著者注
其の壱:18禁作品に付き、18才以下の読者の閲覧を禁じます。
其の壱:不況への対抗措置として(笑)、就業時間中の読者の閲覧を禁じます(爆)
其の参:「これはいったいどういうレイなん?」と言う方は拙作「甘いのはお好き?」Vol.1〜2参照。






把恋多淫
説話
セントバレンタインデーストーリー (X指定)


そのいち


書いた人 けんけんZ




「ねぇ碇君、わたしの気持ち、受け取って」

 上目づかいなレイ。
 小さなテーブル越しに、後ろ手に隠していた四角い包みをシンジに差し出す。

 あらためてこう言われると、さすがに鈍感なシンジと言えど戸惑い躊躇うものがある。

 レイに「渡したいモノが有るから」と連れられて来た一人暮らしのアパート。
 今日が2月14日という事を考えれば、シンジにも先の展開は大体予想が付いていた。

「あ・・う、うん」

 はっきりしない返事と共にではあるが、シンジはその包みを受け取った。

 その瞬間、レイの顔に心底ホッとしたような、軟らかな笑みが弾ける。

「良かった。とりあえず受け取ってもらえて」

 白い花がほころぶように、周りをぱっと明るくする、そんなレイの笑み。

「え・・」

 そう、いきなり受け取る事を断ると言う手も有ったのだ。
 シンジは思い付きもしなかったが。

「私ので幾つ目?結構もらえたんじゃないの?」

 こんどは悪戯っぽく微笑みながら、レイが尋ねる。

「今朝、アスカから・・・でも学校では誰にも」

「そうなの?もうちょっともらってるのかと思ってたのに」

 大袈裟に驚いた様子でレイが言う。

「なんだー、気合入れて手作りだったの。碇君がもし沢山もらうんなら目立たないといけないか
 なって」

 レイは嘘をついた。
 しばらく前からアスカが、「あんな馬鹿に義理チョコなんて必要無いわよ」と公言していたのを
知っていたからだ。
 それでもシンジにチョコを渡そうとする女の子は、多分居ない。
 シンジにチョコを渡すのは私とアスカの二人だけ。

「あ、あのさ」

「すぐに開けて良いからね。お茶煎れて来る」

 チョコレートの「意味」を尋ねようとしたシンジの機先を制して、レイはキッチンに立った。
 制服の上からエプロンを着けて小さなヤカンにお湯を沸かし始め、カップやソーサーを用意し始
める。

 シンジはしばらく呆然と、手の中の包みを見ていた。

 2月14日に女の子から手渡されるチョコレートの意味。
 そんなものは尋ねなくても、シンジだって知っている。
 けれど、今朝アスカは、「ほらシンジ、どうせもらえないだろうから義理チョコあげる」と言い
つつシンジにチョコを渡した。
 さらに、
「私からもらったんだからもっと嬉しそうにしなさいよ。学校で一個ももらえないからってがっか
 りした顔するんじゃないわよ」
 と念を押す事も忘れなかった。
 つまり、世の中には「義理で渡されるチョコ」と言うのが存在するわけだ。
 好きでも嫌いでもないけど義理が有るので贈り物をしておきましょう、と言う事なのだろうか。
 でもどんな義理なんだかシンジには良く分からなかった。

 同じように、レイが手渡したこの包みの意味も良く分からない。
 もちろん「目立たないといけないかなって」と言う発言をまともに考えれば、答えは自ずと導か
れるのだが、可能性としては、義理で渡されるチョコレートの線も捨てる事は出来ない。

「ダージリンで良かったかな。あ、ココアかコーヒーの方が良い?」

 お湯が沸いて、レイがキッチンから振り返る。

「いや、べつに、何でも良いけど」

「じゃあ紅茶にしとくね。ティーパックしか無いんだけど」

「綾波、あ、あ、あのさ」

「レモン?ミルク?どっちが良い?」

「えと、レモンでお願いします」

「すぐ出来るからちょっと待ってね」

 シンジの質問はことごとく遮られる。
 そのせいで、シンジはもう一度考え直す事が出来た。

 どういうチョコレートなのか、なんて聞いたら普通は怒られるだろう。

「なに言ってるの、義理に決まってるじゃん」
 そう言われる事を願っている。

 でも、逆の可能性で怒り出す事も考えられなくはないのだ。
 いわゆる本命チョコ、と言う奴である。

 チョコレートを渡す行為がそのまま「好きです、付き合って下さい」の意味を持つ。
 本命チョコを渡したつもりが、「これって単なる義理チョコだよね?」などと切り返されたら、
誰だって怒りだすか泣き出すかである。

