青春の熱い血と汗と涙。グラウンドの上で繰り広げられる数々のドラマ。一中野球部グラウンドは、ボク達の汗と涙を吸っている...わけがない。
 
 
 
 


たっち


 
第弐話 熱血の価値は
 
 
 

午後の一中グラウンドに金属音が響く。トウジがバットを持って部員達に次々とノックをしていく。ボクはその脇でカヲル君をキャッチャーにして投球練習をしていた。

「センターいくでー」

金属音と共に白球が飛んでいく。トウジもなかなか様になっている。外野のノックも終わり次は内野に移ってきたようだ。

「よっしゃー、次サード」

「呼んだ?トウジ」

ボクは反射的にボケを返してしまった。あっトウジがずっこけた。

「チャウチャウ、せんせやない」

そう言うとトウジはまたバットを持ち直し、ノックを続けた。

「お〜しっ、次はファーストや」

「...何」
「どわっ・・・」

レイがトウジの前にいきなり現れた。さすがのトウジもこれに驚いたのか腰を抜かしていた...レイも分かっていてボケているんだろうか。

その頃顧問の先生はベンチに腰をかけ、ぶつぶつと言っていた。

「その頃私は、東○大相模高校の野球部で...」
 

***
 

ボクはカヲル君と軽く肩慣らしをしながら疑問に思っていた事を聞いてみた。

「カヲル君、どうしてキャッチャーなんかを選らんだの」

カヲル君はボクに球を投げかえして言った。

「冷静沈着な僕にキャッチャーは似合っているとは思わないかい。
 それにね、たとえマスクで隠していたとしても僕の美貌は隠し切れないよ」

ボクは球をカヲル君に投げてため息を吐いた。

「でもね、もっと大きな理由はねシンジ君、君だよ」

「?」

「君と勝利の喜びを分かち合いたいんだよ...
 ほらこんな風に...」

そう言うといきなりカヲル君はボクに抱き着いて来た。しまった、彼の愛読書に川○のぼるがあることを忘れていた。でもカヲル君、宙太は飛雄馬のお尻をなぜたりしないよ。腰なんか動かしたり絶対しないんだからぁあぁ・・・・・・・

トウジはノックの手を止めこっちを見ていた...うらやましそうに...

      ・
      ・
      ・
      ・
      ・
      ・

...見なかった事にしよう。

あれっ委員長が何か叫んでいる。きっと「ふけつよーあんたたち」とでも言っているのだろう...後からレイに聞いてみたら「耽美よー」と言って転げまわっていたそうだけど...みんな性格が変わったな。
 

その時レイはバットに滑り止めのバンテージを巻いていた。
 

「神奈川の県大会では、私はベンチに座っていましたが...」
 

先生の独り言は止まないようだった。
 
 

***
 
 

霧島さんがカヲル君をボクから引き離してくれたのでボクは再び投球練習をする事にした。霧島さんは3人居る3年生の女子マネージャーの一人。委員長の人格が信じられなくなった今、もう一人の山岸さんとならんで、数少ないまともな女の子の一人だ...と思う。えっ人数が合わないって...レイにマネージャが出来ると思っているの...だからレイは数には入っていないの。

それにしても山岸さんといい、2年、1年のマネージャー達といい眼鏡をかけた娘が多いのはどうした事だろう。くじ引きの前には眼鏡をかけていなかった娘の方が多かったのに、今では比率がすっかり逆転している。誰かの策略だろうか...

ボクはカヲル君に全力で直球を投げ込む...「バン」小気味いい音を残して白球はミットへと吸い込まれる。カヲル君は立ち上がると一回手で球をこするようにしてからボクに球を返してくれる。気の性だろうか...カヲル君の球の方が早い気がする...まあいいか。

ボクの投球練習はストレートだけだ。一度変化球を投げようとしたら、トウジにハリセンをかまされた。

「わいは曲がったことがきらいや」

あのな、トウジ...

それならとチェンジアップを投げたら今度はカヲル君に言われた。

「シンジ君、ニゲチャダメだよ」

そのくせ彼らは二人集まると

「消える魔球は」

とか

「大回転魔球は」

とか

「分身魔球は」

とか言っている。本当にそんな物が投げられるとでも思っているのだろうか。確かにカヲル君なら球の前にATフィールドを展開してバットをまっぷたつにするくらいやるだろうけど。ボクは単なる人間だよ、漫画の中の主人公とは一緒にしないで欲しい。カヲル君...変なギブスを持ち出さないように。

「最後の夏はベスト4まで進出しました、私は仲間の勇姿を...」

先生のモノローグもだいぶ進んだようだ。

100球ほど投げ込んだだろうか、ボクとカヲル君はロードワークに出る事にした。ピッチャーはまず体力がないと勤まらない。まず下半身の強化という事でランニングに力をいれる事にした。カヲル君ははじめ「腰回りが太くなってしまう」と反対していたが、トウジに何か耳打ちされるとそれからは反って積極的に協力してくれるようになった。いったいなにを言われたのだろう...まあ大体カヲル君を見ていると想像は付くけれど。

