第四話 Again
2018年6月13日、新鹿児島市の郊外の住宅地
うだるような夏の日差しを受けながら、二人の高校生が学校からの帰路を急いでいた。二人ともかなり背の高く一人は武道で鍛えたのだろうかがっしりとした体つきと日に焼けた顔、鋭い眼光、短い頭髪が精悍な印象を醸し出していた。もう一人はしなやかと言う表現がぴったり来る細身の体つきと後ろで縛った長い頭髪、色白な顔、優しい顔、優しい瞳の中性的な雰囲気の少年だった。
暑い日差しにぶつぶつと不平を言いながら色黒の少年は隣を歩いていたもう一人の少年に声をかけた。
「なあ、シンジ。おまえ、今日も道場に行くのか」
「うん、ムサシ、今日は先生に稽古を付けてもらえるからね」
「まったく熱心な奴だな。よくこんな暑い日に稽古する気になるな」
シンジは涼しい顔をして言う。
「暑さはそんなに気にならないよ。
それに先生に稽古を付けて貰うのは貴重だからね。
なんか、こう、体が引き締まる気がしてさ楽しいんだ」
「まったく何が楽しいんだか...
まあ確かにシンジは強いし、練習ずきだし。
じいちゃんが気にいっているのもわかる気がするな」
「本当?」
「ああ、レイコの婿養子にして跡を継がせたいともいっていたぞ」
「ぼ、ボクとなんかじゃレイコちゃんがかわいそうだろ。」
シンジは少し顔を赤くした
「何を行ってるんだシンジ。
レイコが嫌がるわけないだろ。そういうお前はどうなんだシンジ」
シンジはさらに顔を赤くした。
「なっなにいってんだよムサシ。
家族ぐるみでつきあいがあるから仲がいいように見えるだけだろ。
お互いそんなこと思ってないよ。」
ムサシはシンジの言葉に少しあきれた
「おまえ、本当に気づいてないのか?レイコの気持ち。」
シンジはシンジで初めて聞いたような顔をして頭をかいている。
「いや...」
「おまえなー。鈍いのもそこまで来ると罪だぞ。ところでレイコはどうだ」
「どうだって、何が?」
「彼女としてどうかって聞いているんだ」
「おまえんとこのレイコちゃんはいい子だよ、でも」
「何だ?」
「兄貴がお前というのがどうも...」
ムサシは脱力する。と同時にシンジはいつもこの手の話にはまじめに答えない、意識的に話を逸らかしているのに気がついた。立ち入っていいのだろうか、しかし妹の気持ちは痛いほど分かっている。しかしシンジが答える気がないのをこれ以上問い詰めても意味がないことも知っていた。シンジは見た目と違って強情なことを2年の付き合いでいやというほど分かっていたから。それに回りが何といっても二人で解決すべき問題だから、それが分かっていたからムサシはこれ以上の追求を止めた。
「おまえな〜」
「ごめんごめん」
シンジはムサシが気を遣ってこれ以上踏み込んでこないことに感謝した。そして自分の事を気遣ってくれるムサシに対して何も話していないことに心苦しさを覚えた。だから、少しだけ自分の気持ちをムサシに話した。
「ボクには好きな子がいたんだ...
いや今でもその子のことが好きなんだと思う。
もう2年以上あっていないのにおかしいね。
もう遠くに離れてしまって、彼女が今日本にいるかどうかも分からない。
一生あえないかもしれないのに今でも忘れられないんだ。
だからこんな気持ちでレイコちゃんと付き合うことなんかできないんだ
勝手だとは思うけど」
「わかった」
ムサシはそう短く答えると黙ってシンジの横を歩いていった。セミの声だけが二人を包んでいた。
道場での稽古を終えた二人は夕暮れの待ちを歩いていた。ムサシは肩をもみながら遠慮なく自分に打ち込んできた友人に文句を言った。
「まったく少しは遠慮というものを考えろよな。
手加減なしで打ち込んできやがって...