 シンジは女の子を怒らせる事も泣かせる事もしたくない。
 悩んでいても仕方が無い。
 自分なりに答えを見つけるしかないのだ。

 レイは冷蔵庫から取り出したレモンを切っている。
 開けて良いと言われたのだから、開けて怒られるという事はないだろう。
 開ければそこに答えが有るかもしれないのだ。

 シンジはとりあえず包みを開いてみる事にした。

 手の中の包みは、奇麗な水色の包装紙に銀色のリボンがかかっている。
 花のように結ばれたリボンの結び目は、引っ張ると簡単に解けた。
 出てきた中身は、真っ白な箱だった。
 両手に収まるぐらいの、たいして大きな箱ではない。
 可愛らしいシールで止められたフタを、恐る恐る持ち上げてみる。

 中身は9つに仕切られていて、それぞれ別の種類のチョコレートが収まっている。
 チョコに書かれたメッセージとか、手紙とか、そういうたぐいのものは見当たらない。

 謎は謎のまま、また振り出しに戻ってしまったのだ。

 シンジはゆっくり、9つのチョコレートをそれぞれ眺めてみる。
 丸い形のモノがほとんどで、表面の感じはそれぞれ違う。
 細いチョコの糸が絡まったようなモノや、フレーク状のチョコが固まったモノ、ココアパウダー
に覆われたモノ、ホワイトチョコの周りをパウダーシュガーが覆ったモノ、etc,etc.

 一目で、これを手作りしたレイの苦労が分かる。
 なにせ全部違う種類のチョコレートなのだ。
 材料を集めるだけで大変だったに違いない。

 シンジは、レイがどんな風にこの沢山のチョコレートを作ったのだろうと想像してみた。
 準備をしたり練習をしたり、一日だけで終わったとは思えない。
 箱も、リボンも、包装紙も、今はバレンタインと言うイベントがらみでどこのお店でも特設コー
ナーを設けているから、材料を集めるのは簡単だったろう。
 でも一つ一つの要素を、自分が納得いくようにコーディネートする苦労、材料を選ぶのに使った
時間と言うのは、生半可なものではないはずだ。

 受け取る側から言えば、単に「手作りのチョコレート」となってしまう。
 もちろんもらうのは嬉しいのだが、渡す側が込めた熱意まで想像すると、手作りのチョコの持つ
意味は「重い」。

 そう言えば、アスカにもらったチョコレートはまだ開けていなかった。
「義理チョコ」と言いつつ渡されたモノがどんなモノだったのか、今更シンジには気になる。
 アスカの事だから、あの包みの中に何かメッセージが入っていると言うのは考えにくいのだが、
ひょっとして何かアスカが伝えたかった事が分かるようなモノがあったかもしれない。

 考えれば考えるほど、目の前のレイのチョコと同じぐらいの比重でアスカのくれたチョコが気に
なってきた。
 それに、チョコの包みは朝迎えに来たアスカが置いたまま、シンジの部屋の勉強机の上にある。
 家族に見られたら何と言われるか分からない・・・。


 などと考えていて、ふとシンジは我に返った。
 今はレイの家に居て、レイに手渡されたチョコレートについて悩んでいたのだ。
 そんな時にアスカの事をあれこれと考えているのは、なんとなく後ろめたい。
 レイに対してだけでは無く、アスカに対しても、だ。

 もう一度手の中のチョコの箱に視線を戻す。

 一つだけ、一見何か分からないチョコが有った。
 可愛らしい色セロファンで包んだ状態で、箱の真ん中に収まっている。
 ふと、ひょっとしてこの中に、何かメッセージが有るのではと思い、シンジはその包みを解こう
とした。

「お待たせ。あ、食べるのちょっと待って」

 制服の上にそのまま白いフリルのエプロンを着けたレイが、ポットやカップを乗せたお盆を持っ
てやってくる。
 普段見慣れた制服姿なのに、エプロンを着けるだけでずいぶん雰囲気が違って見えるから不思議
なものだ。

 ともかく、シンジは一瞬レイの立ち姿に見とれてしまった。

「やだ、なんか付いてる?」

「う、ううん。何でもない」

 慌てて視線を手元のチョコに戻す。
 シンジがホントに慌てたのはその後だ。

「お砂糖自分で入れてね」

 と言いつつテーブルにポットやカップを並べたレイは、シンジのすぐ左隣に腰を下ろした。
 今居るレイの部屋は、さして広くないフローリングの真ん中に、小さなテーブルとクッションが
あるだけ。
 ベッドを背もたれに座ったシンジの隣が、確かに一番楽に座れるポジションには違いないのだが、
さっきまで向かいに座っていたレイが隣に来ただけで、シンジはパニックを起こしそうになった。

