〜ル・フ・ラ・ン〜


第三話 動き出す世界 −2
 

2018年5月10日

エヴァンゲリオン7号機、8号機の起動試験のデータが散乱する赤木リツコの部屋に葛城ミサトはいた。

「リツコどう、うまくいってる?」

声をかけられた赤木リツコは半分あきらめたように言った。

「全然駄目。設定をどういじってもアスカに太刀打ちできないわね。
 それにこれ以上実験を続けるのはパイロットに酷だわ」

事実、ここのところ連日鈴原、相田の両パイロットでの起動試験が続けられた。その目的はドイツ支部のアスカとのシンクロ率の差を埋めるため。しかし連日の努力にも関わらず、その差は縮まることはなかった。

「冬月指令は今日スイスへ出発したわよ」

「わかってるわミサト。もう手遅れだってことぐらい」

リツコは実験データの入ったファイルを放り投げるとコーヒーサーバーへ行き2杯のコーヒーを入れた。

「やっぱり意地をはらずにシンジ君に来てもらうべきだったかしら」

リツコは一つため息を吐いた。

「あなた、なんて言ってシンジ君に来てもらうつもりなの
 ネルフ内部の権力抗争なんて協力してもらえると思うの」

「そうよね〜さすがにそんな理由じゃ呼び出せないわよね〜
 しっかし、迂闊だったわね
 まさかドイツ支部長があんな裏工作をしてくるなんて」

ミサトの顔に浮かぶのは諦めの色。

「そうね、それで加持君はなんて言ってるの」

「四分六で不利だって」

出てくるのは愚痴ばかり...

「いったい保安諜報部は何をしていたの」

「しょうがないでしょ、保安諜報部は外向きの組織なんだから。
 まさかネルフ内部、しかも権力争いまでは関与できないわよ
 それにドイツ支部ぐるみだからね」

「案外あの支部長タヌキだったというわけね」

「そうね」

ミサトはカップのコーヒーを飲み干すと続けた。

「こんなことならなんとしてもアスカを引き留めておけば良かった」

「仕方ないわよ、アスカの国籍はアメリカだし、ご両親はドイツにいるのよ。
 正式な申し入れに対して日本に引き留めておける理由はないわ
 それにアスカ自身が同意している
 理由もなく引き止めたらそれこそ国際問題になるわよ」

「参ったなー、次期指令はあのタヌキがなるのぉ
 アタシあの男嫌いなのよね」

ミサトは心底嫌そうな顔をして言った。

「好き嫌いだけなら碇指令だって嫌いだったでしょ。
 問題はそんなとこじゃないわよミサト」

リツコも負けず劣らず嫌そうな顔をした。

「わかってるわよ、あの男の胡散臭さぐらい
 どうせネルフ指令の座も次へのステップなんでしょ」

「そう、そのためあの男が打ち出した政策がエヴァンゲリオンの各国配備」

「あきれたわね。そんな金があったらやらなきゃいけないことなんて山ほどあるのに」

「単なる工作のための方便よ
 力のリバランスなんて考えてないわよ
 でもドイツ支部のデモを見たでしょ。
 あれを見せられたらどこでも欲しくなるでしょうね」

「で、自分を支持したところには優先的に配備すると餌をまいたわけね」

「そう、そして言うことを聞かない相手へは恫喝...
 確かにアスカの乗った9号機を止めることはできないけどね
 その裏付けにアスカのデータの公開と一緒にうちのデータも出てたわよ、
 ついてたコメントが笑わせるけど」

