野球部発足から早3ヶ月...色々なこともあったけど僕たちの野球部も様になってきた。練習試合でも勝ったり負けたりと、まあなんとか勝負になるところまでこぎつけた。ただうちと一度でも練習試合をしたところは二度と試合をしたがらないのは相変わらずだけど...なぜ?
 
 
 


たっち


 
第五話 デートの価値は−1
 
 
 

「ねえシンジ...学校を案内してくれない」

ホームルームが終わってみんなが帰り支度をしている中、霧島さんがいきなりそういってボクに声を掛けてきた。

「案内って、霧島さんが転校してきてからもうずいぶんとたつだろう」

ボクは別にいやだったわけじゃない。どちらかといえばうれしかった。霧島さんは時々訳の分からないことを言うけれどやっぱり可愛いし、それにとってもやさしい。だからほんのちょっと浮かんだ疑問を口にしただけなのに...

「シンジのバカ」

そういって教室から出ていってしまった。唖然としているボクにすかさずトウジが声をかけて来た。

「鬼の目ぇ〜にも涙やな」

トウジ...相手が違うよ。それにトウジ...トラの尾を踏んでくれたね。

「い〜か〜り〜君」

ほら来た。

「追いかけて」

やっぱり。

「女の子泣かせたのよ責任とりなさいよ」

委員長...嬉しそうだね。そんなに言いたかったの?その言葉。

ボクはなぜかヘッドフォンを握り潰して叫んでいる委員長を残してマナの後を追った。そうしないと洞木さんが恐いからだ。

えっ、どこに行くのかって?決まってるだろう...屋上だよ。

ボクは階段を駆け上がり屋上へと来た。ドアを開けた瞬間に目に飛び込んだマナの姿...光を背に、茶色の髪の毛が風に揺らいでとても奇麗だった。ついでにスカートも風で揺らいでいた...白か...

マナは追いかけてきたボクを見つけると嬉しそうにこっちへ来いと手招きをした。ボク達は二人並んでフェンスにもたれかかった。そう言えば屋上からゆっくりと景色を眺めるなんて久しぶりだな...

「奇麗ね」

マナは手すりにつかまって遠くを眺めながらそう言った。白い第三新東京市の町並みの向こうに深い緑をたたえた山々が見える。そしてその横には青い芦ノ湖...

「そうだね。山の緑が輝いてるね」

ボクがそう言った瞬間、マナの顔色が変わった。

「シンジのバカー」

マナはそう叫ぶと階段を駆け降りていった。何か悪いことを言ったのかとボクが悩んでいると横から急に声がかかった。

「鬼の目ぇ〜にも涙やな」

トウジ...お前って奴は、それにいつの間に。

「い〜か〜り〜君」

委員長まで...

「追いかけて」

夫婦漫才をしないでよ。

「女の子泣かせたのよ責任...」

ボクはその言葉を聞く前に階段の方へと駆け出した。せめてもの抵抗のつもりで...

しかしそれは出来なかった。走り去ろうとするボクの襟首をトウジが掴んだ。

「センセ、あかんなぁ。お約束ちゅうもんは守ってこそ意味があるんや」

もうどうにでもして...

抵抗しなくなったボクに満足したのか、トウジは隣に居た洞木さんに声をかけた。

「シンジも観念したようや...まったく世話のやけるやっちゃ。
 ほなイインチョ、早いとこ頼むわ」

委員長は大きく息を吸い込むと、待ってましたとばかり叫んだ。

「女の子泣かせたのよ責任とりなさいよ」

はいはい...

