拳銃、というのは、極めて扱いが難しい武器だ。
鉛の弾丸を音速以上の速度で撃ち出すにも関わらず、両手の平以外では支えることができない。その上、わずか10センチ程度の銃身から弾丸を発射するのだ。狙った場所に命中させるということがどれほど難しいか、容易に想像できる。 また、1キログラムになるかならないかの重量では発射時の衝撃も十分に吸収できない。射撃手が適切に銃を固定し、正しい方向に衝撃を受け流さなければ弾丸は射線をはずれてしまう。 まともに使い物になるのは2〜7メートル程度の近接戦闘に限られる。それ以上となれば、よほど正しい姿勢で狙わなければ難しい。それ以下であれば、刃物の方がよほど確実で有効な武器である。 そして、拳銃弾は威力が小さい。麻薬をやっているような人間であれば、9ミリ程度の弾丸ではその動きを止められないとさえ言われている。それはアメリカで大口径の拳銃が好まれていることからも理解できる。 つまり、拳銃というのは中〜長距離向きの武器ではなく、近距離におけるいわば決戦兵器のようなものである。刃物よりも間合いが広く、ライフルなどより遙かに携帯性がよい。命中すれば決定的なダメージを与えることができる。この位置づけにおいて、拳銃は極めて大きな威力を発揮すると言っていい。 だが、その位置づけは扱いの難しさという欠点も持っている。そのため、拳銃以外で武装することができない、たとえば一般の警官などの職業は、拳銃の扱いに対して相当の訓練を行っている。正確に拳銃が操れるかどうかで自らの命がかかってくるからだ。 つまり、俺は何を言いたいかといえば、武器として拳銃を選ぶのであれば、相当の訓練を積んだ上で、相当の覚悟を持って臨まなければならないということだ。拳銃は銃器の中ではもっとも広く出回っているが、実はその扱いは他の銃器よりも遙かに難しいのである。可能なら、連射の利くサブマシンガンを選ぶのが望ましい。同じ拳銃弾を使用するにしても、人間には不可能な速度で弾丸を連発することができるからだ。数を撃てば当たる――という諺は、いささかまぬけなニュアンスを含んでいるが、事実は確率の極めて高い、確実性の高い正攻法なのだ。 今回は、対象が無防備かつ無抵抗な一般人であるということから拳銃のみの携帯となった。反撃の危険がない作戦はこの程度の装備で十分、という判断である。連発がきくような殺傷力が高い武器は無用なのである。確かに、やたら大型の銃器を振り回して不自然な痕跡を残すよりは遙かにいい。携帯性が高く小回りの利く拳銃は、扱う技術さえあれば屋内の戦闘には大変有効な武器なのである。 無論、その対象が無抵抗な人間であろうが、武装した人間であろうが――だ。
Lake DEATH
Episode 4:
アサシンズナイト(後編)
「おい……どうした?」 3階に下りてすぐ、数歩歩いたところで拓也が立ち止まる。 ずっと前方を進行している拓也は秋人にとって判断要素となっているのだ。作戦中、終始無言の拓也の行動はその一挙一動が秋人にとって大きな意味を持つ。声を出すのはあまりよくないが、それでも状況を確認したくなる。 陰った月明かりで暗く照らされている廊下――それをじっと凝視する拓也は何かを警戒しているようだった。 しかし、侵入からすでに9分半。 夜中とはいえ、これ以上ここにとどまるのは危険だ。 外部――それも警察に連絡が取られている可能性は否定できない。余人が駆けつける前にこの建物から抜け出さねば意味がないのだ。そうしなければ作戦が失敗どころか、自分たちの立場も危ない。 急ぐべきだ。すでに作戦はほぼ完了しているのだから―― 社長も含めて9人――本日秋人たちが殺した人間の数だ。 ほとんど無抵抗な人間への殺戮だった。 9人――十分な数だ。この日本でテロと認知されるには―― プラスチック爆弾もすでに仕掛けた。 後はもう脱出して爆弾のスイッチを押すだけだ。 「早く行こうぜ……これ以上ここにいるのはまずいぞ……」 「…………」 それでも拓也は無言で闇を凝視していた。 いったい何があるってんだ? が、しかし…… 「行くぞ……十分警戒しろ。」 