時を駆ける...


最終話 −時を駆ける−


ファーストの話は終わった。誰も一言もなかった。そうだろうこんな話をされたら、普通は信じる事だってできないだろう。でもあたし達はファーストの話を信じた。ファーストは「まあ証拠の一つとして」といってATフィールドをはって見せてくれたが、そんな事をしなくてもあたしにはなぜだか信じられた。今までファーストに対して感じていたもやもやとしたもの、そうかあたしはファーストも求めていたんだ...その理由もわかった。

席を代わってあたしの隣に座ったファーストにあたしは聞いた。なぜかそうしたかったから。

「ねえ、ファースト。
 あなたのことを抱きしめてもいい?」


ファーストは喜びに顔を輝かせた。この笑顔...シンジに似てる。

「うれしい...おかあさん
 あたし、本当は初めて会ったときから仲良くしたかったの
 でも、それはできなかった。
 ねえ、あたしのことミライって呼んで
 おかあさん」


そう言ってファースト...ミライはあたしに抱き着いてきた。あたしはミライを抱きしめると髪の毛をなぜてあげた。やっぱりあたし達親子だねこの髪の毛の手触りあたしとそっくりだもの...

−−−

「あたしの本当の名前は惣流ミライ。
 父親は碇シンジ、母親は惣流アスカ・ラングレー
 今あなたのおなかの中に居るのがあたしよ」


そのファーストの言葉はあたし達から言葉を奪った。

「正確に言うとあたしは違う未来から来たの。
 新しい未来を作るために...
 あたしの居た未来はとてもひどいものだった...
 あたしは人工受精で生まれたの
 おとうさんとおかあさんが愛し合う前におとうさんが死んでしまったから
 その時おかあさんは処女だったわ
 一度も男の人と交わることもなくあたしを体に宿して
 あたしを生む前に死んだわ
 あたしはおかあさんが死ぬ前におかあさんの体から取り出され
 マヤさんのおなかを借りて生まれたの
 だからあたしはおとうさんもおかあさんも顔を知らなかった。
 写真すら残っていなかった
 でも一度だけおかあさんの顔を見たことがあるの
 でもそのおかあさんは実験室の水槽に浮いていた
 ゼーレによって脳神経が取り出された姿で」


ファーストはそこで言葉を切った...その顔はとても辛そうだった。

「ゼーレはおかあさんの脳を使って、新しいエヴァを動かすキーを作ったわ
 一度人類を死滅させるために...」


「どうしてそんなことを?」

あたしは聞いた。

「本部地下に眠るリリスにはコアがないの。
 人類の母リリスは人類を生み出すときにコアをすべて分け与えて眠りに就いたの
 ゼーレは人類を死滅させてコアをリリスに戻して魂だけとなった人類をリリスによって
 再度新しく生み出そうとしたの...
 新しい存在として」


−−−−

ファーストは話を続けた。

「話を戻すわね。
 あたしを生んだマヤさんは、青葉さん、日向さんそしてもう一人のあたし...
 その時代の綾波レイと小さなあたしを抱えて地下に潜んだの。
 あたしはそこでいろいろなことを教わったわ。
 もう一人のレイのいた世界のこと
 コンピュータのこと、MAGIのこと
 ゼーレのこと、エヴァのこと
 彼らの知識のすべてを教え込まれたわ
 そして綾波レイはもう一度やり直すためと言って17歳のときまた時を超えていったわ
 碇君を生むために...」


「ミライは何歳のとき時間を超えたの」

あたしは話の途中に割り込んだ。

「13歳のとき。あたし達はゼーレの施設の一つを見つけて乗り込んだの。
 その時よあたしがおかあさんを見たのは。
 LCLの中に頭を割られて浮かんでいるおかあさんを...
 おかあさんの自慢の髪の毛はどこにもなかったわ。
 そして更に別の部屋に行ったとき、あたし達は息を飲んだわ...
 そこにはLCLの海に、おかあさんのクローンが浮かんでいたの...何人も。
 あたし達はその施設を爆破した。あたしはその時前の綾波レイの話を思い出した。
 ネルフ本部にも同じ物があったと...そしてそこにはあたしが居ると」


「それでどうなったの」

「マヤさん、青葉さんの力を借りて施設を爆破したわ。
 MAGIのレプリカにハックして自爆させたの...
 その爆発とATフィールドの力を借りてあたしは時を超えた」


青葉さんが話に割り込んできた。

「ちょっと待って、レイちゃんは確か5歳くらいから碇司令と居たはずだけど...」

「知ってます。でもそれはあたしと違う綾波レイ。
 碇司令に教えてもらった話ではユイさんがエヴァに取り込まれたのをサルベージしたときに生まれたという話です。
 でもその子は赤木ナオコさんに殺されたわ。
 あたしが時を超えたとき現れたのは碇司令の執務室だった。
 碇司令、冬月副司令はあたしの話を信じてくれた。
 そして二人目の綾波レイとして生きていくことになった...
 再びおとうさん、おかあさんと出会うために。
 そして狂った世界を変えるために。
 でも、それはうまく行かなかった」


