第七話

心、永遠に重ねて

あるいは「ケンスケからの第七の手紙」




『やあ、シンジ、アスカ。
 あの時のビデオの編集が終わったから送るよ。

     相田ケンスケ』

シンジの親友の一人、相田ケンスケから送られてきたその大きな包みを開けると、一番上にそう書かれた紙がのっていた。

そして下にはディスクが何枚か入っており、さらにその下にはアルバムが入っていた。





「アスカ。ケンスケから手紙がきたよ。
 あの時の写真とビデオできたって」
「えー、何々」

寝室からリビングに入ってくるアスカ。

「ふーん。もうできたんだ」
「ビデオと写真、どっちから見る?」
「写真よ、写真」

アルバムを取りだすシンジ。

「あ、下にまだあるぞ」

それはきれいな額に納められたあの時の二人の写真であった。

「ふーん。結構きれいにとれてるんじゃない」
「そりゃーね。いちおうアイツもプロなんだから」
「モデルがいいのよ、モデルが」
「そうだね、アスカ、きれいだね」
「とっ当然よ」(素直にそう言われて一瞬口ごもるアスカ)
「シンジもアタシと同じぐらいきれいに写ってるわよ」(すぐにフォローする)
「そ、そうかな」(照れるシンジ)

『当然よ。アタシが選んだ旦那様だもの』などとは恥ずかしくて口に出せないアスカ。

「は、早くアルバム見ようよ」

アルバムを開くシンジ。結婚式のときいろいろな写真がそこにはあった。

「やっぱプロねー」
「そうだね、どれもきれいに撮れているね」
「違うわよ」
「えっ」
「あいつの目、あるいは勘かしらね。
 アタシが言ってるのは一瞬のシャッターチャンスを逃さないプロの業のことよ。
 ほらコレなんか」

一枚の写真を指すアスカ。
そこには一心不乱にご馳走を食べまくるトウジと、
トウジの頬についたソースを拭いているヒカリの、
嬉しそうな横顔があった。

他にもよく見れば、
冬月リョウジ君と日向ミサトちゃんのツーショットがあるかと思えば、
青葉シゲルがアスカの同僚の女の子をナンパしているところ、
アスカが料理をつまみ食いしているところまである。
まじめな写真に挟まれて、そんな写真が全体の3分の1は占めていた。

「あ、これ。シンジ」

アスカが次に指したのは嬉しそうな、誇らしげな顔をしている、
ゲンドウの写真だった。

(父さん。こんなに喜んでいてくれたんだ)

「これなんか良く撮れたわね−。
 会場ではずっとむっつりしていたと思ってたのに」
「そうだね。めったに感情を出さない人だからね」
「きっとこんな顔をしたのは一瞬だけだったのよ。
 でも、ケンスケの目はごまかされなかったってわけね」
「やっぱアイツもプロなんだな−」

次々とページをめくるシンジとアスカ。ようやく見終る。

「次はビデオ、見よっか」
「うん、シンジ」



*         *         *         *



それは、二十数人ほどで開かれたささやかな式だった。
この日のために、招待された人は喜んで今は廃墟と化した町、第三新東京市に集まった。

シンジを、
アスカを、

悲しみと苦しみの世界から人類を救った少年と少女を祝福するために。

式はかつての爆発でできた湖の浜辺で開かれた。





式は無宗教形式とよばれる現代式に進行した。
(ただし、キリスト教式の影響が強く残っているが)

進行役(神父の役)を引き受けた冬月コウゾウが新郎にいう。

「ではシンジ君。皆さんに誓いの言葉を。そして新婦に誓いのキスを」
「はい。私、碇シンジは富める時も貧しい時も、
 苦しい時も病んだ時も、いかなる時にも変わらない
 惣流アスカ・ラングレーへの永遠の愛をここに誓います」
「アスカ。愛してるよ」

