時を駆ける


第3話 −Tight rope−


あたしは手持ちの避妊薬が切れたきたので新しいのを貰いにリツコのところへ向かった。初めのうちは自棄になっていたのでそんなことを気にもしていなかったが、自分を取り戻したときどっと冷や汗が出た。妊娠でもしたらもうシンジに抱いてもらえない。そう思ったあたしはリツコに避妊薬を貰うことにした。それまでの分は外れていることを神に祈りながら...

いつもの通り人通りの少ない通路を通ってあたしはリツコの部屋へ向かった。たまにすれ違う職員もあたしの方を見ようとはしない。元々パイロットの時だってあまり彼らとは関わりがなかったが、今ほどではない。明らかに避けられている。いったいあたしはどういう風に見られているのだろうか。きっと「常識のある大人」から見れば不純異性行為をしている不良娘なんだろう...もっともネルフにいる人間に常識があるかどうかは別だけど。

それに命ぎりぎりで生きているあたしたちに陳腐なモラルを持ち出す馬鹿はいないだろう。それにあたしはシンジだけだ。体だって、心だってシンジだけだ。ほかの奴等に手も触れさせるものか。それがあたしの決心...たぶんシンジは気づいていないけれど。今のあたしにはシンジ以外の男は考えられない...たとえそれが加持さんでも。

リツコの部屋の扉は開いていた。中から話し声がする...ミサトが来ているようだ。あたしは悪いと思ったが二人の会話を盗み聞きした。

「うっさいわねー、そんだけ心労がたまってんのよ」

「確かにストレスがたまるのはわかるけど、お酒はダメよ。
 薬出しとくからそれでなおしなさい」

「へいへい、お酒があるもんなら飲んでみたいわね〜
 そんなもの今更ネルフの中を探してもないことくらい知ってるでしょ」

ふふっ、ミサト胃に穴でも開けたのかしら。少し溜飲が下がる気がした。

「それよりリツコ...
 しんちゃんに何吹き込んだの」

「何って、別に」

「嘘おっしゃい、あなたが何か吹き込まなければしんちゃんがあんなことをするわけない
 でしょ」

あたしは自分のことをいわれているのに気づき、少し身を乗り出した。

「アスカとのこと?あたしに責任がないとは言わないけど
 あたしはただ『眠れないから薬をくれ』と言ってきたシンジ君に
 今の状況では神経を弛緩させる薬は出せないと言っただけよ。
 まあ、『女でも抱いてみたら』とは言ったけどあんな行動に出るとは思わなかったわ
 レイだって、マヤだって、ミサトだって、あたしだっていたのよ。
 レイとマヤはシンジ君を誘ったみたいだけどそれでもアスカのところへ行ったのよ
 そこまでは面倒見切れないわ」

「....いいわ。
 でしんちゃんの状況はどうなの」

「何と言ったらいいのかしら
 アスカとの関係が始まってから精神的には持ち直したわ
 反って前より良くなっているくらい。
 ただ肉体的な疲労は相変わらず...
 まあ精神的疲労に比べたら大したことはないわ
 SEXのおかげで熟睡できているようだけどね」

「そう...」

ミサトはそう言ったきり黙り込んだ。そうだろういくらミサトだって今のあたしたちの関係が異常なことくらいわかるだろう。

「もう話は終わった?そろそろアスカが避妊薬を取りにくるころだから帰ってくれる?
 あなたもアスカと顔を合わせづらいでしょ」

ミサトが部屋を出そうな雰囲気なのであたしは物陰に隠れてミサトをやり過ごすことにした。部屋から出たミサトはあたしに気づかずに通り過ぎていった。ちらっと見えたミサトの目が充血していたのにあたしは気づいた。

シンジだけが戦っているわけではないことぐらいわかっている。いくら日向さんに手伝ってもらっているとはいえ、ミサトはシンジ以上に長時間の緊張を強いられている。リツコだってそうだ...みんなぎりぎりの中で頑張っている。たとえシンジが持ち直したとしてもあたしたちの危うさは何も変わっていないのだ。そう、あたしたちは終わりの見えないタイトロープの上にいるのだ。誰か一人でもバランスを崩してしまえばみんな一緒に崩れ落ちてしまうような...



              (to be continue)


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中昭のコメント(感想として・・・)

  掲示板で好評連載中の『時を駆ける』第3話です。

  避妊薬という所がえらく生々しい。(笑)

  タイトロープの上のNERV。無事にたどりつくのかピエロになるのか。
  ちょっと思いついた事があったけど、書いたら雰囲気ぶち壊しなので書きません。


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