第参話

静止した時の中で

あるいは「冬月からの第三の手紙」




『シンジ君、アスカ君。喜びたまえ』

『昨日なんとか許可が下りたよ。ただし、人数は30名までに限るそうだ。
 それと日時は決まり次第連絡してくれ。
 参加者には直接政府の方から特別パスを発行するそうだ。
 その前に身辺調査を行なう必要があるから、
 少なくとも式の2ヶ月前には参加者の名簿を送って欲しい。
 この調査というのは形式だけだと言うことだから、拒否されることはないはずだ。
 君達は心配する必要はない』

『正直なところ、私の影響力なんかたかがしれているから、
 認められるかどうか危ぶんでいたのだ。
 実際、あのころも恐れられていたのはあくまで司令の碇ゲンドウであって、
 副司令であった私など碇のオマケとみなされていたからな。
 それに京都時代から人付き合いは苦手でたいした人脈もつくらなかったしな。
 今回の件はむしろ君達の功績が認められた結果に過ぎん、と私は思う。
 君達はあのころ命を懸けて人類の未来のために戦ってくれた。
 それに今の人類を救ってくれたのはあの時のシンジ君のおかげなのだからな』



*         *         *         *



人類補完計画は発動された。

群体として機能できなくなったがゆえに、今まさに崩壊しつつある人類の文明。肉体を捨てて進化することにより、人類をあらたなステージに導くために考え出された計画、

それが人類補完計画。

人類の手で神を作り出し、かつてリリンが築きあげた心の壁を解放する事。全人類が一体化することにより再び完全な個体、究極の生命体として新たな世界を創造する事。それが世界を闇から操っていた老人達、ゼーレのつくりだしたシナリオであった。

  閉塞した人類が再生するための通過儀式。
  滅びの宿命、すなわち新生の喜び。
  始まりと終わり。
  すべての生命は死をもって一つになる。
  サードインパクトによる人類の補完。

はるか昔の争いの記録が明らかになった時、なにもせずただ手をこまねいて見ているだけでは人類という種に未来がない事は明白であった。南極の遺跡でアダムが目覚めた時、封印されていた使徒達が同時に目覚めた。そして使徒はみなリリスを目指して活動を開始した。

自らが神となって新たな世界を作り出すために。

使徒とリリスの融合、それすなわち新たな神の誕生であり、同時にそれは人類の滅亡もを意味している。したがって使徒との闘いは人類が生き残るための必然であった。

そしてかつて群体となる道を選んだことで徐々に本来の力を失っていた人類が未来を勝ち取るために選んだもの、それがE計画であり、セカンドインパクト直前に人類を滅ぼしかけた第一使徒アダムから作り上げた人造人間エヴァンゲリオンであった。

  「これは、まさかあの巨人を」
  「我々ゲヒルンではあれをアダムと呼んでいます。
   これは違います。オリジナルのものではありません」
  「では...」
  「そうです。アダムより人の造りしもの、エヴァです」
  「我々のアダム再生計画。通称E計画の雛形たるエヴァ零号機だよ」
  「神のプロトタイプか」
  「冬月。おれと一緒に人類の新たな歴史を作らないか」

だが、それが計画されたことのすべてでもなかった。使徒がたとえ現われなくとも、いずれ人類の文明は崩壊する。あるいはそんな文明など、いっそ滅びてしまった方が良いのかもしれない。そして改めて、零から文明を造りなおすのだ、神の力によって。いや、そんなことをしなくても、人類自身が神になってしまえば良いではないか。

かつて人類はリリンと呼ばれる神にも等しい存在だった。他の全ての神を滅ぼし、全人類の魂を再び一つに集める事で、唯一の神が誕生する。

リリスによる欠けた力の補完。

使徒を倒すことを目的に始められたE計画は、赤木ナオコ博士の手によって順調に進められていた。しかし人類補完計画の実行は不可能であると当初は考えられていた。人類の手でサードインパクトを起こし、なおかつそれを制御し、さらに人類の魂を再び統合して一つの生命体となるにはいかなる手段を用いれば良いのか。研究は続けられていた。

