〜ル・フ・ラ・ン〜
第31話 人の意思
 
 
 
 
 
 

 その場にまるで不似合いな少女は、そこがなんで有るのか分かっているかのように、古ぼけた炭坑事務所の扉を開けた。そしてまっすぐと壁際まで歩き、迷うことなく何の変哲も無い壁に手を付いた。するとどうだろう、古びた板貼りの壁は何かがきしむ音とともに倒れ、その向こうには真新しい入り口が現れた。しばらく使用されていなかったのだろう、盛大に埃が舞い上がる中、少女は服を白く染める埃を気にすることなく新しい入り口へと歩み寄り、入り口脇の認証システムに視線を飛ばした。ただそれだけのことで、その重々しいドアはかちりと言う音とともに、その奥に広がる暗い空間を少女の前に晒した。それを成した少女は、目の前の漆黒の闇を恐れることなく、その闇に向かって一歩を踏み出し、やがてその中へと消えていった。

 最初にシステムの異変に気が付いたのはオーブ・フィリップスだった。だが彼は、その異変の原因を、自分が酔っているせいだと決め付けた。何しろ彼は、タイタンとMAGIの共同作業という歴史的なオペレーションを成功させたのだ。そのお祝いの祝杯を重ねてから、まだそんなに時間が経っていなかったのだ。フィリップスは、タイタンに見せられたものは、酔いから来る妄想がフィードバックされたのだと勝手に解釈した。とにかくタイタンは正常に動いている。それは常時行われている自己診断が何の報告もあげていない以上信じるほかは無い。そのタイタンが何の警告も発しないのだ。だったら目の前に居る侵入者は酔いから来る錯覚でしかありえない。

「頭を冷やすか…」

 だからフィリップスは、酔い覚ましに冷えたコーラを飲みに行くことにした。そうすれば、もう少しまともになるだろうと。

 だが残念ながら彼のもくろみはらうまくいかなかった。冷たいコーラのおかげで、すっきりとしたフィリップスだったが、相変わらずタイタンは自分に身の覚えの無い人物の映像を見せていたのだ。こんな女性に心当たりは無い。どこからか映像が紛れ込んだのかと、念のためとフィリップスは重要個所の監視記録を早送りでチェックを始めた。ここに無ければ急ぐことは無いと。だが残念なことに、フィリップスはいきなりあたりくじを引き当ててしまった。

「誰だ……これは?」

 モニタに映った少女に、フィリップスは思わず声を上げていた。ここに来ることの出来る人間は限られている。それは秘匿しているものの重要性を考えれば当たり前のことであった。そのため、内部に入ってこられる人間は、タイタンシステムに登録された人間だけである。だがフィリップスは、自分自身でこの来客を登録した覚えなど無かった。もちろん自分以外でも登録可能な人間は居るのだが、彼は現在遠く極東の地に居た。そしてその男からは、このような客が今日来るとは知らされても居なかった。そこでフィリップスは、この客が何のために訪問し、どこへ向かったのか早速タイタンに問い合わせて見た。だが不思議なことに、タイタンはこの客の到着を認識していなかった。

「ちょっと待て……」

 カメラに映っていたのにも関わらず、その姿をシステムが認識していない。そんなことがありえるのかと、フィリップスは、監視系の自己診断を呼び出して見た。そして先ほどの映像を、再び監視系に渡してその動作を確認して見た。するととたんに、監視システムは不正な入場者としてその少女に向かって警告を発する処理を行っていた。システムは正常なのである。

 しかしとフィリップスは首を捻った。ならばどうしてタイタンは、この少女の侵入を防げなかったのか?しかも何の警告も発せず侵入を許したのはどうしてなのか。フィリップスは、その時刻の動作ログを拾って見たが、そこには少しもおかしな点は見受けられなかった。そこでフィリップスは、現在その少女がどこに居るのか、再度タイタンに問い合わせて見た。先ほどのデータは、すでにタイタンに登録されている。ならば“今”どこに居るのかぐらいはつかむことが出来るだろうと。