「ではアスカ君、皆さんに誓いの言葉を。そして新郎に誓いのキスを」
「はい、私、惣流アスカ・ラングレーは.....」
「シンジ。わたしもよ」

「では二人とも、指輪の交換を」

アスカの手をとって指輪をはめるシンジ。
シンジの手をとって指輪をはめるアスカ。



それが終わった時、シンジはポケットに手をいれてあるものを取り出した。
そしてそっと花嫁の首にかける。

「シンジ、これって」
「そう。ミサトさんのペンダント。
 あのとき、エヴァに僕を乗せる直前にくれたんだ。
 ミサトさんのまごころがこめられているこのペンダントを
 いつかアスカに渡そうと思ってたんだ」

クルスのついたそのペンダントとシンジの顔を交互に見つめていた
アスカの顔から涙がごぼれる。

「シンジ、シンジ、シンジー」

突然シンジに抱きついて泣き出すアスカ。

「コホン」
「ほ、ほら、アスカ。離れて、泣きやんでよ。お願いだから。式が進まないよ」
「シンジ−。でも、でも、私、うれしいの、シンジー」
「笑おうよ、アスカ。アスカに涙は似合わないよ」

手本をみせるかのように自分もにっこり笑うシンジ。
それを見て泣くのをやめて笑おうと努力するアスカ。

「ほら、アスカはやっぱりそっちの方がアスカらしいよ」
「シンジ、ありがと」



「コホン。いいかね君達」
「はい、すいません、冬月さん」

「では、立会人。二人の誓約を見届けましたね」
「はい」とは二人の後ろに控えていた冬月ショウヨウ。
「ハイ」とは同じく立会人の冬月マヤ。

「では皆さん。今この瞬間からこのふたりは夫婦となりました。
 ふたりの前途に幸多からんことを祈って祝福の言葉を」





二人ならんでゆっくりとみんなの方に歩いていくシンジとアスカ。

「おめでとう」
「めでたいなー」
「おめでとう」
「おめでとうさん」
「アスカ、おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう、シンジ君」
「おめでとう。がんばれよ」
「二人ともおめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」
「オメデトー、マイネアスカ」
「よくやったな、シンジ」
「アスカちゃん、シンジのことよろしくね」





式は終わった。
そしてその場で2次会が始まった。
(企画・立案 碇ユイ&相田ケンスケ、司会 冬月ショウヨウ&マヤ)
まず各テーブルに料理がならべられる。

この日のために前日にシンジとユイが作って持って来た料理だ。
無論アスカも料理を少し手伝った。少し。
バリエーションを出すために料理学校に通っている洞木ヒカリが協力した。

会場は湖のほとり。
あの時、二人が目覚めた場所。
秋晴れの空のもと、そよ風が吹く最高の日。





「それでは皆さん、今からマイクを回します。
 二人に祝福のメッセージをお願いしましす」

マヤが言う。

ケンスケは司会もやろうかと最初考えていたのだが、カメラマンとの両立は不可能なことに気付いて、結局カメラを選んだ。

今日も朝早く来てまず何かやってたあと、ビデオカメラ3台をまず三脚で固定し、スチルカメラも3台、おまけに超小型の隠しカメラまで会場に設置した上で、今は会場をうろうろしながら旧式のフィルム式カメラでパシャパシャ写真を撮りまくっている。

耳にはイヤホン。会場のあちこちに設置してある盗聴器の音声をザッピングしながらシャッターチャンスをうかがう姿勢はまさにプロ。

じつはケンスケ、すでにプロの写真家なのである。アルバイトで始めた新聞社のカメラマンの助手をしていた時に認められ、今も大学に籍は置いているものの既にフリーの報道写真家として実績をあげつつある。特に定評があるのが彼の人物写真で、彼の写真には被写体が普段その仮面の下に隠している素顔が、実に人間臭い姿が捕らえられる。ピュリッツアー賞もそう遠い日のことではなさそうだ。

同時にこのケンスケ、実は今ではけっこうモテるのである。やはり、写真家として食っていけるだけ名前が売れた、ということが大きいが、高校時代に青葉シゲルに弟子入りして男を磨いた成果の表れでもある。

最初、国連軍ということでシンジのつてでそっち方面から接触したが、気があうようになり(というかモテないケンスケに青葉が同情したのか)、こっちの修行を受けるようになった。自分には軍人の才能がないと知ったミリタリーオタクは青葉の指導で、まず、自分の長所=カメラを最大限に伸ばす努力をはじめた。

