か・げ・ろ・う
 第三話 慟哭
 
 
 
 

「使徒...」

これで使徒迎撃までシンジの『疎開』は無くなった。加持は遠く駒ヶ岳上空に浮ぶ弾幕を見ながらそう思った。そして振り返った加持の目に入ったのは、本部の方へ戻ろうとするシンジの姿だった。

「シンジ君、何をするつもりだ」

我ながらなんてつまらない事を聞いているんだと加持は自嘲した。

「決まっているでしょう。初号機に乗るんです」

シンジから帰ってきたのは予想通りの答え。エヴァに乗る事を嫌がっていた姿が嘘のようだ。しかし加持は同時に碇ゲンドウの言葉を思い出していた。

『シンジをエヴァに乗せるわけにはいかない』

人類の存亡がかかっている時に何を悠長なと言われるのかもしれない。しかし加持にはゲンドウの気持ちが痛いほど分かった。シンジがエヴァに乗る事は命を賭けるのではない、命を削るのだ。戦いがどんな結果を生もうともシンジを待ち受けているのは確実な死である。

そんなシンジに向かって加持も『エヴァに乗れ』とは言えなかった。

発令所に向かうシンジの目に射出された弐号機が映った。シンジは弐号機に向かって声をかける。

「アスカ頑張って」

そして遅れて射出された零号機を見たとき、シンジの目は大きく見開かれた。

「綾波、何をするつもりなんだ。
 止めるんだ綾波...」

シンジは突撃していく零号機を止めようと大声を上げた。しかしシンジの声が届くわけもなく零号機はN2爆雷の爆煙の中、使徒の攻撃を受け崩れ落ちた。

「綾波...なんてことを」

レイが倒されるのを見て、シンジは本部へ急ごうとした。しかしその腕を加持が引き止めた。

「何を...」

シンジは『こんな時に何を』と加持へ抗議しようとした。しかしその言葉も加持の真剣な表情の前に発せられる事はなかった。加持はシンジの瞳を見詰め静かに話し出した。

「これから俺の言う事を良く聞いてから判断してくれ」

シンジは加持のその言葉に頷いた。
 
 

***
 
 

呆然としているミサトの前にシンジは現れた。シンジは一瞬悲しい視線をミサトに向けたが、すぐにその表情を振り払いリツコに聞いた。

「二人の状態はどうですか」

「とりあえず無事と言うところね。
 精神的な負担が大きかったので数日寝たまんまになるけどね」

シンジはリツコの言葉に安堵の溜め息を漏らした。そんなシンジに向かってリツコは言葉を続けた。

「それよりもあなた自身の事を心配しなさい。
 すぐに検査するから医務室に来て」

静かだが、有無を言わせぬリツコの言葉にシンジは黙ってその後ろに従った。

その行動をミサトが引き止めた。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。
 理由を説明してよ」

ミサト自身シンジの保護者であるという自信があった。それなのにシンジの事で自分が蔑ろにされている。その考えがミサトに過激な行動をさせた。

「シンジ君」

ミサトは激情から去って行こうとするシンジの肩を捕まえ、無理矢理自分の方を向かせた。そして一言怒鳴り付けようとしたとき決定的なものを見てしまった。

それは悲しみに押しつぶされそうなシンジの瞳。

その瞳を見た瞬間、冷や水を浴びせられたようにミサトの激情は消え失せた。

「ミサト、後で説明するから今は...」

リツコの言葉にミサトはシンジの肩に置いていた手を放した。

「何なのよ一体...
 どうしてそんなに悲しい目をするのよ...」

ミサトの言葉が誰もいなくなったケージに響いた。
 
 

***
 
 

「シンジ君よく聞いてくれ。
 これがお父さんが君を捨てた本当の理由だ。
 そして君をエヴァに乗せない理由でもある」

シンジは自分を捨てた本当の理由という言葉に驚いた。自分は要らない子供だと思っていた。でもその想いは違ったのかと言うことに...

