親父が好敵手#1





俺の親父は変人である...

なんの前触れもなく、いきなりこんなことを言うと驚かれるかもしれないが、間違いなく俺の親父は変人である。

お前は誰だって...そうだな自己紹介の一つもしておかないと問題は有るだろう。俺の名前は碇アツシ。今年で14歳になるラブリーボーイだ...おい、そこの奴、退くんじゃない。俺だって言っていて恥ずかしいんだ。話を戻そう、俺こと碇アツシは身の丈170をちょっと越えたぐらい、髪は脱色し損ねた茶髪...しかたないだろ、地毛なんだから。まあちょっと細身ながらスポーツは万能、成績はとりあえず上。見た目もしけた髪の毛を差し引いてもかなり良い線を行っていると思う。だから常識の範囲でもてている...

まあ俺の話はここまでにしておいて、俺の親父の話をしよう。俺の親父はまごうことなき変人である。くどい?まあそう言うな。何度も言いたくなるほど変人で有ることは確かなことだから。

親父のどのあたりが変人かと言うと...俺に言わせれば全てだ。おっと、これじゃあ話が続かないな。とりあえず親父の変人性を判って貰うために思いつく限り「変」な所をあげてみよう。


まず第一はなんと言ってもその見た目だろう。190近い長身痩躯、まあそれはいい。髪の毛は手入れをしたことがあるのかと言うほどのび放題に伸びている。さすがに鬱陶しくなったのか、それとも周りのお節介か今は後ろで纏められている。そして顔面を覆う無精髭、あの顔で綺麗に切りそろえられた髭というのも気色悪いのだが、それを更に上回った気色の悪さ。『手入れ、それ何?』と言った感じの無法地帯を顔の上のキャンパスに描き出している。そして極めつけは、度の入っていない色つきの丸眼鏡。何か意味があるのかと言いたいくらいに、端から見ても無意味であるし、本人の怪しさを増している。着る物も頓着ないというと聞こえが良いが、気にしていないというか何もしないのだ。放っておけば1年間だって同じ服を着ているだろう。試してみたいが、その結果があまりにも恐ろしいのでまだためしたことはない。それにお袋が最悪の状態になる前に歯止めをかけている。

有り体に言えば、その辺で路上生活をされている方の自己主張を強くした風体と言うのが一番適しているだろう。


第二はいくつかの分野で世界的権威と言われているところだろう。それのどこが変人かって?その数が半端じゃない。大脳生理学に始まり、神経系に関する医学全般。コンピューターサイエンス...なにやら人格移植型OSのなんたらとか言ったものやら、ナノマシンと言ったメカトロニクス。細かいことは判らないが薬学全般...特に神経情報伝搬に関する抑制効果のなんたら(悪いな、中坊ではこの辺が限界なんだよ)。これだけの分野で世界的権威と崇め奉られている。やっぱりどこが変人か判らない?親父の年齢はまだ29だ。この歳でこれだけの分野の権威だなんて変人と言わないでなんと言えば良いんだ。


第三は変人と言うより、世界の七不思議と言った方がいいかもしれない。話が見えない、そうだろまだ何も言っていないから...おっと怒って貰っちゃあ困る。これから話をするんだから...まあ何がおかしいかって言えば、何故かこの父親がもてるのだ。俺の知っているだけでも、少なくとも3人がこの変人を憎からず思っている。その一人が俺がお袋と呼んでいる女性だ。彼女は変人親父と婚姻関係にないにも関わらず、親父の家に居着き、俺と親父の面倒を何かと見ていてくれる。俺がこんな変人の父親を持ったにも関わらず、曲がることなく育ったのはひとえにお袋のおかげと言って良いだろう。それにお袋は俺の目から見ても『超』のつく美人だ。茶色がかった髪と同色の瞳。どこか幼さを残したその容姿は女子大生と言っても十分に通用する。どうしてお袋が、あの変人親父と一緒にいるのか今を持って理解することが出来ない。