「『この違いは両国の技術差』から始まる迷文?」

「チルドレンの資質の差なのよね、つまるところは
 やっぱりアスカは天才だったと言うことね」

「そう、そのアスカのことだけどボーイフレンドができたって話覚えているわね」

「ええ、タヌキの息子でしょ
 私も一度会ったことがあるけど
 親父に似ず、なかなかの好青年みたいね
 それに研究員としても有望のようよ」

ミサトはさも困ったことのように眉をひそめた。

「表向きはね...」

「表向きはって...
 まさか調べたのミサト!」

「ええ、ちょっとタイミングが良すぎるからね。
 それで加持に頼んでちょっと
 まあ、杞憂に終わったんならそれで良かったんだけど...」

「何か出たの?」

「お見事な女性関係が続々...」

「まあ、あの容姿、家柄なら仕方ないんじゃないの」

「ここにファイルがあるから見てみる?」

そういうとミサトはリツコにフランツのデータが入ったMOを渡した。リツコの目の前にはフランツと関係のあった女性のリストが映し出された。

「あらあら、確かにお盛んだわね
 でもこれがどうしたの」

「相手の年齢と、そのときのフランツの年齢を見てみてよ」

「あら、みんな年上ね、それも結構」

「そう、それにみんな髪の毛はプラチナブロンド、瞳はグレー」

「アスカと全然違うと言うわけね」

「そう、それにこの中の一人とはいまだに交際しているわよ」

「なるほど、ミサトの言いたいことはわかったわ。
 でもこれだけじゃ単なる女好きであって、説得力に欠けるわよ」

「そういうだろうと思ったわ、そこにタヌキ親父のデータも入っているから見てみてよ」

ミサトに言われてリツコは新しいウインドを開いた。そしてそこに映し出されたデータを見て天を仰いだ。

「なんて分かり易いの...
 これってまんまじゃない」

「まったくよ。アスカったら何のぼせ上がってんだか...
 今更ネルフの司令に誰がなったって構わないけど子供たちが不幸になるのだけは許せないわ」

「ミサトのことだから何か手は打ったんでしょ」

「なかなか難しいのよ...証拠がないし
 アスカに対するドイツ支部のガードも固いから
 加持が何とかこのデータをアスカに渡すことは出来たみたいだけど
 それ以上何もさせてもらえなかったわ」

「後はアスカ次第というわけね」

「そう、あの子が冷静であることを願うわ」
 
 
 



 
 

国連特別部会にて行われたネルフ司令更迭に関する動議は大差で可決された。そこには苦虫をかみつぶした冬月と全身で喜びを現わすハインツがいた。冬月の任期は6月末まで7月からはハインツがネルフの新司令となることが決定された。また同時に議題となったドイツにあるエヴァ9号機の日本への移管は大差で否決された。
 
 



 
 

話は遡って5月初めのボン旧市街のカフェ。うららかな陽気の中、加持はさめたカプチーノをすすりながらアスカを待っていた。約束の時間から1時間過ぎている。加持は別に障害はないことを確認しているのでいつもの通り着替えが長引いているのだろうとあたりをつけていた。

「か〜じ〜さん。待った?」

決して少なくない本数目のたばこに火を付けているとき満面に笑みを浮かべアスカが加持の方に歩いてきた。

「まあ、それなりに」

そういいながら加持は足下に散らばるたばこの吸い殻をけ飛ばした。アスカはそれにちらっと目を向けると加持に遅くなったことをわびた。しかしその目は笑っていた。

「ごめんなさい。
 久しぶりに加持さんに会えると思ったらうれしくて
 着ていく服を選ぶのに時間がかかっちゃった
 どう、似合ってる?」

そういうとアスカは加持の目の前でくるりとターンした。アスカによって引き起こされたそよ風が運ぶ甘い匂いが加持の鼻孔をくすぐった。

「ああ、とっても似合ってるよ
 しかし驚いたな...前から綺麗だとは思っていたけど
 しばらく見ないうちにもっと綺麗になっている」

加持の賛辞を聞いてアスカはさらに顔をほころばせた。

「ありがとう。
 少しぐらいは惜しいことをしたと思ってくれてる?」

「ああ、このあたりで後悔がとぐろを巻いてるよ
 守備範囲をそろそろ2歳下げようかと考えているところだよ」

加持はそういうと自分の胸のあたりをぽんぽんと叩いた。

「お世辞でもうれしいわね」

「お世辞だなんてとんでもない。本心だよ。
 ところでアスカ...」

「なあに、加持さん」

「ドイツに帰ってきて良かったか?」

アスカは加持が問いかけの形を取ったことを正確に理解していた。加持はアスカがドイツに帰った理由を知っている数少ない人だからだ。

「そうね良かったと思っている。
 まだ全部忘れられたわけじゃないし、こだわりもある。
 だけど今は毎日が充実している
 アタシを好きだと言ってくれる人もできたしね」