そして加持から聞かされた顛末、自分の病気のこと。死んだことにまでして自分をここから遠ざけようとした理由。トウジのこと、ダミープラグのこと。

シンジは加持の説明に涙した。自分は父親に嫌われていなかったのだと。それどころか父は自分のことをどれほど思ってくれていたのかと。

これまで父のことを理解しようとしなかった自分。

それがシンジは悔しかった。

「加持さん、ボクはエヴァに乗ります。
 それが今のボクに出来ることですから」

シンジの瞳に宿った強い光に加持は頷いた。すべてを知った上でエヴァに乗ると言ったシンジを止めることはできないと。加持はシンジを伴いネルフ本部へと急いだ。
 
 

***
 
 

「そうだ、008からやり直せ」

そのころゲンドウは、初号機のケージで赤木リツコと共にダミープラグによる起動を試みていた。

「ダメですプラグ反応消失」

リツコからあがる報告、双方ともあきらめの色が濃い。

「赤木君、例の物の用意を頼む。
 サードインパクトだけは防がねばならん...
 済まないな、君にこんなことまでつき合わせて」

眼鏡を外し、リツコを見つめるゲンドウのその言葉にリツコは微笑みを返した。

「いいんです。これは自分の意志ですから。
 初めてですね、あなたがそんな目で私を見てくれたのは」

「すまんな、君の気持ちは分かっていたはずなのに。
 私は過去に捕らわれすぎていたのかもしれん。
 だから、今ここにある大事な物を失ってしまった」

この瞬間リツコは幸せを感じていた。

「そんなことは言わないで下さい。
 私は十分幸せでしたから。
 それにいつかシンジ君も分かってくれますわ」

リツコはゲンドウから視線を外し、本部自爆のための準備を進める。例え使徒が残ったとしても、鍵となる物がなければサードインパクトは起こらない。

「ありがとう、赤木君」

「どういたしまして、碇指令
 自爆の準備が整いました。
 お手元のコンソールから起爆出来ます」

ゲンドウが自爆スイッチに手を掛けようとした時、二人は初号機に駆け寄る二つの人影を見た。一つは加持リョウジの姿。そしてもう一つは...

「シンジ...」

ゲンドウは『何故』という顔をして加持の顔を見た。そしてその次にシンジを睨み付けた。

「ここは部外者の来るところではない」

素っ気なく繰り出されるゲンドウの言葉。父の人を寄せ付けない言葉、それにも耐え、シンジは思いを吐き出した。

「部外者ではありません。
 ボクは初号機パイロット...
 碇シンジです」

シンジの言葉を引継ぎ、加持はゲンドウに言った。

「シンジ君は全てを知った上で初号機に乗ると言ってくれました。
 その気持ちを尊重してあげて下さい。
 それに今から逃げたところで間に合わないでしょう」

ゲンドウは改めてシンジの顔を見た。一頃あった気弱さは陰を潜めている。強い意志を秘めたその瞳、ゲンドウはシンジの瞳を見続けることは出来なかった。

「すまん、シンジ。
 初号機に乗ってくれ」

「ありがとう父さん。
 初号機パイロット、出撃します」

シンジはそう言うと搭乗のため階段を上っていった。その後ろ姿を見つめゲンドウはぽつりと一言つぶやいた。

「私は間違っていたのかもしれん」
 

***
 

ジオフロントに出たシンジが最初に見た物は、使徒の攻撃により首の吹き飛ばされた弐号機の姿だった。

「アスカ...ごめん」

自分のせいでこんなになって。そしてシンジは零号機の方を見た。

「綾波、アスカ...無事でいてね。
 二人の敵はとるから」

シンジは使徒を睨み付けると、初号機を突進させた。体が軽い、そんな感覚をシンジは感じていた。

シンジの操る初号機は使徒の防御も関係なく、乱暴とも言える体当たりで使徒をはじき飛ばした。

「いける」

シンジがそう思った瞬間、左腕に焼けるような痛みを感じた。シンジはその瞬間苦痛に顔を歪めたが、攻撃の手をゆるめることはなかった。痛みは逆にシンジの闘争心に火をつけた。

「わ〜」

叫び声を上げ、シンジは再び使徒に突進する。今度は使徒をはじき飛ばさず、使徒をその腕で捕まえると、そのまま押さえ込み、コアへと攻撃を加えた。

「綾波、アスカ・・・」

自分が不甲斐ないばかりに、大切に思っていた二人の少女を傷つけてしまった。

「この身がどうなっても、もう二人を傷つけさせない」

シンジは自分の体が溶けていく錯覚を覚えながら、使徒へと攻撃を加えた。

「もう逃げたりしない」

2体のエヴァを寄せ付けなかった使徒も、シンジの駆る初号機の前には為すすべもなく敗れ去っていった。
 
 

