第四話

奇跡の価値は

あるいは「ユイからの第四の手紙」




『あなた、4年間のお勤めごくろうさまでした。いよいよ来週ね』

『これで少しはあなたも角がとれて、素直になってくれてるとありがたいんですけどね。
 みんなであなたを迎えにいきますから待っていて下さいね。
 そうそう、冬月先生も来られるそうですよ。
 面倒な手続きは全部先生にお願いしましたから、
 私達は建物の外であなたを待つことにしました』

(ふっ、お勤めか。
 こんなことで丸くなるようなら苦労はしないよ、ユイ。
 しかし、シンジにはあわせる顔が無いな。
 すべてを知られた今となってはあんな態度はとれないしな。
 どうしたものか)

(冬月先生か、久しぶりだな。
 また苦労をかけますね。
 しかし面倒なことは全部先生に押し付けるとはユイの奴、私とかわらんな)





「ようよう、あの特別房の囚人、いったいどうしたんだい。
 いつもむっつり黙ってると思ったら、今日はなんかニヤニヤしてるじゃないか。
 アイツはいったい何モンだい?」
「ああ、おまえは新入りだから知らんのだな。
 アイツは特別な悪党でな、
 犯した犯罪数知れず、って極悪非道なやつなんだが、
 なにせ証拠がなくてな。
 結局公文書偽造だかなんだかの罪でたった4年ってやつよ。
 ただ何せやったことがこと、例の2つの大災害にからんでるんで、
 特別扱いってわけよ」
「そんな大犯罪者様がなんでつかまったんだい」
「なんでも恐ろしくなって自分から自首してきたらしい。
 それでな、反省の気持ちをこめて
 ああやって毎日一人でだまって考え込んでるんだとよ」
「ふつう、神とか仏に祈るんじゃないのか、そういうのって」
「なんでも無神論者らしい。
 それに神はもう人類の手を離れた、とか言ってたそうだ。
 それで仮釈も申請せず、なんかを書きつづけてるらしい。
 そういや、今日は外から手紙が届いたって模範の奴がいってたっけ」
「おい、そこの囚人達、無駄口をたたいてないでとっとと歩け」
「「へいへい」」



*         *         *         *



最初に大地に再び降り立ったのは少年と一人の少女だった。

人と人との心の境界が再び作られた今、
傷ついた少女を前に少年の心に困惑が走った。

(嫌われる)
(あんな事をして)
(アスカは絶対僕を受け入れてはくれない)
(嫌われる)
(僕は駄目な人間なんだ)
(僕はアスカには必要ないんだ)

それは少年が打ち勝ったはずの弱い心であった。
だが少女の首にかけた手に力を込めたとき、
伸びてきた少女の手が優しく頬をなでた。

(アスカ...)

自然とその双眸から涙がこぼれる。
嗚咽が止まらなかった。
それでも少年は微笑みを浮かべた。

少年は最後の試練にも打ち勝った。



一人の少女、蒼い髪の少女が海の上に立ってそれを見ていた。
かつて彼女に人の心を教えてくれた少年を。
かつて彼女が護る事を心に誓ったその少年を。

そして少年が最後の試しに応えたそのとき、
少女は残された時間を使って最後の仕事を開始した。

少年の希望に応えるために。
人類の未来のために。



そして人類の再生が始められた。

心の壁を喪失し、神に取り込まれた人々は気が付くと元いた場所に戻っていた。
失われたジオフロントにいた人々は、
地面にあいた大きな穴のなかにできたLCLの海の中で目覚めることになった。

軽傷の者、重傷の者、全ての傷が癒されていた。
あの時まだ生命があったものに対しては。

神の奇跡は行われた。









その男もやはりLCLの海のなかで気が付いた。

「これは。私は死ななかったのか。そうか、シンジか。よくやったな」

われに返ったその男は改めて周りを見渡した。

(これは、非道いな。だが、人々は生きてるようだな。
 ふう。 シンジ、お前は私を許してくれたのだろうか。
 このわたしを)

(そうだな。確かにアイツの心を感じることができた。
 私のこともアイツに伝わったはずだ。
 その上で私を許してくれたのか、シンジ)

彼の頬に熱いモノが流れた。

(これは、涙。
 久しぶりだな、涙を流すのは。
 ユイが居なくなって以来か)

(だが、私は、自らの犯した罪を償わねばならん。
 私がしてきたことは本来ヒトとして許されないことだった。
 人類のためとは言えな。
 最後には自らの手でリツコくんまであやめてしまったのだからな)

懐から拳銃を取りだすとゆっくりとそれを持ち上げ、頭の横にあてるゲンドウ。
引き金を静かにおろす。

カチッ

しかし弾はでてこなかった。

「何故だ!」

弾はたしかに入っているはずだった。
だが撃鉄は最後までおりなかったのだ。
いや、撃鉄がその瞬間に破壊されたのだった。

(ATフィールド!!!)

