時を駆ける


第7話 −急転−


「シンジが刺された? いったいどういうこと」

加持さんが戻って一週間たった日にそれは起こった。あたしの部屋に駆け込んできたミサトが教えてくれた。

「とりあえず命に別状はないわ。
 意識もしっかりしている。
 アスカのことを呼んでるわ...早く行ってあげて」


言われるまでもない。あたしはシンジが居る病室に駆け込んだ。リツコの治療を受けているシンジの顔は青かった。かなり血が流れたらしい。あたしを見て微笑んだ顔が引き攣っている。

「どういうこと」

あたしはシンジを見て言った。

「ごめんなさい。
 外からの進入ばかり気にしていて、身内に対する警戒がおろそかになったの」


シンジの代りにリツコが答えた。

「シンジの容体はどうなの?」

「出血が多かったのでとりあえず輸血の措置をしたわ。
 それから刺された腹部の縫合
 悪いけど、麻酔は使っていないわ..部分的な痛み止めだけ」

麻酔が使えない理由ぐらいあたしにもわかる。あたしはシンジに駆け寄りそっとその手をとった。

「ごめん、シンジ。
 あたしが一緒に居ればこんなことにならなかったのに」

シンジはあたしの手を握り返した。でもその力は弱かった。

「そんなことないよ...アスカ
 一緒に居なくてよかったと思ってる。
 もし、アスカが怪我をしていたらボクは耐えられない。
 アスカが死ぬようなことがあったらボクも生きていられない。
 アスカさえ無事なら、アスカのためなら...ボクはどんな苦痛にも耐えられるから
 だからお願い、自分のことを責めないで」

「ばか、あたしの気持ちはどうなるの。
 あんたにもしものことがあったら...
 あたし...あたしだって生きていけないんだから」

あたしはシンジの胸に顔を埋めて泣いた。

「ごめんアスカ」

そう言ってシンジはあたしを抱きしめてくれた。ばか...痛いくせに無理しちゃって。



「何があったの教えてくれる?」

あたしは遅れて病室にきたミサトを部屋の外に連れ出して聞いた。

「シンジ君がアスカのところに行く前のこと知ってる?」

ミサトが聞いてきた。

「知らないわ」

あたしはうそをついた。

「マヤがね、シンジ君の部屋に行って迫ったの。
 裸になって、シンジ君を押し倒したの。
 でも、シンジ君はマヤを拒んだわ。
 マヤがそんなことをするのは意外だった」

ミサトはあたしの目をじっと見詰めた。

「マヤはね、シンジ君のことが好きだったの。
 だからリツコの話を聞いて真っ先にシンジ君のところへ行ったの
 シンジ君に抱かれるために
 マヤも処女だったのよ」

あたしは何も言えなかった。

「でもシンジ君はそれを拒んだ。
 そしてシンジ君はレイも拒んでアスカのところへ行ったの」

ミサトは少し辛そうな顔をした。あの日のことを思い出したのだろう。

「それからマヤがおかしくなったわ...
 はじめは戦いの中の緊張から余裕がなくなっていると思っていたの。
 でも違ったわ。
 調べてわかったことだけど、マヤはあなたとシンジ君のことずっと見ていたらしいの
 知ってる?あなたたち二人きりのときはカメラもマイクもオフになっていたのよ
 マヤはこっそりとMAGIを操作してモニタしていたらしいの。
 直接パイロットルームを覗いていたこともあったわ」

あたしはミサトに続きを促した。

「今日だって、マヤがシンジ君に迫ったの...抱いて欲しいって。
 それをシンジ君が拒んだの...
 『ボクはアスカ以外の女性を抱くつもりはない』って
 マヤがナイフを出して叫んだのを見て、あたしたちは部屋へ急いだの。
 そして見つけたのはおなかを刺されて倒れていたシンジ君と...
 頚動脈を切って、事切れているマヤの姿だったわ」

あたしはそこまで聞くとミサトにシンジのところへ戻ると言ってミサトと別れた。

あたしは何を話していいかわからなかった。マヤがシンジのことを?死ぬほど想っていた?
シンジはそれを拒んだ?あたしを理由に?

あたしは疲れて眠っているシンジに口付けをした。

「ありがとう。シンジ。あたしもシンジ以外の男に抱かれるつもりはないわ」

しかしあたしたちの思いとは別に、この事件を契機に事態は急転した。


              (to be continue)


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中昭のコメント(感想として・・・)

  掲示板で好評連載しておりました『時を駆ける』第7話です。


  敵の数も減り、シンジとアスカの間も良好。
  全てがプラス方向に動き始めた矢先に起こる凶行。
  マヤの想いが哀れです。




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