その言葉と同時にトウジが手を放してくれたので、ボクは再びマナを追いかけた。
 

***
 

次の心当たりはなかったんだけど、霧島さんは簡単に見つかった。ボクは最初に来たテニスコートの裏にいた霧島さんに声をかけた。

「こんなところにいたんだ」

ボクの声に霧島さんはゆっくりと顔を上げてくれた。ボクはその時の霧島さんの瞳を見て強い後悔の念に襲われた。霧島さんの瞳には涙が浮かんでいた。ボクは思わず霧島さんを抱きしめていた。

「ご、ごめん...気が利かなくて」

霧島さんは涙を拭うとボクの胸に顔を預けた。

「ごめんね、嬉しかったんだ...シンジがここまで追いかけてきてくれて...
 だからこの涙は違うの...」

霧島さん...ボクは抱きしめる腕に力を込めた。霧島さんの小さな体がとっても愛しく感じられる。

ボクは霧島さんの顎に手を当て、オトガイを持ち上げた。そしてそっと桜色の唇に口づけようとした...でも拒まれた。

「ここじゃダメ」

どうして霧島さん...

ボクは霧島さんを見つめた。

「ごめん、また泣かせちゃったね。本当にごめん」

ボクのその言葉に霧島さんは首を振って否定した。

「ううん、本当はすごく嬉しいの...でもここじゃダメなの、でも嬉しい...
 だから、ごめん...こんな時どんな顔をすればいいのか分からないの」

霧島さん...それはせりふが違うよ。ボクは周りを見回した...レイを召還してないかと。

いないようだ...

「笑えばいい...」
「・・・それは相手が違うわ」

どわっ

ボクのすぐ後ろにレイが立っていた。レイ、キミは一体どこから湧いて出たんだ...

「そんなことより、イ・・・お兄ちゃん授業は終わったわ。
 今日は半日授業だから、これから練習よ...早く着替えてね。
 それから霧島さんも遅れないようにね。
 もうすぐ大会があるのよ。さぼることは好ましくないわ」

レイ...説明的だね。

「分かったよレイ、すぐに行くから」

「じゃあ、先...行くから」

レイはそう言うと部室の方へと駆けていった。

「ところでなんの話だったっけ?」

ボクは霧島さんに話しかけたんだ。

「ひっどーいっ。今度の日曜日のデートの話でしょう」

「?!?」

霧島さんが可愛い頬を膨らませて抗議する。そうだっけ?どうも記憶が曖昧だ。

「そんな話...」

と言いかけたところで霧島さんの目つきが怖いことに気がついた。

「そうだね、練習もないしどこか行こうか...」

「湖が見たいな」

ボクの言葉に霧島さんがすかさず応えてくれた。でも霧島さんの住所って...やめた。触れないでおこう。

「そうだね。そうしよう...じゃあ、行くところだけど...」

そう言ってコースの説明をしようとしたボクを霧島さんが押しとどめた。

「待って、それは電話で話そうね」

??

「それまでに決めておいてね」

「あのー、もう決めて有るんだけど」

「それまでに決めておいてね」

「決めて...」

「それまでに決めておいてね」

「・・・・・ハイ」

霧島さんは「じゃあ練習に遅れないでね」と言って走っていった。ひょっとして今のもお約束だったのだろうか?
 

***
 

「おつかれさん」

「おつかれさん」

練習が終わり、みんながちりぢりに帰っていく。練習もだんだん実戦形式へと変わっていった。単純な体力トレーニングに比べて練習自体も楽しく感じられる。

ボクの練習メニューも200球の投球練習、バント処理、一塁との連携、牽制球、フィールディングと盛りだくさんだ。それにカヲル君と一緒にするロードワーク&サーキットトレーニング。ボクの代わりのピッチャーはいない。だから一人で投げ抜けるように体力を付けなくてはいけないんだ。

時々お風呂場で全身を鏡に映してみる...細身の体は変わらないんだけど、肉が締まったような感じがする。練習をしていても息が切れることが少なくなってきた、それに前よりも足が速くなった気がする。腰も粘り強くなったし、ちゃんとあそこも水を毎日掛けてるし...アスカとの再会が...いや試合が楽しみだ。

帰り支度をしていたボクは、ベンチの隣に座っていた得川君に声をかけた。

「大会が楽しみだね」

得川君は縫い物をしている手を止め、ボクに同意してくれた。

「本当に...」

得川君、何を頬を赤らめているの...ボクは得川君の縫っている物を覗き込んだ。袖口の部分に縫い付けられているのは菊の花、その数10個。

「この印は何なの?」

「撃墜マークだよ、碇君」

ボクは何のと聞きかけてそれを止めた。グラウンドの向こうで沈没している田中君を見つけたからだ。

「同じチーム内では程々にね」

ボクにはそれが精いっぱいだった。一瞬菊人形になった得川君を想像してしまった。くれぐれもボクが標的になりませんように...

