飛び散る汗、引き締まる筋肉...周りの男どもの視線があたしに突き刺さる。男達の熱い視線、すべてはあたしの美しさのせい...ふっ、でもこの美しさはただ一人の男のためにだけあるのよ。シンジ、待っててね。あなたのアスカの復活よ...寂しい想いをさせてごめんね。高校から一緒に行けるからそれまでは辛抱よ。

あたしは全身の映る鏡の前に立ってみた。もう天然D型装備なんて言わせない。均整の取れた美しい体が映し出されている。

「おーほっほほほ」

これでシンジも他の女に目もくれないでしょう。嬉しさのあまり思わずあたしはダンベルを後ろに放り投げていた。2,3人下敷きになったようね...だらしない男達。たかが*00kgのダンベルで...
 
 
 


たっち


 
第六話 彼女の事情2
 
 
 

アタシはこの3ヶ月の苦労を思い出してみた。いろいろなダイエットを試してみたがそれもうまくいかなかった。その中で唯一うまくいったのがダンベルなんかの器具を使ったダイエットだった。ただこれには一つだけ問題があった。それは一月後に顕在化した。

「何よこれ〜」

思わずアタシは鏡を見て叫んでしまった。確かにぶよぶよとした天然D型装備からは脱却した。しかし鏡に映ったその姿は純情可憐な乙女からはほど遠いものだった。

「何で1ヶ月やそこらでこんなに筋肉がつくのよ〜」

アタシはその足でママの研究室に行って、ママを締め上げた。

ど・う・し・て・く・れ・る・の・よ・・・
 こんなんじゃシンジに会えないじゃなぁい〜」

ママは青い顔をして何かを指さしている。手?手をどうしろって言うのよ...とそこまで考えて気がついた。ママの顔が青を通り越してどす黒くなっていることに。アタシは慌ててママの首から手を離した。

「酷いわアスカちゃん。
 いくらアタシが昔、道連れにしようって首を絞めたからって...
 仕返ししなくたって良いじゃない」

ママは首をさすりながらそう文句を言ってきた。

「まったく、首を鍛えてなかったらどうなったことか...」

?何か変。どういうことか私は聞いてみた。そしたら...

「アタシって、丸いわっかがぶら下がっているのを見ると首を入れたくなるの。
 だからね、そんなことで死なないように首を鍛えたの。
 今なら絞首刑されても大丈夫なのよ。
 それなのにアンタと来たら...
 若い内から首締めプレイに走っちゃダメよ」

アタシは少し頭が痛くなった。そんな問題じゃないでしょう。

「あのね、ママ。
 どうして1ヶ月やそこらでこんなに筋肉がつくの。
 ママのくれた薬のせいでしょ。
 なんてことしてくれるの」

「あらあら、ステロイド系は好みじゃなかったのかしら。
 確かにこれじゃあ、シンジ君の好みから外れるわね」

そう言うとママはいくらつついても形を変えないアタシの胸を指で押した。

「そうねぇ〜」

そう言ってママは顎の所に人差し指を当てて何か考え込んだかと思うと...

ポンッ

「良い薬が有ったわわ。
 これなら太くなった筋肉もシェイプアップ出来るし。
 有り余るパワーはそのままという優れものよ」

そう言って中に錠剤の入った茶色い瓶を取り出してきた。

アタシはしげしげとその瓶を眺めながら疑問に思ったことを聞いてみた。やけに手際良く薬が出て来たわね。

「ねぇママ。この薬って初めから使っちゃいけなかったの?」

ママはにっこりと微笑んで答えてくれた。さすが我が母親...綺麗ね。

「ううん、それじゃあおもしろくないでしょう。
 ステロイド系は軽い冗談よ、冗談
 こんなに良く効くなんて...」

アタシはママの最後の言葉を聞かずにはり倒した。倒れたママの耳の穴から何か流れ出しているような気がするけど...気にしないでおこう。5分も有れば復活するだろうから。

アタシはもう一度しげしげと茶色の瓶を眺めた。

「本当に効くのかしら」

「もうバッチリよ!
 でも飲み方を間違えないでね。
 飲み過ぎると牛になるわよ」

さ、さすがママ...復活が早いわね。

「この薬、臨床試験はしたの?」

多分ないだろうとは思ったけれど、一応念のため聞いてみることにした。

「もちろんよ。
 7年くらい前かしら。ゲヒルンの時にね日本から来た女の子が試してったわよ」

アタシの頭に一人の女性が浮かぶ...まさかね。ミサトはママと会っていないはずだし。

「ビールの好きな子だったわね」

アタシの背中に冷たいものが走った。服用には気をつけることにしよう。
 

***
 

アタシはトレーニングを終え、アパートに帰ってきた。郵便受けに一通やたら派手な封筒が有るのに気がついた。

「何よこれ」

手にとって、その封筒をしげしげと眺めてみる。差出人は...あら日本語じゃない。げっ...