まったく、『人を傷つけるのはいやだ』とか、
かわいいことを言っていたシンジはどこへ行ったんだ」
「それが『礼儀』なんだろ先輩」
シンジは涼しい顔をして言う。どうやらいつも行われているやり取りのようだ。
「まったく、たった2年でこんなに強くなりやがって。
おまえ本当に初心者だったのか?
まったく天才ってやつは本当にいるんだな」
『天才』という言葉に、シンジは一人の少女を思い出した。彼女からすればボクはバカで鈍くさい男だったな。それが『天才』か、変わることもあるもんだと。そんなことをぼんやりと考えて、何も喋らなくなったシンジを心配しムサシが声をかけた。
「どうした、何か悪いことを言ったか」
「いや、別に...うん、師匠や、先輩の指導が良かったんだよ」
シンジは落ち込んでいた考えから浮上し相づちを打った。
「まあいいや。おまえが強くなることはある意味で喜ばしいことだからな。
ところで今日お前ん家寄ってもいいか?」
「今からかい? 別にかまわないよ。マナもいると思うし」
「なっ何でそこにマナが出て来るんだ」
シンジはたまには言い返してやろうかとさらに続けた。
「今ムサシがどもったことが理由だよ」
「シンジ〜」
「何か間違ったこと言ってる?」
「もういい。とにかく行くからな」
「はいはい。ところで何の用?」
「いやちょっとな」
「襲うなよ」
シンジはシナを作って言った。
「だれが襲うか〜」
そう二人で掛け合いをしているうちにシンジの家の前についた。家の前には黒塗りの大型車が止まっており、運転席に黒服の男が座っていた。
シンジは背中に冷や汗が流れるのを感じた。ようやく捕まえた幸せな生活が終わるときが来たのではないかと。シンジはここ最近謎の爆発事故が海外で連続している記事を見ていた...そしてそれがいずれもネルフの支部があったところと一致していることに気づいていた。シンジは偶然であって欲しいと願っていた。使徒はもういないはずだ、気の所為なのだと...
ムサシはそんなシンジに気づかずしげしげと車を見回した。
「へぇ〜、なんか立派な車だな。お前ん家の客か」
「さっさぁ、とにかく入って見ようよ。そうすれば分かるから」
シンジは動揺を隠せなかったが、とりあえず気を取り直すことに成功し、玄関のベルを鳴らした。
扉の向こうからパタパタという軽快な足音が響き、しばらくして勢いよく扉が開いた。
「お兄ちゃん、お帰りーって、なんだムサシもいるの」
ぶすっとふくれるムサシ。
「ねぇねぇお父さんね今度教授になれるの。
お父さん今日教授に呼ばれて言われたんだって。
どうやらむこうがお父さんのこと指名してきたらしいわよ。
えーっと、確か第三新東京市にある大学だって...」
シンジは第三新東京という地名を聞いて漠然と感じていた不安が現実に変わるのを感じた。そんな想いを押し隠し、いつもの通りマナに帰宅を告げた。
「相変わらず元気だねマナ。ただいま、お客さん来てる様だけどその話なの」
マナはシンジの不安に気づくはずもなく、いつもの通り明るく答えた。
「ううん、お兄ちゃんに。えーっと、確かネルフのひゅうーがさんっていう男の人。
今お父さん、お母さんと話しているよ。
シンジは訪れたのが保安諜報部の人間でなかったことに安堵した。そしてミサとではなかったことに少し落胆している自分をおかしく思った。もうネルフと関わりたくないと思っていたのに。
「へぇ〜、日向さんが来てるの、懐かしいな〜」
「ねぇ、日向さんってお兄ちゃんとどんな関係なの」
「昔ちょっとね、お世話になったんだよ」
「第三新東京市?ネルフ?まさか例のあれか?」
ムサシが口を挟んだ。シンジはムサシの父親が戦自に居たことを思い出した。少しは父親から聞いているのだろう。ネルフの存在自体まだ一般には知られていないはずだ。だからシンジは曖昧に答えることにした。
「うん...」