ミライは淡々と話しつづけている。でもとても辛そう。

「でも2番目のレイちゃんは零号機の爆発の時死んだんじゃないのかい」

日向さんが割り込んできた。

「あたしは零号機の爆発の力でほんの少しだけ未来に飛んだんです。
 だからリツコさんが来たときには怪我一つなく生きていました
 あのあと、リツコさんは碇君に地下施設にあるダミープラントを見せて
 あたしは作られた存在だと吹き込んだわ
 あそこにいたあたしは前のレイから作られたダミーなのに」


「質問があるの」

−−−

あたしは一番気になっていることを聞いた。

「どうしてシンジは死んだの」

ミライの顔色が変わるのがわかった。

「敵のエヴァと戦って負けたの...」

ミライの口振りからあたしはうそを言っているのに気がついた。少しカマをかけてみることにした。

「アンタ、嘘をつくとき鼻の頭に汗をかく癖に気づいてる?」

ミライははっと鼻に手をやる。やっぱり...

「ほんとうのことを教えて。だってこの世界のことじゃないのよ。
 どんな事だって耐えられるから
 あたしなんでしょ...シンジを殺したのは」

ミライは涙を浮かべて言った。

「ごめんなさい、おかあさん...
 おかあさんが処女であたしを生んだというのはうそ...
 この世界と同じようにおとうさんはおかあさんのところに行ったの。
 そして、やっぱりおかあさんを無理矢理犯したの...
 それで...」


「寝ているところをあたしが首を絞めて殺したのね」

「そう...
 それからおかあさんもだんだんと狂っていった...
 だからそれを繰り返さないためにあたしはおとうさんを止めようとした...
 あたしの体を差し出してでも...
 でも止められなかった」


「それであのときあたしにあんな事を言ったのね」

「そう。
 でも良かった...この世界のおとうさんとおかあさんが愛し合えて...」


「もう一つ、あたしはどうして死んだの」

あたしは聞いた。

「あたしを助けるため...
 ゼーレがおかあさんの行方を負っていることに気づいたおかあさんは
 あたしをマヤさんの体に移したの。
 そして入院しているときにゼーレに拉致されたわ。
 そしてそれっきりだった...」


「その時のマヤもシンジのことが好きだったのね。
 そうじゃなかったらあたしの子供を自分のおなかにいれようとは思わないわ」


あたしはマヤの想いの強さを感じた。

「それさえ気づいていればこんな事にならなかったのに...」

ミライはそういって泣き出した。

−−−

あたしは抱きしめたミライに聞いた。

「あなたはこれからどうするの?」

ミライは少し考えたが力強く言った。

「あたしはおとうさんを助けたい...
 だからもう一度時間を飛ぶわ...世界を変えるために
 おとうさんを生み出すために」

「ねえ、あなたたちは何回続けているの」

「わからない。
 あたしの前の綾波レイは自分の前にも居たと言っていたわ...
 そして失敗した試みを教えてくれた...その結果も
 あたし達はおとうさんとおかあさんが幸せになるまで続けるわ...
 それがこの力を持った綾波レイの使命だから...」

あたしはミライを見て思った。この子はなんて重い使命を持ってしまったのだろう。多分何回も繰り返された試み、そしてずっと繰り返された失敗。気の遠くなるような試みが為されているのだろう。あたしは自分のおなかに手をあてて考えた。多分この子もこのミライと同じことをするだろう。綾波レイは時を駆けつづける運命を持ってしまったのだと。

突然、死んではいけないとあたしは思った。だってまだあたしはこの子を生み出していないから。この子を産むことがこの時を生きるあたしの使命なのだと理解した。そしてなによりもこのおなかの中の子供はあたしとシンジの子供なのだ...死なせるわけにはいかない。

「わかったわ...あたしももう死のうなんて考えない。
 絶対生き抜いてこの子を産むわ...
 そして伝えるの...とってもすばらしい力を持ったって
 世界を変える力を...」

ありがとうミライ...あたしはもう大丈夫。




              (to be continue)


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中昭のコメント(感想として・・・)

  掲示板で好評連載しておりました『時を駆ける』最終話です。


  存在の輪に閉じこめられたミライ(ユイ/レイ)。
  アスカの胸で微笑むミライの終焉が、初号機に取り込まれるかレイとしてサルベージ
  されて殺されるんだと思うと胸が痛い。


  はっきり言うと第8話を見るまで予想もしなかった展開でした。(私鈍いアルカ?)
  小説タイトルを見て”ああ、なーるほどザわーるど”(やっぱ鈍いかな)

  でも、素直に面白いと言える作品です。


  さあ引き続きエピローグを読みましょう。胸の痛みも収まります。




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