 もちろん侵入者であるのだから、今フィリップスが取っている行動はいささか不適切であると言える。それは少女の外見から、フィリップスがそれほどの警戒感を感じ取らなかったことにその理由がある。小柄な東洋系の顔立ちをした少女、少し変わっているのは青い髪と赤い瞳をしているぐらいのことだった。そのあまりにも無造作な行動は、訓練を受けたスパイと言うより、どこかの観光客が紛れ込んできたかのようだったのだ。

 だがここでフィリップスは肝心な点を見逃していたことになる。この地が、周辺の都市からはるか遠くに離れ、普通の観光客が訪れるような場所ではないと言うことに。

 フィリップスは、少女の居所をタイタンに報告させようとしたのだが、彼の期待に反し、タイタンは所在が不明と答えを返してきた。それは何度問い合わせて見ても同じことであった。さすがにおかしいと感じたフィリップスは、タイタンに侵入者の警報を発するように命じた。それと同時に、フィリップスはその人物の特定に取り掛かった。これほど特徴があり、そして手際の良い相手ならどこかにデータがあると彼は見込んだのだ。そして目的のデータをタイタンが彼に提示したとき、フィリップスは少女の目的を正確に理解した。

「ダミープラグの映像を!」

 少女の正体が、タイタンの同定したとおりのものならば、その目的地はダミープラグの素体のところしか有り得ない。フィリップスは慌てて監視映像を引き出した。だがフィリップスの期待したものは、そこからは見出されなかった。

「何も無い?」

 少し拍子抜けをしたように、フィリップスは出てきた映像に向かって呟いた。そうフィリップスの呟きどおり、そこは何も変化が無かったのだ。薄気味悪いと言っていい雰囲気はいつもの通り、薄暗い照明で照らされたその部屋には全裸の少年が液体に浸かっているガラスケース以外には何も無く、少女が侵入したと思われる形跡すら伺えなかった。

「あれが……綾波レイ……第二使徒、リリスなら……」

 ネルフ北米支部のデータに間違いは無いはずだ。確かにデータからは、施設への侵入者はサードインパクトの時、その存在を消した綾波レイ=リリスに間違いないのだ。ならば別の場所が目的かと、フィリップスは2体のエヴァが置かれているデッキをタイタンから引き出した。しかし、いくら“目”を皿のようにして見たところで、やはりそこにも綾波レイの姿を見つけることは出来なかったのである。

「システムの異常により、データバンクから綾波レイの映像が背景にオーバーレイされた……」

 どこにも異常が見受けられないことから、フィリップスは綾波レイの存在をシステムが見落としたのではなく、綾波レイの存在をシステムがバグにより作り出したのではないかと追求の矛先を向けた。セカンドチルドレン、サードチルドレンの接続を行ったため、彼らの心の中の映像が他のロケーションに紛れ込んだのだろうと。

 フィリップスはそう心の中で結論をつけて、ようやく心の平安を取り戻した。だが、このときフィリップスは肝心なことを見落としていた。何も変化の無いと思っていたダミープラグの素体だが、一つだけ小さな、そして重大な意味を持つ変化があったのだ。LCLのプールの中で、ダミープラグの素体である渚カヲルが、そのすべてを見通す瞳を開いていたのだ。
 
 



***






 フィリップスが大急ぎでシステムをチェックしているころ、綾波レイはすでに砦の外に出ていた。もともと彼女の目的のためには、渚カヲルに直接会う必要性は低く、長居をするまでも無いことだったのである。ただ遠く離れているよりは、近づいたほうが効率的だという理由だけで、レイは砦の中へと侵入していった。そして渚カヲル覚醒と言う目的も達した以上、長居する理由はレイには無かったのである。