「赤木リツコに日向マコトぉ〜」

アタシはすぐにその封筒の封をを切った。リツコからの手紙だから本当は用心しなくてはいけないのだけど、アタシは好奇心を抑えることが出来なかった。

「なになに、『このたび*月*日の良き日に、私たちは結婚することになりました・・・』」

ええっ〜

さすがにその文面はアタシを驚かせるのに十分だった。日向さんってミサトにぞっこんだったんじゃないの?

アタシはもう一枚紙が入っているのに気がついた。二つ折りにされたその紙はリツコからのメッセージが書かれていた。

『ミサトに勝ったわ!

          リツコ』

成る程冗談じゃないようね。ふむふむ結婚式まであと少しじゃない。何で今頃案内が来るのよ。でもまあいいか、これを機会にシンジに会いに行こうっと。アタシは受話器を取るとチケットを取って貰うためにパパの所に電話をかけた。

「パパァ〜。あのね」
 

***
 

「ああ、分かった。すぐにチケットを用意しておく」

俺はアスカからの電話を切ると、たばこに火をつけた。喫茶&カウンターバー開店のための仕入れのため、イギリスの北部まで来ている。このあたりのシングルモルトには通を唸らせるものが有る。コーヒーの方は日本で仕入れるしかないがウィスキーやワインは現地で仕入れるのが一番だ。紅茶でもそうだ。俺は輸入を仲介する業者の間を渡り歩いていた。

「しかしリッチャンがねぇ」

俺は幸せそうに笑うリツコの顔と、悔しさを満面に表しているミサトの顔を思い出した。

「何が有ったのかは知らんが。
 結婚式が荒れないと良いがな」

俺は家族の分の航空券を手配するため、業者に電話をかけることにした。
 

***
 

翌日、業者からチケットが届いたのでその内の一枚を持って俺はアスカのもとへ向かった。キョウコの話では、すっかりと元通りになったと言うことだからシンジ君に早く会いたいだろう。そう思った俺はアスカだけ日程を早めることにした。

アスカの喜ぶ顔が楽しみだ。

『たまには親子のスキンシップも必要だからな』

『シンジ君悪く思うなよ...
 俺を拒んだキミが悪いんだ』

アスカの住んでいるアパートのドアの前で俺はポケットの中の小さな箱を確認した。

『1ダースも有れば足りるだろう』

俺は涎を拭いて呼び鈴を鳴らした。

俺は「パパァ〜」と言って駆け寄ってくるアスカに、航空券を渡した。うんうん可愛い娘だ...

「アスカもゆっくりとシンジ君に会いたいだろう。
 3日早い便にしておいたからシンジ君に甘えてくるんだな」

俺はいい父親を演じた。ここでアスカがくらっと来れば...それにしてもおいしそうに育ったものだ...

予想通り、アスカは俺に抱きついて来た。しめしめこの後は...と思った瞬間俺の意識はとぎれていた。

「知らない天井だ」

次に俺が目覚めたのは病院のベッドの上だった。キョウコの話によると、俺はずいぶんと危ない状態だったらしい。アスカに抱きつかれたときに折れた肋骨が肺に刺さっていたらしい。もう少しずれていたら心臓も串刺しだという話だ。

さすがにその話に俺は背筋が凍る思いがした。

キョウコの顔も心なしか疲れている。そうか心配をかけたんだな...俺は家族を守らなくちゃいけないんだ。

「すまん。それでアスカはどうした」

アスカがこんなことで罪の意識にとらわれていては可哀相だ。俺は慰めてやろうとアスカのことを聞いた。

「あら、あの子なら予定を繰り上げて日本に行きましたよ。
 アタシが電話で呼ばれたときには、出かけた後だったわ。
 ドアに張り紙が有って、あなたはゴミ袋にくるまれてドアの外に出されてましたわよ。
 あの子ったらよっぽどシンジ君に会いたかったのね」」