この時加持の表情がかすかに動いたがアスカはそれに気づかず言葉を続けた。

「冬月指令には申し訳ないけど、アタシはネルフ内部の権力争いには興味がないわ
 アタシはエヴァのパイロットとして全力を尽くしている
 今はもうエヴァに乗ることは私の全てではないけど、やりがいではあると思っているわ」

「オレもそれで良いと思うよ。
 アスカはアスカでできることをしていればいい」

「ねえ、こっちの話だけじゃなくて日本の話もしてよ
 こっちにいるとなかなか聞こえてこないのよ」

加持は一つ一つ細かく近況をアスカに伝えた。ミサトの酒量は相変わらず多いこと。殺人的な料理の腕は相変わらずのため、ほとんど加持が食事の支度をしていること。リツコがまだ独身であること。日向、青葉の両オペレータがマヤに猛アタックをかけていること。鈴原、相田の両パイロットがアスカの数値を目指して頑張っていること。鈴原、洞木ヒカリの二人がつき合いだしたこと。みんな同じ高校に通っていること。

アスカは時折笑い転げたりうんうんと頷きながら加持の話を興味津々で聞いていた。そしてただ一人・・・シンジの話をしないで加持の話が終わったときアスカは加持に尋ねた。

「ねえ、アイツ...シンジはどうしてるの」

「アスカはどこまで知っている?」

「ミサトの家を出てった後のことはよく知らないの」

「そうか...」

そういうと加持は少し考え込んだ。何を話そうかと。

「シンジ君は今のネルフに関係していない。
 だから私生活の監視はされていない。身辺の警護だけだ。
 だからネルフにいるみんなほど細かな情報はない。
 まずシンジ君はあの後養子に迎えられた。
 今は養子先のご両親と一つしたの妹さんと九州の新鹿児島市に住んでいる
 初めの頃は精神的に参っていたようだけど今ではすっかり立ち直っているらしい
 親しい友人も何人かできているそうだ。
 元気にやっているそうだよ」

アスカはそう聞くと嬉しそうな顔をした。

「そうかあいつも元気にしているんだ...」

「ああ、それに今は剣術を習っていて相当の腕前らしい」

アスカはへぇーと言った顔をした。

「あいつ侍なんてやってるの?
 似合わないわね...っと
 ところで加持さん、あたしに会いに来た理由はそんなことじゃないでしょ
 話してくれる?」

加持はお見通しかと頭を掻いた。

「やっぱり、アスカは成長したな...
 わかっていると思うがハインツとフランツの親子のことだ」

アスカはやっぱりかと言う顔した。

「あたしがのぼせ上がって周りが見えなくなっているとでも言いたいの?
 わかっているわよあの二人が胡散臭いことぐらい。
 でもね、あたしの中にはフランツを信じたいという気持ちがあるのも確かなの
 たとえ父親があたしに対してどんな気持ちを抱いていても...
 フランツは初めてあたしのことを一人の女として扱ってくれた
 うそかもしれないことは分かっている...それでもあたしはうれしかった
 だまされていたいのかも知れない」

加持は愛を知らずに育った少女の心を見た。責任の一端は自分にもある。自分はアスカから必ず一定の距離を置いていたから。そしてその距離以上決して近づこうとはしなかったから。過去に一人だけその距離を越えてアスカに近づいた少年がいた...しかしその少年も今はここにいないのだ。

「アスカがそこまでわかっているのなら何も言わない。
 ここに調査資料がある...それだけは目を通しておいてくれ」

そう言って加持は1枚のMOをアスカに渡した。アスカは少し迷ったが、それを受け取ると加持に向かって言った。

「ありがとう...中を見させてもらうわ...
 それからミサトに伝えておいて...
 心配してくれてありがとうって」

「知っていたのか?」

「そりゃあ、こんな3面記事的な発想はミサトぐらいなもんよ」

加持は少し苦笑いをしながら言った。

「すると俺の発想もワイドショー的か...」

「ふふ、そうかもね」

加持はテーブルに代金を置くと席を立った。

「じゃあな、アスカ...またいつかな」

「ええ、加持さん...今度落ち着いたらね」

加持はアスカを残して去っていった。その後ろ姿を見詰めながらアスカはつぶやいた。

「もう少しだけ...もう少しだけ夢を見ていたかったのに...」

アスカは加持からもらったディスクをごみ箱にほうり込んだ。
 
 



