いけないよゲンドウくん


第一症 「発端」
                                               (問題ない。シナリオどおりだ)



ジオフロントで最高のセキュリティーで守られた場所、
それがNERV司令、碇ゲンドウの執務室である。

執務室といっても子供がお遊戯できる程のスペースに机が一つあるだけで
あとは何もない(もっとも、見えないところにどんな仕掛けがあるかなど、
部屋の主以外知るすべもないのだが…)。


その机で先程からゲンドウが計画書を作成していた。
知るものが少ないが、彼は計画をたてることが大好きだった。
そのわりに実行することが少なく、成功することはさらに少ないため、
学生時代は計画倒れのゲンドウとして有名であった。

不思議なことにそのころの彼を知る人間は誰もいない。
セカンド・インパクトの貴い犠牲となってしまったからだ。
セカンド・インパクトが彼の計画によるものだとすれば、自分の知られたくない
過去を完璧に消したという意味では、彼の計画の数少ない成功例にあたるだろう
(人類の半数を死滅させてしまったことに目をつぶればの話だが…)。



ともあれ、幾許かの時をかけて計画書の作成を終えたゲンドウは、口元で手を組み、
いつもの笑顔を浮かべようとした。その時、

「本気かね、碇。老人たちが黙っていないぞ。」
突然に背後から声がかかった。

彼こそはNERV司令執務室のセキュリティー(MAGIによる身分照合と深層心理走査を
パスし、司令本人の承諾がなければ扉が開かない)をものともせずに司令の背後に
現れる男、冬月コウゾウであった。


「……フッ、問題ない。」

本当は飛び上がらんばかりに驚いたが、なんとか額の冷や汗ひとつで抑えている。
たいした精神力といえよう。
ただし、計画書の表紙はあわてて隠そうとした気持ちが表れ、多少よじれている。
その表題には「人類補完計画第25次付帯実験計画」とある。
表題の下に鉛筆で「ミスNERV名器コンテスト」とあるので、実行する気がない計画
だったことは窺える。


「おまえがそうまで言うのならば反対せんが……
 しかし、どうやって人を集めるんだ?」

「それはお任せを。」


無精ヒゲの男が突然にわってはいった。
この男もセキュリティーの存在など意識のはしにも置いていない。


「どうするのかね?」

「餌を撒きます。」

「餌?」


無精ヒゲの男は直接冬月に答えず、ゲンドウに視線をふった。


「かまいませんね、碇司令。」

「ニヤリ。」


得意の笑顔を浮かべるが、その実、無精ヒゲの男が何をするつもりかまるで
わかってはいない。
ただ、司令としての威厳を保ちたいという気持ちが問い返すことを許さなかった。


「反対する理由はない。やりたまえ。」


彼のこの一言で本来は実行されなかったはずの計画、「ミスNERV名器コンテスト」が始動された。





 悲劇の幕は開く。





(続く


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