 レイは未だに焼きつくような日差しの中、近くの岩場に腰を掛けた。そして瞑想するようにその特徴的な赤い瞳を閉じていた。夕方になったとは言え、まだその日差しは強い。そしてその日差しに照らされた岩場は、40度を越える猛暑の中にあった。だがそんなことは気にも留めず、時間が止まったように綾波レイは静かにたたずんでいた。その姿は、まるで岩に刻み込まれた石造の様でも有った。

「……そう、目を覚ましてしまったのね」

 何を感じ取ったのか、レイは静かにまぶたを開き、誰も居ない虚空に向かってそうつぶやいた。その表情には、かすかな悲しみが込められていた。

「……それでもあなたは彼女を選ぶの?」

 それは疑問と言うより、確認だった。ゆっくりと沈んでいく太陽に目を向けたまま、レイはゆっくりと立ち上がった。

「……始まりの全ては終わりに通じる……
 そして終わりは、新生への扉……
 不完全な終局は、不完全な新生にしか導かない……
 そしてその歪は中心となるあなたへ……
 それでも良いというの?
 あなたは……」

 遠く西の空を見つめ、一言一言確認するようにレイは呟いた。その口調は、かつての彼女を知るものなら驚いてしまうような優しいものだった。

「全てを受けとめる覚悟が出来ていると言うのね……
 でも、それではまだ足りない……
 他人の恐怖を受け入れる事が出来ても、それでもまだ足りないの……
 それをあなたは、彼女から知る事になる……」

 あなたと呼ばれた相手に向けるレイの感情は何だろうか?見るものをせつなくさせる表情で、綾波レイは天を仰ぎ見た。

「安易な救いを求めるのは悪い事じゃないわ。
 苦労の大きさと、選られるものの大きさには相関はないの。
 そこに有るのはすぐに消えてしまう自己満足だけ。
 代わるものの無い存在など、所詮錯覚でしかないのよ」

 レイは、かっと目を見開き出てきた扉をにらみ付けた。夕日を受けて、レイの瞳はまるで光線を放つかのように赤く燃えていた。

「時は来たわ……
 始めましょう……タブリス」

 レイの言葉に合わせるように、安定した大地を不気味な地響きが襲った。
 
 



***






 アフリカほどではないと言え、北米大陸東岸は強固な地盤の上に成り立っていた。そしてそこには地震を引き起こすような際立った火山帯も無かった。いくら地球規模のセカンドインパクトが有ったからと言って、そのような地に住むものが地震に対する心の備えなど無いのはしかたの無い事だった。だが今回はそれが役に立ったのは皮肉な事だった。地震に慣れた日本人なら、見逃してしまうような微振動に、逸早くフィリップスは反応していた。

「何が有ったんだ?」

 そうつぶやきながら彼は、状況確認の為タイタンのヘッドセットを身に着けた。

「各監視回路の映像を回せっ!」

 別に言葉に出す必要など無いのだが、フィリップスの場合、命令などは口に出すのが習慣となっていた。だが彼はすぐには次の命令を発する事が出来なかった。だがそれも無理の無い事だった。2体のエヴァンゲリオンが格納されたゲージを映し出したカメラに、にわかには信じられない光景が映し出されていたのだ。エヴァンゲリオン6号機と11号機、パイロットが居ない為起動させた事も無い機体が確かに動いているのだ。

「……そんな……有り得ない……」

 辛うじて紡がれた言葉も、今は何の役にも立っていなかった。さらにフィリップスの混乱を助長する様に、タイタンからは意味の無いガラクタがフィードバックされて返されていた。だがそれと同時に、タイタンは当初の命令を確実に実行していった。そしてその中の映像の一つを認識した時、フィリップスは我が身を襲った不運を神に呪った。ジーザスと。

 最後にフィリップスの見つけた画面は、ダミープラグの渚カヲルをモニタしたものであった。培養槽に収めてからこの方、中の渚カヲルはずっと膝を抱える姿勢をしていたのだった。だがフィリップスが見た時には、はっきりと背筋を伸ばし、その深紅に燃える瞳をまっすぐに監視カメラの方へと向けていたのだ。まるで自分をにらみ付けているような瞳に、フィリップスはようやく自分が何をなすべきか思い出した。