 
 

加持と会ってからアスカはさりげなくフランツとの距離を置くようになった。今まで通り二人で食事に行ったりしたが決してフランツの自宅へは寄ることはしなかった。フランツ自身アスカが取り始めた微妙な距離には気づいていたが特にそれを気にすることもなかった。そうしてアスカにとって何事もなく日々が過ぎていった。

「支部長からの呼び出し?
 なによ今ごろ...」

アスカは呼び出しを告げに来た技術部員にそう愚痴った。

「さあ、支部長もあとちょっとでここを離任しますからね。
 最大の功労者のセカンドチルドレンにお礼の一つでも言おうというのでは?」

技術部員の言葉に

「あのタヌキがそんな殊勝なことを考えるわけないでしょ!」

そうアスカは反論した。それに対してそこにいた技術部員たちも一様に「違いない」と言って肯いていた。

いよいよ来たかと思ったアスカは技術員の一人が渡してくれた小型ナイフをポケットに忍ばせて支部長室へと向かった。
 
 



 
 

「理由を説明していただきたいのですけど...」

いきなり告げられたパイロット解任の命令にアスカはハインツに詰め寄った。ハインツはそんなアスカを気にもせずに平然といった。

「知りたいかね...
 理由を言えばわしは君を拘束せねばならん
 君はわしにとって大いに役に立ってくれた
 だからここは穏便に解任だけで済ませておこうと考えたのだがね」

「私には拘束される理由はありません」

そう言い放つアスカにハインツは1枚の写真を見せた。一月ほど前にカフェで加持と会っている写真だった。

「これが何か?」

アスカには訳が分からなかった。

「調べによると彼はゼーレの指示でネルフを内偵していた」

「馬鹿なそれは昔のこと...」

「さらに、日本国政府の内偵としても動いていた...」

「それだって昔のことです」

「我々が内偵して分かったことだがパイロットにドイツ支部の重要人物の暗殺を指示した疑いがある」

アスカはあきれた。この男はいったい何を言いたいのか。こんな与太話をいったい誰が信じるのか。

「どうすればそんな話が信じられるのですか。
 大体どうしてそんな理由で私が解任されなくてはいけないのですか」

ハインツはかかったとばかりにやりと笑い、近くにいた保安部員に指示を出した。指示を受けた保安部員二人はアスカを両側から抱えると机に押さえつけた。

「止めてください...いったいどういうつもりですか」

ハインツはアスカに近寄ると胸ポケットに入っていた小型ナイフを取り出した。

「おい、これを証拠物品として押収しろ
 それからお前たちはもういい。
 別命あるまで外で待機しろ」

ハインツは保安部員たちを退席させると勝ち誇ったようにアスカに向き合った。

「初めからこれが狙いだったわけね...汚いやつ」

アスカははき捨てるように言った。

「それは誉め言葉として受け取っておこう」

相変わらずハインツはにやけて言った。

「アタシにどうしろって言いたいの」

「それは君が一番よく理解しているだろ?」

アスカは腹の底からハインツを嫌悪した。そしてこの男の片棒を担いでいたフランツも同様に嫌悪した。

「それでしたらお断りします。どうぞ拘束でも何でもしてください」

「いいのか、あの男の立場はどうする」

「あの人は大丈夫です...修羅場を沢山くぐってきた人ですから」

ハインツは「ふむ」とあっさりと引き下がった。その様子にアスカは拍子抜けした。「何」まだ何かあるの?漠然とした不安にとらわれたアスカの目の前に別の写真が差し出された。片時も忘れたことのないその顔...一人の少年がそこに写し出されていた。アスカは思わず息を呑んだ。

「霧島シンジ...君には碇シンジと言った方がいいかな
 私には彼を拘束することも出来るのだが...」

アスカは下卑た笑いを浮かべるハインツに対して敗北を認めた。
 
 



 
 