シンジたちが玄関先で話をしていると家の奥から40過ぎの優しそうな女性が出てきてシンジ達に声をかけた。霧島ミドリ、シンジの新しい母親だった。
「お帰り、シンジ。いらっしゃい大和くんゆっくりしていってね」
「さあさあ、お客さんをお待たせするんじゃありません。シンジ早く着替えて居間に行きなさい」
「分かったよ母さん。すぐ行くよ」
「お邪魔しますおばさん」
そう言うとシンジ達は階段を上り、自分たちの部屋へと向かった。後をついてくるマナとムサシに向かってシンジは2階で待っているように頼んだ。
「そうだ、ムサシはマナのところで待っててくれないか。マナいいよね」
「えーっ、お兄ちゃんのところじゃだめなの?」
「話が終わるまで一人でほっておくわけにはいかないよ、ムサシもいいだろ」
「ああ、マナがいいなら...おじゃまさせて貰うよ」
「もう、お兄ちゃんたら」
階段を上がってマナの部屋に入ろうとしたムサシにシンジは近づくとマナに聞こえないように小さく耳打ちした。
「がんばれよ」
一言いうと手をひらひらさせながら自分の部屋に入っていった。後には顔を真っ赤にしたムサシとシンジの言葉が聞こえず何の事か分からないといった顔のマナが取り残されていた。
「お久しぶりです日向さん」
シンジは着替えを終えると、すぐに居間へおりていき、少し息を整えると懐かしい顔に挨拶をした
「久しぶりだねシンジ君2年半ぶりかな。あのときは見送りにいけなくて悪かったね」
「いえ、もういいんです。それよりみなさんお元気ですか」
「ああ葛城さんも赤木博士もマヤちゃんもみんな元気だよ。
それに街も復興してみんな帰ってきたよ。
シンジ君の友達も帰ってきたよトウジ君、ケンスケ君、ヒカリちゃん」
そういいながら日向の態度は落ち着かなかった。シンジはそれを見て日向の用件を確信した。それと同時に、タイミングの良すぎる父親の栄転の話にもネルフがかんでいることを直感した。シンジはその手口を嫌悪したがおくびにも出さなかった。
「そうですか。それで、日向さんがここに来たというのは、もう一度ボクにエヴァに乗れということを言いに来たんですね」
シンジはさも自然にさらりと言った。日向はいきなりシンジに核心をつかれ少し戸惑った様子を見せたが、言いにくかったことをシンジが口に出したことで踏ん切りがついたのか用件を切り出した。
「そうなんだ、申し訳ないがまたエヴァに乗って戦ってもらわないといけない事態が起こったんだ。
でも昔とは違うんだ、乗る乗らないはシンジ君の意志で決めてほしい。
誰も強制しないし、命令でもない...
でもどうして分かったんだい」
シンジは小さく息を吐いた。
「日向さんが何の理由もなくこんなところまで来るとは思えませんからね。
それにさっきから何か言いにくそうにしてましたから。
だいたい、ボクに絡むことと言ったらエヴァしかないじゃないですか...
教えてください、ここの所起こっている爆発事件...使徒なんですか」
「ははは、お見通しか、シンジ君成長したね」
日向は自嘲気味に笑うとすぐに真顔に戻りシンジの問いに答えた。その答えはシンジがもっとも聞きたくないものだった。
「どうやらそうらしい。
襲われた支部がデータとも壊滅しているので詳しいことは分からないが、
第三、第四使徒に似た使徒が目撃されているそうだ」
「襲われたところはどうなったんですか」
「最初に襲われたドイツ支部はエヴァによる迎撃を行ったが壊滅
イギリス支部、フランス支部は何も抵抗できないままMAGIのレプリカとともに全滅。
生存者は1%にも満たなかったそうだ」
ドイツ、エヴァ...シンジはいやな予感がした。エヴァに乗れるチルドレンはそんなにいない。もしかしてアスカが...いやそうだとしてもアスカなら使徒に負けるはずがない。シンジは聞くのが怖かったしかし聞かないわけにはいかなかった。
「ドイツ支部壊滅...ってどういうことですか」
「実験施設も含めてすべて跡形なしだよ
迎撃に出たエヴァも消滅した...