ただし、少なくとも人類には、使徒とは異なり、直接その手でサードインパクトを起こすことはできなかった。リリスとの融合を果たしうるのは完全な個体としての生命体だけであり、人類はその能力を失ってしまった。それを取り戻すための人類補完計画でもある。

ニワトリと卵のパラドックス。
従って人類にはそのままでは神を作りあげることはできなかった。

しかしこの問題も、E計画の進行にともない自動的に解決した。エヴァンゲリオン、心(コア)を失ったアダム=神の肉体に人の心を乗せるのである。実験中の事故により初号機に碇ユイが吸収された時、この計画は実際に行動に移されることが決まった。

時に西暦2004年の事である。

表向き、この計画の遂行を進言したのは後にネルフ司令となる碇ゲンドウであったが、実際には事故が公になった時点でこの計画がやがて実行されるのは目に見えていた。そしてゲンドウの意図は先手を打つことにより実権を手に入れ、最後の瞬間にすべてをひっくり返すことであった。当時研究所の所長であったとはいえ、膨大な力をもったゼーレに対抗するには他に選ぶ手段はなかった。

  「冬月、今日から新たな計画を推奨する。キール議長には提唱済みだ」
  「まさか、あれを」
  「そうだ。かつて誰もが無し得なかった神への道。人類補完計画だよ」

魂を、心を抑え、破壊し、制御するため道具、ロンギヌスの槍。
偽の魂、偽りの心、プログラムされた思考、ダミープラグ。
十字架に架けられた生命の源たるリリスと、
それを中心に宿した、神の母胎となるであろう黒き月、ジオフロント。

これらはゼーレによる計画の要であった。度重なるショックとストレスによって荒らされた少年の心さえも、彼らにとってはただの道具に過ぎなかった。

最後の使徒を倒すまでは、ゲンドウも、委員会も、使徒を倒す事が最優先であり、両者の対立は表立つことは決してなかった。裏では盛んに浸透、撹乱、欺瞞などの工作を行っていたが。互いに相手の手の内を知っており、きたるべき時に備えて準備が密かに、時には別の大義名分のもとに堂々と進められていた。





  「われわれに与えられた時間は、もう残り少ない。
   だが我らの願いをさまたげるロンギヌスの槍はすでにないのだ。
   まもなく最後の使徒が現れる。
   それを消せば願いがかなう。
   もうすぐだよ、ユイ」





すべての、完全なる死をもってする人類の救済。

彼らはその計画に無意味さを感じていた。
ヒトは生きていこうとする処にその存在がある。
ゆえに、なにものをも産み出さない「死」ではなく、
新たなる「生」の中にこそ目指す未来はあるべきだ。

それが彼女の願いでもあり、彼らの考えでもあった。

ヒトがヒトとして補完された未来。
欠けた力ではなく、欠けた心の補完。
肉体ではなく魂の補完。

その手段として彼らが選んだもの。選ばざるを得なかったもの。
それが「禁じられた」アダムとリリスの融合。

人類にアダムを制御する能力は無い。
たとえ槍の力を持ってしても。
だからリリスを制御しようとした。
少女に絆を与える事で。
少女と一緒に自らリリスに取り込まれる事で。

ドイツより持ち帰られた第一使徒アダムのコア。
ある少女からサルベージされたリリスの魂。
これがネルフの切り札であった。

だが、最後の時、彼の希望は打ち砕かれた。
人として育てられた少女、綾波レイの心によって。

あるいはそれはクローンの遺伝子に刻みこまれた母性の影響だったのかも知れぬ。
少年を助けたい、守りたい、愛したいという本能の欲求。

あるいはこの少年に何かがあったのかも知れぬ。
種の垣根を乗り越えて、引き付けあい、わかりあえる何かが。
人類と使徒という神の定めた運命の深く広い溝を越えることのできる何かが。

とにかく、その瞬間、ことはゲンドウの手を離れたのであった。









少女は厳密には人間ではなかった。
少なくとも、少年に出会うまでは。

それは最初、失敗作、として破棄される運命にあった。

成功すれば人類初の人間の完全なクローンとなるはずであったが、人工進化研究所の地下で極秘裏に造られたそれには魂がなかった。遺伝子は完全にコピーされていた筈だが、人類の科学は心を作り出す事ができなかった。