同時に髪型をかえ、眼鏡をかえ、ファッションに気をつかい、幅広く話題の情報を採取(これは得意)した。一時期、青葉をまねてロン毛にすることも考えていたようだが、これは

「ロン毛はやめたほうがいいぞ、ケンスケ君。
 50年前なら髪を伸ばして眼鏡をかけてギター片手に反戦の歌を歌っていれば、
 それは最先端の流行だったが、
 君の場合はどこから見てもただのヲ○クにしか見えない。
 ロン毛、眼鏡、ニキビ顔、専門用語を多用する会話。
 それはまずい。非常にまずいぞ」

と言われてその時あきらめた。

だが、やっぱり大学に入ってから髪を伸ばしはじめた。今では結構様になっている。頭の後ろで束ねていかにもアーティストでござい、って感じである。そしてモテるのである。だからこそ、トウジにプレッシャーを与えることができたのだ。

(次はメッセージか。
 準備したものが役立つな。
 この様子だと作戦3ーCかな)





みんなのメッセージが始まった。

「シンジ君、おめでとう。
 君はじつに強く、明るく、たくましく成長したね。
 そしてこんなにもかわいい花嫁さんをめとることができて、私も大変うれしいいよ。
 あの日、君が一人でこの街に戻ることを決めた時、私はすごく心配していたんだ。
 私もかつて母のことで私の父と対立し、家を飛び出したことがあったからね。
 私の場合、妻のユウコのおかげで父と仲直りすることができたが、
 それには20年もの時がかかった。
 だから君がお父さんの元に呼ばれた時、心配で心配で仕方が無かった。
 でも、それは杞憂だったね。
 私にはあの頃の君を支えてあげることしか、
 いや、それすらも満足にできたとは言い難いが、
 そんな事しかできなかった。
 それはすまなく思っている。
 でも今は違う。
 君は変わることができた。
 強さを手に入れたね。
 君は昔から優しい少年だった。
 他人を、自分を傷つけることの痛みを知っていた。
 そして今、君はつらい事から逃げない勇気も持っている。
 立派な大人になったね。
 ユウコも草葉の陰できっと喜んでいるよ。
 おめでとう、シンジ君。
 そして末永く幸せにな」
「先生...」





「シンジ君、結婚おめでとう。
 これでようやく君も念願のアスカちゃんと一つになれたわけだ。
 そのことにはお祝いを言わせてもらうよ。
 でも一言だけ言わせて欲しい。
 世界には女の子は一人だけじゃない。
 もし、浮気がしたくなったらまず俺に相談してくれ。
 ナンパのしかたと絶対にアスカちゃんにばれないやり方を伝授してあげよう。
 君は見込みがある」
「ア・オ・バー!」

アスカが立ち上がって目を三角にしてにらむ。今にもむかっていきそうだ。

「ははは、冗談だよ冗談。それでは二人のために一曲」

おもむろに後ろからギターを取りだし引きはじめる青葉。

「これはセカンドインパクト前の名曲で、....」





「シンジ君、おめでとう。
 アスカちゃんも。
 これで二人は結婚という一つの節目を迎えたわけだけども
 これは一つの始まりであって、まだゴールじゃない。
 最後まで二人で仲良く頑張って欲しい。
 そしてもう一言。
 結婚は、二人でいつもいられることは幸福なことだ。
 だけど、結婚の最大の幸福はそのあとに生まれるものだ。
 頑張ってはやくその幸福を手に入れて欲しい」

(そのあとの幸福ってなんだろうね、アスカ)
(アンタ、バカぁー?赤ちゃんのことよ、赤ちゃん)
(えっ)

ようやく気付いて真っ赤になるシンジ。

「これは僕からのお祝いだ」

といってどこからか取り出したボタンを押す日向。

パンパン。パンパン。

周囲から空に打ち出される花火。
兵装ビルに仕込まれた迫撃砲から発射されているようだ。
これを見てくやしがるケンスケ。

(くー。同じことを先にやられた。しかも大規模に。
 よし、作戦2−Bに変更だ)