「待って、あなた。あなたは今死ぬべきではないわ」

後ろから声がした。

「ユイ!」

その女性はLCLの海の上に浮かんで立っていた。

「ユイ!どうしてだ?
 私は罪を犯した。それは償わなくてはならない」
「そう。そうね。
 でもあなたが償うべき相手は死者ではない。
 これから生きていく者にたいしてあなたは責任を果たすべきだわ。
 そして死んでしまってはそれはできない」
「だが、だが...」
「死者に対する責任は彼らが果たすわ。
 だからアナタは生きて。
 私達といっしょに!」
「彼ら...。ゼーレの老人達のことか。
 これは君の望んだことなのか?」
「いえ、ええ、でもそうね。私が望んだことでもあるわ。
 同時にシンジが望んだことでもあるのよ。
 私に力を分けてくれた。アナタを救えって」
「そうか。シンジが。
 シンジは私を許してくれたのだろうか。
 このワタシを」
「ええ。あなたもわかっているはずよ。
 あの子は最後まで頑張った。
 そして最後に正しい決断をしたのよ。
 私達はそれを誇りに思いましょう」

そっと彼女はLCLの海の中へ降り立った。

その瞬間、LCLの海の中に倒れていた聖母の像、綾波レイの巨大な像が、
風に吹き消されるように消えていった。

「神の時間はもうおしまいね。
 さあ、いきましょ。
 シンジ達が待っているわ」
「ユイッ、君は、君は生きているのか!」
「何を言ってるのあなた。幽霊なんかじゃないわよ。
 あの時言ったはずよ、すべてが終わったらきっと戻ってきますって」
「そうか、そうだったな」

あの時、レイを除けばユイはもっともシンジに近いところにいた存在であった。

シンジとともに初号機のなかに取り込まれていた彼女は、自らの意思によって肉体の再構成をおこなった。無論、神となったシンジから力を分け与えられてのことであるが。

だが、すべてが終了した時、エヴァ弐号機は破壊の限りをしつくされ、すでに原形を留めていなかった。惣流キョウコ・ツェッペリンは復活することはできなかった。

しかし神の恩寵か、あるいはキョウコの最後の思いが通じたのか、エントリープラグに入れられたパイロット、惣流アスカ・ラングレーは重傷を負いながらも奇跡的に生きつづけていた。









同刻、少年の目からこぼれた雫が頬に落ち、少女は目覚めた。

少女のうつろな視線があたりをさまよう。
目の前には少年がいた。
体の上に覆い被さるようにして。
彼女の首に手をかけて。
その目を涙でいっぱいにうるませて。
うっすらと微笑みをうかべて。

(何、なんでシンジがここにいるの?)
(何でこいつ、泣いているの?)
(何でこいつ、微笑んでるの?)
(変なの)

(ここはどこ? 病院?)
(ちがう。私はあれから...!)
(ムッター!)

(弐号機は、ママは? どこにいるの?)
(わたしは死んだ筈じゃなかったの?)
(ママと一緒にあいつらに喰われた筈じゃなかったの?)

(ここはどこ? 天国?)
(なんでシンジがここにいるの?)
(なんでアタシを見つめているの?)

(そうか、サードインパクト...)
(思い出した。全部)
(なにもかも...)

(体が痛い。奴等に喰われた体が痛い)
(心も痛い。一つになった心が痛い)
(体がだるい)
(心もだるい)

「気持ち悪い」

それが少女のあげた最初の声であった。
だが、その瞬間、焼けつくような痛みが少女の身体に走る。



少年はビクっと身体を震わせ、少女を見つめた。

(良かった。アスカが生きていてくれて)
(戻って来れたんだ)
(良かった)
(でも...)