助かったのはパイロットと一部の人間だけだ...」
「パイロットは...アスカですよね、無事だったんですよね」
「ああそうだ。彼女は治療と保護のため日本に移送された」
「アスカの具合はどうなんですか」
シンジは日向を見つめた。
「ああ、かなりひどい怪我を負ったけど、命に別状はない...」
「そうですか...大丈夫なんですね...よかった」
シンジはアスカの容態に気を取られ、言いよどんだ日向の口振りに気がつかなかった。アスカが無事だった...その事実にシンジはほっとした。しかしアスカが使徒に負け、その上自分を除いて支部が全滅した...心に深い傷を負ってしまったのではないかと同時に心配もした。会いたい、しかし会いに行くというのは自分も戦いの場に加わると言うことだ...それは家族を巻き込むことを意味している。シンジは自分が歯がゆかった。せっかく手に入れた家族と別れるのは辛い。そして自分と一緒に第三新東京市に行くことは大切な家族を生命の危険にさらすことになる。ジレンマにシンジは悩んだ。そして一つのことに思い至った。
「もし、ボクが乗らないって言ったらどうなるんですか」
「鈴原君達が戦うことになる」
シンジは忘れられない友達の名前が出たことに驚いた。
「鈴原君達って、トウジがまた乗っているんですか。それにまだ他にも居るんですか」
「ああ、ケンスケ君がのっている。今はこの二人がメインパイロットだ」
シンジはエヴァに乗りたがっていたケンスケを思い出した。そうか願いがかなったんだ...でも、あのアスカがかなわなかった相手だ、トウジとケンスケで相手になるのだろうか。自分が行ったところで相手になるかどうかも分からない。もう奇跡を生んだ初号機はないのだ。
「そうですかトウジとケンスケが乗っているのですか...
それで二人はどうですか...使徒に勝てますか」
「二人のレベルはアスカちゃんに遠く及ばなかった...
救いはエヴァが2体あるから単独に比べ作戦行動の幅が出来ることくらいだ...
でもはっきり言ってあの二人に勝てというのは難しい。
だから我々はかすかな希望にでもすがらなくてはいけないんだ...
シンジ君、帰ってきて欲しい...
勝手だと言うことはわかっている。
でも君が最後の希望なんだ...
みすみす彼らを死なせたくないんだ...」
シンジの両親は話の展開についていけないのか、ただ黙って聞いているだけだった。ただ父親の霧島ユウイチの方は生物学が専門の為かエヴァという単語に反応を示した。
「日向さん。エヴァとおっしゃいましたが。
エヴァンゲリオンはまだ存在するのですか。
先の事件のときにすべて失われたものと思っていましたが」
シンジは父親がエヴァのことを知っていることに少し驚いた。しかし父親の質問は同様にシンジの知りたいことでもあったので父親の質問に乗った。
「日向さんどうしてまだエヴァが...今何体エヴァがあるんですか」
「あの事件の後、壊れた量産機が残された。
そのまま放置することは安全保障上好ましくないこととして量産機の機体を管理するための組織としてネルフが存続したんだ。
同時にネルフには沢山のオーバーテクノロジーが蓄積されている。
そのテクノロジーの不用意な拡散を防ぐことも目的に加えられた。
当然管理の対象が対人間だったため今度は対人戦闘の施設が整えられている。
そこに使徒の襲来だ間が悪いとしか言いようがない」
「エヴァは何体あるんですか」
「全部で4体、うち1体はドイツで失われた。1体はアメリカにある。
残り2体は日本にある。アメリカの機体も現在日本への移送の準備中だ。
ドイツの事件の所為で怖じ気づいたらしい...