そしてもう一人が、俺を生んでくれた母さん。お袋のことを超のつく美人と言ったが、母さんもそれに負けず劣らず美人だ。青みがかった銀色の髪と、赤い瞳。この世の物でないような儚さを身に纏っている。母さんは親父と一緒に大学に籠もって研究を続けている。身の回りのことをするのが面倒なのか、疲れると親父の家に帰ってきて、お袋の世話を受ける。どうしてお袋とうまくやっていけるのか不思議でしょうがなかったのだが、お互い頓着しなかったのと、母さんに生活能力がないことがその理由であることは想像に難くなかった。

そして3人目は大学で親父の秘書をしている。家において親父の面倒を見ているのがお袋とするなら、社会において親父の面倒を見ているのはこの人だろう。長い黒髪に、口元のほくろがポイントのこれまた超がつく美人だ。そして、何故かこの人も夜になると親父の家に帰ってくる。俺にはどうして3人の美女が、喧嘩もせずに折り合いをつけているのかがどうしても判らない。いやそれ以上に、あの変人親父のどこにこの3人をつなぎ止めておく魅力が有るのか今を持って判らない。

それに俺の推測が正しければ、もう一人女がいるはずだ。俺の遺伝上の母親が。さすがに14ともなれば、血液型の知識も付くし、その他諸々のことも判ってくる。母さんが俺の実の母親でないことも容易に想像がつく。とすれば結論は一つ、少なくともあの変人親父に騙された女性がもう一人いると言うことだ。

第四は、なんと言ってもこれが極めつけだろう。俺は変人親父の血を分けた子供なのだ。別に変じゃないって?いや十分に変だ。だって俺は14なんだぞ。さっきも言っただろう、親父は29だって。別に俺の歳で女の子とそう言うことをすること自体、そんなに珍しいことじゃない。ただ俺が言いたいのは、親父は中三の歳に一児の父親になったと言うことだ。しかも、その直接の相手はここにはいない。普通、中三の男が、間違って出来てしまった子供を引き取ってなんてことを考えるはずがない。それは自分の身に置き換えてみても判る。まあ、俺としてはこの世に生を受けることが出来たのだから、それはそれで感謝をしなければいけないのだが変人であることには変わりない。ひょっとしたら単に要領が悪いのだけなのかもしれないが。


これで俺の親父が十分に変人であることが、判ってもらえただろうか。



親父の変人ぶりはもういいって。そうだろうなこの俺ですら言ってて頭が痛くなってくる。でもな俺は今とっても気分がいいんだ。

えっ、何がかって。

話せば長くなるが手短に言おう。今から1週間前のことだがとびっきりの美少女が俺のクラスに転校してきたんだ。

それだけで嬉しいのかって。

まさかそんなわけはないだろう。まあそれだけでも嬉しかったのは確かだが…。とそれはおいておいて、どうやらその子とうまくいきそうなんだ。

えっどんな子かって?

その子の髪は腰まで届く綺麗な赤い色をして、瞳はどこまでも澄んだブルー。綺麗な濡れた桜色の唇をした…筆舌に尽くしがたい美少女なんだ。腰なんか折れそうに細いのに出るところはちゃんと出た魅力的なスタイルをしているし。頭も運動神経も抜群にいい…

涎が出てるって。ほっといてくれ。

まあそれくらいに可愛いことお近づきになれそうだっていうんだ。これでご機嫌にならなくていつなると言うんだ。

どうやらその子…あっ名前を言ってなかったな。そのこの名前は惣流アスカ・ラングレーって言うんだけど…どこかで聞いたような名前だって。気のせいだよそれは。そのアスカちゃんはドイツと日本のクォーターらしい。ご両親は亡くなっているらしくて、知り合いを頼って日本に来たそうだ。

ドイツでの悲しい別れ、そして見知らぬ異国の地で傷心の少女は、心の傷を癒してくれた優しい少年との恋に落ちる…王道だろ。彼女が転校してきたとき、俺には教室にいる他の奴らがカボチャに見えたぐらいなんだ。教室に入ってきた彼女と俺の目があったんだ。俺は運命の出会いを信じたね。