どうやら彼の朝の準備は花火だったらしい。


ちなみに今は日向が作戦課長、青葉が課長補佐である。青葉は国連軍の人事部長の娘に手をだしたのがばれて降職させられた。さすがに私的な問題であったから大規模な懲戒にはならなかったが。

日向の方は相変わらず親馬鹿ぶりを発揮しているらしい。が、根はまじめだし仕事もできるので公的にはその評価は高い。青葉もことを仕事だけに限ったら日向よりも有能ではあるが、不真面目な態度が災いしているようだ。

今日、日向はその妻、エミも連れてきている。エミもあのころ第三新東京市に住んでいたとはいえシンジ達とは面識がない。日向がエミを連れて来たのは、立会人をつとめたマヤのために、その子供達の面倒を見てもらうためである。今、その子達はおとなしく座って仲良く遊んでいるようだ。





「シンジ、おめでとうさん。
 わいはこのとおり口下手やから上手く言えんけど、
 とにかくおめでとうさん。
 あ、あとは、い、いいんちょ。
 わいの代わりに頼んだで」

すぐに隣席のヒカリにマイクを渡すトウジ。

「アスカ、結婚おめでとう。シンジ君もおめでとう。......」

トウジの分まで長々と話しだすヒカリ。
最後はこの発言でしめくくられた。

「今日はとってもよいお式でした。私、感動しちゃった。
 私達もはやく式を挙げたいなって。ね、トウジ」
「あ、ああ。そやな、ヒカリ」





「ほらお姉ちゃん。マイク貸してよ、早く」
「ごめん、ノゾミ」
「シンジさん、アスカさん。
 おめでとうございます。
 お二人に、私達第七高校吹奏楽部が誇った花の弦楽カルテットの残り三人から、
 歌を送ります」
「月並みだけどね」
「俺はいやなんだけどね。声が低いから」
「いいじゃないの。男だったらウジウジしないの!」

「......あっか、あっお、きいろのー.....」

ちなみに、ノゾミとテツオがバイオリン。
ユカリはビオラで、シンジがチェロである。
この4人で組んで、昨年の全国コンクールで三位に選ばれている。





「.....三つの袋というものを心に持って.....」

これはアスカの今の上司。









ひととおりマイクが行き渡ったようだ。

(最後は僕の番だな)

「それでは新郎と新婦のご両親から皆さんにお礼のお言葉をお願いします」

(えっ)

あちこちうろついていたせいで忘れられてしまっていたようだ。
やっぱり影が薄かったな、この男。
だがしかし、スクープ記者としては貴重な才能だぞ、これは。

(俺の作戦がー。あんなに準備したのに。どうしてくれるんだー)





「 Meine Asuka und mein neuen Sohn, Shinji! Ich gratuliere Ihnen. ......」

アスカの母親がドイツ語で話はじめた。理解できているのは惣流家の4人(含むアスカ)と冬月コウゾウ、ショウヨウ。あとはユイぐらいか。ゲンドウは手を顔の前で組んで時々うなずいているが、コレはポーズに過ぎない。

(ねえねえ、何て言ってるの、アスカ?)
(うるさいわね、ちょっと黙ってて!)

「 Mama.....」

彼女は少し俯いて小さく呟いた。その瞳から水滴が一粒こぼれ落ちた。
それを聞いて、見て、彼も黙って前を見つめた。

(あれがアスカのもう一人のお母さんか。優しそうな人じゃないか。
でも何て言っているんだろう。そうだ、後で父さんに聞いてみよう)


「 Guten Tag, meine Damen und Herren ! Vielen Dank, Ihnen zu kommen.
 スイマセン、オアツマリノミナサン。ツマハアイニクトニホンゴ
 ガデキマセンノデ....」

結構流暢に日本語を話すアスカの父。
日本に留学した時に覚えたものだそうだ。


となりではアスカの異母弟も順番を待っていた。

「 Ich gratuliere fur Ihrer Hirat, Aschuka und Shinji, ...」
「 Nein, Karl ! Ich heisse Asuka, nicht Aschuka.」
「 Aschuka, Das ist merkwurdig! Aschuka ist Aschuka.」
「 Nein, BAKA Karl ! 」
「 Was ist BAKA, eine dumme Aschuka ? 」
   ・
   ・
   ・
   ・