 だがそこで慌てたそぶりを見せるわけにはいかなかった。
 シンジの中では、テーブルに向かい合わせて座るのと隣に座るのでは、距離感はまるで違う。

 謎が謎でなくなった。
 レイの気持ちが分かった、と言い代えるべきだろうか。

 次の問題はシンジ自身の気持ちの問題なのだ。

「なに?びっくりした顔して」

 自分のカップを口の前に持ったまま、至近距離で上目遣いにレイが見ている。
 真横からささやかれるその言葉は、なぜか耳にくすぐったく届いた。

 すぐ隣にレイが居る。
 胡座をかいて座ったシンジの膝と、横座りのレイの膝が、触れ合いそうな距離。
 そしてその距離は、シンジの胸をドキドキさせたが、それは不快な感覚では無かった。

「もう、食べても良いよ」

 とレイが囁く。
 その囁きに、シンジは自分の顔が熱くなるのを感じる。
 食べて良いと言われたのはもちろん手元にあるチョコレートの事なのだが、その言葉の持つ甘い
響きは、シンジに別の「食べる」を連想させた。

「あ、うん、いただきます・・」

 語尾が小さく消えていく。
 自分の心臓が早鐘のように脈打っているのが分かる。
 顔が熱くて耳まで真っ赤になっているのが分かる。
 自分でも可笑しく思うほど、息が上がってきた。

 シンジは一つ目のチョコレートを、一口で頬張った。

「美味しぃ?」

 身体を近づけて、耳元で囁くようなレイの問いに、シンジは味など分からなくなっている自分に
気付く。

 レイの顔がごく近くでシンジの横顔を見詰めているのが分かる。
 シンジはレイの方に顔を向ける事が出来ない。

「あ・・うん」

 間抜けな答えと思いつつ、間が持たないので二つ目のチョコレートを口にほうり込む。
 今度もやっぱり味など分からない。

「あっ、そんなに急いで食べちゃダメ」

 レイはシンジの手から、チョコの入った箱を取り上げる。
 シンジはとりあえず荒い息と口の渇きを何とかしようと、せっかくレイが切ってくれたレモンも
忘れて、紅茶のカップに口を付けた。

「食べさせたげる。はい」

 シンジから取り上げた箱を手に、レイがシンジに近づく。
 前髪が触れ合いそうな距離。
 レイは左手に、すでにチョコを手にして待ち構えている。

「ほら、あーんして」

 シンジは一つ唾を飲み込んだ。

「あっ、ほら早く、溶けちゃうから」

「あ・・・」

 呆然と口を開いたシンジに、レイが手にしたチョコを食べさせる。
 シンジが口を閉じる時、レイの細い指先と尖った爪が、シンジに唇に柔らかく触れた。

 その感触だけがあまりに鮮明で、口の中で溶けるチョコの甘さも苦さも、まるで分からない。

「おいしぃ?」

「う・うん」

「急いで食べちゃダメよ。ちゃんと味わってね・・・はい」

 次の四つ目のチョコを、すでにレイは手に取っている。

 仕方なくシンジは口を開ける。
 レイの手からシンジの口へ。
 また指先が唇に触れる。

 わずかに溶けたチョコレートとシンジの唇が、レイの指先を汚す。
 その指先を、今度はレイが自分の口元へ運んで、舐める。

 なぜかぼんやりと、シンジはその光景に見とれてしまった。
 白く細い指を口に含む、レイの表情と、その唇。
 そしてシンジは、自分の一部が熱くなっているのを感じた。

 張り詰めはじめて、今にも膨れ上がりそうな・・・。

 レイが手に持ったチョコの箱をテーブルの上に置いた。
 空いた右手がシンジの背中に回る。

「あ・・あ・綾波」

 息苦しい。
 胸が締め付けられるような感覚と、頭がのぼせたような熱さが・・・。

「ねえ、碇君。私も半分食べていい?」

 甘えるような、わずかに鼻にかかる声。

 シンジの返答を待たず、さっき指先を舐めた左手で、レイはテーブルから五つ目のチョコをつま
む。
 手にしたチョコをゆっくり自分の口元へ運んで、半分だけ齧る。
 残った半分をシンジの口元へ。

 なすがままに、シンジはレイの手からチョコを受け取る。
 シンジはいつのまにか、自分の左手がレイの肩を抱いているのに気付いた。
 背中に回ったレイの右手は、それ以上にシンジをシッカリと捕らえて離さない。