おめでたい奴だって。

クラスの女の子に聞いた話なんだけど、彼女、俺のことをいろいろ聞いているらしいんだ。どうだ、彼女の方も俺に気がある証拠だろ。それに時々授業中なんか彼女の視線を感じることが有るんだ。たまに目が合うと『ニコッ』なんて微笑んでくれたりする。もう学校が楽しくてたまらないって感じだな。

今日なんか彼女から帰り際に『またねっ』って挨拶されたんだぞ。フッフッフ、バラ色の日々はもうそこまで来ているんだ…


***


俺は舞い上がった気持ちで親友のトウタやケンジとゲーセンへ行ったんだ。まあ結果はさんざんだった、それに二人には『いい目に合っている』っておごらされたんだけど、それでも俺は舞い上がっていた。でもその気分をぶち壊すような出来事が起こったんだ。

いつにも増して忙しそうに研究室に籠もっていた変人親父が、何故かその日に限って早く帰ってきていた。そして俺が帰ってきたのを見つけると、俺を書斎に連れ込んだんだ。居間の方ではお袋達の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。その中に耳覚えのある笑い声が混じっている。お客さんでも来ているのかと俺はあんまり気にしなかった。親父は俺を椅子に座らせると、とんでもないことを言いだした。

「アツシ、母親は欲しくないか」

俺はこの言葉に目が点になった。『何を今更』と言う気持ちも強かった。

「アンタは自分の家に何人女がいるのか知らないのか」

そう思わず口にしてしまったところで、ふと有ることに俺は気づいた。そう言えば親父は戸籍上はまだ独身だった。ついに年貢を納める気になったのかと。

「悪かったな親父。ついに踏ん切りがついたんだ。
 で、相手はマナさん、レイさん。それともマユミさん?」

俺には色眼鏡の向こうの視線が落ち着かないのが手に取るように判った。長年親子をしていると、親父がうろたえていることぐらい目を瞑っていても判る。

「まさか、あの三人をさしおいて他の人って言うことはないよね」

俺の言葉に親父はじっとりと汗をかいているようだ。何か右手をわきわきと開いたり閉じたりしている。相当動揺が有るようだ。その様子に俺はぴんときた。どうやら図星だったようだ。

「親父、一言言わせてくれ。
 親父が誰と結婚するかは親父の勝手だ。
 だが、あの三人以外というのははっきり言って人の道を外れている。
 どうしてもと言うのなら反対はしないが、軽蔑はする。
 覚悟だけはしておいてくれ」

親父は色眼鏡に隠れた視線を忙しく動かしている。母さんによると、親父は俺の視線が苦手なそうだ。その理由までは教えてくれなかったけれど。

「いや、まだ結婚はしない」

俺はこれまで親父につけていた『変人』の看板を下ろすことにした。そしてそのかわりに『外道』の看板を掲げることにした。

「これ以上、親父の犠牲者を増やすのは天が許しても俺が許しはしない。
 お袋達に代わって、俺が成敗してやる...」

俺の剣幕に親父は腰を抜かしたようだ。まともにやり合えば、やくざもしっぽを巻いて退散するとお袋が言っていたが、いかんせん気が弱すぎる。武士の情けで口をぱくぱくとしている親父の言い分を聞いてやることにした。

「言いたいことが有るのなら、言って見ろ。
 聞いてからとどめを刺してやるから」

親父は何とか気を取り直して、信じられない言葉を言った。

「いや、まだ結婚できないんだ。
 何しろ相手はまだ14なんだ」

そう言って差し出された写真には、微笑んでいるアスカちゃんが映っていた。










続く?

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中昭のコメント(感想として・・・)

  トータスさんの『親父が好敵手』第1話です。掲示板で好評連載中。

  お袋 →マナ
  母さん→レイ
   ? →マユミ

  さて親父は誰でしょう?(笑)


  >1年間だって同じ服を着ているだろう。試してみたいが、その結果があまりにも恐ろしいので
  >路上生活をされている方の自己主張を強くした風体

  変わってしまったのね(泣)


  代理母なレイ。
  同級生なアスカ。

  そしてアスカは親父の花嫁候補

  頑張れアツシ




  しかしアツシって結構乱暴な口調ですな。
  母親似?
  息子に怯える親父もゲンドウを彷彿させます。




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