「大丈夫だよ。ボクは趣味が良いんだから」

どういう意味だい、得川君。
 
 

「多摩川の練習場は1998年に閉鎖されまして...」

先生、野球は高校までしかしてないんじゃなかったんですか?
 

***
 

「・・・お疲れ様でした」

そう言って山岸さんが真っ赤な顔をしてタオルを渡してくれた。もう一人の3年生のマネージャー、長い黒髪と眼鏡をかけた可愛い娘。口元のほくろがチャームポイントだ。どうしてこんなおとなしい娘が野球部なんかに来たのかが不思議なくらいだ。

「ありがとう」

そういってタオルを受け取った時、一枚の紙切れが挟まれているのに気づいた。周りをちらっと確認してみる...誰も気づいてないヨシヨシ。

『明日の放課後図書室で待っています』

綺麗な字で書かれたメモ。放課後の図書室...それはボクと山岸さんの秘密の場所。元々利用率が低い上に移動式の書架を動かすと誰からも死角になる部分が出来る。そこでボクと山岸さんは...

「あの恥じらい方が可愛いんだよね」

思わずボクの口をついて出た言葉、誰も答えるはずのないそのつぶやきに答えがあるとは思わなかった。

「そうなのかい、シンジ君」

カヲル君、キミはいつも心臓に悪い現れかたをするね。

「ボクは視聴覚教室をお勧めするよ。
 あそこなら鍵もかかるし、防音も完璧だからね」

カヲル君...愛用しているのかい。でもねカヲル君、人に見られるかもしれないというシチュエーションが良いスパイスになるんだよ。

「シンジ君もいい趣味しているね」

ありがとう...っていいかげんボクの心の中を覗くのは止めて欲しいものだ。

「じゃあ、この鍵はボクが使うから」

そう言ってカヲル君は、鍵を振り廻しながら歩いていった。

「カヲル君、程々にね」

遠ざかっていくカヲル君にボクはそう声を掛けた。

「さてと」

ボクの方はカヲル君と別れてレイと待ち合わせの体育準備室へと向かった...
 
 
 

うずく

多分次回の予告

飛び散る、引き締まる筋肉...男達の視線が熱い。天然D型装備を脱ぎ捨てあの娘が帰ってきた。その威力に加持は沈黙し、嵐の予感にシンジは震える。

ハーレム状態のシンジはその甘い夢を砕かれるのか。傷物にされた娘達の反撃は。ドイツの暑い太陽に野球小僧は何の夢を見るのか。瀕死の加持はどう動くか...

次回、彼女の事情 ツゥ〜! みんな待っててね。
 
 


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中昭のコメント(感想として・・・)

  トータスさんの『たっち』第5話頂きました。

  うーむお約束の嵐が吹き荒れてますね。
  女の子を泣かすまでじっと待機しているトウジとヒカリを想像してしまいました。

  >腰も粘り強くなったし、ちゃんとあそこも水を毎日掛けてるし...アスカとの再会が...いや試合が楽しみだ。
  アスカとの再会に向けて鍛えるシンジ。
  ・・・・・・・どこを鍛えてるのかな。
  100歩譲って試合の為だとしても・・・どこに水掛けてるの?

  >天然D型装備を脱ぎ捨てあの娘が帰ってきた。
  次はアスカが帰ってくる!?
  大人しくハーレムに加わる・・・わきゃありませんね。
  アスカはどんなお約束を見せてくれるのか。今から非常に楽しみ。



  ますます絶好調のたっち
  次回は11萬HITです。




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