そう言って、いきなり歩き出す。 (どういうつもりだ、この野郎……なんて言うか……協調性のない奴……) 「おまえ……それはかなり自己中心的だぞ……俺の話、聞いてるか?……」 そう言いながらも後をついていく。 声をひそめているはずだが、真夜中無人の廊下だ。結構響くらしい。自分の声が若干エコーがかって聞こえる。 「聞いてるさ……撤収の限界時間は15分だ。そう見積もっただろう?13分までにはこの建物から出られるさ。ただ、何も起きなければな……」 「何が起きるって言うんだよ?」 「トラブル――に決まってるだろう?」 むろん、そんなことは聞かなくてもわかったが。 聞きたいのはその具体的な内容だ。 「ああ……決まってる。で、どんなトラブルなんだ?」 「わからん――ただ……」 (わからねぇだぁ?) 「ただ、なんだよ?」 「…………」 (まただんまりか……なんなんだよ?いったい。) 長い、長い廊下をゆっくりと歩いていく。 結局、中途半端で意味ありな拓也のせりふのせいでなんだかすっきりしない。気にかかってしょうがない。こいつと仕事をするといつもこうだ。自分一人か、または他の人間と組んだ方がよほど心が落ち着く。感覚にズレがあるというか……チームなのに安心させてくれないのだ、仲間を。 確かに作戦の立案や実践能力はすごい。ずば抜けている。およそ一般的な生活では絶対身に付かないであろう戦術の知識と技術でもって次々と作戦を成功させてゆく。殺し屋、ボディーガード、シークレットサービス……合法なものから非合法なものまでそういった商売の人間を俺も数多く知っているが、その中には拓也にかなう人間など誰もいないだろう。何年も軍人をやってきたような職業的戦士から、裏の世界ではブランドに近いくらい名の知れた暗殺者まで、そんな人間たちと比較してすらずば抜けているのだ。目の前を歩く、この高校生がだ。 生まれたときから戦争をしてきたんじゃないかと思うくらい、まったくもって人間離れしている。しかし、その分他の人間とはうまくかみ合わない。どんな育てられ方をしたか知らないが、仲間の心中を察する能力がないのは確かだ。まさに今実感している。こういった人間はチーム行動にはむいていないのだろう。個体能力が高すぎるが故の欠点……と言ったところか。 (こいつは一人で何でもできるんだから、チームを組ませるなよな。この作戦だって、ほとんど俺は何もしてないぞ。爆弾セットしたくらいだ。まったく、なんでいつもボスは俺と組ませるんだよ。拓也とチームが組めるのは拓也と同じくらい戦闘ができて、感情がなくて……そう、そんな機械みたいな人間くらいだよ。) 前を歩く拓也をみながら思わず愚痴をこぼす。無論声には出さないが。 しかし、こんな汎用人型決戦兵器のような奴が何人もいたら、それはそれでかなり恐ろしいなぁと思う。こんな人間が部隊を組んだら、それこそSEALだろうがスペツナズだろうがどんな特殊部隊でもかなわないだろう。想像しただけで身震いするくらい恐ろしくなる。 (も、妄想だと思っとこう。これ以上想像するのは危険だ。) まるで、SFアニメみたいだ。 その一部が現実として目の前にあることからは目をつむっていたい。 あり得るかも知れない可能性は、しかしあくまで可能性にすぎないと自らに言い聞かせて歩き続ける。 (しかし、トラブル……か。考えられるのはタイムオーバー、C4が不発、人がまだ隠れてる、カメラに撮られた……あ、情報では録画はしてないんだったか……まったく、考えたらきりがないじゃないか。) ため息をついて、時計のバックライトをつける。もう少しで10分半になろうかというところだ。何とか、予定の時間には間に合いそうだ。 ライトが消えたところで視線を戻す。 逆の、右手で握った拳銃は重量以外あまり存在感がない。このところずっと発砲していないそれはなんだか人を殺す道具ではないような気がしてくる。1キログラム近いベレッタは昔よりずっと重く、遠い存在のようだ。数年前はあれほど渇望した殺戮兵器だったのに……あれほど人を殺めた『右腕』だったのに…… (疲れてるな……俺。