「それにしても残念ねぇ。もう少し寝ていてくれたら改造できたのに」

ホホと笑うキョウコに『何か違うんじゃないのか』というつっこみを俺は入れることは出来なかった。
 

***
 

「そうなの、決まったのおめでとう」

母さんはそう言って、結婚の報告に来たリツコさんにお祝いの言葉を言った。

父さんと母さんはリツコさんと談笑している。ボク達は日向さんとリツコさんとの結婚のことをいろいろと聞いていた。

ボクは案内状の日付を見てずいぶんと急な式で有ることに気づいた。それを疑問に思ったのでボクは日向さんにその理由を聞いてみた。

「日向さん、ずいぶんと急ですね」

日向さんは一瞬何?という顔をしたが顔を赤くしてボクに答えてくれた。

「実は出来ちゃったんだ...
 だからお腹が大きくなる前にとリツコさんが言ってね。
 式場の方はMAGIを操作すれば簡単だから。
 来賓のスケジュールも同じ方法で改竄できるしね」

また、MAGIを使ったのか。ボクはちょっと頭痛がした。

「あんまりおおっぴらにして、世間の反感を買わないようにして下さいよ。
 ただでさえネルフは風当たりが強いんだから。
 それで何ヶ月なんですか...リツコさん」

日向さんは赤い顔をしたまま答えてくれた。

「4ヶ月だよ」

「おめでとうございます。日向さん」

ボクはそう言いながら頭の中で月数を数えていた。心当たりは...あるなぁ〜。

ボクは二人の帰りがけにリツコさんを捕まえてそのことを聞いてみた。

「大丈夫よシンジ君。
 あの人が気づかないようにしてあるから。
 あなたは気にすることはないわ。
 それに...」

そう言うとリツコさんは艶っぽく笑った。

「あなたには感謝してもし足りないくらいだから...
 アスカとの間を壊すようなことはしないわよ。
 心配しなくていいわよ」

そう言って笑うリツコさんの顔はとっても綺麗だった。

でもボクは何もしていないんだけど...

「惣流親子にも招待状を出しておいたからね
 アスカも来るわよ...」

日向さんが帰ってたっぷりと一時間たってから、リツコさんはそう言って帰っていった。

そうかアスカも来るのか。ボクは二人の結婚式の日が待ち遠しくてたまらなかった。

リツコさん、ミサトさんにも招待状を出したらしい。何でも友人挨拶を頼んだと言っていた。一体何が起こるのだろう...アスカに会えることも楽しみだけど、披露宴で切れるミサトさんの姿も楽しみだ。
 

***
 

加持さんを惣流親子に取られてからのミサトさんは必死だった。何かと日向さんを誘ってデートを重ねていたようだ。日向さんがミサトさんに気があるのはバレバレだったので、これは意外と早くまとまるかなとみんなでうわさ話をしていた。そうしたある日、日向さんが話を聞きたいと言ってボクを尋ねてきた。

要はミサトさんの良いところ、悪いところ、生活していく上で気をつけるところを聞きたかったらしい。ボクは日向さんの決意が固いことを知って喜んで協力することにした。

「まず掃除についてですが...」

ボクはミサトさんの家事能力について包み隠さず日向さんに話した。かくしておいてもどうせばれること、だったら早い内に話しておいた方が二人のためだろう...そう思ったからだ。日向さんはボクの話を腹を抱えて笑いながら聞いていた。冗談だと思ったのかな、全部本当のことなのに。

「良いですか...これだけは絶対に守って下さい」

ボクは日向さんの耳に手を当てささやいた。

「ミサトさんに絶対料理をさせちゃあいけません。
 ミサトさんを後家にしたくないでしょう」

ボクがせっかく親切に教えて上げたのに日向さんは本気にしていないようだ。後で泣きを見ても知らないよ。

「それで日向さん。ミサトさんとはどこまで行ったんですか」

日向さんはなんの質問か分からないのかキョトンとしていた。

「どこまでって、忙しいから近場でしかデーとしていないけど」

その言葉にボクは頭を抱えた。

「そんな回答は今時の中学生だってしませんよ。
 お・と・こ と お・ん・な の関係ですよ」

日向さんが瞬間真っ赤になるのが分かった。まったく初なんだから。これじゃあどっちが中学生か分からない。だからボクはミサトさんについて、好きな体位から敏感なところまで、知っていることを丁寧に日向さんに教えて上げた。

食い入るようにボクの話を聞く日向さんの姿が印象的だった。

同じ話を、マヤさんと結婚すると言っていた青葉さんに話したときは、怪訝そうな顔をしていたのに...

