郵便に書かれた文字は、アタシの気持ちも知らないように悲しい事実だけを伝えてくる。アタシは手紙を持つ手が震えるのが分かる。だめ、文字が霞んで見えなくなってきた。こんな悲しい気持ち、脱出カプセルで光る羽を見た時以来ね。
アタシは封筒の中にもう一枚紙切れが入っているのに気がついた。その紙を手に取り書かれた文字を読んでみた。そしてその紙を引き裂いた...アタシの心を占める感情はもはや悲しみではない。それは怒り...
「邪魔してやる」
その紙に書かれていた文字はこうだった。
『ミサト、挨拶お願いね
リツコ』
ただではすますもんか。アタシは静かに準備に取り掛かった...
その日は朝からいい天気だった。くそっ、天気は味方に出来なかったか。まあいい、それならそれで手は1024通りはある。そんなに考えたのかって。いいじゃない、2のべき乗の数値はお約束なんだから。
アタシは先週新調したドレスに身を包んだ。うっさいわね、古い奴は入らないのよ。悪かったわね。それにこの服にはポケットがたくさんあっていろいろと都合がいいのよ...
アタシは着替えると、ゴミの山をかき分け玄関へと出た。そろそろシンちゃんに片づけに来てもらわないとね。今はアスカが来ているから帰るまでの少しの我慢ね、ふふ。
いけない、少しアタシはトリップしていたらしい。時計の針がいつのまにか10分進んでいる。アタシは駐車場へと急いだ。リツコのスケジュールは押さえてある。アタシに残された時間は少ない。
***
「ふふ、これなら戦車が来ても大丈夫よ」
アタシは戦自から借用した対戦車砲を構えた。日向君には悪いがリツコに結婚の実績を作るわけにはいかない。
「日向君、リツコに乗り換えたあなたが悪いのよ」
アタシは照準に浮かんだ日向君の顔に向かって呟いた。
「さよなら」
軽い反動を残して発射された弾は目標に向かって飛んでいく。あんな車じゃ跡形も残らないわね。あたしの心に軽い痛みが走る。シンちゃんほどじゃないけどあなたも良かったわよ。アタシのために死んでね。
「リツコにしては備えが甘いわね」
アタシが成功を確信した瞬間、青く晴れ渡った空から一条の光が降り立った。アタシはその瞬間作戦の失敗を確信した。アタシの放った必殺の弾は衛星から発射された対地レーザーにより何事もなかったように消滅させられた。まあ、予測の範囲ではあるわね。
第2射は撃つだけ無駄であることは明白だ。アタシは再びルノーに乗り込むと次の作戦ポイントへと向かった。
***
「ここなら他人の迷惑にもならないわね」
アタシは手に起爆スイッチを持った。高性能の指向性地雷。これなら上に停車した車を跡形もなく消滅させられる。
アタシは日向君の車が来るのを待った。
まじめな日向君なら必ず一時停止をする。その時がチャンス。アタシは双眼鏡で日向君の車を確認した。
「アタシの勝ちよ」
一時停止線で日向君の車が止まったのを見計い、アタシはスイッチを押した。
「さよなら、日向君」
爆炎が日向君の乗った車を包む。今度こそ成功ね。アタシは結婚式場へ向かうためルノーのドアに手を掛けた。アタシの目に映るのは粉々になった車の残骸...
なんでまだ車が走っているのよ。アタシはこの時事前迎撃の最終手段をとることを覚悟した。アタシの取り出したアタッシュケースの中には鮮やかなN2の文字。
「爆心地には何も残らないわね」
こうなれば意地だわ。
***
「本当はここまではしたくなかったのだけどね」
アタシはモニタに映る景色を見る。この奇麗な並木はアタシのお気に入りなのに、でも目的のためには仕方ないわね。アタシは日向君の車を確認するとためらわずスイッチを押した。一瞬のうちにブラックアウトするモニタ。遠くにはキノコ曇...エヴァでもない限りは無事ではすまない。
「ごめんなさい、日向君。
あなたには恨みは...あったわね。
まあいいわ。安らかに眠りなさい」
アタシは今度こそ車を目的地へと走らせた。
***
「なぁ〜んてインチキ」
式場の教会についたアタシの第一声はこれだった。なんで日向君がここに居るのよ。
アタシの目に映ったのは仲人の碇夫妻と歓談するリツコと日向君の姿。呆然とするアタシにシンジ君が声をかけてきた。
「ミサトさん遅かったですね。
リツコさんも日向さんもずっと前から待っていたのに...」
やられた。リツコはダミーを用意していたんだ。あたしをだますなんてなかなかの出来ね。一体ぐらい分けて欲しいものだわ。
でもここまで来て引き下がるわけにはいかない。アタシは次の仕掛けを取り出した。
「濃縮されたニコチンと針。
推理小説みたいでいいわね」
アタシは歓談している新郎妊婦の元へと歩いていった。
「おめでとうリツコ、日向君」
アタシは握手の隙に、毒針のついた小さなコルクの固まりを日向君のポケットに滑り込ませた。
「Xの悲劇だったかしら」
アタシの視界にはポケットに手を突っ込んだ日向君の姿が見えた。汗を拭こうとしたのね。あなたはこれでおしまいよ。
しばらくして女性の悲鳴が聞こえてきた。リツコの悲鳴じゃないわね。まあいいか、倒れているのは日向君のようだし。あわただしく駆け回る人達の波をかき分けるようにアタシは礼拝堂へと向かった。
***
なんでアタシはここに居るの。目の前には父親代わりの冬月副司令に手を引かれるリツコの姿。そしてその前には日向君。どうして...