戦って、殺して、立ち向かってくことに……でも、普通の生活には戻れないだろうな……傷つけることになれすぎたから…………いったい、どうすればいいんだろう?どうするのが一番いいんだろう?) 「なぁ?」 つい、声を出してしまった。 いつの間にか、拓也に答えを求めてる。こいつがそんな疑問に答えてくれるはずはないのに…… 拓也は何も言わずに立ち止まり、振り返ろうとする。 「あ……悪りぃ。なんでも――」 ちょうど、その時だった。 すぐ後ろで、 バン! という、大きな響く音。 そしてそのすぐ後に左腕に焼けるような痛み。 パン!パン! そして。 間違えるはずのない、拳銃の発砲音。 腕の痛みとどちらが先だったろうか。 脳が一気にヒステリーをおこす。 (ぐっ!……くっそう!……) トラブルの始まりだった。 被弾した左腕が焼けるように痛い。焦りと痛みは人間の思考を著しく低下させる。ほとんど論理的に考えられなくなると言っていい。いわゆる、『スローモーションのように』周りが見える感覚とはまさにこのことだ。単に脳の機能が低下しているにすぎない。 発砲音は二つ。見ると振り向こうとしていた拓也も右膝を折って右肩から前に倒れようとしていた。一瞬のことで、また暗闇でよくわからなかったが、おそらく右半身に被弾したのだろうと想像する。 (くそう!何だ?!) 弾の飛んできた方向――後ろに振り向く。 痛みで身体がうまく動かせない。 よろけて左肩が壁にぶつかる。 振り向くと、一人男がこっちに拳銃を向けている。 距離は、4メートルくらいか? 立って、右手をつきだしている。 パン! また1発撃つ。 思わず目をつむる。 しかし、痛みは増えない。 (くっ!あ、当たってない?) 目をつむって固まってしまった失態に後悔して目を開ける。 それは殺してくれと言っているようなものだ。 見ると男は鬼のような形相で(暗かったが俺にはそう見えた)なおも拳銃を撃とうとしていた。 「ガキが!死ね!!死ね!!!」 パン!パン! また二つ。呪詛のような声を上げて男は発砲し続ける。 ぎこちなく右手だけで撃っている。 射線は俺ではなくもう少し右を向いていた。 (拓也?!殺される?!死んだ??) 男の異様な声と表情に、さらに俺の思考は掻き乱される。 もはや、殺すか、死んだかの思考しかできなくなる。 「っの!……ヤロウ!!」 パン! 俺も右手だけで発砲する。 もはや被弾した左手でどうサポートして撃とうかなど考えられない。 とにかく相手に向かって撃つことしか思いつかない。 弾は男の左肩をかすったようだ。 男の顔がさらにゆがむ。 男は初めてこちらに気づいたように拳銃を向けてきた。 「おあぁぁぁぁっ!!死ねぇぇぇっ!!死ねぇぇぇっ!!!」 狂気の限界に到達したような雄叫びをあげて撃とうとしてきた。 このあたりで俺の思考もキレたような気がする。 パン! (当たれ!) パン! (当たれよ!!) パン! (死ね!!!) 一発ははずれ、一発は左耳を吹き飛ばし、もう一発は胴体にめり込んだ。おそらく腸を貫いたはずだ。 しかしそれでも男はなおも撃とうとしてくる。 「があぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 それは十分に死を予感させる叫び声だった。 殺られる! (くっ!) パン! パン!パン! パン! ………… 連発された銃声は、しかし一発たりとも俺には当たらなかったようだ。 どさっ、という音とともに目を開けると(また、目を閉じていたらしい)男はうつぶせに倒れていた。 「…………はっ、はっ……は……」 一瞬何が起こったか理解するだけの思考ができず、数秒あまり荒い息をして男を眺めていた。 死の恐怖が遠のいたことを知ると徐々に思考力が戻ってくる。 当然の可能性として右後ろを振り向くと、やはり拓也が拳銃を構えていた。 数発撃たれたはずだが、しっかりと立って右手で狙っている。 表情からも別段、被弾した場所はないようだ。最初の1発は明らかに被弾したように見えたが? 拓也はいつものように、あの無機質な瞳で男を貫いている。 