時を駆ける


第5話 −あの頃の...−


「アスカ!」

そう言ってシンジはあたしにバスタオルをかけてくれた。そして少し顔を赤らめいった。

「えーっと、その、あの...ごめん」

久しぶりに聞いたシンジの台詞。

「何が...?」

あたしは少しうれしくなった。あの頃のシンジが帰ってきた気がしたから。

「その...
 ...乱暴にして」

「ばか...何を今更。
 初めての時の方が乱暴だったわよ」

シンジはうろたえ、更に顔を赤くして言った。

「あっあっあっ... 本当にごめん。
 謝ってすむことじゃないけど本当にごめん」

「許してほしい?」

この時あたしはどんな顔をしていただろう。

「一つだけ...一つだけ正直に答えて。
 その答えをあたしが気いったら許してあげる」

「な、何?」

この時のシンジの顔...初めて会った頃の顔だ。うれしい、シンジが帰ってきた。

「簡単なことよ...簡単なこと。
 どうしてあたしだったの?」

「!」

シンジは答えにつまった。

「答えて。
 お願い、大切なことなの」

シンジはしばらく言葉を捜していたのか黙ったままだった。あたしにはその沈黙が恐かった。

「アスカだから...」

シンジはぽつりと言った。

「アスカだから。
 アスカじゃなきゃだめだったから。
 一緒に生活していて...いや初めて会ったときから
 ボクがアスカを知ってしまったときから
 強いところ、弱いところ...全部知ってしまったときから。
 ボクはその時から...その時から...」

堰を切ったようにシンジが話し出したあたしは次ぎの言葉を待った。

「アスカしか見えなくなったんだ。
 アスカじゃなくちゃいやだったんだ。
 好きなんだよアスカのことが...そう気づいたら体が震えてきた...
 アスカを求めていた...止められなかった...
 たまらないんだアスカのことを思うと。
 でも...」

何?何なのシンジ。

「もう遅いよね、こんなこと。
 ボクはアスカに許されないことをしてしまった...」

「ばか...」

あたしはシンジに言った。シンジはあたしの顔を見ていない。

「ほんと馬鹿だよね。
 今更こんなこと。
 無理矢理アスカにあんなことをしておいて...
 強姦だよね、最低だよ。
 謝ってすむことじゃないのに...
 もう止めよう...今更遅いけど...
 でも、こんな事を続けていちゃいけない...
 わかっているんだ...だから」

シンジは本当に辛そうな顔をして言った。

「あたし初めてだったんだ...
 キスもセックスも。
 みんな初めてだったんだ...シンジが」

「ごめん...」

「ばか、謝るんじゃないわよ」

「ごめ...」

あたしはシンジの口をふさいだ...あたしの唇で。

「でも、もう一つのあたしの初めてもあげる...だから謝らないで...
 合格よ、シンジ...」

そう言ってあたしはもう一度シンジの唇をあたしの唇でふさいだ。そして初めてあたしからシンジを求めた。

「ねえ、今の気持ちを忘れたくないの...
 だから...だからもう一度きて」

「許してくれるの?...ボクのこと」

「許さない...絶対に許さない。
 だからあんたは一生をかけてあたしに償うの...
 あたしを一生愛しつづけて償うの...いい?」

シンジはうなずくとあたしを抱き上げ、ベンチへと運んだ。

やさしいキス。今までとは違うキス。その時あたしのからだの中を電気が走ったような気がした。口付け一つでこんなに感じている。こんなことはいままでなかった。シンジはあたしの全身に口付けを続ける...頭、うなじ、胸、腕、指先...シンジの唇が触れたところすべてから雷にうたれたように強烈な快感があたしを突き抜ける。すごい...あたしの全身の細胞がシンジを求めている。そしてしばらくしてもう一つの快感が加わった...シンジの手が指があたしの体を愛撫し始めたのだ。

シンジの手が口がシンジの触れたすべての細胞が歓喜の声を上げる。信じられない、髪の毛の先まで感じてる。シンジはあたしの髪をなぜながら言う。

「アスカの髪の毛...夕焼けの色...ボクの好きな色」

瞼に口付けをする。

「アスカの瞳...深い海の色...きれいな空の色」

「アスカのきれいな唇...
 アスカのうなじ、ほっそりとした首...
 きれいな胸...
 きれいな指...」

シンジはあたしの体のすべてに口付けをしていった。

「アスカの体のすべてが愛しい...
 誰にもあげたくない
 全部ボクのものにしたい」

シンジの言葉はあたしを溶かしていく。あたしは答える。

「全部シンジのものよ」

「でも本当にほしいのは...アスカの心。
 きれいなところも、汚いところも、うれしいことも、悲しいことも
 憎しみも、愛情も...全部が欲しいんだ...
 やっと気づいたんだ...どうしてアスカだったのか...
 アスカ以外の女性じゃいやだったんだ。
 愛してる...アスカ」

あたしはうれしかった。もうあたしたちの間に「愛」は存在できないと思っていたから。シンジがあたしを愛してくれる。シンジ、シンジ、シンジ、シンジ...

「あたしもよ、シンジ...愛してる...シンジのすべてを
 初めてなのこんな気持ち...絶対離さない...
 あたしの初めての人...そして最後の人」

シンジとあたしは一つになった。高まる気持ちの中あたしたちはお互いの体に印を刻んでいった。でも、一番大きな印は心に刻まれた...決してなくしてしまわないように。

この日からあたしは避妊薬の服用を止めた。それがあたし達の決心。どんな結果を引き起こすかも理解している。でも、それがあたしたちの素直な気持ちだった。


              (to be continue)


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中昭のコメント(感想として・・・)

  掲示板で好評連載しておりました『時を駆ける』第5話です。


  よかった。(幼稚園の感想文やな、これは。でも言葉が出てこない)




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