「総員待避っ!」

 砦に常駐している人員は驚くほど少ない。そして今は、“槍”を運び出す為の準備にその大半が奔走している為、さらに人自体が少なくなっていた。それでも百を超える人員がまだ中に居るのだ。もしフィリップスが感じた危惧が現実のものとなるのなら、その全員の生命が危ないことになる。フィリップスは、タイタンに非常事態による総員退去命令を通知すると同時に、ゲイツへのホットラインを開こうとした。

「くそっ、壊れてやがる!」

 だが彼の期待もむなしく、ホットラインからは何の音も聞こえてこなかった。フィリップスはそのまま受話器を叩きつけると、意識を再び監視カメラへと向けた。そこでは2体のエヴァンゲリオンが、拘束から抜け出そうともがいていた。

「退去状況60%か……だが、このままあいつを外に出すわけにはいかない」

 襲いくる使徒ですら大きな脅威なのだ。そこに敵に回ったエヴァンゲリオンが加わったのなら、戦いの帰趨は明らかになってしまう。フィリップスは、BIACのインストラクションで知り合った少女の顔を思い出した。大切な人を助けたいと、ひたむきに説明を受けていた姿は彼の胸を打っていた。

「嬢ちゃん、これ以上あんたの敵を増やしはしないよ」

 フィリップスはそう呟くと、コンソールにあった保護ガラスを叩き割り、その中の赤いスイッチに手を掛けた。

「退去状況80%、退去完了まで後5分か……」

 そのスイッチを押してしまえば、彼らに残された時間は通常10分である。そしてフィリップスが脱出するまでに必要な時間もまた10分だった。だがフィリップスは、タイタンにスイッチを押せば砦がすぐに爆発するように設定変更を命じた。

「2000mの岩盤だ。お前達を外に出しはしない!」

 さらにフィリップスは、ダミープラントの収められている区画の電源を、監視カメラを除きすべて遮断した。そして2体のエヴァンゲリオンに対しても、その動きを妨げるべく海水の注水を行った。毎秒1万トンもの水の奔流は圧倒的な圧力となって、エヴァンゲリオンに襲い掛かっていた。

 次々と妨害工作をしながら、フィリップスは職員の退去状況を目で追った。最後の一人が安全なところに逃げるまでスイッチを押さなくてもすむように祈りながら。そうしているうちにも、2体のエヴァは自分を拘束していた鉄の塊を排除していた。

「まだか、早く逃げるんだ!」

 遅々として進まない退去に苛つきながら、フィリップスは監視カメラの映像を横目で見た。そこでは膨大な水の圧力に耐え、2体のエヴァンゲリオンが外に出ようともがいていた。

「死にたくなかったら早くしろ……」

 フィリップスの願いが通じたのか、タイタンから退去完了の報告があがった。その表示を確認したフィリップスは、躊躇うことなく運命のスイッチを押した。その瞬間、先ほど発生したのよりも大きな地響きがあたりを包んだ。

 フィリップスの目に、巨大な岩石に押しつぶされるエヴァの姿が飛び込んできた。

「ざまあみろ。人類を舐めるんじゃない!」

 その言葉を最後に、MSIの砦は周辺に巨大な地震を引き起こしてその存在を消した。地震が治まった後に残ったのは、直径2kmを超える巨大な陥没跡だけだった。
 
 



***






 その二人は、とっぷりと日も落ちた荒野に静かに佇んでいた。もしその場に人間が居たら、どんな目でその二人を見ただろうか。それほど二人は異様ないでたちでそこに居た。その一人は完全に裸の少年、そしてもう一人は日本の女学生のいでたちをしていた少女。そしてさらに異様なことに、その二人はほんのわずかだが地面から浮かんでいた。