呆然とするアタシの目の前で恙無く式は進んでいく。アタシの目の前にはリツコに自分の姿を重ねて頬を赤くしたアスカの姿がある。神父の後ろには背中に羽をはやしたレイと渚カヲルが...何か間違えているんじゃないの。
アタシは気を取り直し次の機会を待った。
***
参列者のライスシャワーの中、新郎新婦は顔中に喜びを湛えてをつないで歩いてくる。ふん、これは手ぬるいけどアタシからのちょっとした贈り物よ。
アタシは手にしたlice入りのバケツを二人に向けて放り投げた。その瞬間空気を引き裂く一条の光。
「まさか完成していたの」
バケツは二人へ届く前に光の筋により消滅させられていた。対人用ポジトロンライフル...とことんやるつもりねリツコ。式を挙げてしまった以上、この辺で大人しくしようと思ったのに...そっちがそのつもりならこっちも退かないわ。披露宴までには256の仕掛けがあるのよ...
アタシが拳を握り締め、誓いを立てている時後ろから肩を叩く人が...一体誰よ盛り上がっているのに。アタシの振り返った先には笑顔を浮かべているシンジ君が居た。
だめよアスカが居るのよ、でも...
アタシはシンジ君に引きずられるようにして駐車場に連れて行かれた。
***
アタシが気がついたのはリツコの披露宴が始まる20分前だった。結果的には用意した256のトラップは無駄になったようだ...でもいいか。
アタシは乱れた着衣を直すと愛車から出た。ふと目に付いた車にはマヤちゃんが眠っている。仕方がない起こしていってあげよう。
ちょいと起きなさいマヤって、ここに落ちているのはパンティね。昔のマヤはどこにいったのかしら。それにしても青葉君も奥さんを見捨てていっちゃあいけないじゃないの。
その時マヤが満足そうに寝言を言った。
「シンジ君」
シンちゃんってタフ。
あら噂をすればナントかって言うけど。あそこに居るのはシンちゃんとアスカね。べったりとくっついちゃって昔のアスカからは想像つかないわね。
シンちゃ〜ん、そろそろ時間よ。あらアスカ寝ているの...なんか様子がおかしいわね...そういうことね。嫉妬深いアスカが大人しいのはそういうからくりね。
アタシはくっついている二人に声をかけた。アスカもようやく気がついたようね。シンちゃんを見つめて赤くなっているなんてアスカも可愛くなったもんね。
アスカが気絶している間に何があったかなんて教えない方が幸せね。アスカ、ちゃんとはいて行くのよ...
***
なんでアタシの周りにはこんなのばっかり座るのよ。
アタシの丸テーブルにはどこかで見たようなおっさん達が座っている。アンタ達いつか査問の時に居たわね。何でこんなところに居るのよ。
アタシは変なバイザーをした補完委員会のおっさんを捕まえてそう聞いた。
何?気がついたらここに居た。もうあんな世界には帰りたくない?
そういって涙を流して抱き合っているおっさん達を無視し隣の男に声をかけた。
なんであんたまで居るのよ。
どっかの農業団体みたいな名前をしたロボットの発表会で偉そうにしていた男が答えた。
え、知らない?自分がやもめなのが理由じゃないかって?なによそれ。
それにしてもなんで相田君までここに居るの?あなたはシンジ君達と同じ席じゃないの?
えっ何?どうしたの。ふんふん、パターンからいけばレイの隣に居るはずだ?さもなければマナかマユミかですって?なんのことよそれ?あまりものの法則?なにそれ?