今度はつまらないことで姉弟喧嘩を始めるアスカとカール。
だが、アスカは実にうれしそうだ。
6才離れた弟、カールは生まれた時からアスカの子分だったのだから。
父や母からは孤立していても、唯一カールとは仲が良かった。

「シンジ、ぼけぼけっとしてないでアンタもなんか言い返しなさいよ。
 アンタのこともあんな非道いこと言ってんのよ、あのバカカールは」
「あんなことって言っても、何てさ。わかんないよ、ドイツ語なんだから」
「っんとにもう、女の私に言えるわけないでしょ、あんなこと。
それとも言わせたいわけ?エッチ、痴漢、変態。信じらんなーい」
「わ、わかるわけないだろ、そんなこと」
「ほんと、つまんない男」
「しょうがないだろ。人はドイツ語をしゃべるようにはできてないんだ」
「それはアンタのことでしょ。このバカシンジ」
「悪かったな。そんな男と結婚するのはどこの誰だよ」
「言ったわねー。土下座して結婚してくれって頼んだのはアンタでしょ」
「そ、そっちこそ。寝言で『ダーリン、愛してる』なんて言ってるじゃないか」
「あんただって『アスカ、僕も愛してる』って答えてるじゃない」
「ず、ず、ずるいよ、起きてたなんて」
「ひっどーい。冗談で言っただけなのに、ほんとだったの。一晩中、聞いてたのね」
「き、聞いてないよ。途中で寝たんだよ」
「嘘ばっかし。それじゃあ昨日の夜は遅くまで寝ないでなにしてたのよー」
「きょ、今日の式のためのイッ、イメージトレーニングだよ」
   ・
   ・
   ・
   ・

いつのまにか、姉弟喧嘩が夫婦喧嘩に変わってしまった。
それも、まだ結婚して2時間と経っていないのに。

「あーあ、誰か止めてやれよ」(マコト)
「いいんじゃない、やらせとけば」(シゲル)
「不様ですね」(マヤ)
「何もこんなところで...」(ショウヨウ)
「まったく、恥をかかせおって」(コウゾウ)
「変わってないねー」(ケンスケ)
「早速はじめおったで」(トウジ)
「二人とも、静かにして。授業 披露宴中よ」(ヒカリ)





先にマイクを受け取るゲンドウ。

「今日は皆さん良く来てくれました。シンジ、アスカ君。おめでとう」

すぐにマイクをユイに渡す。

(あなた、それだけですか。もっときちんといわないと駄目じゃないですか)
(ふっ。問題無い)



「今日は皆様遠いところから良くお集まり下さいました。
 二人に成り代わってまずお礼をいわせていただきます。
 私はシンジの少年時代、母親として何もしてやることができませんでした。
 でもシンジがここまで立派にそだってくれたのは
 これも一重に皆様のお力添えのおかげだと存じます。
 もう一度、お礼を言わせていただきます。
 そして、今日ここにはくることがかなわなかった人達にも。
 あなたがたの思いがシンジをここまで成長させてくれました。
 多くの方がシンジのためにつくして下さいましたが、
 その中から特にお二人にありがとうと、
 シンジのためにありがとうと言わせて下さい...。
 葛城ミサトさん、綾波レイさん、
 ありがとう」





「それでは最後に今日めでたく結婚することができた
 シンジ君とアスカさんのお二人の言葉で
 本日の晴れやかな会を締めくくりたいと思います」
「シンジ君、アスカ。ハイ、どうぞ」



































二人の言葉が終わった時、式場となったその都市の廃墟は静まり返っていた。

中秋のその日。昼過ぎから始められたその式は、夕刻まで続けられた。
テーブルの上に照らされたキャンドルの明かりの元、皆は二人の話に聞き入っていた。
いつのまにか日が沈み、東の空に満月がこうこうと大地を照らしていた。
月の明かりが湖面に映ってゆれている。

