込んだ時にできていたと思って間違いないでしょう」 「すると、今日、明日にも来るというのか?」 「いえ、それもないでしょう。今は我々も神経が張り詰めています。 わざと1、2週間あけて警戒が弛んだ頃に突然、 というのが最も有り得るシナリオでしょう」 「マギはなんといってる?」 「私の考えに賛成しています」 「それで、どうするんだ」 「迎え撃つ、それしか手はないでしょう」 「それで勝てるのか?」 「エヴァが動けばおそらく。動かなければまあ無理でしょう」 「そうか。つらい戦いになりそうだな」 「しかし我々の手でサードインパクトをコントロールすることもできます」 「そうだな、うん。頼んだぞ、碇」 予測通り、それは1週間後におこった。 警戒態勢を緩めていたというわけでは無かった。防衛システムも問題無く機能していた。だが、使徒ゼルエルの襲来以降、施設の修復作業は滞りがちで、特に対人戦闘システムの再構築作業が遅れていたのが問題だった。 あるいはそれはわざと優先的に遅らされていたのかもしれない。そしてゼーレの攻撃の第一波、すなわち戦略自衛隊を中心とする国連軍の侵攻には予想以上の勢いがあった。 表向き、先鋒をつとめる戦自は国連軍の、つまりゼーレの指揮下にあったが、その真の命令は日本政府からでていた。 「チルドレンを見つけ次第抹殺せよ」と。 ゼーレにとってチルドレンはサードインパクトを起こし、人類補完計画を発動するために必要な鍵であった。したがって国連軍の主力に出された命令はネルフ本部の制圧と職員の拘束、最悪の場合に限り殺してもやむなし、というもので、チルドレンには絶対に危害を加えてはならぬ旨、通達されていた。そしてゼーレにとってはこの国連軍の侵攻も、単にエヴァをおびき出すためのおとりに過ぎなかった。 しかし、加持リョウジをはじめとするネルフ内部の情報源から人類補完計画の実態をつかんでいた内務省、そして日本政府はそれを起こさせるわけにはいかなかった。たとえN2爆雷を使用して味方も犠牲にすることになったとしても。 戦況はネルフ側にとって圧倒的に不利であった。かろうじてチルドレンの身柄を確保しエヴァに乗せる事に成功したものの、エヴァが起動しない以上本部施設が制圧されるのは時間の問題であった。この時点でゲンドウは決断をした。 赤木ナオコ博士によれば、それは理論的には可能なはずであった。 少なくとも理論上は。 だが、その後のことは、あくまで予測の域をでないものであった。だからこれはまさに最後の手段であった。ジオフロントを確保し、手の内に最強のエヴァが存在する限り、必要のない筈の手段であった。だが、頼みの綱のエヴァは起動できず、発令所にまで敵の手が迫ってきた以上、決断せねばならなかったのだ。 「冬月先生、後を頼みます」 「ああ。ユイ君によろしくな」 本部施設内での殺戮はまだ続けられていた。ただし、初期の奇襲による攻勢が一段落した後で、ネルフ側の組織だった防御も整いつつあった。チルドレン全員の抹殺と、エヴァの機体の破壊、そしてセントラルドグマの制圧という日本政府のもくろみは、この時点で崩れ去っていた。 セントラルドグマ内への進入は何度も撃退され、発令所もまだなんとか持ちこたえていた。エヴァ初号機の確保こそ成功したものの、湖底に隠された弐号機の発見は遅れに遅れた。破壊するための爆雷攻撃により、かえってそれを目覚めさせてしまった。 そして、エヴァ弐号機が起動したことにより戦況は再び変化した。 「ママ、ママ、解ったわ!」 「ATフィールドの意味」 「私を守ってくれてる」 「私を見てくれてる」 「ずっと、ずっと、一緒だったのね。ママ!」 セカンドチルドレン、惣流アスカ・ラングレーは復活した。 弐号機の中に残されていたものを感じた時、彼女の心の病は過去のものとなった。 そして、これまでの悪夢を振り払うが如くエヴァ弐号機を駆った。 投げる、蹴る、叩く、破壊する。 鬼人のごとく縦横無尽に暴れまわった。 今の彼女に恐れるものなど何もなかった。 「ちぃっ!アンビリカルケーブルが無くったって!」 「こちとらには1万2千枚の特殊装甲と!」 「ATフィールドがあるんだからぁ!!」 「負けてらんないのよ!あんた達にぃ!!!」 そして天からそれらは舞い降りてきた。 完成された9体のエヴァシリーズ。 