その言葉にはどんな意味がこめられているのだろう?
二人の間に、無慈悲な壁が再び立ちふさがっていた。

(僕は...)
(僕はアスカに...)
(アスカに...)
(アスカは...知っている)
(あの事も...みんな)

(そうだ)
(わかっていたはずじゃないか)
(いいんだ、これで)

ふっ切った様に、シンジはもう一度微笑んだ。
涙は、もう止まっていた。



傷ついた身体が、ズキズキと痛んだ。
折れた右腕、失われた左目。
もう、言葉が出ない。
気力もない。

(アタシ、生きてる)
(バカシンジ)
(シンジが...?)
(シンジが、助けてくれたの) (そっか、シンジが)

目に映るものを、ただ見つめるだけ。

(無理しちゃって)
(バカシンジのくせに)
(アタシなんか、どうでもいいのに)
(エヴァもない。ママもいない)
(もう価値なんか、どこにもないのに)

「アスカ...」

(何よ、バカシンジ)

「ゴメン」

(何で謝るのよ、コイツ)

「そして...」

(そっか。相変わらず内罰的なやつ)
(変わってない、進歩のないやつ)
(こんな事があったってのに)
(そっか。変わってないんだ...シンジ)

「ありがとう、アスカ」

(なんでアンタがそこで御礼を言うのよ)
(そんな覚え...ない)
(むしろ...)
「わかったんだ...、僕は。
 『好き』って言葉の意味が。
 求め合う心の本当の淋しさが。
 傷つけあう心の本当の痛みが」

(淋しさ?痛み?)

「それは、祈りみたいなものなんだ。
 あやふやで、ふわふわして、そして、いつかは壊れるんだ。
 でも、それでいいんだ。
 そこからみんな、始まるんだ」

(何を言ってるの、シンジ?)

「綾波が、教えてくれた。
 カヲル君が、教えてくれた。
 ミサトさんが、母さんが、父さんが、みんなが教えてくれた。
 そして、アスカが教えてくれた」

(アタシが?)

「だから、勇気を出して、言わなくちゃいけない。
 たとえ嫌われたって、構わない。
 いいんだ。わかってるから。
 嫌われていても、当然なんだ」

(そんなこと...ない)
(でも...)

   「もう。アンタ見てると、イライラすんのよ!」
   「何も判ってないくせに。私のそばに来ないで!」
   「バーカ。知ってんのよ。アンタが私をおかずにしてること」
   「もうそばに来ないで。アンタ、私を傷つけるだけだもの」

   「嫌い、キライ、みんなキライ。アンタも、ミサトも、だいっきらい!」

(何で言っちゃったんだろう、あんな事)
(シンジ...)

  「アンタが全部私のモノにならないなら、私、何もいらない!」

(ゴメンね。バカは、アタシの方だ)

「でも、言わなきゃいけない。
 僕の気持ちを。心の中の真実を。
 もう一度会いたいと思ったんだ。
 だって...」

少年は、一回、深呼吸した。

「ぼくは、碇シンジは...」

そして、大声で、叫んだ。

「惣流アスカ・ラングレーの事が、大好きです!」

その時、少女の身体が揺れた。
少女の心も揺れた。
残された碧い瞳が、大きく開かれた。

「バカシンジ...」

その声は、弱々しく、だがはっきり聞こえた。
彼女は左手を支えにして、無理に起き上がろうとした。
傷口に走る痛みで顔をしかめながら。

「うっ」
「大丈夫、アスカ?」

少年の腕が、少女を支える。

「そうだ。まだやる事が残っていたね。
 アスカを、治さなきゃ」

少年は空を見あげた。
そこにいる、見えないものを探して。

「そう。アスカには、いつものアスカでいて欲しいから。
 元気なアスカでいて欲しいから。
 ちょっと乱暴で、ちょっと我儘で、ちょっと自信過剰で」

(ムッ!)

「だけど優しくて、頭も良くて、奇麗で、でも可愛くって、
 そんなアスカに戻って欲しい。
 それが、僕が好きになったアスカだから」

歌うように呟きながら、シンジの瞳が閉じられる。

「ずっとアスカと一緒にいたかった。
 昔のように。元気なアスカと一緒に...」

少年の言葉はそこで途切れた。

(ああ、もう少し、もう少しだけ時間が欲しい)
(ゴメン、アスカ。もうダメみたいだ)
(母さん。そっちはもう終わったみたいだね)
(綾波。最後にアスカも治して...)