そして、右手で狙いを付けたまま男に向かって歩き出す。 「……はっ……お、おい……は…っ……おまえ、どこも……」 まだうまく呼吸できない唇で声をかけるが、全く聞こえていないように歩き続ける。 そして男から1メートル半のところで立ち止まる。 男を見ると生きてはいるが立ち上がることすらできないようだ。 よく見ると両腕、両太股から出血している。拓也が撃った4発だろう。 見事なほどに4カ所とも骨を砕き、貫通している。 「あと何人いる?」 拓也が男に声をかける。 男は顔だけを何とか上げる。 血の気が失せているのが暗闇でもはっきりわかる。 出血が多すぎる、まもなく死ぬだろう。それは断言できる。 「ば、化け物め……」 男はしかし期待する答えを口にしなかった。 もはや目も見えていないのではないだろうかというような表情だ。 だが、拓也は淡々と同じ質問を繰り返す。 「あと何人いる?」 「し、死ね……」 男はもはや相手の言葉に応えるという思考すら失っているようだ。 その唇は自らの意志だけを紡ぎ続ける。 「……ここにはあと何人残っている?」 もう一度、拓也は問う。 「死――」 パン! (!…………) ――死。 ごつん、という音とともに男の頭蓋が床に落ちる。 同時に、 キン キーン と。薬きょうが跳ね、転がる音。 男の眉間を貫いた弾丸が最後の一発らしく、拓也のUSPはスライドが後退したままで止まっていた。 あまりにも、あっけない出来事―― 下手な紙芝居を見ているようで、まるで手応えがない。 人間の死など、所詮こんなものだ。 横たわる肉塊はもはや人間ではない。 息絶えたそれは人間とは呼べない。 すでにそこには向けるべき感情は何もない。 あれほど『殺す』と感じていたのに―― これが――死だ。 虚しくただ在るだけの『それ』を眺めながら、死の無価値さを感じずにはいられなかった。 バシン! という音が、先ほどの銃撃戦の余韻も忘れぬうちに廊下に響き渡る。 見ると拓也が次弾を装填したところだった。 「お、おい……どこも撃たれてないのか?」 もう一度、聞く。 しかし、やはり答えることなく歩き出す。 その先には男が出てきたらしい部屋の入り口があった。 そして、後ろ手に廊下の向こうを指さし、 「警戒しろ。」 のひとこと。 その後すぐに油断なく拓也の身体はその部屋に滑り込んでいった。 ここにきて初めて気づく。 敵はまだいるかも知れない――と。 急速に冷静さを取り戻し、周囲に気を配る。 特に気配はないように感じられるが、痛みで少し意識が朦朧としているようだ。あまりこの感覚はあてにはならない。 (痛てぇ……まさか、失血死とかしないだろうな……) 銃弾で負傷したのは実はこれで2回目だ。これがどの程度の怪我でどう対処したらいいのかはっきり言ってわからない。ただ、血を失ってはいけないことだけはわかる。拳銃を置いて止血すべきか、それとも無視して警戒を続けるべきか…… しかし、迷っているうちに拓也が戻ってくる。 「被弾したのは左腕だけか?」 こちらに向かって歩いてくる。俺はすでに疲れて床に腰を下ろしていた。 「ああ……たぶんな……そうらしい。おまえは大丈夫なのか?」 「脇腹をかすっただけだ。問題ない。」 見ると、服は右の脇腹の部分が小さく破れており血で染まっていた。と言っても黒い服なのでほとんどわからないが血で濡れているのが何となくわかる。 「見せろ。止血する。」 そういって俺の腕をつかむ。 (がっ!!痛てぇ!痛てぇよ!!そんなに強くつかむな!) いきなりの痛みに歯を食いしばって睨み付けてやるが完璧に無視して傷の観察を続ける。 「骨には異常はない。動脈も傷ついていないだろう。出血も大したことはない――軽傷だ。」 「け、軽傷だぁ?死ぬほど痛いぞ!?麻痺して手が動かねえし……」 「指を動かしてみろ。一本ずつだ。動くだろう?腕は筋肉が傷ついたせいで動かしにくいだけだ。すぐ元通りになる。」 素早く俺の腕を止血しながら淡々と告げる。 確かに指は動くが……ホントに動くようになるんだろうな、腕…… 続けて自分の止血をしている拓也をよそに、ほとんど動かない左腕にばかり意識がいってしまう。