そのクローン実験の被験者は、実験者であった女性本人であった。

  「真実を見せてあげるわ」
  「そう、ダミーシステムのコアとなるもの。その生産工場」
  「ここにあるのはダミー。そしてレイのためのただのパーツに過ぎないわ」
  「魂の入った容れ物はレイ、一人だけなの。
   あの子にしか魂は生まれなかったのよ。
   ガフの部屋は空っぽになっていたのよ。
   ここに並ぶレイと同じ物には魂がない。
   ただの容れ物なの」
  「だから壊すの。憎いから」
  「ええ、わかっているわ。破壊よ。人じゃないもの」

人類はクローン技術について古くから研究してきた。最初は単細胞生物から始まって、植物や動物が研究された。多岐にわたる分野で技術の応用が必要とされていた。農産業界、畜産業界で真っ先に応用が始められた。人口の増大による食料危機を回避するために、それは必要な技術だった。

クローン人間の研究には、多大な制約がかけられていた。宗教的、道徳的、さらには法的な問題がそこにあったからである。だが、一部の科学者達は自らの知的欲求を満足すべく、それに挑んだ。医療技術の発展、難病の克服、という大義名分の元に。

その用途は義手や義足、あるいは移植用の臓器の提供であった。自分と同じ細胞から造れば抗体適合に関する問題はない。培養速度の促進が達成されれば、いずれ公開され実用化されるはずであった。たとえ倫理的に多少問題があったとしても。





やがて、セカンドインパクトが発生し、人類が使徒の存在を知った時、
クローン技術の新たな使いみちが発生した。

人のクローニングに成功した科学者は、使徒のクローニングにも成功した。
そして魂のない巨大な人間、エヴァンゲリオンが誕生した。

魂のない肉体は、魂の容れ物として用いられた。
そして、綾波レイ、という少女が誕生した。

魂のない肉体は、パーツとして利用され、見せ掛けの魂がそこに宿らされた。
そしてダミーシステムが考案された。





その少女、綾波レイの正体は極秘とされていた。
ゼーレにすら、真の秘密は隠されていた。
知っていたのはただの4人。
碇ゲンドウ、冬月コウゾウ、赤木ナオコ、そして碇ユイ。

誰もが信じて疑っていなかった。
キール・ローレンツ議長でさえも。
赤木リツコ博士でさえも。
唯一の完成されたクローンだと信じていた。

サルベージに失敗した碇ユイのクローン。
命令に従うだけの従順な人形。

渚カヲル、使徒タブリスたる彼でさえも、
最後の時まで気付かなかった。
その少女の正体に。





2人目の少女は少年を護るために非業の最期をとげた。
その肉体の消滅に際して不死の魂は別の容器に転生した。
そして3人目の綾波レイが目覚めた。

委員会にその死は報告されなかった。
パイロットはかろうじて脱出に成功した、と伝えられた。

赤木博士には、別の情報が教えられた。
隠されていたもう一つの完全なクローン。生体人格移植。

  「嘘ね。そんなにまでしてあの子をかばいたいの?」
  「私のことなんて、どうでもいいのね。あなたにとってあの子は何なの?」

彼女はすぐに真実を知ることになる。





魂の転生と共に、少女に芽生えはじめたヒトの心も転生した。
記憶は転生しなかったものの、少女は感じることができた。

人との絆を。
人の優しさを。
人の暖かさを。
人形じゃない、人間としての生き方を。

そして2人目の少女が抱いた少年への想いを。

変わらぬ想い。
心に刻まれた永遠の誓い。
そのとき彼女は選んだ。自分の意志で。
少年と一つになることを。

  「駄目、碇君が呼んでいる」









この数週間におきた様々な事件に翻弄され、
自らの手で最大の理解者であった友人を殺し、
自らの欲望で最愛の少女までも汚してしまった少年の自我は、
今、崩壊の危険にさらされていた。