二人の目に、幻が映る。
そのとき「歓喜の歌」のハミングが聞こえたような気がした。
月をバックに湖面に浮かんだ蒼い髪、赤い瞳の少女が見えた。

少年の目で涙がうるんだ。
少女の目からも涙が流れた。

少年、いや、もう青年といった方がいいだろう。
彼はそっと花嫁を抱き寄せて、やさしく彼女にキスをした。

湖上の幻はいつまでも消えなかった。
そして二人もいつまでも抱き合っていた。









月をバックに抱き合う二人がクローズアップされ、映像は終わっていた。
ビデオを見終ったふたり。

「シンジ、あたし感動しちゃった」
「僕もだよ、アスカ」

「シンジ、アタシ達、いつまでもずーっと一緒よね」
「うん、アスカ。いつまでもずーっと一緒だよ」

「シンジ、だーいすき!」
「ア、アスカー」





二人は幸せにつつまれていた。

2019年10月某日。新婚旅行先、沖縄のコテージにて。









(どこかから声がする)

「おめでとう、シンジ君」
「あなた誰?」
「覚えてないのかい、僕を」
「いえ、知らないの。たぶん私は二人目だと思うから」
「僕はフィフスチルドレン。渚カヲルさ。仲良くしようよ」
「命令があればそうするわ」
「......」
「そこ、どいてくれる?」

「碇君。碇君の匂いがする」
「君はリリスより生まれしモノだからね。心さえあれば感知できるさ。
 シンジ君の魂は今みずから輝いているから」
「わからないわ」
「愛する妻、ワイフがいるという事実は幸せにつながる。良い事だよ」
「そう、そうかもしれない」
(誰、碇君の隣にいるのは?)
(この人知ってる。セカンドチルドレン。弐号機のパイロット)
(鱶ヒレチャーシュー大盛り。三千円)
(二人とも、嬉しそう)
(幸せ。幸福。喜び。嬉しいこと。楽しいこと...。これは、涙!)
(私、泣いているの?何故、泣いてるの?)
(二回目の筈なのに、初めてのような気がする)
(これが嬉し涙。私、嬉しいのね)
(碇君が今、幸せだから)
「そう、良かったわね」





「おめでとう、シンジ君。
 君は、君にしかできない、君にならできる事をやり遂げたんだ。
 おれはここから見ていることしかできない。
 アスカを幸せにしてやるんだぞ」
「シンちゃん、アスカ、おめでとう。
 あの時のキスの続きはアスカにゆずるわ。
 おとなの楽しみを満喫するのよ。かんぱーい。ぷっはー」
「それ、ぬるいわよ」
「うっ」
「不様ね...。
シンジ君、ずいぶん立派になったじゃない。
そしてアスカ、おめでとう。
 私は科学者としても女としても生きる事ができたけれど
 母親にはなれなかったわ。でもアナタならできる。
 あの苦しみを乗り越えられたのですもの。頑張ってね」
「何かを作る、何かを育てるのはいいぞ。いろんなことが見えるしわかってくる」
「そうよーん。シンちゃんもがんばりなさーい。おっとこのこでしょう」
(もう酔ってるのね) (飲みすぎるなよ)

「今を変えようとする力と維持しようとする力」
「男と女だな」
「その矛盾する二つの性質を一緒に共有していくこと、それが結婚」
「生きるって事は変わるって事さ」
「二人が持っている様々な欲望。それが常にせめぎあって生きて行くの」
「だからおもしろいんだな、人生は」
「だから壊すのよ、心の壁を。素直な気持ちで、ひとつになりなさい」
「S○Xは命の洗濯よーん」
「いやはや」
「ミサト、あなたはだまってなさい」
「いいじゃない。ちょっとぐらい。だいたいリツコは昔っから前置きが長いのよ。
 一言で言っちゃえば簡単なのに」
「そ、それが科学というものなのよ」
「おいおい、こんな所で喧嘩はないだろ。楽しくやろうや」
「そういう加持君もね、人の話に変な茶々をいれないでよ。話しにくいでしょ」
「こいつはね、昔っからそういう男なの。変わってないわ」
「じゃ、ま、そういうことで。シンジ君、アスカ。またな!」
「あ、ちょっと、こら加持。待ちなさい。じゃ、シンちゃん、アスカ。またね!」
「まったくもう。私も帰るとしますか。シンジ君、アスカ。幸せにね」