「ゆっくり、ゆっくりね・・・」

 言われた通り、シンジは半分だけのチョコレートを口の中でゆっくり噛んだ。
 囁くレイの唇に、視線が捕らえられて外せない。

「次のも、半分もらうね」

 レイはまた、左手で自分の口元へとチョコを運ぶ。
 一口大の小さなチョコを、今度は咥えたままシンジの方を向いた。

 レイの右手が、しっかりとシンジを抱きしめる。
 シンジの左手も、レイの肩を抱き寄せる。

 二人の距離が、徐々に近づいて

「「んっ」」

 口の中で溶けていくチョコの味が、はじめてシンジにも分かった。
 甘く、甘く、苦く、そして、柔らかく。

 それがチョコの味なのか、続いてチョコをシンジの口の中に押し込むようにやってきた、レイの
舌先なのか、シンジには分からない。

 シンジが口を閉じると、すぐにレイは身体を離した。
 シンジがもう少し、口の中で溶けるチョコより柔らかいレイの唇を味わいたいと思っているうち
に。

「あと三つ・・・ベッドで食べる?」

 小悪魔の微笑と言うに相応しい。
 抗う術をシンジは持たない。

 のっそりと立ち上がりかけて、力無くベッドに仰向けに倒れ込む。
 はずみで膨れ始めたモノが張り詰めるように立ち上がったのを感じた。

 レイはチョコの箱を手に、仰向けのシンジを覗き込むようにシンジの隣に寄り添う。

「後少ししかないから、ゆっくり食べてね」

 レイの言葉の後ろに(はぁと)がある気がしたのはシンジの気のせいではあるまい。

「う・・うん」

 言いつつレイは、自分の口元にチョコを運ぶ。
 シンジの身体に重なるようにして、咥えたチョコを口移す。
 口付けたまま、レイの右手がシンジの背中に回る。
 シンジの両手も、レイの細い身体を包むように。

 つながった口の中は甘く苦い。
 レイと舌先で触れ合っている状態で、口の中のチョコレートを噛む事は出来ない。
 ゆっくりと、ゆっくりと、溶けていく。

 レイの足がシンジの足に絡みつく。
 それを振りほどくことは、今のシンジには出来ない。
 むしろ、レイの背中に回した腕に力を込めて、絡みあった太股をより深く絡み合わせる事しか。

 口の中でチョコレートが溶けていく。
 互いの身体に手を回し、足を絡め合った二人も、溶けていきそうな感覚。

 レイがゆっくり口を離す。

「あと・・・いくつ?」

 動悸と息が、激しくなっているシンジ。

「ふたーつ。でも最後の一個は特別」

 小悪魔の微笑を湛えたまま、甘く囁くレイ。

 八つ目のチョコレートが、同じように二人の口の中で溶けていく。
 
 レイの背中で、シンジの右手がエプロンの結び目に触れた。
 緩く締められた結び目を、ゆっくりと解く。

 レイの左手が、シンジのベルトのバックルを探る。
 バックルを外された感触に、シンジは軽く腰を浮かせて、レイがベルトを引き抜くに任せた。
 つながったままの口の中で、溶けのこったチョコレートを、二人の舌が互いに押し付け合って溶
かしていく。

 もはや、チョコレートが跡形も無く溶け去った二人の舌先は、一層激しく互いを求めて蠢く。
 レイはシンジの舌先を自分の口に捕らえようと、シンジの舌先をわずかに吸いつつ強く身体を押
し付けてくる。
 それに応えるように、シンジもレイの身体に回した腕に力を込め、レイの唇を割るように舌を伸
ばす。

 捕らえられた舌先が、レイの口の中で舐め上げられる。
 その感覚が、シンジの頭の芯を痺れさせた。

 シンジの頬を、溢れた唾液が伝う。

 甘い味だけが残った口の中で、互いの舌先を感じながら、背中に回した腕にどちらからとも無く
一層力を込めた。

「はぁっ」

 口を離そうとしたレイの身体をシンジが強く抱きしめ、レイの口から鋭い吐息が漏れた。
 その音色が、シンジに自分がオスである事を痛いほどに告げる。

「まって、まって、最後の一個」

 レイの息も上がっている。
 頬を赤く染めて、わずかに汗ばんだその顔に、シンジははっきりと自分の「欲情」を意識してい
た。

「もう・・・チョコなんて」

 いらない。
 甘いだけのチョコレートに、シンジはもう用はなかった。
 チョコより甘く、危険な味のするレイの事しか考えられなくなる。

「い・い・か・ら」

 最後の一個は色セロファンに包まれた、「特別な一個」
 片手で包みを開こうとするレイが、シンジにはもどかしい。

 レイがチョコの包みに取りかかっている間に、シンジの手はレイの制服のスカートの留め金を探
していた。

 シンジが苦労してレイの留め金を外したのと、最後の包みが開いたのが同時だった。
 現れたのは・・・

「えっ・・と、どういう」

 レイがシンジの目の前に、現れたモノを差し出す。

「・・・」

 馬鹿みたいに呆けて聞き返したシンジを、レイは無言で睨み付けた。

「ご・・ごめん」

「・・・バカ」

 レイの囁きに、シンジの首筋が硬くなる。
 耳元に吹きかけられたその言葉に、思うより早く身体が反応した。





そのにへつづく

制作・著作 「よごれに」けんけんZ
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