生命の危機にあたっても、それを避けるでもなく、
自らの殻に閉じこもってしまっていた。

少年にむけられる銃口。
それを救ったのは、
少年と共に暮らし、
少年の成長を見守り、
少年を愛してくれた女性であった。

その女性は少年を連れて走った。
あそこに行けば少年は助かる。
少年の母親がきっと少年を救ってくれる。

あと少し、ほんの少し、というところで、
自分はもう助からないということを自覚した。
少年の目の前で死ぬこと、それだけはできない。
そんなことをすれば傷ついた少年の心をさらに痛めつけてしまう。

最後の力を振り絞り、
なんとかケージへの直通エレベーターにたどり着いた。
すっかり腑抜けと化している少年に話しかけ、
生きようとする気力もなくした少年を叱咤した。

そして少年にそっとペンダントを手渡した。
彼女の少年に対する愛を込めて。
かつて、その女性の父親が、別れのときにそうしたように。
まだ少女だったその女性、葛城ミサトに対してしたように。

最後に彼女はキスをした。
優しく。
熱く。
彼女の最後の想いを込めて。

  「大人のキスよ。帰ってきたら続きをしましょう」





少年をエレベーターに押し込み、スイッチを押す。
扉が閉じた瞬間、彼女はその場に座りこんだ。
彼女にはもう立ち上がる力も残されていなかった。

最後の瞬間、彼女の魂は救われたのであろうか。
爆発の直前、意識がなくなる前に彼女は幻を見た。
かつて彼女が愛し、交わった男性の姿を。

これでまた彼に会える。彼と一つになれる。
彼女がまぶたを閉じた時、
もう二度とその瞳は開かれることはなかった。

  「ねえ、加持くん...。私、これで、よかったわよね....」









少年は初号機に乗り込んだ。
だがその心は悲しみに囚われていた。

少年の荒んだ魂の叫びを受けて、再びそれは覚醒した。
ヒトの造りし悪魔のケモノ。
一声、雄叫びをあげると、その背中から光の羽根が生える。
たちまちあたり一面が荒野と化し、それは大空に飛び立った。

空に飛び立った少年。
だがその目が捕らえたものはまたも無残な光景であった。
破壊の限りをつくされた弐号機。
少年はそこに少女が乗っていたことを知っていた。
少年は絶叫した。
怒りの、悲しみの、そして絶望の絶叫を。





白いエヴァ・シリーズが少年に気付く。
少年の乗る機体は捕らえられた。
そして初号機は光の十字架に架けられた。
9体のエヴァンゲリオンと9本のロンギヌスの槍によって。
そしてコピーに呼び寄せられたオリジナルの槍によって。
少年の心は闇に囚われた。





儀式が始められた。
世界を滅ぼし、世界を創る為の儀式が。

そして、神の依代として選ばれた少年は
エヴァンゲリオン初号機の機体と共に、
生命の母リリスと一体化した。





人々の魂の融合が始まった。

人の心を隔てていた壁、ATフィールド。
聖なる領域、心の光。

意識することなく常に張り巡らされていた心の壁が消失し、
全人類の魂が新たに誕生した神の御許に集まった。
魂を失った肉体は、生命のスープ=LCLへと還元された。









そしてその瞬間、世界の時は静止した。



*         *         *         *



『いや、君がそう言われることが好きじゃないというのは知っているよ。
 だがしかし、これは紛れもない事実でもある。
 君を知っていた者はみな、未来の希望を作り出したのが君だということに気付いている。
 そしてみなそれに誇りを感じている。
 君はもっと自信を持って生きていい。
 今君はそれに値する人間に成長した、とわたしは思う。』