それと初号機はいま火星軌道の辺りだ、弐号機はコアも含めてほとんど跡形も残っていない状態だった。
これがすべてだよ」
「それが全部ですか」
シンジは確認した。
「我々の確認できたのはここまでだ。
何しろあの混乱の中、正確な情報はわからないんだ。
ひょっとしたら誰かが隠し持っているかもしれない」
日向はここまで言うと、突然シンジに向かって土下座をした。そして悲痛な声で言った。
「シンジ君、勝手なのは分かっている。
シンジ君にあれだけ苦労をさせて、不要になったらさっさと放り出しておいて、
危なくなったらこうして幸せに暮らしているシンジ君をまた戦いに引き摺り込もうとしている。
だけど、シンジ君に来てもらわないとだめなんだ。
お願いだ...もう一度ネルフに戻ってくれ」
シンジは日向に対して怒りはなかった。シンジにあるのは家族に対する想い...アスカへの想い。本当は今すぐにでも飛んでいきたかった。だが家族のことを考えると決断できなかった。
「日向さん頭を上げてください。もう、ネルフに対する恨みなんてありませんから。
まして日向さんにそんなことをさせるわけにはいきませんよ。
でも...答えは少し待ってくれませんか。
明日の朝まででいいんです...お願いします」
その時突然ミドリが口を開いた。
「考えることはないわシンジ、行ってきなさい。私たちのことは心配しなくてもいいのよ」
シンジは突然の母親の言葉に驚いた。
「かあさん」
「もちろんシンジ一人で行けと言っているんじゃないわよ。私たちも行きます。
そうですよねあなた」
「ああ、その通りだよシンジ。お前を一人にしたりしないよ。
とうさんも大学の話を受けようと思っている
出しにされたのは気にはなるが...まあ、私にとってもいい機会だしな」」
両親が戦いが行われる第三新東京市行くと言い出した事にシンジは驚いた。両親の気持ちはうれしかった、でもだからといって死と隣り合わせにあるところに生かせるわけにはいかない。
「だめだよ、そんなの危ないよ。前でも何人の人が死んだと思っているの...
絶対にだめだよ」
母親はシンジの言葉を聞くと当たり前のように言った。
「そんな危険なところになおさら息子を一人で行かせるわけにはいかないわ。
それにシンジが守ってくれるんでしょ」
「そんなこといっても...」
「もう決めたことです、いいわね。」
「かあさん...」
ミドリはシンジの前に座ると、じっとシンジの目を見つめて言った。
「いいシンジ...父さんと母さんはあなたと家族になった日のことを覚えていますよ。
あなたはとっても傷ついていた。人との接し方もわからなくなっていた。
もうあなたにそんな悲しい人になってほしくないの。
私たちがいても何の力にもなれないかも知れないけど心を休める場所ぐらい作ってあげられると思うの。
私たちは家族よ遠慮なんかしないで」
その時突然居間の扉が開いた。そこには興奮したマナとシンジの方に手を合わせて謝っているムサシがいた。
「当然、私も行くわよ。お兄ちゃんを一人にしておくわけにはいけないからね」
シンジは泣いた。自分は遠回りしたが大切な物を手に入れることができたのだと。自分を家族として愛してくれている父や母や妹を得たことを。シンジは涙を拭くと日向に向かってはっきりといった。
「日向さん、お願いします。やらせてください」
日向はニッコリと微笑んだ。
「シンジ君、ありがとう。いいご家族をもったね」
そう言うと日向はごそごそとポケットの中をまさぐり、一通の手紙を出した。
「これは葛城二佐から、シンジ君が結論を出したら渡すようにと...」
シンジは渡された手紙を封をあけ、中身を見て頭を抱えた。
「ミサトさんらしいや...
