第2話 −蜜月−
あの日以来あたしはシンジと行動を共にしている。戦いの前のブリーフィングからパイロット控え室、更衣のためのロッカールームまであたしはついていった。そこであたしはシンジにアドバイスをしたり、身の回りの世話をしたりした。食事も入浴も...あたしの生活は全てシンジと共にあった。そして求められればどこでも、そしていつでもそれに答えた。あたしからはシンジを求めることはなかった、いやその必要のないくらいシンジはあたしを求め続けた。初めはぎこちなかったあたし達の交わりも、シンジに余裕ができるにつれだんだん様になってきたようだ。あたしも強いエクスタシーを感じるようになっていた。ふふふ、ヒカリが今のあたし達を見たらなんて言うかしら...
いつ終わるのか知れない戦闘。ぎりぎりの中の生。そんな中でもあたしは幸福だった。シンジがあたしだけを見て、あたしだけを求めてくるから...はじめてこんなにも強く人から求められたから...戦いが終わって帰ってきた時のシンジはその顔に狂気を浮かべている。その顔があたしの中にいる時、だんだん安らぎ、あたしの好きなシンジの顔に変わっていくから。この時あたしはシンジに必要とされていることを実感できた。あたし達の間にあるものは何?「愛」そんなものじゃないことは分かっている。でもお互いに相手を必要としている...そう今ではシンジがいない生活なんて考えられない。シンジが全てだ。
あの日以来ミサトもリツコもマヤもあたしと目を合わせようとしない。時々視線を感じるが私が振り向くと慌てて彼女達は目をそらす。もう気にしていないのに...確かに初めは彼女達を恨んだ。女として最低の行為...あたしをシンジの生け贄にしたと思ったから。でも、それは違った...シンジが「自分」で「あたし」を選びあたしのところに来た事を知ったから。
ファースト、いえレイだけがあたしの瞳を見つめてきた。レイの瞳に浮かぶ感情は何?嘲り?軽蔑?哀れみ?嫉妬...みんな違う...何だろう。それが羨望であるのを知ったのはずっとあとのことだった。
シンジとの初めての夜のあと、レイはあたしに言った。
「...どうしてなの」
「...私じゃだめなの」
「あなたのところに来る前、私もマヤさんも碇君を慰めようとしたのに...
碇君は拒絶したわ...
私の力では変えられないの?
私のしてきたことは無駄だったの?」
あたしにはファーストが言っていることが理解できなかった。でもファーストがあたしに対してこんなに感情を露にしてきたことに驚いた。
「あんた、何を言ってるの
替わって欲しいの?
残念ねぇ、シンジはこのあたしを選んだの...
あたしのすべてはシンジにあげるわ
そのかわりシンジも全部あたしのものにするわ」
あたしはそこまで言うとレイに背中を向け自分の部屋に戻った。その時レイがあたしに熱い視線を向けていたことには気付かなかった。
その日もシンジはあたしのところに来た。そしてあたしを求めた何度も何度も、激しく熱く...余裕のないSEX...前技もなくただ挿入だけのSEX...痛いだけだったけれどシンジに対して感じていた嫌悪感は消えていた。シンジが心のすべてをあたしにぶつけてきているのが感じられたから。あたしにだけ人としての感情をぶつけてきているのが分かったから。そうか、こいつもパイロットとしてだけ必要とされているのだ。すべてを背負わされ、追い詰められあたしのところに逃げ込んで来たのだと。その時あたしはそう思った。
いいわ、あなた達にはパイロットとしての碇シンジをあげる...でもあたしは人としての碇シンジのすべてをもらうわ...そのかわりあたしのすべてもシンジにあげる...あたしの体も、心も...そして命も。
(to be continue)
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中昭のコメント(感想として・・・)
掲示板で好評連載中の『時を駆ける』第弐話です。
生け贄ではなく選ばれた。それだけで嫌悪感が抜けていったアスカ。
それほど必要とされる自分に飢えていたんですね。シンジだからかな。
シンジの全てと引き替えに自分の全てを捧げようとするアスカ。
暗い雰囲気でもアスカへの愛情に溢れています。さすがですね。
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