***
 
 

「次は目をつぶって、片足で立ってみて」

検査室には秘密を護るためにリツコとシンジ、ただ二人だけが居た。もはやシンジに隠す必要も無くなったという事で、リツコは通常行っていなかった検査を大量にシンジに施した。

検査はCTによる直接の観察から、片足立ちと言った基本的な運動機能、視力検査と多岐にわたっていた。精一杯やっている、しかし思うように身体が動かなくなっている、その事実にシンジは加持から聞いた言葉が現実となってのしかかってくるのを感じていた。

『君はこのままエヴァに乗っていると死ぬ事になる』

シンジは唇をかみ締めると次のリツコの指示に従い、身体を動かすのだった。

一方リツコは、表示される数値に眉一つ顰める事もなく。淡々と検査の処理を行っていった。いや、そうしないとこれ以上検査を行う事に耐えられないのが分かっていたから。

『こんな所まで影響が』

リツコは検査結果を横並びで見て、過去の結果からの劣化に愕然と来るものを感じていた。エヴァへの搭乗によって病気が進行する事は推測で来た事だ、しかしここまで一気に進む事は予測の範囲から外れていた。

『もうシンジ君は普通の生活には耐えられない』

リツコは自分に食って掛かろうとしていた親友の顔を思い出していた。

『ミサト、あなたならこんな時どうするの』

そしてリツコは、もっともシンジの容体を気遣っているだろう人物の顔を思い浮かべていた。自分の事を必要だと言ってくれた男の顔を...

『あなた...』

リツコは体の震えを止めることができなくなっていた。
 
 

***
 
 

ミサトはリツコの居室で、シンジの検査が終わるのを待っていた。聞きたいことは山ほどある。なぜシンジを死んだことにしなければならなかったのか。なぜそのシンジが再びエヴァに乗ったのか。なぜ戻った早々あわてて身体検査を行ったのか。なぜ...

「なぜシンジ君はあんなに悲しそうな瞳をしているの」

リツコが戻ってくるまでの間、答えの見つからない問いをミサトは延々と繰り返していた。なぜ、どうして...

ミサトの思考の迷宮はリツコの帰還を持って終わりを告げた。軽い空気音とともに現れたリツコにミサトは食いつくように質問を浴びせた。

「一体、シンジ君に何があったの。
 何を検査しているの。
 どうして死んだ事にされたの」

どうして、どうして...

リツコはあらかじめ判っていたかのように、ミサトの質問を受け止めた。そして小さくかぶりを振ってミサトに告げた。

「もう少しだけ待って。
 関係者が集まったところで説明するから」

関係者?司令のことかしら...ミサトはすぐにシンジの父親の顔を思い浮かべた。

「関係者って碇司令のこと?」

ミサトの言葉にリツコは小さく頷いた。

「ええ、それから副司令と、加持君よ」

ミサトは意外な名前に驚きを隠せなかった。加持のやつがこの件に絡んでいる。なぜ...

「加持の馬鹿まで絡んでいるって一体...」

ミサトの言葉にリツコは引きつった笑いを浮かべた。そしてミサトを手招きした。

「一緒に説明するわ。だからそれまで我慢して」

ミサトは黙ってリツコの後に従った。
 
 

***
 
 

関係者を集めた上で行われたリツコの説明は、ミサトを驚愕させるのに足るものだった。

シンジの頭に出来た腫瘍。それはエヴァに乗る事により成長し、やがてシンジの命を奪う。しかも今回の出撃により、自覚症状の出るところまでそれは成長している。そしてシンジを死んだ事にしたのは二度とエヴァに乗せないようにするため...

しかし最もミサトを驚かせたのは、今の説明がシンジの同席している場で行われている事だった。

『どうしてシンジ君にこんな話を聞かせるのよ』

ミサトは多分にそんな意味合いを込めた瞳でリツコを睨み付けた。

「ミサトさん...」

ミサトの視線に気づいたシンジがミサトに声を掛けた。

「いいんですよミサトさん。ボクは本当の事を教えてもらえて感謝しているんですから」

「だって、こんなこと...」

ミサトはシンジに向かって大声を出そうとしていた。『いけない』そう思いはしたが止められなかった...はずだった。しかし、ミサトはシンジの浮かべた表情に続く言葉を失っていた。