「残るは後2体と1人ね…」

 ATフィールドも張っていないエヴァでは、何千万トンもの岩石の圧力に耐えることは出来ない。彼女の視線の先、遥か数千メートルの地下で押しつぶされたエヴァは、二度と再び人の目に触れることは無いだろう。

「1人の方も片付いたと思うのだけどね?」

 全裸の少年は、そう言ってもう一人の少女の方を見た。

「いえ、まだ片付いていないわ」
「どうしてだい?彼女のけりがついたから、シンジ君を助けたのではないのかい?」

 その少女の言葉に、少年は少し不満げに問い掛けた。

「碇君には死んで欲しくなかったの……」
「相変わらずレイはシンジ君には甘いね」
「あなたにだけはそう言われたくないわ、カヲル」

 少女は、さも心外そうに少年に向かって言い返した。

「何のことか僕には心当たりは無いね」

 そう少年は、涼しい顔をして受け流した。

「霧島、大和……私が知らないとでも思っているの?」

 だがそれも無駄なことのようだった。少女は、隠し事など無駄だと証拠を挙げて見せた。

「世の中は広いようで狭い。
 そして人の繋がりは意外なところであると言うことさ。
 ところでレイ、一つ教えてくれないか?
 君は何故、彼女のことがまだ終わってないと言うんだい?
 今、彼女は幸せな夢の中に居る。
 後は彼女のATフィールドが消滅するのを待つだけだろ思うのだが?」
「あなたは、あの二人の結びつきを誤解している……
 傷つけあう個体として彼女が選ばれたのは、碇君の事情だけではないわ」
「それはどう言うことだい?」
「忘れたの?私たちの計画は歪められたのよ。
 それはエヴァの存在だけではないわ。
 私は葛城三佐に碇君を任せるつもりだったのよ」

 飄々と薄笑いを浮かべていた少年の表情が、今このとき初めて驚愕に彩られた。彼にとって、それほど少女によって語られたことは信じがたいことだったのだ。

「まさか、彼女がそれを望んだというのかい」
「そう、彼女の思いは私たちの用意した運命を捻じ曲げたのよ。
 あなたの用意した幸せは、彼女の思いを超えるものではないわ。
 そんな夢で、彼女の持つATフィールドが消えうせるはずは無いもの」
「……僕が間違えたと言うことなのかい」
「……いえ、彼女の思いが想像を越えていただけ。
 でも、これで面倒になったわ。
 あの人が目を覚ますとき、彼女の碇君に対する思いがはっきりしてしまう」
「……それが面倒なことなのかい?」

 結局元の計画どおり、セカンドチルドレンをエヴァとともに葬れば済むのではないのかと。少年の顔はそう問い掛けていた。

「人の思いを甘く見てはいけないわ。
 もともとここのエヴァを利用して、残りのエヴァをつぶすつもりだったでしょ。
 それなのに、実際には地下深く埋められてしまったわ。
 それはここの技術者が、彼女の思いを受けとったことが原因なのよ」
「だからと言って、シンジ君が動けない今、彼らに抵抗する力は無いと思うのだけどね」

 カヲルの指摘は事実である。アスカが幸せな夢の中に居つづけ、そしてシンジはアラエルとの戦いでその傷を重くした。すなわち、ネルフの戦力は実質的にゼロと言っても差し支えの無いものなのである。しかしレイは、そんなカヲルの指摘を首を振って否定した。

「彼女は目覚めるわ……すぐに……」
「たとえそうだとしても、僕達の敵ではないと思うのだがね。
 確かにここのエヴァを失ったのは計算外だったけどね。
 でもそれは、修正の範囲に過ぎないよ。
 何よりも、残されたエヴァは僕の分身だからね」
「……やはりあなたは分かっていない。
 彼女に迷いがなくなったのなら……
 彼女は……碇君より手ごわいわ……
 それに、赤木博士がそんなことに気づかないと思っているの?」
「リリンを甘く見てはいけないと言うのだね」