アスカは支部長室の床に横たわっていた。彼女の体を隠すものはもはや2枚の下着だけとなっていた。ハインツは執拗にアスカの体を嘗め回し、1枚1枚アスカの服を剥いでいった。アスカは体の上を這い回るハインツの舌に爬虫類に対して感じるそれと似た不快感を感じた。ハインツはなおもアスカの体を嘗め回し、その手のひらでアスカの胸を愛撫した、アスカはハインツによって加えられるすべての行為を心の外に追いやろうとした...自分を人形と思い込むことで...アタシが少し我慢すればシンジに迷惑がかからないと。ハインツの執拗な愛撫は続き、アスカに残された小さな布も剥ぎ取られた。もはやアスカを隠すものは何もなかった。

ここまで来てハインツは不満を感じた。自分がここまで愛撫を加えているのにアスカから何の反応も帰ってこないからだ。今までこんなことはなかった...大体泣き叫んでいるか、快楽に落ちているはずだった。それなのにこの女は何の反応もない...嫌悪も拒絶も...これでは落とした意味がない。ハインツは屈辱に歪むアスカの顔が見たかった...でもこれでは人形である。それではとハインツはアスカの胸をむさぼった。形のいい乳房が歪んでいく...そして乳首を強く噛んだ...それでも反応がない。さらにアスカの秘所に手を伸ばし、指でまさぐり...舌でも愛撫を加えた...それでもアスカは何の反応も示さない、潤ってすら来ない...ハインツはこのまま犯してしまおうかとも考えた...だが止めた、多分このまま犯しても何の反応も返ってこないことは目にみえているから、それではハインツの嗜好は満たされない...熟していない少女がたった一度だけ見せるきらめき...ハインツはそれが欲しかった。そしてこのまま犯してしまえば二度とアスカからはそれが得られない...この極上の獲物から...ハインツは抱えたアスカの両足を放すとアスカの頬を張った...一度二度...それでもアスカは人形のように何の反応も示さなかった。それに腹を立てたハインツは今度はこぶしを固めアスカを殴りだした...何度も何度も...

「こいつ人形か...何とか言ってみろ...」

アスカはようやく口を開いた。口の中を切ったのか血がにじんでいた。体にも青痣が浮かんでいる。

「こんなことをしていいの?
 二度と9号機は動かなくなるわよ」

ハインツは嘲りの表情を浮かべて言った。

「ふん、俺がジョーカーを残していくと思っているのか...
 手元に残らない札は壊していくのが俺のやり方だ...」

この言葉を聞いてアスカは確信した。この男がシンジを見逃す気など毛ほどもないことに...そして自分がなすべきことに...この男を日本に行かせてはいけないと...

「アタシのすべきことが分かったわ...アンタを殺せばよかったのよ...
 せっかくアンタがヒントをくれたのにね...」

そう言うとアスカはすばやく体を入れ替えた...そしてその首を絞めた。そしてもう少しというところで飛び込んできた保安部員に取り押さえられた。ハインツは忌々しげに首をさすると、保安部員に取り押さえられたアスカを蹴った...何度も何度も...アスカは胃の中身を吐き出し、吐血した。アスカは自分の意識がだんだん薄れていくのを感じていた。

「ごめんね加持さん...せっかく知らせてくれたのに...
 ごめんシンジ...何もできなかった...」

その時ドイツ支部を軽い振動が襲った...そして警報音が鳴り響いた...
急を知らせる電話を取ったハインツの耳にその知らせはむなしく響いた。

「大変です...使徒が現れました...1時間後にここへ到着します」

ハインツの部屋に駆けつけたものが見たのは彼らにとって唯一の希望の変わり果てた姿だった。もはや誰の口からも言葉はなかった。ここで勝てなければ使徒に勝てるエヴァはいない...しかしもはやパイロットは使える状態にない...。誰もが絶望を感じたとき、アスカが口を開いた。

「...せなさい...」

「アタシを乗せなさい...」

「アタシはパイロットよ...」
 
 



 
 

アスカは全身を襲う激痛に耐え、エヴァンゲリオン9号機に乗り込んだ...久しぶりの使徒との戦闘。帰ってきた感覚...アスカは一つの決意をして9号機を起動させた...