でも行かないと言っていたらどうするつもりだったんだろう」
どれどれとマナとムサシが覗き込むと、そこには一枚の写真と、待ち合わせの時間が書いてある便箋があった。待ち合わせの時間は6月14日午後3時、写真は3年前の物とまったく同じ内容の物だった。
「葛城さんはシンジ君のことを信じているんだよ」
シンジの父親はその手紙のことを聞くと母親に目配せをした。母親はその意味が分かったのか台所に行き、一通の封筒をもって返ってきた。父親はその封筒をシンジに手渡すとこう告げた。
「ここには、現金とカードが入っている。当座の役には立つだろう。
学校の方の手続きは私たちが済ませておくからお前はすぐに行ってきなさい。
いいか、女性は待たしちゃいけないぞ」
マナが横から口を挟んだ。
「ねぇ、私も一緒に行っていい?」
シンジは静かにうなずいた。そして日向に向かって気になっていることを尋ねた。
「日向さん、ボクたちはまだ高校生なんですけど。学校はどうなるんですか?
編入試験とか受けないとまずいですよね」
「ああ、それならネルフの息のかかった学校があるから問題無いよ。
これから手続きさせるから来週の月曜から通えると思う。みんな一緒だよ」
シンジは日向を送り出したあと一日の事態の展開に思いをはせいていた。そしてまだ霧島家にいたムサシに向かって頭を下げた。
「ごめん、ムサシ。お別れをしなくちゃいけなくなった。
これまでいろいろありがとう...
ムサシにいろいろ助けられたのに...本当にありがとう」
ムサシはそんなことはいいと首を振るとシンジに言った。
「気にするな。それよりちゃんと決着をつけてこいよ」
「ああ、そのつもりだ...」
「なんのこと?」
マナは訳が分からずにそう尋ねた。
シンジとムサシは顔を見合わせニタリと笑った。そしてシンジはマナに言った。
「秘密だよ、マナ」
マナは不平にぷくっと顔を膨らませると
「ひっどーい、明日リニアの中で問い詰めてやるから...」
笑い声がシンジの部屋に響いた。
その後、シンジはお世話になった剣術の先生に暇乞いをしにいくため、ムサシと家を出た。一度家に寄ると言っていなくなった後、しばらくして現れたムサシの顔がニヤついているのが気なった。まあどうせレイコと何かあったのだろうと思うことで自分を納得させた。シンジは先生にこれまでのことに礼を言い、道場を辞した。
翌日、見送りのはずのムサシとレイコが大きな荷物を持っているのを不信に思ったシンジはそのことをムサシに尋ねた。するとムサシは平然とこういった。
「おれたちも第三新東京市に行くんだよ。
おやじが今度ネルフに派遣されるんで付いていくことにした。
向こうでも一緒になるんだ、これからもよろしく頼む」
そういって、シンジの肩をたたくムサシと、嬉しそうに手を取り合っているマナとレイコを見て、シンジはこれからピクニックにでも行くのではないかと錯覚を覚え頭を抱えた。シンジの両親はそれを笑って見ているだけだった。
その日2年半ぶりに使徒が第三新東京市を襲撃した。
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中昭のコメント(感想として・・・)
17歳のシンジ。後ろで縛った長い頭髪、ポニーテールですか?(笑)
鍋物を食べる時にだけ後ろで縛る知人が居ますけど、シンジだったらすごく似合いそうな気がしますね。
暖かい家族を得たシンジ、今度は流されるままではなく目的を持って戦えるかな。
家族とアスカを守る為に。
重傷を負ったアスカとの再会もミモノですね。シンジは強くなったようですが、アスカを支えきる事が
できるでしょうか。
火星軌道上の初号機。ほとんど跡形も残っていない弐号機。
ひょっとしたら誰かが隠し持っているかもしれない量産機。(どこに隠すんだろ)
いくつかの伏線らしきものを公開しつつ、次回は使徒が再来します。
みなさんも、是非トータスさんに感想を書いて下さい。
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