ボク達は学校の周りをランニングする事にしている。10kmのロードワーク、その後には瞬発力を養うためのサーキットトレーニング、そして筋力トレーニング。ボクが息も絶え絶えにトレーニングを続けている横でカヲル君は涼しい顔をしている。

「はぁ、カヲル君...体力あるね」

「そうかい、大した事ないよ」

「そんなことないよ、息一つ切らしてないじゃないか」

「ああ、息をしていないからね」

「!」

「ああ、冗談だよ」

止めてよカヲル君心臓に悪い。

「でもカヲル君の方が球が速いんだから、カヲル君がピッチャーをした方がいいんじゃないの」

ボクは思っていた疑問を口にした。

「分かってないねシンジ君。
 ボクはシンジ君が僕の胸に思いをぶつけてくれるのがうれしいんだ
 シンジ君が投げ込んでくる球...その球が僕の胸に飛び込んでくる
 一日一日速くなってくる球...それがシンジ君の思いだと思っているんだよ」

はぁ〜、相変わらずだねカヲル君。

「それにね」

なに?

「キャッチャーは女房役だろ...」

そう言うとカヲル君は瞳をうるうるしだした。やばい

「シンジ君の女房!奥さん...なんて甘美な響きなんだ」

だからカヲル君そう言いながら擦り寄らないで。

「キミは一次的接触を怖がるね...」

ボクの怖いのはカヲル君だ。
 

***
 

練習が終わると、ピッチャーにはマネージャーのマッサージが待っている。贅沢なようだけど肩を壊しては元も子もない。グラウンドにシートを広げ、うつぶせになってマッサージをして貰う。霧島さんっていい子だな。美人だし、アスカみたいにきついところもないし、すごく良く気がつくし。何よりもカヲル君の毒牙にかかっていない。何か霧島さんにマッサージをされていると幸せを感じてくる。

ボクの筋肉が結構堅くなっているのか、力を入れるために霧島さんがボクの上にまたがってきた。背中越しに感じる、霧島さんのお尻、霧島さんの太股、霧島さんのふくらはぎ〜〜いけない膨張してしまう。何か体の中を熱い物がこみ上げてくる気がする。なぜかだんだん霧島さんの上体がボクの方に近づいてくる...そしてついにボクの背中に霧島さんの胸が...えっ、霧島さんもっとあるように見えるんだけどな。何故か男みたいに平らなような...そうしているうちにその手が下に下がってきてボクのナニのところへ...いけないよ霧島さん。ボクにはアスカが...でも少しくらいなら...

ボクは振り返って霧島さんの方を見た...何故かカヲル君と目が合った。どわっ

「カ、カヲル君...ナニをしているんだい」

カヲル君は妖艶に微笑むと再びボクに覆い被さってきた。

「うれしいよ、シンジ君。僕にこんなに感じてくれるんだね。
 さあ、さらなる世界に一緒に行こう」

まずいカヲル君の目が逝ってしまっている。誰か助けて...ダメだ委員長は転がっている。他の人は変な物を見る目でボク達の方を見ている。レイはけが人に包帯を巻いている。霧島さんは...

「マナさんにはお遣いを頼んであるよ」

カヲル君はボクを追いつめていく。最早これまでと思ったときに天の助けか

「わいのシンジになにすんのや〜」

トウジがそう言ってカヲル君にハリセンをかました。さすがトウジ、ハリセン一つで使徒を殲滅してしまった。この際トウジが言ったことには目を瞑ろう。とりあえず助かったことだし

「ありがとうトウジ、助かったよ」

トウジは伏し目がちに言った。

「えっ、ええんやセンセ。
 わいは自分のためにやっとるんやから」

やっぱり怖い。体育会系って、こんな人間が集まってくるの?ボクはこの時野球部に入ったことを真剣に後悔しだした。
 
 
 
 

「第参話 激闘の果てに」に続く。
 


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中昭のコメント(感想として・・・)

  トータスさんの『たっち』第2話頂きました。

  体育会系のアンブを暴露している第二話。
  果たしてこれが一般的なのか、トウジとカヲルだからなのか。
  意見が分かれる所でしょう。(ちなみに私も体育会系)



  しかし、カヲルが変なのは前回で分かってましたが
  トウジと委員長までもが……
  は、まさかケンスケまでもが(彼から美への憧憬とアーミールックをとったら何が残るでしょうか)

  >カヲル君の球の方が早い気がする...まあいいか。
  本当にいいのか!?


  耽美な世界にのめりこみそうなシンジ。肝心の救世主はドイチュでしょうか
  次の記念作品は8萬HITです。




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