*         *         *         *



すべてが一つになった時、新たな神は誕生した。
そして新しい世界を創りはじめた。
神の、神による、神のための楽園を。

それはまさに彼らの望んだ世界であった。
すべての始まりであり、同時にすべての終わりでもある世界。

時の止まった永遠の世界。
人類の心が一つになった世界。
自分でもあり、他人でもある世界。
現実が夢であり、夢が現実である世界。


だがその中心では、
コアとなった少年が、闇に囚われ沈んでいた。


少年の前に自らの姿が映し出される。

弱い自分
卑怯な自分
欲望に溺れた自分

人を求める自分
人のアイを求める自分
人のタスケを求める自分

少年は絶望の海の中で絶叫した。
そして逃げ出した。
現実から。他人から。そして、自分から。

そこにもまた、世界があった。
他人も、自分も存在しない世界。
何も無い世界。誰もいない世界。

楽しい世界。
おもしろい世界。
気持ちのいい世界。
戦う必要のない世界。
必要とされている世界。
少年がそこにいない世界。
少年しかそこにいない世界。

母がいる世界。父がいる世界。少女がいる世界。
学校があり、先生がいて、友人がいる世界。
かわいい転校生がやって来る世界。
くり返される、平和な日常。

エヴァに乗る自分がいる世界。
みんなが誉めてくれる世界。
強い自分がいる世界。

少年の心に応じて、世界は次々と形を変えていった。
少年は夢の中に作り出された無限ループに閉じこめられた。





人類の補完は完了した。
神は封印され、楽園の永遠が保証された。
その、筈であった。





それは何故、おきたのであろう。
少年は何故、それを感じたのであろう。
それは何故、少年の心の中にいたのだろう。

それは誰にもわからない。
だがしかし、少年は確かに感じることができた。
少年が閉じ込められた煉獄の世界において、
絶対不可侵の結界に閉ざされた少年だけの世界において、
少年に語りかけ、働きかける彼らの存在を。

少年を遠くから優しく見つめるその女性。
少年の前に立って笑みをうかべたその少年。
少年を膝枕して頭をなでてくれるその少女。

ペンダントにその想いを托し少年に渡した「大人の女性」
少年の未来のために自らの死を選択した「最後のシ者」
少年を守るために使徒と共に爆死した「二人目の少女」

死んだはずの彼らの心が少年に
 「希望」
の光を投げかけた。

そして少年は逃げるのをやめた。





逃げることをやめた時、
前を向いて心の中の弱さを正面から見つめたその時、
少年は神の力を手に入れたことに気がついた。

パリ−ン。
幻想を映し出していた鏡はくだけ散った。

パリ−ン。
闇が作った心の檻はくだけ散った。

少年は思い出した。
兄のように少年を励ましてくれた男の言葉を。
 「自分で考え、自分で決めるんだ」
姉のように少年を支えてくれた女の言葉を。
 「自分の答えを見つけなさい」

それはいっそう強い輝きを放ちはじめた。





現実を取り戻した少年の前にあったのは、すべてが一つになった世界。
どこまでが自分で、どこからが他人なのか判らない曖昧な世界。

様々な思いが少年の中に流れ込んできた。
そして少年は感じることができた。

『少年を守る』ことを誓い、実行した少女の愛。
 「碇君....」
常に少年を見守り、助けてくれたた母の愛。
 「もういいの、シンジ」
苦しみのなかで決断せざるを得なかった父の愛。
 「すまなかったな...シンジ」

友人の暖かい心。友情。思いやり。
  「よお、シンジ」
  「やあシンジ」
  「おはよう、碇君」
みんなの気持ち。人々の思い。
  「シンジ君」
  「シンジ君」
  「シンジ君」
  「シンジ君」
  「シンジ君」
    ・
    ・
    ・

そして、心の中に育ちはじめた少年への想いと
プライドへのこだわりとの狭間で揺れる少女の心。
  「バカシンジ.....」





すべてが少年の中で昇華していった。

最後に、少年は選択した。





人として生きることを。
人類の再生を。



*         *         *         *



『そうそう、仲人の件だがね、この話をマヤ君にしたら、
 それならなんとしても引き受けるわ、と言っていたよ。
 どうやら子供達の事を考えてどうしようか迷っていたようだったが。
 悪いが、青葉君と日向君には私の方からもうこのことは伝えてしまった。
 保安上のことも考えると彼らは知っておくべきだと思ったからね。
 彼らも喜んでいたよ。

 ではユイ君によろしく言っておいてくれ。
 ゲンドウの出所の日には私も迎えに行くから
 その時にまた会おう』



(つづく)




【 次号予告 】

少年は神になった。
そして人類の再生が始められた。

そこで彼が出会ったものは。
そして少年と少女の運命はいかに。


次回 「奇跡の価値は」


「あなたは人に誉められる立派なことをしたのよ。胸を張っていいわ」




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