第1話 −狂気−
行為の終わったけだるさの中、あたしは横に寝ている男を見た。どうしてあたしはこいつと寝たんだろう。そっと男の顔をなぜてみた。痩せた顔、疲れた顔...無理もない、いつ終わるか、いつ襲われるかわからない戦いにひとり立ち向かっている。敵は巧妙にこちらの戦力をそぎにきている。たったひとり残されたパイロット...その精神と体力を。
あたしの弐号機が白いエヴァに蹂躙されているとき、あいつは初号機で現れた。圧倒的な力で初号機は白いエヴァを倒していった。4体のエヴァが瞬く間に倒されるのを見て、敵はただちに撤退した。戦術を変えて来たのだ。正面からの力押しがダメなら搦手から..弐号機がなくなった今、ネルフで戦えるのは初号機のみ。そして初号機をあやつれるのはシンジだけ...敵はそこを衝いて来た。押しては引き、引いては押す。絶対に自分の側の損失がないように戦闘になる前に撤退する。しかし、その度にシンジは出撃しなくてはならない何時来るかわからない敵、そして何もしないうちに終わってしまう戦闘。あるときは立て続けに、そしてあるときは忘れる程時間をおいてから...シンジは確実に蝕まれていった。敵の意図は分かっていた。しかしあたし達にはどうすることもできなかった。
「アスカ...ちょっといい?」
そんな戦闘が続いていたある日、シンジがあたしのところに来た。あたしは初めの戦闘で体に大きなダメージを負ったためしばらく入院していたが、ようやくその日に退院していた。
「何の用?あたしはあんたの顔なんて見たくないのよ」
エヴァの中でママを見つけたあたしは、もう一番かどうかなんてどうでも良かった。ただシンジだけは許せなかった。シンジがもっと早くくればあたしとママはあんな目にあわなくても済んだのに...恨む相手が違うことは分かっている...でもその気持ちを押さえることはできなかった。
「アスカ...」
シンジはあたしの顔を見ないであたしの名前を呼んだ。
「用がないんならあたしの目の前から消えて...あんたの顔を見てると気分が悪くなるのよ」
あたしは吐きすてるように言うと部屋のドアを閉めようとした。
「眠れないんだ...」
「?」
「いくら眠ろうとしても、目の前に白いエヴァが現れて眠れないんだ。
リツコさんに睡眠薬をくれるように頼んだんだけど...
ダメだって...戦えなくなるから」
「だからなんなの」
もう話を聞く気もなかったがドアを閉める前に聞いてみた。
「アスカごめん!」
そう言いながら突然シンジはあたしに襲いかかった。確かにあたしは体力が落ちていた。でもそのときのシンジはそれを差し引いても信じられない力であたしを組みしいた。シンジはあたしの服をやぶりすてるように脱がすといきなりあたしの体に侵入して来た。痛い、痛い、痛い...あたしはそれしか考えられなかった。シンジはあたしの乳房にむさぼりつき、勝手に腰を動かし、勝手にあたしの中で果てた。そしてあたしから体を離すといきなりいびきをたてて眠りに落ちていた。でもその顔は安らかなものではなかった。
あたしはしばらく脱力していたが喪失の痛みと体の中に残ったシンジの放ったものの感触に我にかえった。
「気持ち悪い...」
あたしはトイレに駆け込むと自分の股間をみた。白いものの中に鮮血が混じっていた。別に処女であることにこだわりはない。でも悔しかった...
「なんであんなやつに...」
あたしは部屋に戻ると寝ているシンジにまたがりその首を絞めた。だけど途中で首を絞めるのを止めた。首を閉められたあいつの顔がだんだん安らかなものに変わってきたからだ。あいつにとって死は解放なのだとその時あたしは理解した。誰かに今の苦しみから解放して欲しがっていると。
「誰が殺してやるもんか...」
そう思ったら急に自分が冷静になるのを感じた。そして一つの事に思いいたった。
「確かこの部屋ってモニタされていたのよね...」
それなのに誰も止めにこない。ミサトもリツコもマヤも...
「そうか...そういうことか...」
あたしは笑いたくなった。エヴァに乗れない私はもうこんなことにしか役に立たないのか。シンジだけか...あたしを見て、あたしを必要としているのは...そっか、シンジだけなんだ。
「いいわよ。演じてあげるわよ...
シンジ専用の娼婦...
シンジがあたしを必要としているのなら...
役立たずのあたしにはお似合いね...」
あたしはシンジの眠っているベッドに潜り込んだ。
(to be continue)
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中昭のコメント(感想として・・・)
掲示板で好評連載中の『時を駆ける』第壱話です。AIR分岐ですね。
シンジ専用の娼婦という所でひいてしまった方も、身を乗りだした方も様々だと想います。
他ではみられない人間ドラマが展開されそうです。ワタシャ嬉しくて。
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