「これでエヴァの補完は完了した」
「左様。世界は幸せにつつまれている」
「しかしまだ解決されない伏線も残されている」
『問題ありません。すべては順調にすすんでおります』
『レイはどうなんだ』
『心配ない。ただの風邪だ』
『そうか。ならば良いが』(レイにこだわりすぎだな)
「ならば何故、姿を見せない」
「シンジの妹だという噂もあるが」
『委員会への報告は事実です。区役所の戸籍謄本を調べて下さっても結構です』
「笑わせるな。下手くそな伏線は君の十八番ではないか」
「まあいい。エピローグでの遂行を願うぞ」
『わかっております。全ては作者のシナリオ通りに』








【 結婚式の出席者 】

碇  シンジ
惣流・アスカ・ラングレー


碇家  :2人 (ゲンドウ、ユイ)
惣流家 :3人 (ハインツ・M・クラウザー、マリア、カール・G)
冬月家 :5人 (コウゾウ、ショウヨウ、マヤ、ミサト、リョウジ)

青葉  :1人 (シゲル)
日向  :3人 (マコト、エミ、ミサト)
鈴原  :1人 (トウジ)
洞木  :2人 (ヒカリ、ノゾミ)
相田  :1人 (ケンスケ)
海原  :1人 (シロウ)・・・・(シンジの先生。陶芸家の息子で元新聞記者)

他、
シンジの高校での友人 2人 (洞木ノゾミを除く)
アスカの職場での友人 3人 (先技研第二東京研究所の研究員)

なお、碇レイはおたふく風邪にかかり、残念ながら式にはでれなかった。





【 次号予告 】

そして二人は一つになった。
そして一つの生命が生まれる。

その時もう一組の若者たちは...。


次回 「アイ、誕生」


「この次もサービス、サービス」




【 おまけ その1 】

その夜、アスカの母親が何を言っていたのか知りたくて、シンジはゲンドウに電話をかけた。
(結局アスカは教えてくれなかった)
「なんだ」
「あ、あの、父さん」
「どうした、早く言え」
「あの、実は今日、結婚式の時、
 マ、マリアさんは、アスカのお母さんは、
 何て言っていたの」

(パターンA)普通のゲンドウ
「なんだ、そんなことか」
「そ、そんな事って、父さん」
「そういうことはすべて冬月先生に一任してある。
 くだらんことで電話をするな。
 こんな電話をいちいちかけるんじゃない」

(パターンB)悪いゲンドウ?
「人は忘れることで生きていける。私はそれを確認するために毎日鏡を見ている」
「そんなのわからないよ。何を、父さんが何を言ってるのかわからないよ、父さん」
「すべては心の中だ。今はそれでいい」

(パターンC)良いゲンドウ?
「ドイツ語もわからないのか。シンジ、おまえには失望した」
「し、知ってるよ。そんなことぐらい」
「では言ってみろ。言っておくが『バウムクーヘン』は無しだぞ」
「うっ」
「言えないのか、シンジ」
「フォ、フォルクスワーゲン。ブ、ブンデスリーグ。
 えーと、それにイッヒ・リーベ・ディッヒ」
「なるほど。それがプロポーズの言葉なのか?
 よく言えたな、シンジ」





【 おまけ その2 】

式の前日、シンジは夜遅くまで起きていた。
アスカはとっくにベッドで寝ている。

(パターンA)良いシンジ君
「ここでアスカに指輪をあげて、えっと、それからキスをする、っと」
「それで、『愛してるよ』って囁いてあげて....」
「『本日は僕たちのためにお集まりいただき、ありがとうございました』
 挨拶の出だしはこんなもんでいいよな。
 それでっと、次はなんて言えばいいのかな」
「アスカは練習しないで平気なのかな」

(パターンB)普通のシンジ君
「逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ」

(パターンC)悪いシンジ君
「ハァ、ハァ、ハァ」
「ハァ、ハァ、ア、アスカぁ。ハァ、ハァ」
「ウッ」
「最低だ。俺って」




【 作者より 】

  すいません、ドイツ語は一応10年前に習った筈なんですが、すっかり忘れてしまいました。
  どなたか、語学が得意な方に添削して頂けるとありがたいです。
  格変化とか、あっていますでしょうかね?




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