少女の傷が癒されたその直後、海の上に立っていた蒼い髪の少女の姿が消えていった。

『さよなら、碇君』

少年はふっと気を失って少女の胸の上に倒れこんだ。
そしてそのまま少年は眠りつづけた。

少女がいくら少年に声をかけても、
少年の体を揺さぶっても、
少年が目覚めることはなかった。

「バカシンジ!起きなさいよ」
「シンジ、起きるのよ。シンジ」
「シンジ、シンジ。お願い、起きてよ、シンジ」
「まだアタシは、返事をしてないじゃない!」
「バカシンジ!」

だが、その声は少年に届くことはなかった。









彼らは自分達の負けを悟っていた。
人類が一体化した、歓喜に包まれた一瞬もつかのま、
ふたたび肉体を取り戻したのである。

「どうやら失敗に終わったようだな。また元に戻ってしまったようだ」
「うむ。これでまた人類の滅びへの道が再開される」
「永く、ゆっくりとした、だが確実な滅びへの道がな」

暗い室内に老人達の声が響く。

「なぜだ、なぜ我々は失敗したのだ。シナリオは完全に機能していた」
「所詮、ヒトはヒト。神にはなれん、ということか」
「左様。神への道より、ヒトとして生きることを選んだのだ」
「あの少年。神の依代として選ばれたサードチルドレンによって」
「だが、それはむしろ健全な選択だったのかもしれん。ヒトとしてのな」
「神の力より、ヒトの愛を選ぶことがか」
「そうだ。かつて我々の始祖リリンは自らの意志でその道を選んだ」
「そうだな。だが、未来への道は苦しいぞ」
「だが、人類の補完は不完全ながらも達成された」
「左様。ヒトを切り離していた心の壁は弱められた」
「人々は互いにわかりあえる事を知った」
「未来への希望、意識の共有の可能性」
「滅びの道の中に見つけた、パンドラの希望」
「もう後戻りはできない。人類はもう神をたよることはできない」
「いいではないか。それでも」
「左様。悲しみがあるからこそ喜びがある」
「人類の未来にヒカリあれ」

「01」とかかれたモノリスがそう言うと、一同が唱和した。

「ヒカリあれ」

「しかし、碇のやつめ。自分は失敗したくせに結果は奴の思いどおりか」
「確かにそれは気に食わないな」
「左様。き奴にはそれ相応の罰を与えるべきだな」
「もっとも苦しい「生」という名の罰を」
「生きること、それが奴の最大の苦しみとなり償いとなる」
「死者への責任は我々がとる。やつには生者への義務を果たしてもらおう」
「そうだな」
「うむ」

「では諸君。もうこれで会うこともあるまい」
「ああ。お別れだな」
「地獄で会おうとは言わないのか」
「地上に神はもういない。天国も地獄もない」
「そうだな」

再び、「01」とかかれたモノリスに対して一同が唱和した。

「魂(ゼーレ)よ永遠なれ」

そして暗い部屋からモノリスがひとつひとつ消えていき、
最後に「01」とかかれたモノリスが残った。

「碇よ。
 君は良き友人であり、
 志をともにする仲間であり、
 理解ある協力者でもあった。
 人類の未来、お前達に預けたぞ」

そうつぶやくと最後のモノリスも消えていった。



*         *         *         *



その日、碇ゲンドウは冬月コウゾウにともなわれて刑務所の門の外に出た。

「なあ、碇。前にもこんなことがあったな」
「ああ」
「相変わらずだな、碇。その性格、直した方が良いぞ」
「問題無い」

そのとき、外で彼を待っていた3人の目に彼が映った。

「父さん」
「あなた」

走っていく2人。後ろからゆっくりと歩いていく1人。

「すまなかったな、シンジ。苦労をかけた。
 そして、ありがとう、シンジ」
「父さん。何を言うんだ父さん。父さんだって、父さんだって...」

泣きじゃくる少年。

「ユイ、ありがとう」
「なに言ってるんですか、あなた。それより早く帰りましょう」
「ああ」

「アスカ君」

昔から苦手だった司令にいきなり声をかけられてビクッとする少女。

「シンジのこと、頼んだぞ」
「わ、わたしこそ、よろしくお願いします」

4人でならんで歩きはじめる。
後ろからゆっくりついていく初老の男。

(心配していたが、なんとか上手くいってるじゃないか。
 しかしこいつら、私のことはすっかり忘れてるようだな)