「アスカ...いくわよ」

そう言うとアスカはエヴァの格納庫の扉をこじ開けると表に出た。ドイツ支部は使徒迎撃を目的とした本部とは異なり、迎撃設備は皆無だった。アスカは9号機に装備されたプログナイフで使徒を迎え撃った。

使徒の姿は第三使徒に酷似していた。胸に浮かんだその顔にあるうつろな瞳はあの悪夢の再現を人々に感じさせた。

アスカの駆る9号機は使徒に対して互角以上の戦いをした。そしてアスカは使徒を巧みにドイツ支部の方に導いてきた。ハインツは9号機の有利な戦いに初めは歓喜したが、次第に使徒が支部に近づいて来るにつれその表情には不安が浮かんできた。そんな時ハインツにアスカから通信が入った。

アスカはハインツを睨み付けて言った。

「どうしてアタシがエヴァに乗ったのかわかる...」

ハインツはアスカの鬼気迫った表情に言葉を失った。

「アンタたち親子をここから逃がさないため...
 もしアタシが乗らなければアンタたちは逃げ出していた...
 そうしたらアンタたちは日本へ行ってしまう...
 そうしたらアンタたちはシンジを見逃しはしない...
 そんな真似だけは絶対にさせない...」

アスカは苦痛に顔を歪めた。

「ここにはエヴァの爆発から逃れられる場所はないわ...
 シェルターなんて無駄よ...たった今アタシが壊したから...
 あきらめなさい、アンタたちはここで死ぬのよ
 安心しなさい...使徒は倒してあげるから...」

そう言うとアスカは一方的に通信を遮断した。そして使徒をドイツ支部の建物に押し付けるとエヴァの状態をホールドし、シート側面に設置された自爆装置を起動した。MODE-Dが表示され、装置の作動するタービン音を確認するとアスカはシートに座り直した。

「シンジごめんね...もう逢えないね...
 バカはアタシだったわ...
 いつまでもこんなものにしがみついて...
 もう泣かないって誓ったのに...」

アスカは死を覚悟した...その時アスカの乗るエントリープラグを激しい振動が襲った。外側から強制的にイクジットされようとしている。自爆へのカウントはまだゼロにならない...

「だめ...ATフィールドが消えてしまう...
 使徒が倒せない...早く爆発して...」

ATフィールドが消失したら使徒は倒せない。アスカの願いもむなしくエントリープラグは外部から強制的に排除された...使徒の手によって...使徒は9号機のはるATフィールドが消えると自分の体をATフィールドで守った...9号機の爆発から。アスカが最後に見たのは目の前に迫るエントリープラグの壁だった。

9号機の爆発の後に残ったのはすり鉢場の爆心地と使徒に握りつぶされたエントリープラグだけだった。そこには動くものは何もない...ドイツ支部を襲った使徒は次の目標を求めて去っていった。

ドイツ支部の後、フランス、イギリスと立て続けに使徒に襲われネルフの施設は壊滅的な打撃を受けた...使徒再来のニュースはマスコミにはふせられた。しかし絶望は確実に広がっていった。

この時からシンジを取り巻く世界が再び動き出した...
 






トータスさんのメールアドレスはここ
NAG02410@nifty.ne.jp



中昭のコメント(感想として・・・)

  ハインツー(怒)

  でもまあ女性を乱暴に扱う男っていますよね。この間電車で、隣りに座っている女性を
  突き飛ばしてる男がいました。眠っていてよっかかられたようなんですけどね。降りる
  時にも睨んでいましたから、その男にとっては非常に耐えられない事だったんでしょう。
  見ず知らずの女性をよくもあそこまで酷く扱えるもんだと感心しました。
  
  それにしても、ハインツー(激)


  戦える人間はトウジとケンスケだけ。  


  シンジは?

  シンジの妹とは誰?(笑)


  アスカはシンジと巡り会えるのでしょうか。


  動き始めた世界。次回も必見ですね。



  みなさんも、是非トータスさんに感想を書いて下さい。
  メールアドレスをお持ちでない方は、掲示板に書いて下さい。

  みなさん、感想を送ってますか?
  ヒトの作品を評価するって考えると萎縮してしまいますけど、簡単なものでも
  もらう側にとっては嬉しいものです。






  すっかり忘れてましたが、壱話目のコメントで書いたタイトル募集の件
  どうなったんでしょう。(無責任一代男)







前へ    次へ

Back    Home inserted by FC2 system