ミサトの瞳に映ったのはシンジの透明な微笑み。ミサトは、その微笑みが思い出の中にだけ存在する人の浮かべる微笑みに似ていることに気づいてしまった。

『だってあなたはまだ14歳なのよ』

ミサトにはこれからのシンジの処遇を説明するリツコの言葉も、風の音のように耳を通り過ぎて行くだけだった。

『私たちがシンジ君にしてきたことって、なんだったの』

ミサトはただその言葉だけを頭の中で繰り返していた。
 
 

***
 
 

ミサトが我に返ったときには、その部屋にはリツコと二人だけになっていた。

「リツコ...」

ミサトは、その時初めて親友の顔に浮かんだ泣き笑いのような表情に気づいた。

「ごめんねミサト。
 シンジ君はもう、普通の生活には耐えられないの。
 だからあなたの所に置いておくわけにはいかない...」

冷徹な科学者の仮面の取ったリツコは、震える声でミサトにそう告げた。

「分かってる...」

シンジをこのまま自分の家に置いておくわけにはいかないことは、ミサトにも分かっていた。

「これからどうするの...」

「あの人が一緒に住もうって...」

リツコのその言葉にミサトは驚いた。ゲンドウとリツコが...

「そうなの、良かったじゃない...」

なんて言えばいいのだろう...ミサトは考えた。その空気を察したのかリツコが想いを吐き出した。

「分かってる、ミサトの言いたい事...
 自分でも最低だと思ってる...
 嬉しいのよ、あの人が私の事を必要としてくれて。
 シンジ君も私を認めてくれた...
 喜んでいるのよ...
 シンジ君が大変なこの時期に...」

吐き出すように話すリツコの姿に、ミサトは妙な感慨を覚えていた。

『リツコがこんなに感情を表に出すなんて』

ミサトはリツコの身体を抱きしめると静かに話し出した。優しく諭すように...

「シンジ君が認めてくれたのならいいじゃない。
 辛気臭い顔をすることだけが、シンジ君の為になるわけじゃないわよ。
 私たちがシンジ君を支えてあげなくちゃ」

「ねっ」と抱きしめたミサトの胸にリツコはすがり付き鳴咽をあげて泣き出した。

『みんな悲しいんだ...』

ミサトは弟のように思っていた少年の顔を思い出して涙を流していた。
 
 

***
 
 

「待っててくれたんだ」

リツコの部屋を出たところで、加持を見つけたミサトの言葉。加持は一言「ああ」とだけ答え、ミサトの横に並んで歩き出した。

どこへ行くと言う目的もなく、ただ長い通路を二人で歩いていく。二人の間に会話はない。ただ重苦しい沈黙が二人を包んでいた。その沈黙に耐えられなくなったミサトが口を開いた。

「私たちはどうすればいいの」

加持はミサトの顔を見ないで、遠くを見つめていた。

「シンジ君は俺に一言頼んだよ。葛城とアスカを頼むって...
 俺はそんなに立派な男じゃないのに...」

「そうね、あんたはいいかげんな男だからね。
 でも、シンジ君の頼みは裏切れないでしょう」

「違いない...」

加持はミサトのその言葉に頭を掻いた。

「とすると問題はアスカね」

「ああ、善きにつけ悪しきにつけ、アスカはシンジ君と深く関わってしまった。
 この件がアスカにどんな影響を与えるのか...」

「・・・注意深く見守るしかないのね」

「・・・そう言うことだな」

加持は『それはお前にも言えることだよ』その言葉を飲み込んだ。

二人はそのまま、アスカの病室へと向かった。
 
 

***
 
 

転居への準備のため、シンジはネルフ本部に仮の宿を得た。一通りの準備を終えたシンジは二人の少女の寝ている病室へと訪れた...