 「ええ」と、レイは頷いて肯定した。一緒に過ごした時間が有るだけに、レイはアスカの力を正しく評価していた。

「ならばどうすればいいとレイは思っているのかい?」
「……しばらく様子を見ることにしましょう。
 私は、出来ることなら碇君の願いを叶えたいから……」
「ならばイロウルの仕組んでくれた仕掛けを利用することにしよう。
 彼らを見るのなら、近くに居る方が都合がいいからね」

 カヲルの提案に、レイはカヲルの瞳を見つめ頷いた。見慣れた無表情であったのだが、カヲルにはその提案にレイが喜んでいるように感じられた。
 
 



***






 果たして、アスカは自力で目覚めの時を迎えていた。それはまさしく綾波レイの言う通り、カヲルの用意した夢の世界が、いずれもアスカを満足させるに至らなかった為である。アスカは大きく息を吐き出し、叫び声とともに停止したプラグの中で目覚めた。

「ああっ!」

 歓喜とも絶望とも言えぬ叫びの中、アスカは自分が涙を流しているのに気が付いた。それは自分の本当の気持ちに気がついた証だった。

「……やっぱり忘れられない……」

「……諦めることなんて出来ない……」

 涙はとめどなくアスカの瞳からあふれ出ていた。だがアスカはそれを拭おうともせず、まるで壁の向こうを透視するかのように、大きく目を見開いて何も無いエントリープラグの壁を見つめていた。

「私が世界を変えてしまったと言うのなら……」

 その両手は、白くなるほどインダクションレバーを握り締めていた。

「これが私の望んだ世界だと言うのなら……」

 そう吐き出すアスカの瞳には強い光が宿っていた。そこには少しも狂気の色もなく、純粋な意思のみが存在していた。

「私がこの世界を守ってみせる……」

「私とシンジが暮らすこの世界を!」

 それがアスカ完全復活の時だった。
 
 
 
 
 
 
 
 

続く
 


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中昭のコメント(感想として・・・)

  トータスさんのルフラン第31話、投稿して頂きました。

> もちろん侵入者であるのだから、今フィリップスが取っている行動はいささか不適切であると言える。
とっつかまえて本人に聞いた方が早いと思うのが体育会系・・・


>ダミープラグの素体である渚カヲルが、そのすべてを見通す瞳を開いていたのだ。
・・・合体したのかしら

>そして渚カヲル覚醒と言う目的も達した以上、長居する理由はレイには無かったのである。
超くーる


>「安易な救いを求めるのは悪い事じゃないわ。
> 苦労の大きさと、選られるものの大きさには相関はないの。
> そこに有るのはすぐに消えてしまう自己満足だけ。
> 代わるものの無い存在など、所詮錯覚でしかないのよ」
>「時は来たわ……
> 始めましょう……タブリス」

盛り上がりますねぇ
淡々と棒読みで言うのもええですけど、感情こめて話してるとこ想像するとなんかすっごく燃えます


>「総員待避っ!」
早っつ

> ATフィールドも張っていないエヴァでは、何千万トンもの岩石の圧力に耐えることは出来ない。彼女の視線の先、遥か数千メートルの地下で押しつぶされたエヴァは、二度と再び人の目に触れることは無いだろう。
まんまとエヴァを葬りさったわけですか

>「何のことか僕には心当たりは無いね」
> そう少年は、涼しい顔をして受け流した。
こういったやり取りだけみると強敵とは思えないですけど

> もともとここのエヴァを利用して、残りのエヴァをつぶすつもりだったでしょ。
> それなのに、実際には地下深く埋められてしまったわ。
うむぅ、フィリップスも報われました

>「……しばらく様子を見ることにしましょう。
迷っているのか確実をきそうとしているのか
微妙な行動ですね


>「私とシンジが暮らすこの世界を!」
> それがアスカ完全復活の時だった。
アスカ復活
やっぱりなんだかキーパーソンというか、守られてばっかのヒロインじゃありません。
状況的には不利ですが、これからどうなる?


  次回もお楽しみです



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