「冬月先生」

碇ユイが後ろを振り返って話しかけた。

「今日、これから家でこの人の出獄パーティーをやりますの。
 よろしかったら先生もいかがですか」
「ああ、だが私はお邪魔だろう。今日は京都に帰るとするよ」
「そんなことはありませんよ。ほら、あなたも何か言ってくださいな」
「ああ、冬月先生。問題はありませんよ」
「何言ってるんですか。もっとちゃんとした言い方があるでしょう」
「スマン、ユイ。冬月先生、是非おいで下さい」
「それでいいのよ。それで、いかがです、冬月先生。
 おうちの方はマヤさんに電話をしておけばよろしいのでしょう」
「ああ、そうだな。それではお邪魔させてもらうとするか」
(あのゲンドウもユイ君には頭が上がらないようだな、フッ)

少し離れた所で、若い二人は小声で話をしていた。

「ねえねえ、シンジ」
「なに、アスカ」
「なんか司令ってユイさんの尻にしかれてない?」
「うん。なんか変だね。あの頃の父さんとは別人みたいだ」
「どっちが本当の司令なんだろうね」
「さあー。多分どっちも本当の父さんだよ。僕にとってはね」
「なんかあの人のこと心の中で感じていたモヤモヤもスッキリ晴れちゃったみたい。
 絶対あんなことをした司令を許せないって思っていたのに」
「あれはしかたなかったんだよ。
 父さんだって好きでやってたわけじゃないさ」
「そうかもね。司令もつらかったのかしらね...」

最大の被害者であるはずのシンジにそう言われては、認めるしかない。

「あのさー、アスカ。いい加減その司令っていうのやめた方がいいよ。
 今の司令は冬月さんなんだし。
 早く『義父さん』って慣れておかないとさ」
「そうね。お義父さま、か。
 あたしの父になるのよね。
 シンジと結婚すれば」
「そうだよ、アスカ。
 それに『ユイさん』じゃなくて『義母さん』だよ」
「わかってるわよ、シンジ。
 そんなことよりさあ、こないだパパから返事が来たの」
「え、アスカ。昔を思い出すとつらいから連絡しないって言ってたのに」
「そうだけど、いつまでも逃げているわけにもいかないじゃない。
 それにアタシはアタシ達のことをみんなに祝福してもらいたいのよ。
 まあ、さすがのアタシも全人類におめでとうを言ってもらうわけにはいかないけどさ、
 せめて実の父親ぐらいには認めてもらわないとね」

これは、昔の、一緒に戦っていた頃の少女からは考えられない変化である。

「良かった。アスカ、強くなったね」
「何言ってんのよ、バカシンジ。アタシは昔っから強かったわよ」
「うん、そうだね」
「何素直に返事してんのよ。まったくボケボケっとして」
「えっ、何が?」
「まったく。ホントは強くはなかったわよ。強がってただけ。
 強くなれたのはシンジのおかげよ」
「そ、そんなことないよ。
 僕は前から強くて明るいアスカに惹かれてたんだから」
「そうなの?じゃあ、ファーストにはどこに惹かれてたの?」
「そんな、あ、綾波はー」
(綾波、か。僕は彼女のどこに惹かれていたんだろう)
「バカシンジ。本気で考えるんじゃないの!」

アスカは軽くシンジの頭を叩いた。

「そう言えば、シンジ。
 司令、じゃなかった、お義父さまはレイのこと知ってるのかしら」
「さあ、どうかな。多分知らないんじゃないかな。あの様子じゃ」
「じゃ、家に帰ってビックリ、ってやつね」
「うん。母さんならきっとそうするだろうね」





ユイが借りている家は刑務所からそう遠くはないところにあった。
ゲンドウは冬月とユイを相手に昔話をしながら歩いていた。
彼が家にたどり着いてビックリするのはそれから数分後のことであった。

なお、ビックリしたゲンドウを見ても驚かなかったのはユイだけであった。



(つづく)




【 次号予告 】

セカンドインパクト。
それはなぜ起きたのか。

使徒。
天使の名を持つ人類の敵。
なぜ使徒はジオフロントを目指したのか。

そして彼はなぜ自らの死を願ったのか。


次回 「神の造りしモノ」


「最終安全装置、解除!」
「ついにたどり着いたのね、使徒が」




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