「綾波...」

シンジはジオフロントの照明に青白く浮かび上がった少女の顔を見詰めた。

「いつもとは逆だね。
 今日はボクがこうして寝ている綾波を見ている」

シンジは椅子を引くとベッドの横に腰をかけた。

「考えてみたらボクはいつも綾波に守られていたね。
 でも、これからはそんな必要はないんだ。
 これからはボクが綾波を守るから。
 こんなおんぼろな体だけど、出来るだけのことはするから。
 だから綾波...これからは頑張りすぎないで。
 エヴァで出来る絆なんて、綾波の持っている絆のほんの一つなんだから。
 綾波ならこれからいくらでも絆を築くことが出来るんだよ。
 だからお願いだよ、もうこんな無茶はしないで」

「月を見ると綾波を思い出すんだ。
 綾波のことは父さんに聞いたよ。
 綾波はボクのことを子供のように見ていたのかな。
 だとしたらボクは手のかかる子供だね。
 だけどボクは綾波のことをアスカと同じ、一人の女の子として見ていたんだよ。
 好きとか嫌いとか、よくわかんないけど...
 今の気持ちは『好き』って言う気持ちだと思う。
 これもアスカに対する気持ちと良く似ているけどね。
 はは、一体何を言っているんだろうね。
 でも、もういいんだ。
 ボクはこの気持ちを誰にも明かすつもりはないから。
 だから綾波も気にしないでね」

シンジは病室のドアに手を掛けると、ベッドに寝ているレイの姿を見詰めた。そして

「ありがとう」

の一言を残し、レイの病室を後にした。

シンジはレイの病室を出ると、隣に位置しているアスカの病室の扉を開けた。シンジの目に映ったのは、レイと同じようにジオフロントの青白い光に照らし出されたアスカの姿だった。

シンジはいつもと違った陰を持ったアスカの美しさに、時を忘れてただ呆然と見詰めていた。

「アスカ...」

シンジは自分の口を衝いて出た言葉に我に返った。

「ボクはずっとアスカに甘えていたんだよね。
 アスカはいろいろとボクに怒ってくれたよね。
 考えてみると、ここに来るまでだれもボクのことを叱ってくれたことなんかなかったんだ。
 そう言えば誉められたこともなかったんだ。
 だからここに来て、みんなに期待され、誉められたりしてボクははじめて人になったと思うんだ。
 でもそれはすべてエヴァに乗っているからなんだよね。
 それでも、ボクにとっては大切なことだった。
 考えてみるとアスカだけなんだよね。
 パイロットじゃない碇シンジを怒ったり誉めたりしてくれたの。
 だから...だから怖いんだ。
 こんなに情けない姿をしたボクをアスカに見せるのが。
 それにリツコさんに言われたんだ。
 もう今まで通りの生活をするのは無理だって。
 だからボクはあの家を出ることにしたんだ。
 ちょうど父さんも一緒に住んでくれるって言ってくれたしね」

シンジは一息をついてアスカの顔を見詰めた。

「でも出来る事ならもう少しあの家に居たかった。
 ミサトさんやアスカの居るあの家に...
 でもだめなんだよ...
 この手が...思った通りに動かないんだよ。
 簡単なことも出来ないんだよ。
 だから...だから、もうだめなんだよ。」

シンジはアスカの左腕がベッドから出ているのを見つけた。そしてその手を取ってシーツの中に戻そうとした...

空を切るシンジの手...シンジは思わず自分の右手を殴り付けた。感じる痛み...それがシンジに生を実感させてくれるはずだった。シンジはその痛みにも違和感を感じていた...

「助けてよ...助けてよアスカ...
 死にたくないんだ...
 アスカや綾波や...みんなと一緒に居たいんだ。
 ねぇ死にたくないんだよ...
 助けてよ...
 ねぇアスカ...
 助けてよ...」

シンジの異変にリツコが気がついて駆けつけた時、リツコの目に映ったのは『死にたくない』と呟いてアスカのベッドにすがりついているシンジの姿だった。
 

続く
 


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中昭のコメント(感想として・・・)

  かげろう 第三話。もらってから3日目のUPです。


  >シンジの異変にリツコが気がついて駆けつけた時、リツコの目に映ったのは『死にたくない』と呟いてアスカのベッドにすがりついているシンジの姿だった。
  側にいたい。願いはそれだけなのに・・・
  シンジの切なさがようでてたと思います。
  しかし全開ですねぇ。これからどんどんどうにかなりそうな展開ではらはらものです。
  まずはアスカに真実を告げるのか。
  告げるパターンと告げないパターン。一部だけ告げるパターン。
  アスカの気持の変化。
  四話が出る前に色々想像してみよっかな。


  周囲の人間の善意と身体を蝕む病魔。忘れちゃいけない使徒。
  カヲル君登場までシンジは保つのかな?




  みなさんも、是非トータスさんに感想を書いて下さい。
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