アタシはるると涙を流している相田君を放っておいて、隣に座っている男に声をかけた。あんた見たことのない顔ね。
何?当たり前だ?どうして。えっ?名前しか出ていない?そう、アンタ何者よ。えっ市会議員をやっている高橋?知らないわよそんなの。
さらにその隣にはどこかで見た黒服A,Bが。何涙流してんのよ。えっ、せめて名前ぐらい欲しかった?贅沢言わないの出してもらえたんだから。オペレータAとかいうのは出てないんだからね。
あら馬鹿なこと言っているうちにリツコの入場が終わっているわね。えっ、もうアタシの挨拶?ふふ、リツコ覚悟しておきなさいよ。
「え〜新郎の日向君、妊婦の赤木さんこのたびは真におめでとうございます」
えっまともじゃないかって?アタシを何だと思っているの。
「新郎の赤木さんは大学の同期で、ネルフでも同期の親友とも言える人です」
「堅物のリツコも、不倫に見切りをつけ、ショタからも足を洗って結婚に踏み切ったのは真に喜ばしい限りです」
何よ文句ある?
「あたしも始めてW親子どんぶりというものを見させていただきました」
あら碇司令ったら青い顔をしているわね。
「生まれてくるお子さんがユイさんに似ていないことを願うばかりです」
あらアスカったらまだぼーっとしているわね。でもそろそろ潮時かしら。
「末永いお幸せを祈っています」
何も仕掛けないのかって?ここで仕掛けたら可愛いシンちゃんまで被害を受けるじゃない。そんな事はしないわよ。
アタシは下がり際にシンちゃんにウインクを一つした。その瞬間に突き刺さるたくさんの刺すような視線...何なのよ一体。そう言えば何人かはドレスにしわがよっているわね。ゴミもついているようだし...まさかね加持でも無理よ。
でも...同級生で一人身はあたしだけか。ネルフにもいい男が居ないようだし辞めちゃおうかな。
その時ふと視線に入ったのはキョウコさん夫妻。本当だったらアタシがあそこにいたのになぁ。まんまとアスカにしてやられたのねアタシって...
あれ、なんだか腹が立ってきた。
そう言えばいろいろされたわねぇ。睡眠薬を盛ったのもあなたの差し金だったわね。
加持が帰ってきた時に限ってアタシに出張があったわね。
ふつふつと沸き上がる怒りは何?
加持に一服盛ったという噂もあったわね。
そう言えばシンジ君もぐるだったのよねぇ。
ちょうどシンジ君に押し倒された時、加持が来たのもアンタの差し金ね。
この時アタシの怒りの矛先はアスカへと変えられた。ごめんねリツコ。うらむ相手が違っていたわ。あなたたちは祝福してあげないといけないのよね。待ってなさいアスカ。邪魔してあげるから...
アタシは誓いを新たにすると、リツコを祝福するために手元のビールビンにお酒をブレンドしてひな壇に行った。アタシの特製カクテルよ、材料が乏しいのが残念だけどまあいいか...
おめでとう日向君リツコを幸せにしてあげてね。アタシは心からの笑顔を二人へ向けた。リツコもアタシの笑顔の意味を分かってくれたみたい。
そして日向君のコップへとそのカクテルを注いであげた。嬉しそうな二人、本当に良かったわね。
日向君はアタシに向かって微笑むとコップに口をつけた...
***
次にアタシがリツコにあったのは日向君の葬式だった...なんで?
まあその三日後には復活していたようだからいいけど...
番外編終わり
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中昭のコメント(感想として・・・)
トータスさんの『たっち』第8話頂きました。
うーむ何人のダミーヒューガが犠牲になったんでしょ。
もしかして本物はアパートに監禁(ホゴ)してあったりして
それにしても祝福のカクテルが・・・・・さすがは作戦部長
>そう言えば何人かはドレスにしわがよっているわね。ゴミもついているようだし...
・・・・・・・・・・・・・・・シンちゃん青カンしまくり ?
成長しちゃって。
はてさて、真の敵の存在に気が付いたミサト
次回はミサト大反撃?
・・・・・・・・ケンスケ×ミサトって組み合わせは、結構新鮮なような気がします。
え?組み合わない?
絶好調のたっち
次回は14萬HITです。
今回の疑問
>「生まれてくるお子さんがユイさんに似ていないことを願うばかりです」
??リツコさんの子供がユイさんに?・・・・・・・・・・
ああ!
シンジとのゲホンゴホン
しかし、女性陣が一斉にユイさん似の赤ちゃんを産んだとしたら・・・・・・・(^^)
みなさんも、是非トータスさんに感想を書いて下さい。
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