そうしてその1ヶ月後、二人が別れたという噂を耳にした。何でも、日向さんがミサトさんの料理を食べて死にかけたのが原因らしい。それがきっかけでボクの話したことが全て真実だったことに気づいたのだろう。やはり日向さんでも命は惜しいか...自分だけ死ぬのはイヤなようだ。

そうこうしている内に日向さんとリツコさんがつき合いだしたという話を聞いた。リツコさんも最初は料理はまったくダメだったが、ボクが手取り足取り教えたことでそれなりのものになった。さすが科学者だけ有って、料理を化学兵器にする事はなかった。

どうやらリツコさんは、入院している日向さんをかいがいしく世話をしたらしい。時々お弁当も持っていったと言う話だ。その辺が日向さんを落としたポイントなのだろう。

リツコさんについてもいろいろと教えて上げることがあったのに、日向さんは話を聞きに来なかった。父さんとのことを気にしたのかな。まあその話をうちですると血の雨が降ることは間違いないけど。
 

***
 

あたしは嬉しさのあまりパパに抱き着いてしまった。パパのあたしを見る目が怪しいのにはドアを開けて入ってきた時から気がついていた。このままでは襲われてしまう。あたしは抱き着いた腕にほんの少しだけ力を込めた...

あたしの足元には鼻や口から血を流してパパが横たわっている。そんなに力を込めた覚えはないのに...エージェントってこんなにひ弱で勤まるのかしら。

あたしはパパをごみ袋に詰め込むとドアの前においておいた。生ゴミサービスの日まではまだある。間違えて収集されることはないだろう。あたしは念のためママにパパの引き取りをお願いした。

「さてと」

あたしはパパから貰ったチケットを繁繁と眺めてみた。日程の変更は可能ね。あたしはすぐに航空会社に電話を掛けると明日の朝発の便に予約を変更した。これですぐにシンジに会えるわ。

あたしはスーツケースを取り出して必要な荷物を詰め込むことにした。
 

***
 

「お客様、お荷物は50kg以内となっているのですが...」

チェックインカウンターの優男が、青い顔をしてあたしに言った。生意気な奴、締めてやろうかとも思ったが、シンジに会う前に揉め事はまずい。

「あら、おかしいわね。私が持てたぐらいですのよ。
 そんなに重いはずは無いんですけど」

アタシは100kgを優に超えるメモリを無視して、媚びを売るようにその男に言った。胸元を少し覗き込めるようにするのがポイントだ。

「し、しかしですね」

よしよし、視線は胸元に釘付けね。本当は嫌なんだけどもう一押しね。アタシは左腕で胸を押し上げるようにした。

「ねぇん、いいでしょう」

係員はカウンターに置いたアタシの右手を握ると、ウインクを一つした。

心の中では「けっ」とは思ったが、極力それを出さないように気をつけた。

「判りましたお嬢さん」

よし落ちた。荷物がコンベヤーで運ばれていく。もうこいつに媚びを売る必要はない!

アタシは軽く右腕を振ると手を握っていた男を振り払った。本当に軽く振ったのよ。なんか優男の腕は明後日の方向を向いていたけど...

「待っててね、シンジ。
 アスカはすぐに行くからね」

アタシは背後の騒ぎを無視しラウンジへと向かった。久しぶりの日本ももうすぐだ...
 

続いてしまった。
 

次回の予告らしきもの(信憑度は明日の降水確率)

日本へと帰ったアスカ。第三新東京市の警戒網はずたずたになる。虐げられた男の眼鏡が光る。

「今のは誤報だ」

阿鼻叫喚のリツコの結婚式はどうなるか。リツコは無事初夜を迎えられるか。ミサトに幸せはあるのか。シンジはアスカに掴まってしまうのか。シンジの見る太陽は黄色いか。

次回彼女の事情んスゥリィイィ〜
 


トータスさんのメールアドレスはここ
NAG02410@nifty.ne.jp



中昭のコメント(感想として・・・)

  トータスさんの『たっち』第6話頂きました。

  おお、今回はサービスシーンてんこもり?
  >そう言うとママはいくらつついても形を変えないアタシの胸を指で押した。
  押してみたい。(固そうだけど)
  >アタシは左腕で胸を押し上げるようにした。
  >「ねぇん、いいでしょう」
  うおおおお

  加持さんも健在ですね。
  >『たまには親子のスキンシップも必要だからな』
  スキンをつけてスキンシップ・・・(汗)
  >『1ダースも有れば足りるだろう』
  若い・・・ケダモノ

  シンジも絶好調
  >ボクはそう言いながら頭の中で月数を数えていた。心当たりは...あるなぁ〜。
  こりは・・・赤ちゃんがシンジそっくりって事・・・かな

  なんか主要女性キャラのほとんどがハーレムに入ってるみたいです。
  文字通りパワーアップしたアスカがどう動くか・・・楽しみです。



  ますます絶好調のたっち
  次回は12萬HITです。




  みなさんも、是非トータスさんに感想を書いて下さい。
  メールアドレスをお持ちでない方は、掲示板に書いて下さい。







前へ    次へ

Back    Home inserted by FC2 system