そして、ふと視界に男の死体が目にはいった。 「ところで、そいつは何なんだ?」 「宿直の警備員……だろう?そこの部屋は監視室だ。モニターがあった。4階で撮られていたらしい。」 「警備員……っていうよりヤク中のやくざだぞ、どう見ても。日本に拳銃持った警備員がいるかよ。それに撮られたって……録画は?」 「情報通りだ。していない。」 「情報通り……か。そんな奴がいることもか?」 皮肉をこぼす。が、しかし…… 「イレギュラーには自分で対処しろ。こんな仕事をするなら他人をあてにするな。」 「……はいはい。俺が悪うございましたよ。俺はおまえみたいに一人で何でもできるような奴じゃないんでね、対処しきれないんだよ。」 「だったらやめろ。このまま仕事を続けると死ぬぞ、確実に。おまえは死にたくはないんだろう?俺たちの組織――『万屋』が請け負う殺しはこれよりも危険度が高い仕事がほとんどだ。政府筋、警察などが関与した国家レベルの非合法活動を請け負っているんだからな。これ以上仕事を続けるとそういったレベルの内容にふれることになる。そうなったらおまえの意志に関係なく続けていくしかない。無論、死ぬまでだ。」 「…………おまえ……そんなレベルの仕事をしてるのか?」 「そんな仕事の方が多いさ。こんな秩序が守られている国では民間からの依頼はすくないからな。どうしてもそういった仕事の量が増える。おまえにはほとんど情報さえいっていないんだろう?」 確かに、何となく耳に入ってくることもあるがそういった仕事の話を面と向かってされたことはない。 「ああ……でも、なんでだ?」 「知らんよ。だが……まあ、何となくはわかるがな……」 「なんだよ?」 「秘密さ。自分で理解しろ。」 「……ケチくせぇな。」 「おまえが自分で考えて理解しなければ結論は出ないってことさ。それより、本当に死ぬぞ。2年前に初めて会った頃よりずっと能力が下がっている。精神的にもずっと乱れてきている。はっきり言って、おまえには無理だよ。この仕事をこれ以上続けていくのはな。」 「…………」 無理――か。 面と向かって自分の能力を否定されると非常に腹が立つが、しかしそれも事実かも知れない。いまは、人を殺すことばかり考えていた数年前とは違う。いろいろ考えて生きるようになった。悩むようになった。殺すこと以外の何かに価値が見いだせるようになってきたのだ。 だが、できるのか? こんな仕事から足を洗うのは簡単だ。俺は別に殺人中毒じゃない。殺さないと生きていけないような人間じゃない。いつだってやめられる。ただ、殺すことになれすぎた人間が普通の世の中で生きていけるかどうかってことだ。普通の人間とは感覚が違う。すぐに他人を傷つける。その力もある。心も体も、少しでもふれたらすぐに壊れてしまいそうな同年代の連中の中で、じっとして生きているのが窮屈でたまらない。 「おまえはどう思う?俺が……この仕事を辞めたとして……普通の生活ができると思うか?」 やはり、拓也に問う。 今なら、聞けそうな気がする…… 「知らんな。俺はおまえじゃない、結論は出せない。精神的な問題を他人に押しつけるな。自分で考えろ。」 「…………」 (……おまえに聞いた俺が悪かったよ。) 「そろそろ立て。出るぞ。」 そういって歩き出す。 こんな、死神のような心と体を持つ少年と、普通の学生たちの間で俺の心はふらふらと頼りなくさまよっている。俺はこいつみたいに強くはなれない、あいつらみたいに楽しく笑えない…… コツコツと、確かな足取りで前を歩く拓也はいつにもまして遠くにいるようで…… この感覚が孤独なのだと何となくわかった……
大事なことを忘れていました。登場キャラにふりがなをつけてないのがいくつかいました。
高村 秋人 - Takamura Akito 藤木 拓也 - Fujiki Takuya 薮間 舞 - Sougen Mai 椎名 洋子 - Shiina Youko 以上4名が主人公です。予定通り続いてゆけばプラスもう1名になります。 なかなか成長しない稚拙な作品ですが、今後ともよろしくお願いします。 |