万を持して投入されたゼーレ切り札。 S2機関を搭載した新型エヴァ。 「エヴァ・シリーズ、完成していたの?」 ここまではまだ、ネルフの予測の範囲内であった。エヴァを倒せるものはエヴァ。いずれ委員会がエヴァシリーズを投入することはわかっていた。そして対応策も検討済みであった。 各個撃破。 ゼーレにチルドレンはいない。 操るのは所詮、ダミープラグ。 例えそれが9体あったとしても、ネルフが持つエヴァンゲリオンとは個体性能が違っていた。装甲、敏捷性、破壊力、どれをとっても弐号機の方が勝っていた。加えるに、パイロットの能力と、これまでのノウハウの蓄積もある。唯一の問題は、弐号機に残された時間が限られている事であった。 「残り3分半で9つ。一匹に付き20秒しか無いじゃない」 とは言うものの、そこには余裕が感じられた。 口元にかすかに笑みが浮かぶ。 『今の弐号機に乗っているのは、天才、無敵のアスカ様なのよ。 負っける筈がないじゃない。 敵が多ければ多いほど、アタシの強さも引き立つってもんよね。 はっ、時間? 昔から正義のヒーロー(ヒロイン)には付きもんじゃない、そんなの』 あえて口には出さない。だが、失われていた自信は三倍(当社比)になって戻っていた。 それを彼女に取り戻させたのは、絆。 そして愛。母からの、そして母への。 同時にそれは鍵でもあった。 かつて自ら閉ざしてしまった心の扉を開くための。 「 Erste ! 」 「 Zweite ! 」 「 Dritte ! 」 病み上がりとはいえ、シンクロ率100%。 キレたアスカの前に敵はいない。 次々とゼーレの白いエヴァを撃破していく真紅の機体。 時間切れ直前に9体目の新型エヴァも沈黙した。 しかし、9体目のエヴァが倒されるのとほぼ同時に、一本の槍がアスカを貫いた。 ロンギヌスの槍。 ゼーレはそのコピーの製作に成功していた。それはネルフの諜報部にすら気付かれず極秘裏に造られたゼーレの切り札であった。 次々と再生していく白い悪魔。 内部電源の切れた弐号機はもはや動く事すらできない。 絶叫するアスカ。 野獣の如き新型エヴァに、なすすべもなく蹂躪され、陵辱され、解体されていく。 心と体を犯されて身悶えるアスカ。 人々は、ただ見ていることしかできなかった。 見ている事すらできなかった。 そして初号機がようやく地上に現われた時にはすべては終わっていた。 結果として、碇ゲンドウの計画も未発に終わった。 そしてオリジナルの槍と9体のエヴァシリーズにより 初号機を制御下においたゼーレの思惑通り、ことは進行した。 生きる気力を失った少年。 エヴァに取り込まれた少年。 ゼーレのプログラムに従って、 彼は完全体となったリリスとの融合を果たし、 神となった。 そして、サードインパクト=人類補完計画が発動した。 | ||
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「シンジ、ぼーっとしてないで早く言いなさいよ」 「なんだ、ただ結婚の報告に来ただけじゃないのか。 なんだね、言ってみなさい」 「え、あー」 「んもう、じれったいわね。 実は私達もう一つ司令にお願いがあるんです」 「なんだね。仲人の件なら私ではなくマヤ君に頼みたまえ」 「え、そうじゃなくてー、司令の、ネルフ司令としての力が必要なんです」 「なんのことだね。 知っての通り、司令とか大層な肩書きをつけてはいるが職員はたったの十数名、 仕事といえば旧ネルフ職員の人事を掌握することぐらいで、 実際のところ今後ネルフがらみで何か問題が起きた時の、 スケープゴートとして存在してるようなものなのだがね。 それに権限といっても資産の処分に許可のハンコを押すぐらいしかないのだよ。 あぁ、そうか。招待状のリスト作りのために名簿が欲しいのか。 だが、それはだめだよ。あれは部外秘でね。 例え君達でも私の権限では見せられないんだ」 「違うんです。アタシ達、式はそんなに大がかりにするつもりはなくって、 呼ぶ人達は親しかった人達だけにしようと決めたんです。 それに大人数では絶対許可されないだろうからって」 「許可、なんのことかね」 「実は....」 (つづく)
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